「社会学講座」アーカイブ

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講義一覧

3/15 競馬学概論「“埋もれた(かも知れない)名馬”列伝」(9)
3/14 労働経済論「役に立たない? アルバイト時給案内」(17)
3/13 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(3月第2週分)
3/12 ギャンブル社会学特論「麻雀・競技プロの世界」(3)
3/10 労働経済論「役に立たない? アルバイト時給案内」(16)
3/9  地誌「楽園亡国記・南海の島国ナウルの破滅」
3/8  競馬学概論「“埋もれた(かも知れない)名馬”列伝」(8)
3/7  労働経済論「役に立たない? アルバイト時給案内」(15)
3/6  演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(3月第1週分)
3/4  ギャンブル社会学特論「麻雀・競技プロの世界」(2)
3/3  労働経済論「役に立たない? アルバイト時給案内」(14)
3/1  
競馬学概論「“埋もれた(かも知れない)名馬”列伝」(7)

 

3月15日(土) 競馬学概論
「“埋もれた(かも知れない)名馬”列伝」(8)
第4章:ムーンリットガール

※過去のレジュメはこちらから→ビワハヤヒデ編(第1〜3回)ライブリマウント編(第4回〜第6回)フラワーパーク編(第7回〜第8回)

珠美:「今週はムーンリットガールですか。まさにこの講義に相応しい馬ですねー」
駒木
:「お約束した通り、今日はアングロアラブの馬を採り上げる事にしたよ。兵庫の英雄・ケイエスヨシゼンとどっちにするか迷ったんだけど、全国的な知名度を優先させてこっちにしたよ」
珠美:「兵庫の競馬ファンにしてみれば、ケイエスヨシゼンの方が親しみが持てるんですけどね(苦笑)」
駒木:「そうなんだけど、それを押し付けちゃ独り善がりってもんだ。ケイエスヨシゼンには、また別の相応しい機会にご登場願おうと思ってるよ」
珠美:「分かりました。……ところで博士、受講生さんの中には、ひょっとしたら『アングロアラブって何?』な方もいらっしゃるかも知れませんから、簡単に解説していただけますか?」
駒木:「前にも別の講義で説明したはずなんだけど……でもまぁ、その頃と今では受講生さんも大分増えたり入れ替わったりしてるか。
 ……ごく簡単に言えば、アングロアラブっていうのはサラブレッド種とアラブ種の雑種ってことになるね。スピードはあるけど疲れやすくて脆いサラブレッドに、スピードはやや劣るもののタフネスで故障も比較的少ないアラブ種を掛け合わせて、より実用向けにした馬だと考えたらいい。
 ただし、アラブ種の“血”が25%未満の場合はサラブレッド系扱いになってアングロアラブとは言わない。逆に言えばそれだけアングロアラブとサラブレッドは似ているって事になるね。
 日本では軍馬育成の名目で競馬が振興された関係上、アングロアラブの生産が戦前からとても盛んだった。で、終戦直後になって、今度は戦災復興資金稼ぎの名目で全国的に競馬が振興された時に、頭数の揃わないサラブレッドの競馬を補完する役割でアングロアラブ競馬が実施されたってわけ。
 アングロアラブは遺伝上サラブレッドよりも速く走れるわけがないんだけれども、サラブレッドのレヴェルが今ほど高くなかった頃はサラブレッドに勝つほど強いアラブがいたりもした。セントライト記念に勝ったセイユウとか、繁殖牝馬としても有名なイナリトウザイなんかがそうだね。知らない人は一度、Googleあたりで検索してみよう(笑)」
珠美:「博士、講義の意義が無くなるようなことを言わないで下さい(苦笑)」
駒木:「まぁ自由研究のススメって事でね(笑)。……で、そうやって日本の競馬界では長年アングロアラブが業界を支えていたわけなんだけれども、サラブレッドの生産頭数が増していくに連れて徐々にアラブ競馬は衰退の道を辿ることになった。アングロアラブ競馬はグローバル・スタンダードじゃないから仕方ないと言えば仕方ないんだけど、いつの間にかJRAではアラブ競馬は1日1レース行われるのがやっとって感じにまで衰えていって、やがて廃止が決定されてしまった。今回のムーンリットガールは、そのJRA所属アングロアラブ馬の最終世代を代表する名馬ということになるね」
珠美:「JRAアラブ系競馬・最後の名牝…といったところなんでしょうか?」
駒木:「まさにその通りだね。個人的には文学的に“ただ滅び行く世界の中で、力強くも可憐に咲き誇った一輪の仇花”と表現したいところだけど」
珠美:「あ、あの、お言葉ですが、博士の口から『可憐』という単語は……(苦笑)」
駒木:「似合わないって言うのか、酷いなぁ(苦笑)。いいよ、この喩えは珠美ちゃんに譲るから(笑)」
珠美:「あ、いや、別にそういうわけでは……あ、と、とりあえず成績表をご覧いただきましょう(苦笑)」
駒木:「(苦笑)」

ムーンリットガール号・主要成績(略式)
<全成績はこちらのリンク先を参照>
日付 レース名
(注釈が無い場合はアラブ系競走)
着順 騎手 1着馬(2着馬)

94.06.19

未勝利戦

1/11 河内

(ブイリボン)

95.07.31 札幌3歳S(サラ系重賞・G3) 12/13 的場

プライムステージ

94.10.15 福島アラブ3歳S(オープン) 1/8 菊沢徳 (ヤマショウチドリ)
94.11.20 府中3歳S(サラ系オープン) 5/12 橋本 ホッカイルソー
94.12.03 アラブ3歳S(オープン) 1/10 坂本 (スマノエミュー)
95.02.04 シュンエイ記念(オープン) /13 坂本 (イガノラヴィー)
95.03.25 アラブスプリントS(オープン) 1/16 角田 (ハクサンジャンボ)
95.04.23 スイートピーS(サラ系オープン) 8/18 伊藤直 イブキニュースター
95.06.07 全日本アラブ優駿(園田競馬・全国交流重賞) 7/12 武豊 キタサンオーカン
95.07.22 セイユウ記念(重賞) 11/12 横山典 シゲルホームラン
95.11.11 アラブ王冠(オープン) 1/10 坂本 (リマーカブル)
95.12.09 アラブ大賞典(オープン) 1/7 坂本 (エスエムファイヤー)
95.12.17 スプリンターズS(サラ系重賞・G1) 14/16 蛯名 ヒシアケボノ
96.01.14 ニューイヤーS(サラ系オープン) 14/14 後藤 メイショウユウシ
96.02.18 淀短距離S(サラ系オープン) 10/11 菊沢徳 フィールドボンバー
 ※淀短距離Sを最後に公営へ移籍。その後の成績については上記リンク先の詳細な成績表を参照のこと。

珠美:「……この一覧表からは極端な成績だと映るかも知れませんね(苦笑)」
駒木:「あぁそうだね。後でも話すけど、この馬は芝なら敵なし状態だったんだけど、ダートが大の苦手だったんだよね。だから1着になっているのは全て芝のレースで、負けているのはサラブレッド系のレースを除けば全部ダートのレース。ここまで極端なダート嫌いの一流馬は、サラブレッドを含めても珍しいんじゃないかな」
珠美:「確かにここまで芝とダートで成績の差がある馬は珍しいかも知れませんね。
 ……それでは、この馬についてもデビュー戦から順に現役生活を追いかけてゆきましょう。まずはデビュー戦は夏の中京開催でした。芝1000mのスプリント戦でしたが、ムーンリットガールはスピードの違いで完勝しています

駒木:「この中京開催で一斉に(旧)3歳のアラブがデビューしたわけなんだけど、頭数自体が50頭に満たない少なさだったんで、随分と寂しかったのを覚えているなぁ。SFで“地球最後の人類”みたいなテーマの作品があるじゃない。雰囲気はそれに似ていたね」
珠美:「スケールの大きい喩えですね(笑)。そしてその後なんですが、アラブ系のレースを無視していきなりサラブレッド系重賞競走の札幌3歳Sに挑戦します。アラブのサラブレッド系重賞への挑戦というのは頻繁にあったわけですか?」
駒木:「いやいや、滅多に無かったよ。だって勝ち目が全く無いもの、普通は(苦笑)。大体、その世代で飛び抜けて強い馬が“モノは試し”でローカル開催のハンデG3に出走するのがせいぜいだったね。ハンデ48kgでどこまで健闘できるかってところ。
 先に挙げたセイユウとかイナリトウザイは、今よりもサラブレッドが随分弱くてアラブが随分強かった頃のお話。ムーンリットガールの頃になるとアングロアラブは生産頭数も減ってたし、もともと強いアングロアラブは中央じゃなくて公営競馬に流れるのが普通だったからね」
珠美:「そう言えば以前、そんなお話を伺った覚えがありますね。アングロアラブに関しては中央と地方で実力の逆転現象があった…という感じで」
駒木:「そういうわけ。じゃあどうしてムーンリットガールはそんな挑戦をしたかと言うと、これは実力もさる事ながら、多分調教師が森秀行さんだったからだろうね。積極的な海外遠征とか地方交流競走重視のローテーションとか、とにかく常識破りをするのが好きなセンセイだから。アラブの競走馬を預かる事になった時点で、色々と考えていたんだと思うよ」
珠美:「なるほど……。この札幌3歳Sではブービーの12着に終わりますが、陣営はその後も挫けずに果敢な挑戦を続けてゆきます。福島アラブ3歳Sで力の差を見せつけた後にまたもサラブレッドへ挑戦。オープン特別の府中3歳Sに出走し、なんと5着に健闘して入着賞金を獲得します」
駒木:「ホッカイルソー相手に0.4秒差の5着というのも凄いんだけど、単勝6番人気に推されているのもナニゲに凄いよね(笑)。
 まぁこの善戦でムーンリットガールは競馬ファンから一目置かれる存在になったのは言うまでも無い。『ひょっとしたらサラブレッド相手に1勝も?』…なんて思ってた人も多かったんじゃないかな」
珠美:「…ムーンリットガールはこの後、“適鞍”が無かったのか、しばらくアラブ系の競走に専念することになります。距離の全く違うレースを3つ、それぞれ圧倒的な人気に応えて連勝してゆきます」
駒木:「今となっては役に立たない豆知識だけど、3連勝の2つ目のシュンエイ記念っていうのは、事実上の世代ナンバー1決定戦だったんだよね。時期は早いけど、JRA版アラブダービーみたいなもん。更に役に立たない豆知識だけど、昔は1月5日からの正月開催でアラブ限定の銀杯ってレースがあった。今でも残ってる金杯は、元々この銀杯と対になっていたわけだね」
珠美:「あー、なるほど。金と銀でセットになっていたんですね。言われてみれば…って感じですねー。
 ……さて、そうしてJRAのアラブ系競馬では無敵の存在になったムーンリットガールは、再び果敢な挑戦を繰り広げて行きます。まずオークス指定オープンのスイートピーSに挑戦して8着。さらに返す刀で園田競馬の全国交流競走・楠賞全日本アラブ優駿に参戦します。JRA代表として、公営競馬の強豪たちに胸を借りる戦いですね」
駒木:「アラブ優駿に関しては、去年の5月に講義で詳しく振り返ってるので、そちらのレジュメを参照してもらおう。武豊騎手を鞍上に迎えたムーンリットガールが、着順はともかく物凄いレースをしてファンの度肝を抜いた。僕はどれだけ忙しくても、毎年このアラブ優駿だけは出来るだけ生観戦する事に決めているんだけど、まだこのレースを上回るインパクトのレースって無いなぁ」
珠美:「私もレース映像を見せていただきましたが、確かに見応えのあるレースでした。これが全国の皆さんにご覧いただけないのが残念ですね」
駒木:「こういうグローバルな時代なんだから、公営競馬で残っている映像資料を掻き集めてDVD作るとか出来ないものなのかなぁ。まぁ採算考えるとどうにもならないのかも知れないけどね」
珠美:「……では話を戻しますね。それからムーンリットガールはJRAでもダートのアラブ系重賞・セイユウ記念に出走するんですが、やはりダート適性の問題でしょうか、1番人気に応えられず11着に敗れて、休養に入ります。
 復帰は4ヵ月後。JRA所属のアラブ競走馬が続々と引退するか公営へ移籍するかしてゆく中で、芝のレースに活路を見出すムーンリットガールは最後までJRAに残りました。11月のアラブ王冠、そしてJRAのアラブ系競馬最後のレースとなった12月のアラブ大賞典を実力通り完勝して、有終の美を飾ります

駒木:「最後のレースなんか7頭立て。つまりこの時点でJRAのアラブ馬は7頭しかいなかったってわけだ。僕は『週刊競馬ブック』の成績欄でしか様子を確認出来なかったんだけど、でも寂しかったなぁ」
珠美:「でもここでムーンリットガールのキャリアが終わったわけではありませんでした。アラブ系競馬が廃止された後も、ただ1頭JRAに残ってサラブレッド系のレースに挑戦する道を選びます
駒木:「公営はダート競馬しかないわけだし、サラブレッド相手に好走した実績もあるわけだから、理解できる試みではあるよね。でもまさかG1に出て来るとは思わなかったけれども(苦笑)」
珠美:「そうなんですよねー。なんとスプリンターズSに挑戦したんです。グレード制が始まってからアラブ競走馬がG1に挑戦した事は無いんじゃないですか?」
駒木:「詳しい資料が無いんだけど、多分そう思う。無茶な事をしたとは感じるけど、『どこまでやってくれるんだろう』っていう気持ちにはなったね。結局、2頭に先着して14着になったわけだけど、これを健闘と見るかどうかは意見が分かれるところかな」
珠美:「年が明けてからもムーンリットガールのサラブレッド系競走への挑戦は続きましたが、残念ながらこの時期は48kgの軽ハンデにも関わらず勝負にならない惨敗を喫してしまい、そして公営への転出を余儀なくされます
駒木:「見事なまでに見切られちゃったね(苦笑)。この思い切りの良さも森センセイらしいというか。まぁ、アラブ系競走で賞金を稼いじゃっただけにレースの選択が難しかったのはあるんだよね。別定重量だと話にならんし、ハンデ戦のオープン特別とかG3だとレース数が激しく限られてくるし。
 この後は公営でかなり長い間競走生活を続ける事になるんだけど、これは文字通りの蛇足。やっぱり芝で走ってこその馬だったからね。一度で良いから、公営の強豪とJRA競馬場の芝コースで戦うところを見てみたかった」
珠美:「……というところで、駆け足でしたがムーンリットガールの軌跡を振り返ってみました。さて、次回ですが……」
駒木:「再来週の月末が高松宮記念予想になるから、次回がこの企画の“第一部・完”になるわけだ。だったら…ということで、僕の思い出の馬・ミホノブルボンについて採り上げさせてもらおう。1回で語り尽くせなかった場合は4月にズレこむけど、それはそれでまぁいいや」
珠美:「…分かりました。では、お疲れ様でした」
駒木:「はい、ご苦労様」 (この項終わり/次回へ続く

 


 

3月14日(金) 労働経済論
「役に立たない? アルバイト時給案内」(17)

※前回までのレジュメはこちらから→第1回第2回第3回第4回第5回第6回第7回第8回第9回第10回第11回第12回第13回第14回第15回第16回

 大好評を頂いたクソゲーム屋話、そしてこのシリーズも、いよいよ今回で最終回となりました。終わってみれば「学校で教えたい世界史」に次ぐロング・シリーズとなりました。最後までテンションを押し上げて講義をしてゆきますので、どうぞ宜しく。


 ──実時間にして2週間ほど、しかし体感時間に換算すれば数か月分に及ぶ重苦しい“敗戦処理”期間も終わりを告げようとしていました。
 この間、オーナーはますます守銭奴ぶりを強め、「金を稼ぐためには、自分が金を遣わずに他人に金を遣わせればいいのだ」…と、16世紀西欧の重商主義に立ち返った経営方針を次々と打ち出して、その全てが不発に終わっていました。
 ここしばらくポッと出の金持ちの馬鹿ボンボン気質略して“成金バカボン”が出て来ていた「店長」は、ここに来て己のステージを上げて天然ボケに開眼。また、日を追うごとに格闘ゲームの腕前をメキメキと上げて、高橋名人はともかく橋本名人程度ならどうにでもなるくらいのゲーマーに成長を遂げていました。あとは人間性と一般常識が備われば立派な社会人というところです。
 そして、どうしてこの世に生まれてきたのか問い詰めるために“革手錠のメッカ”名古屋刑務所に送り込みたくなるような「ポンカス息子」は、持ち前のみみっちい邪悪エネルギーを日々充満させて、アルバイト一同の殺意を買う事数知れず。毎日の仕事終わりには、

 「おい、俺がアイツに殴りかかったら止めてくれよ。アイツはどうか知らんけど、俺には将来が有るんや」     「あー、でも一発殴ったところで止めに入るわ」

 ……などといったキナ臭い会話が毎日のように為されていました。と言いますか、開店からの2ヶ月で誰もヤツを殴らなかったのが不思議なくらいです。「西武警察」の世界なら少なくとも50発くらいはライフルが火を噴いているような気がします。石原裕次郎演じるところの刑事課長よろしく、窓のブラインドの隙間をこじ開けながら、小便漏らして大門部長刑事に命乞いをする「ポンカス息子」を見てみたかったですね。

 ……と、そういうわけで、店内で何か社会学の実験が行われているような様相を呈していたクソゲーム屋ですが、駒木は他のメンツから一足先にこの“実験室”からおさらばする日がやって来ました。
 しかし、この日を最後に店が無くなるわけでもありませんので、勤務内容自体はいつもと変わりありません。POPを描き垂らし、買い取ったゲーム機のコントローラーを分解して洗浄し、パソコンゲームソフトの箱をシュリンクしている内にジワジワと時は過ぎていきます。時折、「ポンカス息子」に言いがかりとしか思えない嫌がらせをして来られ、想像の中で『タックル→マウントポジション→顔面ボコボコ→チョークスリーパーで秒殺』というイメージを描かされたりしましたが、「今日で最後なんだから」と思ってグッと堪えました。
 そして夜も更けて22時、「ポンカス息子」の「おいお前ら、便所のカギどこや? 持っとったら出せボケ!」…という叫びでもう1度殺意を抱いたところで“満期出所”の時間に。本当に最後の最後までクズのような男でした。もし駒木が世界を征服する機会に恵まれたなら、真っ先にとっ捕まえて映画『西太后』みたいなことをしてやりたいと思います。

 で、ここでいつもなら「お疲れっしたー」となるところなのですが、この日はすぐ帰るわけにはいきませんでした。なんと、オーナーがクビにした2人を慰労するために焼肉パーティーを設けてしまったのです。
 何でも、店の都合で一方的にクビを切った事が申し訳なく思って会を催したそうなのですが、「店長」と「ポンカス息子」も同席する宴会でどうやって労を慰めればよいのでしょうか。若手女子社員にとって会社の慰安旅行が慰安にならないのとよく似ている図式ですね。
 まぁそれでも呼ばれてしまったものは仕方ありませんから、高級牛肉とチューハイを堪能し、小腸経由で糞に変えさせて頂きました。肉は美味かったです。2ヶ月間のクソゲーム屋生活の中で、唯一オーナーに感謝した瞬間です。
 そして、忘れられないのがオーナーが最後に発した言葉でした。

 「駒木君たちが一生懸命やってくれたから、こっちには落ち度がないのに売上が伸びてないってことになって、こっちが本部へ出した条件も随分通ったのよー」

 今思い出しても気が抜けてしまい、詳しく解説する気にもなりません。この文章の解釈は受講生の皆さんにお任せします。

 ──と、こうして店員生活にピリオドを打った駒木なのですが、何故か因縁深い事に、それ以後もこのゲーム屋とは間接的ながら関わりを持ってしまうことになるのです。

 インターネットを長時間やっていますと、戯れに自分に関わりのあるキーワードをGoogleなどの検索エンジンにかける事があると思います。勉強に疲れた男子中学生がふと辞書で猥雑な言葉を引いてしまうのと同じ原理ですね。
 で、ある時、駒木も相当ヒマだったんでしょう、このクソゲーム屋の店舗名を検索にかけてみたのです。するとどうでしょう、その店の公式サイトが出来ていたではありませんか! しかも通信販売受付中などと書いてあるではありませんか。
 駒木も発見しておいてアレですが、にわかには信じられない話でした。だってそうでしょう? 神戸の郊外にある単なる1つのフランチャイズ店ですよ。それが独自ドメインを取って、公式サイト作って通販受付中って。開店当初から使い途を持て余すようなパソコンが置いてありましたので、設備だけは整っていたのですが、それにしても……。
 まぁどうやら、駒木が解雇された後にも続々とオープニングスタッフが店から“脱出”し、その後に入って来た新人がその方面に詳しかったというのが真相であったようです。ネット通販は独自に運営する限りはローコストな商売ですので、守銭奴モードに入っていたオーナーの意向に沿った新規事業だったでしょう。

 ですが、そのウェブサイトの内容たるや、支離滅裂の惨憺たるものでした。

 まず真っ先に引っ掛かるのが、サイトの片隅に分かり難く置かれたアクセスカウンタ。特に「あなたは○○人目のお客様です」などといったフレーズも無く、無愛想な数字だけのカウンタです。しかもそのカウンタが何故か10億のケタまであり、相変わらずの誇大妄想振りを窺わせてくれました。
 ちなみに、駒木がそのサイトを発見したのはサイト開設から1ヶ月程度の頃だったのですが、その時点でのカウンタ数は526。企業サイトにしてみればカウンタを置くだけ惨めったらしいというレヴェルで、いかにもクソゲーム屋らしいのが失笑を禁じ得ませんでした。

 更にどうしようもないのが、目玉であるはずの通販コンテンツでした。
 一応、商品は機種別に分類されて五十音順に並べられてはいたのですが、全年齢向けモノと18禁モノを振り分けるのを失念しており、DVDなどは『フリクリ』の下に『不倫若奥様緊縛調教』が並んでいる…といった物凄い光景が展開されていました。というか、ゲーム屋の通販サイトで18禁DVDを売ろうとする事そのものが間違いきっています。

 この他、アクセス数に見合わず用途別に5つも作られたBBSなど、トホホ感の充満したコンテンツに満たされたサイトデザインだったのですが、圧巻なのは「ポンカス息子」が責任編集したメールマガジンでした。
 これについては何よりも現物をご覧頂いた方が良いと思われますので、ある号の文面をそのまま引用します。産経新聞じゃあるまいし、文句も言われないでしょう。言われたって構いませんが。

 今週はコナミ。 個人的にアンチコナミなので強くお勧めはしません(笑)
 <筋肉番付VOL1/2/SASUKE> 
発売日:2/15 新品価格:\0
 ジャンル:スポーツ? 
ベスト版。おもしろいの? 同人ゲーでしょ?これ 

<おーちゃんのお絵かきロジック3>
 発売日:2/15 新品価格:\1350 
ジャンル:パズル こっちのが面白いんでないの? 「ぽぽいっとへべれけ」知らないかなぁ?

 ……改めて見てみますと、凄いですなぁコレ。

 冒頭からポンカスならではの不遜さが暴発しているのがナニですが、それよりもこのコメントの端々に感じられる知能と情緒の幼稚さと言ったらもう……。
 オープンプライスの価格を0円にしちゃってるし、第一「『ぽぽいっとへべれけ』知らないかなぁ?」…って、何様なんだよ、お前は。

 ……で、その後、ウェブサイトのアクセス数は1日あたり30前後までは増えていたかと思うんですが、それでどこまで焼け石に水をぶっ掛ける事が出来たかは皆目不明です。

 この他、離職後にクソゲーム屋と関わったポイントとしては、解雇1年を経てから課税額0円の源泉徴収票が送られて来た(働いていた当時、月20万以上の給与を受け取りましたが、課税額はゼロでした。どうやら税金を天引きしておくという発想そのものが抜けていたと思われます)とか、クソゲーム屋を探訪した知り合いが口を揃えて「広くて店員が多いばっかりで買いたい品物1つもあらへん」と言ったりした…とかがありました。

 そういうわけで、いつ店の命運が尽きてもおかしくない状態が延々と続いていたわけですが、Xデーは開店から1年2ヶ月を経た秋頃にやってきました。ちょうどこの社会学講座が開講される直前のお話です。
 駒木は閉店から数週間ほどして跡地を訪れたのですが、既に店舗内からは全ての物品が撤収されており、まさに廃墟と言うに相応しい状況になっていました。店頭に置かれていた自動販売機にもガムテープで封印が為され、“完全閉鎖”に相応しい有様になっていました。
 3軒隣にある弁当屋に尋ねてみたところ、やはり経営的にやっていけないという理由で店を畳んだとの事。その後のオーナー一家の行く末については全く分からないようでした。
 しかし、今頃あの兄弟はどこで何をしているのでしょうか。彼らがこの不況のご時世を生き抜いていっているのかどうか、心配はしませんが気にかかるところです。

 最後に。
 長年廃墟状態にあったクソゲーム屋跡地に、つい先日新しいテナントが入居しました。それはなんと、

 

 

 選挙事務所!


 ……来るべき統一地方選、早くも落選確実になった候補が現れたようです。しかし、どうしてよりによってこんな所に……。隣はエロビデオ屋なのに……。

 世の中、不思議な事が多いものですね(なんちゅうシメじゃ)。  (この項終わり)

 


 

3月13日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(3月第2週分)

 情報系の話題にもならないんで前フリに使っちゃいますが、02年度仁経大コミックアワード2冠・『アイシールド21』作:稲垣理一郎/画:村田雄介)の単行本2巻のトーハン初週売り上げランキングが発表されて、6位『ホイッスル!』作画:樋口大輔24巻から僅差(?)の7位という事になりました。何と言いますか、擁護するのも叩くのも自由自在という非常に微妙な順位ですね(笑)。
 まぁ落第点だった1巻の時よりはマシになっているようなので、単行本の売り上げがマズくて連載続行に関わるとかいう事態は無くなって一安心です、個人的に。

 さて、そういうわけでですね(常套句)、今週もゼミの時間がやってまいりました。今日はレビュー2本の他に、大きいニュースも入っていますので、どんどん紹介してゆきましょう。

 ではまず、「週刊少年ジャンプ」系月例新人賞・「天下一漫画賞」03年1月期の審査結果が発表になっていますので、受賞作・受賞者を紹介してゆきましょう。

第78回ジャンプ天下一漫画賞(03年1月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作=1編
  
・『SELF HEAD』
   原哲也(24歳・群馬)
 審査員&編集部特別賞=該当作無し
 最終候補(選外佳作)=7編

  ・『ロク』
   相模恒大(20歳・北海道)
  ・『マイナースウイング』
   福島鉄平(23歳・東京)
  ・『涙目のスー』
   井上高正(24歳・東京)
  ・『IMAGINATION』
   野寺寛(22歳・福岡) 
  ・『ムクロ』
   森田将文(23歳・愛知)
  ・『CRY MAX』
   宮本勝(29歳・兵庫)
  ・『フライング』
   吉原聡司(21歳・大阪)

 受賞者の過去の経歴は以下の通りです。

 ◎最終候補相模恒大さん…02年6月期「天下一」でも最終候補。
 ◎最終候補福島鉄平さん…00年に「月刊コミックフラッパー」でデビュー&翌年にも同誌に作品を発表(した作家さんと同一人物?)
 ◎最終候補野寺寛さん…02年3月期および8月期「天下一」でも最終候補。
 ◎最終候補森田将文さん…01年12月期、02年1月期および7月期「天下一」でも最終候補。

 ……今月は最終候補で停滞を強いられている志望者さんが多かったですね。ここからステップアップできるか、それとも終わってしまうかで人生が変わって来るんでしょうねぇ。

 
 では次に、ちょっと大きなニュースを。

 既に『最後通牒・半分版』さんなどで報じられていますが、現在「週刊少年サンデー」で『きみのカケラ』を連載中の高橋しんさんが、体調等の事情により現在進行中の活動を全て休止すると公式ウェブサイトで発表しました。
 これにより、連載中の『きみのカケラ』は数週間の内に連載終了、もしくは無期休載という事になりますね。内容と人気の迷走が囁かれていた問題作ですが、とりあえずは呆気ないフィナーレということになりそうです。
 高橋さんがおっしゃっている事を要約すれば、『きみのカケラ』連載開始の半年前から満足に活動できない事情を抱えたまま無理をしていたが、これ以上は利あらずと判断した…というもの。
 ですが気になるのは、高橋さんがその「満足に活動できない事情を抱えた」期間に、やたらと精力的な活動をされている事なんですよね(苦笑)。あちこちに読み切り描いたり、『きみのカケラ』の単行本に異様な加筆修正をしたり。だからこそ破綻したんだ…という意見もあるんでしょうけど、ちょっとにわかに信じられなかったりしました。

 
 ──というわけで、情報系の話題は以上。今週のレビューと“チェックポイント”に移りましょう。
 今週は「週刊少年ジャンプ」の読み切り1本と、「世界漫画愛読者大賞」のエントリー作1本の計2本のレビューを行います。

☆「週刊少年ジャンプ」2003年15号☆

 ◎読み切り『神撫手』作画:堀部健和

 今週は若手作家さんによる、連載昇格を念頭に置いたプロトタイプ系読み切りが登場しました。
 作者の堀部健和さんは、「ほりべたけお」のペンネームで2000年に「赤マルジャンプ」でデビュー。翌年にも同誌で作品を発表しており、今回が約2年ぶりの復帰作&本誌初登場作品ということになりました。

 さて、それでは本題へ。
 まずですが、多少クセのある画風ながら、プロとしての最低レヴェルは軽くクリアしていると思います。ただ、何となく他の連載作家さんに混じるとインパクトが弱い印象があるのが気になるところです。主要キャラクターのデザインがオーソドックス過ぎなのかも知れませんね。

 一方のストーリー・設定ですが、これは残念ながら複数の問題点アリと言わざるを得ません。
 確かにシナリオ全体の流れは一見自然であり、少年マンガらしいメリハリの利いた起承転結が成立しているように思えます。
 しかし、自然に見えるストーリー展開の中にご都合主義的なものが見え隠れしますし(美術館長の行動やセリフに無理がある、神撫手能力の復活が理由も無く早過ぎるetc…)主人公の設定や警察と主人公の遣り取りなどにリアリティに欠ける気がしてなりません。後者に関しては恐らく『ルパン3世』『キャッツアイ』などの影響を受けたものなのでしょうが、それらの作品とこの作品が似て非なるものであるのは明らかです。
 また、途中に無用なギャグを入れてしまうのも感心できません。最近の「ジャンプ」系若手・新人作家さんは真面目な話でも無理にギャグを挟もうとしますが、話の腰を折ったり世界観をブチ壊してまで入れるようなモノでもないはずです。

 結論としては「惜しいけど、総合的に言ってまだまだ」というところでしょう。評価としてはB−が妥当であると考えます。完成度が低い割には妙に読後感が良い作品なので、ひょっとすると連載化されたりする可能性もありますが、現状の力量で連載になっても突き抜けるのが関の山ではないでしょうか。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 今年の連載改変は変則的なんですが、それでもソロソロ未確認のインサイダー情報が漏れ始めてきました。まだ噂の段階なのでここでは採り上げませんが、どうにも溜め息しか出ないラインナップが実現しそうです(苦笑)。
 しばらくは新連載=短期集中連載という認識でないといけないんですかねぇ……。

 あと、巻末コメント長者番付1位のクセに近所のカレー屋でバイキングとか、焼肉の思い出を熱く語る女流作家とか、四十肩の若手ラブコメ作家とか、出前先の定食屋に気を遣うクセに編集者と読者には遠慮せず原稿を落とす作家とか、「ジャンプ」の作家さんの実生活はどこかおかしいと思います。

 ◎『NARUTO』作画:岸本斉史【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 今回のような挿話描くの本当に上手いですね、岸本さん。場面の断片を巧みに繋ぎ合わせ方が素晴らしいです。これでメインストーリーの展開をもうちょっとスピードアップさせたら文句無しなんですが。まぁそれはさすがに注文がキツ過ぎですかね。

 ◎『シャーマンキング』作画:武井宏之【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 第2回キャラクターファン投票結果発表。しかし、メチャクチャな順位だなー(苦笑)。これほど露出度と順位が連動しないランキングが出る作品って珍しい気がするんですが。
 「ジャンプ」の人気投票は今後のストーリー展開を左右するくらい重要な隠れイベントですが、少なくともチョコラブがこれから八面六臂の活躍をすることだけは無くなってしまったような気が(笑)。

☆「週刊少年サンデー」2003年15号☆

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 こちらの巻末コメントのテーマは「お薦め本」。読書家かそうでないかがモロバレですねぇ(笑)。しかし、週7日の内8日働いてそうな週刊連載作家さんのどこに読書する時間があるんだろう。映画ならまだ分かるんですが。まさか取材休みって読書タイムですか?(笑)

 ◎『名探偵コナン』作画:青山剛昌【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 今回のトリック(?)だった、スーパーの天井に住む男、確かこれ、実際の事件であった話ですよね。食うに困って住み着いたっていうシチュエーションもそのまんまだった気がします。でもよくこんなB級ニュースをネタにしてマンガに出来るって、ナニゲに凄い話なんでは。
 そして、停滞中のメインストーリーも最近になってボチボチ進行しつつありますね。惜しまれつつ完結するつもりならばギリギリのタイミングだと思いますので、しばらく注目したいと思います。
 でも『金色のガッシュ!!』がメガヒットにならない限り、なかなか終わらせてくれないんでしょうねぇ。

 ◎『かってに改蔵』作画:久米田康治【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 「世の中返さないといけないもの」の中の「あの人の小学館漫画賞」が個人的に大ヒット。勿論、他出版社の雑誌に連載していた児童向け部門のあの人ですね。今頃どうしているんだろう……。

☆第2回☆
☆「世界漫画愛読者大賞」最終エントリー作品☆

 ◎エントリーNo.6 『大江戸電光石火』作画:弾正京太

 今シリーズもいよいよ佳境の6回目。しかし、全然ムードが盛り上がらないのはいかがなものかと(苦笑)。応募作数から考えると、これでもまだ健闘していると言えるかも知れませんが、賞のグレードと賞金がアレですからねぇ……。

 で、今回のエントリー作家さん・弾正京太さん大阪出身の32歳。8年前からマンガ家を志して活動を続けてきたものの活躍の舞台に恵まれず、なんと今回が実質的なデビュー作となった模様です。
 前回の「世界漫画愛読者大賞」では佳作を受賞していたそうで、数少ない“リベンジ”組という事になりますね。

 さて、それでは内容の方へ。
 まずですが、これはなかなかのハイレヴェル。マンガ家志望者としての年数はともかくとして、デビュー作でここまで完成度の高い絵を描けるの人は珍しいと思います。
 しかし残念なのは、女性キャラの描き分けが致命的なまでに出来ていない事でしょう。正直、最初の数ページは何度読み返したか分かりませんでした。

 ストーリーに関しては特に問題とする点はありません。オーソドックスながら、ドラマ時代劇っぽい展開で悪くないんじゃないでしょうか。出来の悪い時代劇は江戸を舞台にした現代劇みたいになりますが、この作品については大丈夫でしょう。
 ただし、特筆して褒めるべき点も見当たらないのが困りモノでもありますね(苦笑)。見せ場の殺陣がアッサリ終わり過ぎたり、単純な筋書きを複雑に見せようとしてやたら多くの伏線を張ってしまったりして、痛快さが抜けてしまったせいなのかも知れません。単純なストーリーは悪い事では有りません。むしろ、「週刊モーニング」連載の野球マンガ・『ジャイアント』のように、単純な筋書きでも見せ方次第では素晴らしい作品にする事もできるわけですから、小細工は逆効果です。

 とりあえず今回の作品だけで判断するなら「可もなく不可もなく」といったところでしょうか。しかし、これまでのエントリー作に比べると、「これ以上ひどくなる事は無いな」的安定感が感じられるのはプラスです。
 評価は甘めかも知れませんがB+を進呈。大化けはどうか分かりませんが、小化け程度ならしそうな気はしますね。今後の動向に注目したいと思います。

 投票行動は以下の通りです。

 ・「個別人気投票」支持するに投票。(正直言って迷いましたが、まとまった期間の連載で読んでみたいと思いました。でも、やっぱり早まりましたかね?《苦笑》)

 ・「総合人気投票」では、残り2作品がこの作品を上回る出来ではない限り、この作品に投票する予定です。

 ・「グランプリ信任投票」でこの作品を支持することはありません。ギリギリで準グランプリレヴェルでしょう。


 ……というわけで、今週のゼミも終了です。次週も「ジャンプ」では読み切りが載りますし、ある程度のボリュームは維持できそうです。では、また来週。

 


 

3月12日(水) ギャンブル社会学特論
「麻雀・競技プロの世界」(3)

 ※過去のレジュメはこちらから→第1回第2回

駒木:「なし崩し的に長期化っていうのは、ウチの講座の特色だけれども(笑)、今回の講義も何やかんや言って3回目になっちゃったね」
順子:「局地的に、ですけど案外好評みたいですしね〜。麻雀業界に関わってる人から激励されたそうじゃないですか、博士」
駒木:「そうなんだよ。最近はお蔭様でネット業界じゃ結構顔がさすようになってしまって、色々な所で密かに話題にされる事が多くなった感じ。喜ばしい事……なんだよね?(苦笑)」
順子:「まぁ、顔写真とかを晒されたわけじゃないですし、良いんじゃないですか?(笑)」
駒木:「順子ちゃんと珠美ちゃんは堂々と公開してるのにね、顔写真(笑)。
 ……で、そういう事があったんで、『こりゃいい加減な事は喋れないぞ』って思って、更に念入りに資料調べをしたんだけど、その結果、前回までの講義に少し訂正する所が出て来た
順子:「あれ、そうなんですか?」
駒木:「プロテストの件なんだけどね。あれ、僕が認識していたよりずっと“ザル”らしい(苦笑)。団体によっては補欠合格も含めると受験者の半分以上が受かっちゃったり、女性受験者の不合格者がこれまで出た事が無い所があったりするらしいよ(苦笑)。これじゃあ『プロテストって、単なる受験料回収イベントなんですか?』とか言われても反論出来ないよね」
順子:「うわぁ、メチャクチャですね〜」
駒木:「まぁ、教育業界も似たようなもんだけどね(苦笑)。私立学校が受験料と入学金の収入をアテにして経営されているのは間違いの無いところだし。
 ……って、曲がりなりにも“大学講師”の言うセリフじゃない気がして来た(苦笑)」
順子:「わたしは知りませんよ(笑)」
駒木:「まぁいいや。良くないけど(苦笑)。そういうわけで、麻雀の競技プロ団体ってのはそうでもしない限り運営が成り立たないくらいに基盤が脆弱なんだけど、その割には団体が主なものだけでも6つもあるんだよね」
順子:「そうそう、前回はそこで『また来週』になったんでした。で、どうしてそうなったのかを今日はお話してくれる約束でしたよね?」
駒木:「そういう事になるね。まぁ僕は部外者もいいところなんで、あくまでも公に出た事柄しか知りようが無いんだけれども、裏事情を知っててもどうせ喋れないだろうからそれで良いと思ってる」
順子:「工藤兄弟の過去みたいにはいきませんか(笑)」
駒木:「残念ながらね(笑)。……まぁそういうわけで、今日は麻雀プロ団体の分裂劇について講義を進めていくことにしよう」
順子:「は〜い。よろしくお願いしま〜す」
駒木:「──まず、日本の麻雀界に“競技プロ”って概念が登場したのは昭和40年代の話だった。雑誌なんかの活字媒体で麻雀関連の記事が脚光を浴びて、更には小説『麻雀放浪記』が大好評を博した、“麻雀マスコミビジネス黄金期”がやって来たんだ。今から考えると、ちょっとバブルっぽい感じだけどね。
 で、そういう時期に誕生したのが、麻雀界で未だに語り継がれている“麻雀新撰組”。かの阿佐田哲也さんがリーダーになって、小島武夫さんと古川凱章さんを交えた3人で結成した麻雀職能団体──つまりは“表プロ”グループってことになるね。それまでの“裏プロ”、つまり賭け麻雀で食ってるプロじゃなくて、麻雀とマスコミを介して収入を得る、新しいタイプのプロがこの時点で誕生したってわけだ」
順子:「ということは、麻雀新撰組の3人が競技プロ第1号ってことになるんですか?」
駒木:「事実上そうなると思う。ただ、当時はまだ大規模な競技麻雀の大会が存在しなかったんで、扱いが非常に困るところなんだけど。
 んで、『それじゃあ、そういう大会を作っちゃえ』って事で出来たのが、双葉社主催の“麻雀名人戦”。つい数年前に廃止されちゃったけど、それまでは伝統のトーナメント戦として定評があった」
順子:「野村サッチーが反則スレスレのマナー違反で優勝しちゃったことがある大会ですね(笑)」
駒木:「そう、それ(笑)。各界の雀豪を集めたオープントーナメントなんだけど、実はこの大会、明らかに麻雀新撰組のために出来たタイトルだったんだ。“麻雀名人位”っていう箔をつけて、競技麻雀プロってのを大々的にに売り出そうとしたというのが真相らしい」
順子:「へぇ〜、そうだったんですか〜」
駒木:「ところが、勝ったのはアマチュアの強豪選手だった。小島武夫さんが準優勝まで漕ぎつけたんだけど、麻雀の大会って、準優勝はビリと一緒だからねぇ。
 事実、この敗戦は大きかった。これで『プロはアマより強い』っていう当然であるべき事実がいきなり根底から覆ってしまったんだからね。極論を言えば、現在に至っても未だに麻雀プロのうだつが上がらないのは、この時にプロである麻雀新撰組勢が優勝できなかったからだ…とも言えるかも知れない
順子:「30年以上前の事件をまだ引きずってるわけですか(苦笑)」
駒木:「物事は何事も初めが肝心なんだよ。人間関係でも第一印象が与える影響が大きいのと一緒」
順子:「なるほど〜」
駒木:「その後も、麻雀新撰組は若手メンバーを増やして規模を大きくしたんだけど、麻雀名人戦の後に創設された“かきぬま王位戦”の場で新撰組の選手が露骨な順位操作をやった事が非難されて、結局はそれが遠因になって新撰組は解散する事になる。元のメンバーはフリーの競技プロとして活動を続けたんだけど、プロ団体の流れはここで一旦中断する。
 ……で、そこから話は変わるんだけど、問題になった“かきぬま王位戦”と同時期に創設されたのが、竹書房主催の“麻雀最高位戦”。今ある同じ名前の団体の元になったタイトル戦だね。当時は団体じゃなくて単なるタイトルの1つだったんだ」
順子:「話が複雑になってきましたね〜(苦笑)」
駒木:「当時の最高位戦は、プロやプロ級の強豪選手が一堂に集って1年単位の長期リーグ戦をやって、それでナンバー1を決める趣旨の大会だった。短期決戦だと運の要素が強すぎるから、長期戦で実力トップを決めようって趣旨だね」
順子:「確かに麻雀って運で決まる部分が大きいですからね〜」
駒木:「そうそう。僕だって、東風戦1回なら現最高位の古久根プロに勝った事があるんだからね(笑)」
順子:「自慢していいのかどうか迷う条件ですね、それは(笑)」
駒木:「与太話のレヴェルだね(笑)。多分、それなりのお金を賭けた東南戦なら絶対に勝ち目無かったと思う」
順子:「(笑)」
駒木:「で、この最高位戦、創設当初は“雀界オールスター戦”と言っても良いくらいの超豪華メンバーが集まるメジャータイトル戦だった。灘麻太郎、小島武夫といった、今では最も最高位戦から遠い存在のビッグネームが名を連ねているし、あのムツゴロウさんも1シーズンだけ参戦したりしてた。しかも予選リーグトップ通過だよ」
順子:「そこまで強かったんですか? ムツゴロウさんって」
駒木:「誰もが認める超強豪だったんだよ、当時は。例えば今でも残っている十段戦ってタイトルがあるんだけれども、これはムツゴロウさんのために創設されたタイトル戦なんだよ。灘麻太郎プロと麻雀を打っていた時に、
 『灘さんが九段(この会話の当時に灘プロが所属していたプロ連盟には段位制度がある)なら、俺は何段だろう?』
 『私が九段ですから、ムツさんなら十段でしょう』
 ……って会話があって、そこから本当にタイトル戦が作られてしまった(笑)」
順子:「それでタイトル戦を作っちゃう方も作っちゃう方だと思うんですけど(笑)」
駒木:「確かにね。でもムツゴロウさん、その創設された十段戦で本当に何度も優勝しちゃうんだから凄い(笑)。
 ムツゴロウさんで言えば、あと雀魔王戦ってタイトルがあってね」
順子:「じゃ、雀魔王!」
駒木:「ムツゴロウさんと当時のトッププロ3人が三日三晩、不眠不休で40半荘ぶっ続けて競うっていうとんでもないタイトル戦(笑)。そこでもムツゴロウさん、2連覇を達成してる(笑)。とんでもない人だよ、まったく」
順子:「本当、とんでもないですね〜(笑)」
駒木:「……と、話が逸れた。プロ団体の話だ。まぁそういう感じで昭和40年代後半から50年代前半にかけては、明確にプロ団体と言えるものがないまま、最高位戦なんかのプロ向けタイトル戦が行われていた
 実は麻雀新撰組より先にアマチュアの競技麻雀団体もあって、そこに所属していた強豪選手もタイトル戦に出場していたりしたから、当時はかなりボーダーレスな時代だったと言えるね」
順子:「そんなので揉めなかったんですか? 『何でアマチュアが混じってるんだ』とか、そういうことを言うプロの人とか出て来そうですけど……」
駒木:「いや、だって“麻雀プロ”の基準無かったんだもの、当時は。麻雀新撰組にしたって、言わば勝手に“プロ”って名乗っていただけだし。プロ選手を統括する団体も人もいないし、名乗ったもん勝ち。今で言えばプロレスラーに近いかな。団体立ち上げて試合して、プロレスマスコミやファンに認知してもらえたらそれでプロ…みたいなね」
順子:「埼玉プロレスですか(笑)」
駒木:「なんでそんなマニアックなの知ってるんだ(苦笑)。2000人の受講生さんの中で何人サバイバル飛田を知っているか訊いてみたいよ(笑)。
 ……でもまぁそういうわけだ。だけど、これも第1期の麻雀名人戦で自称プロが負けちゃった影響が出てるんだろうね。アマチュアにだってプロと互角以上に戦える人がいる以上、大会から締め出すわけにも行かない。しかもそれでムツゴロウさんみたいに雀魔王2連覇して、最高位戦で予選リーグトップ通過しちゃう人も出て来るわけだし」
順子:「それじゃ、どうしてそこから団体がパカッって割れちゃったんですか? そのままでやっていたら、とても都合が良かったように思えるんですけど……」
駒木:「さぁ、そこだ。確かにこんな感じでずっと続いていれば麻雀界は幸せだったろうね。だけどそれを許さなかったのが、人間関係と麻雀に対する考え方の違い。まぁアレだ、音楽のバンドが解散するようなもんだよ」
順子:「なるほど(笑)」
駒木:「人間関係がきっかけで出来たのは、昭和56年設立の日本プロ麻雀連盟。灘麻太郎さんや小島武夫さんなんかが中心になって作った団体で、今では300人余りのプロを抱える業界第一団体だね。あのムツゴロウさんも、現役から引退したものの、現在でも相談役・プロ九段として名を連ねている。
 どうしてこの団体が出来たかって言うと、今度は最高位戦で、特定の人を勝たせるために勝ち目の無くなった人が順位操作をした疑惑が持ち上がったから。口の悪い人たちは『最高位戦八百長事件』って言う日本競技麻雀史に残る汚点とも言うべき事件だね。これが元で選手間の関係がギクシャクして最高位戦に参加していた選手が真っ二つに割れてしまう。形としては最高位戦から選手が大量離脱した形になるんだけどね。
 この団体についてはもっと喋りたいんだけど、今は時間が無いから、これはまた次回以降で述べる事にして、ここは話を飛ばす。
 んで、麻雀に対する理念の違いで主流から袂を分かったのが元・麻雀新撰組の古川凱章さんが設立した一〇一(イチマルイチ)競技連盟だ」
順子:「ツモ和了でも『ロン!』って言って変な点数計算するところですね。あといまだに手積みで麻雀してる団体って聞いてます(笑)」
駒木:「順子ちゃんの知識はいつも変な風に偏ってるんだよなぁ(苦笑)。大事なのはそこじゃなくて、成績と実力の優劣のつけ方。普通の認識では、麻雀の成績は点数の合計で判断するよね。でも、この一〇一では半荘ごとの着順が重要であるという考え方をしている。トップが+1ポイントでラスが−1ポイントになって、あとはプラマイ0。つまり50000点の2着よりも30100点の1着の方に価値があるっていう考え方なんだ。これで半荘を積み重ねていって総合得点を競うってわけ。
 まぁ確かに一利ある概念だとは思うけど、攻撃よりも守備の方にウェイトがかかっちゃうルールだよね。だから一般受けはイマイチかなって感じがする。トップの目が無くなった2着と3着がラス回避のために結託して1000点差し込み合う…とか、いかにも一般ファンが嫌いそうな展開が続出しちゃうんだよね」
順子:「倍満ツモでご無礼! とかは無いんですか(苦笑)」
駒木:「一発・裏ドラ、カンドラも無しのコテコテ競技麻雀ルールだからねぇ。1000点差し込みの方が現実的なんだよ。
 ……まぁ、考え方は千差万別だからこれくらいにしておくけれども、明らかに他の団体とは理念が違うのは分かってもらえたと思う。まぁ、今では一〇一と他の団体を掛け持ちする人も出てきてるし、今度はグローバル化が進んでいると言えなくも無いんだけどね」
順子:「グローバル化ですか(笑)。なんだか、大学の国際政治学講義を思い出してしまって頭が痛いです(苦笑)」
駒木:「じゃあその隙に話を進めちゃおう(笑)。で、そういう流れの中で“最高位戦”も、残留した選手に新規加入選手を加えて頭数を揃えた後に、リーグ戦参加選手をそのまま所属選手にした同名のプロ団体としてリニューアルされる。これで3団体時代になって、平成に入るまでこの状態が続く事になる」
順子:「……ということは、6団体に増えるのは平成に入ってからなんですね」
駒木:「というか、ここ数年(笑)。まぁそれについてはまた次回という事にしよう」
順子:「3月一杯まであと2回ですけど、大丈夫ですか?」
駒木:「まぁ何とかなるだろ。それに4月から業務縮小って言っても、閉講するわけじゃないんだからね。不定期にボチボチやっていけばいいんだよ」
順子:「駒木博士らしいコメントが出ましたね(笑)」
駒木:「『らしい』とか言うんじゃない(笑)。まぁそういうわけで、来週に続く。お楽しみに」
順子:「皆さんもお疲れ様でした〜」 (次回へ続く

 


 

3月10日(月) 労働経済論
「役に立たない? アルバイト時給案内」(16)

 ※前回までのレジュメはこちらから→第1回第2回第3回第4回第5回第6回第7回第8回第9回第10回第11回第12回第13回第14回第15回

 何やかんやで、年をまたいだ3ヶ月の長期シリーズとなったこの労働経済論講義もいよいよあと2回となりました。
 駒木とクソゲーム屋との別れや後日談といったオイシイ部分は次回に回しまして、今回はゲーム屋の一般的なバックステージ話を断片的にお送りしたいと思います。
 しかしながら、駒木がいた環境は極めて特殊でしたから、どこまで平均的な“ゲーム屋像”を描写出来るかどうか分かりません。ですので、まぁ与太話の一つとして聞き流してもらえれば幸いです。

 
 ──ではまず、開店に至るまでのお話から。
 ゲーム屋チェーンのフランチャイズとして開業しようとする場合、そこでフルタイムの店員として働く人たち(この講義ではオーナー一家)は、数週間同じチェーンの店で研修を受けます。オーナー一家は金持ちだったのでホテル暮らしだったようですが、遠距離を通う人もいるかと思われます。
 で、気になる開業資金ですが、規模にもよるでしょうがクソゲーム屋の場合は諸々コミで2〜3000万円くらいだったと記憶しています。結構な額ですよね。
 フランチャイズ加盟料もまとまった金額なのですが、それよりも物件取得費内装工事費、または商品の仕入れ代金がバカにならないみたいです。逆に言えば、小規模な店舗を居抜きで確保出来れば、その辺りの費用は格安で済むのではないかと思われます。もっとも、潰れたゲーム屋の後に居抜きで入っても将来は知れていますが……。
 あ、仕入れで思い出しましたが、オープニング時に入荷する商品はハズレが多いような印象がありました。本部にしてみても不良在庫を吐き出す格好のチャンスなのかも知れないですね。世知辛い話です。
 あとフランチャイズの場合、開店にあたっては本部から担当社員が派遣されます。クソゲーム屋で言えば「ドロンズ兄さん」ですね。開店前後や節目節目には遠路はるばる現地へとやって来ますが、原則的には本部にいるか、他の担当の店を巡回しているようです。つまり、本部は経営にほとんどタッチせず、ロイヤリティーを頂くことしか考えていないような気が……。まぁこれもチェーンによって違うんでしょうけれども。
 クソゲーム屋の場合、開店2ヶ月目には副社長がやって来てオーナーと善後策を練っていたりしました。それだけで本部にとってこの店が本当にクソだった事がよく判ろうというものです。

 次に店を開いてからの経費について。
 単なるアルバイトの駒木に詳しい話は知る由もありませんが、傍から見ていて毎日バカにならないだけの金がかかっていたように思えます。特に光熱費、特に電気代がバカにならないでしょう。蛍光灯は点けっ放し、エアコンも動かしっ放し、モニターTVも映しっ放しですから、一般家庭の比じゃない電力消費量だった事は容易に想像出来ます。
 また、シュリンク(商品を真空パックのようにビニール包装する事)用の道具やビニール袋などの細かい備品は本部から購入します。これも塵も積れば方式でジワジワと経営を圧迫しますね。
 勿論、この他にも店舗を借りた場合の家賃や、バイトの人件費、更に商品の仕入れ(新品)または買取(中古)の代金が発生します。とにかく日ごと月ごとに様々な名目の金が素っ飛んでゆくのがゲーム屋という商売のようです。

 皆さんが一番気になるのは商品についてかも知れませんね。これも駒木が知りうる範囲でいくつかお話しましょう。
 新品商品の仕入れは、こちらから本部に「〇本仕入れますので送ってください」とFAXで発注をかけます。大抵の場合は要求通りに届きますが、ドラクエやFFのような人気作になると、本部レヴェルでも確保できる本数が限定されるために、戦時下日本におけるコメの配給みたいな供給不足に陥る事もあります。
 意外に思われるかも知れませんが、店が仕入れるゲームのタイトルや本数を決める基準は“担当した店員の好み”です。ゲーム雑誌などを見て得た情報で売れそうなゲーム、または自分が面白いと思うゲームの仕入れ本数を増やします。ですから原則的には普通のゲームファンが購入するゲームを決めるのと同じ手順で仕入れを行います。
 よく非難される、ゲーム雑誌のレビューや紹介記事がスポンサーに配慮したモノになるという話は、実は記事のニュアンスでそのゲームの売り上げがモロに変わってしまうためなんですよね。ソフトの仕入れは返品不可の買い切りなので、メーカーにしてみれば売れなくても店に仕入れてもらえれば売れたと同じ事なのですが、その店がゲーム雑誌を読んで仕入れを決める以上、そういう“配慮”が必要になって来るわけです。

 新品商品の利益率ですが、これは以前にも話したようにメチャクチャ低いです。ゲーム屋は新品商品だけに絞って言えば、薄利多売ならぬ“薄利薄売”の商売です。
 例えば、一番売れセンであるプレステ系のソフトは仕入れ値が定価の75%。しかし定価で販売する事は稀で、大概は5〜10%引きで販売するため、利益率は通常2割を切ります。10本仕入れて9本売れないと儲けが出ない計算でして、これでは正直言って商売としてやっていられません。
 比較的利益率が高いのは、今は亡きドリキャス用ソフトで、仕入れ値は定価の65%。しかし悲しいかな、ドリキャス用ソフトは全くもって売れませんでした。また、パソコンのエロゲーも利益率は高いですが、こちらは発売後間もなくからCD-Rに焼かれまくってしまうためにロングセラーになり難く、不良在庫率が高い“諸刃の剣”と言えます。牛丼大盛りねぎだくギョクくらい素人にはお薦めできません。
 反対にほとんど儲けが出ないのがゲーム機本体。メーカーも赤字覚悟で価格設定をしているのですから仕方ありませんが、これもゲーム屋にとっては悩みの種です。特にプレステ2本体の利益率は恐ろしく低かったのをよく覚えています。
 余談ですが、たまにある定価が無い“オープンプライス”のソフト。どうやって価格設定をしているのか不思議に思われる方もいらっしゃるかも知れませんが、こういう商品だって仕入れ値はあるわけですから、理屈は同じです。仕入れ価格を基にして事実上のメーカー希望小売価格を算出し、そこから例によって5〜10%割り引いて販売する事になります。

 では、そんな状況の中でゲーム屋がどうやってやりくりしているかと言えば、それは中古ソフトである程度稼いでいるからです。ゲーム屋の認識としては新品ソフトは固定客を確保するための“撒き餌”で、中古をいかに回転させるかで店の存亡が決まってきます
 中古ソフトの買取価格は、フランチャイズ本部が設定した金額を基本にして、近隣競合店の動向や在庫のダブつき具合で微調整します。クソゲーム屋の場合、その辺りが杜撰だったために泣きを見たわけですが……。
 利益率は、販売価格3000円前後の家庭用ゲームソフトで大体25〜30%くらいではなかったかと記憶しています。勿論、買取価格の調整でこのレートは変化します。
 余談ですが、CD・DVDゲームソフトの場合、裏面に傷がついてしまうと買取価格が下がってしまうので注意が必要です。売る事を前提にソフトを購入する場合は管理に気をつけましょう。また、ゲーム機本体も箱や備品が欠けていると買取価格がガタっと落ちるので気をつけましょう

 それから、意外と売れ筋商品なのがトレーディング・カードゲームでした。例の少年マンガが下火になりつつある今ではどうか知りませんが、駒木がアルバイトしていた頃にはカードを大人買いする子供もいました。無造作にレジへ5000円札を突き出す小学生を見て、思わずぶん殴りたくなったりもしました。お前ら5000円稼ぐまでこのゲーム屋で働いてみろと、ムカムカしながら接客していた覚えがあります。

 最後に、よく言われる“ゲーム屋店員の役得”ですが、これは一般的には存在するようです。「ようです」というのは、クソゲーム屋の場合、店がアルバイトだけになる瞬間が皆無でしたので、大した事は出来なかったからです。せいぜいが非売品のメーカー試供品をガメたり、販促用ポスターを貰ったりする程度でしたね。
 これがバイトに店を任せっきりの小規模店になると、自分が欲しいソフトをポケットマネーで買取して、相場の2/3程度でゲットする事が出来るようになります。ひょっとしたら在庫のパソコンソフトをこっそりCD-Rに焼くという荒業をやってのける人もいるかも知れませんが、それはさすがにヤバ過ぎると思います、色んな意味で。

 結局のところ、ゲーム屋という商売は余程の恵まれが無い限りはボロ儲けとはいかないようです。大抵の店では、無駄な新品の仕入れを極力省き、黙っても売れるメジャータイトルで利ざやを稼いだり、不良在庫は赤字覚悟でダンピング販売したりしながら売り上げを確保しているみたいです。どうやら“バイト天国・オーナー地獄”というのがゲーム屋の標準的な姿のようですね。

 ……といったところで今回はこれまで。次回はいよいよ最終回。クソゲーム屋のその後、そして最期についてお送りしたいと思います。では、お楽しみに。 (次回へ続く

 


 

3月9日(日) 地誌
「楽園亡国記・南海の島国ナウルの破滅」

 今日はちょっと真面目な話をします。
 最近になって受講を始められた方には意外に思われるかも知れませんが、当社会学講座は硬軟取り混ぜた題材でお送りするのをモットーとしておりまして、下衆な下ネタをカマした翌日に「学校で教えたい世界史」を世に問う…といった具合でこれまでやって参りました。
 そのため、受講生さんが真面目な題材の講義をお知り合いに紹介しようとしても、前日の講義の内容が恥ずかし過ぎてそれが出来ない…などといったケースが続出しているようで、これぞまさに因果応報・自業自得か…と思ったりもします。

 ──というわけで、今日は真面目な話題です。

 いきなりな話ではありますが、現在、わが日本は財政破綻の危機にさらされています。泥沼のデフレスパイラル、それに伴う税収不足、そして雪ダルマ式に積み重なる公債残高。ハッキリ言って末期的な財政状態です。
 しかし、現在の日本の財政が危機的状況にあるとは分かっていながら、どうにもピンと来ないものがあります。何故なら、財政が危ない、破綻する! …と言っても、破綻したら一体どうなるのか実感が湧かないからです。多分、一番実感が湧いていないのが小泉首相のような気がしますが、そういう事を言うとまた左翼と間違えられそうなので止めておきましょう。
 ……ですが、それも分からない話ではありません。何故なら、世界史を漁ってみても、一国の財政が完全に破綻し、それが理由で国そのものが滅んだという例は、これまでほとんど見られないからです。適当な実例が無ければシミュレーションのしようがありません。

 ところが。
 つい最近になって、本当の本当に国家財政が完璧に破綻し、国そのものが崩壊に向かっている所が出現しました。オセアニア地方に浮かぶ小さな島国・ナウル共和国がそれです。
 この聞き馴染みの無い島国は、面積が伊豆大島の1/4でバチカン市国に次ぐ世界第2の狭さで、人口は1万人余というミニ国家です。
 日本なら町村レヴェルの規模に過ぎない小国での出来事を、日本にそのまま照らし合わせる事が確かに無理があります。ダンディ坂野とパペットマペットで日本のお笑い界を語るようなものでしょう。が、少なくとも“とりあえず小耳に挟んでおくには良い話”程度にはなるのではないかと思っています。

 それでは、本題です。どうしてナウルという国が滅びるに至ったのか、その経緯を紹介してゆきましょう。

  オセアニアはニューギニア島の東にある、このナウルという島国が世界史上にその姿を現したのは1798年のことでした。イギリスの捕鯨船が立ち寄った事でその存在が西欧社会に知られるところになったのです。西洋中心史観で言えば、“発見”ということになりますね。
 その後、ドイツ帝国の保護領を経て、第一次大戦後は英・豪・新(NZ)による委任統治領に。第二次大戦中には日本軍の占領下に置かれましたが、戦後には再び英連邦3カ国の委任統治となりました。
 そして1968年ナウル共和国として独立。3年任期で一院制の議会を持ち、国会議員の投票によって国家元首たる大統領が選出されるという間接民主制を採用しています。大統領は外交権を含めた強い権限を持つ一方で、議会に対して責任を負う(=議会の不信任案可決で解職される)ため、政情が不安定になり易いという要素もありました。分かり易く言えば、日本の首相並に権力基盤の脆いアメリカ式大統領制といったところでしょうか。独裁を避けるために数人の実力者で大統領のポストをローテーションしている節も窺えます。

 で、ナウルという国は先に述べた通り、日本の離島並の超小国なのですが、その経済力は侮れないものを持っていて、今回の破産前までは長年オセアニア地区の島国の中で国民所得額トップを維持していました
 その秘密はリン鉱石。マッチの先に付いてる火のつく赤い部分ありますよね。あの原材料です。ただ、本物の鉱石が採れたわけではなくて、国土の4/5に渡って堆積していたアホウドリの糞がリンと同じ成分を持っていたので、それを利用したものだったそうです。鳥の糞が経済基盤というのもトホホな話ですが、その糞のおかげで国民はほぼ無税、しかも何もしなくても生活が維持できるだけの収入が分配されていたというのですから、凄い糞もあったもんです。
 働かなくても暮らしていけるわけですから、ナウルの人は原則的には働きません。公務員をやるか、さもなくば国家からの扶助だけで暮らしていました。リン鉱石の発掘は出稼ぎのためやって来た中国系移民によって担われており、ナウル国民にブルーカラー労働者は皆無だったようです。
 国土が狭い上にアホウドリの糞まみれで、しかも元々がサンゴ礁から出来た島だったため、農業はほとんど出来ませんが、金だけはありますから全てを輸入で賄う事が出来ました。また同様に工業も全く発達していませんが、これも外国製品を輸入すれば事足りました。ナウル人家庭にはテレビやビデオは勿論、TVゲームや自家用車まで普及(島の外周は僅か10数kmなのに)し、文字通り“食っちゃ寝”の暮らしを余すところ無く展開していた模様です。それを証拠に、ナウルにおける人口辺りの糖尿病罹患率は世界1位でした。

 ところが、これが21世紀に入った辺りで状況が一変します。100年の長きに渡って国と1万の国民を支えて来たリン鉱石がとうとう枯渇してしまったのです。

 「アホウドリの糞がついに無くなった? オー、なんてこったい、このクソッタレが!」
 「いやいや、その言い方はおかしいぜ。アホウドリがクソを垂れなくなって困ってるんだからさ。ハハハハハハハハハハ……………………………
ゲッツ!」 

 以上、唐突ではありましたが、ダンディ坂野inナウルでありました。というか、駒木も使用料20円払わなくちゃいけないんでしょうか

 寒いギャグはさておき、リン鉱石の枯渇はナウル経済にシャレにならない打撃を与えました。何しろ、国内唯一の産業が廃止に追い込まれたわけです。小池栄子の巨乳がBカップに萎むようなもんです。
 当然の事ながら、ナウル政府はリン鉱石に替わる収入源を求めて新事業を始めようとしましたが、国民の大半が生まれてこの方働いた事が無いという悲惨な状況のため、なかなか上手いように行きません。魚市場を開いたが、だれも魚を釣ろうとしないために開店休業…という香ばしいエピソードも残されています。

 そういうドタバタがあった挙句、政府が選んだ新たな資金源は金融業でした。
 確かに金融ならば、実質的な産業が無くても流れて来る資金の上前を跳ねたら収入が得られるわけですから、ナウル向きのビジネスであると言えます。
 ですが、ここでナウル政府はその金融業の展開の仕方を完璧に誤ります。一刻も早く事業を軌道に乗せるために、「一定額の資金を投資する人物はナウル国籍を取得しパスポートもプレゼント。また、設立する銀行はペーパーカンパニーでも可」…という恐ろしく杜撰な誘致策を実施してしまったのです。その結果、世界中のテロリストがナウル国籍・パスポートを取得してテロ活動に旅立ち、ペーパーカンパニーはマフィアやテロ組織からのマネー・ロンダリングの格好の舞台となってしまいました。
 更に折の悪い事に、そういう状況下の2001年にアメリカで同時多発テロが発生してしまい、ナウルは世界中から“テロほう助国家”扱いされる羽目に陥ったのです。頼みの金融業も軌道を外れ、ナウル経済はどん詰まりに陥りました。
 こうなると後は転落の一途です。2002年には国家財政が破綻し、予算も組めないまま公務員の給与支払いはストップしてしまいます。物資が不足する中、腎臓病を患った当時の大統領はオーストラリアにトンズラをこいて解任される始末。資金援助の見返りにアフガニスタンやイラクからの難民を約1000人(国民の10%相当)を引き受ける羽目になってしまい、それで国中の宿泊施設が埋まったために観光客の受け入れ状況も麻痺。遂には航空会社も運営を休止し、ナウルは絶海の孤島と化してしまいました

 そしてこの2003年1月末、とうとう国会が活動を停止し、国家運営機能がマヒ。ほぼ時を同じくして、唯一残されていた国際電話回線が途絶し、なんと国全体が消息不明という末期的状態に陥りました。
 そのような錯綜した状態の中で、「現在はどうやらこうなっているらしい」という情報を総合してみますと、以下のようになります。

 ・無計画に収容され、適切な措置を受けられなかった難民たちが蜂起し、事実上の自治政権を樹立。
 ・大統領邸宅は焼き打ちされ、大統領は権力を完全に失ったままアメリカへ亡命。しかも現地で心臓発作を起こして死去したため、現在は大統領も議会も不在の無政府状態。警察機能も機能不全な上に軍隊も無いので治安の悪化が懸念される。
 ・貿易が途絶し、医薬品を中心とした物資が不足していると推測されるが(電力や飲料水まで輸入していた)、現在どのような状況かは全く不明。
 ・しかも大統領候補の有力政治家は大抵糖尿病か、人工透析を必要とする重度の腎臓病患者。

 

 ──これは文字通りの国家存亡の危機と言っていいでしょう。というよりも、物資補給もままならないまま放置されている1万人以上の人命までが危ぶまれる状態です。国が滅ぶとはこういう事を言うのだな…と思い知らされる話ですよね。
 まぁ、もし日本の経済が破綻したとしても、こんな酷い状態に陥るとは思えませんが、それでも無責任な政治家たちがこぞってアメリカへ亡命…なんて話はありそうで困ったモンであります。
 とりあえず、私たちに出来る事は限られていますが、せめてもの抵抗として、数年に一度の選挙では少しでもマトモな候補者に一票を投じたいものですよね。マトモな候補者がいなければ自分で立候補するくらいの気概があれば更に喜ばしい事です。とはいえ、こういうのは困りモノではありますが(笑)。 (この項終わり)

 


 

3月8日(土) 競馬学概論
「“埋もれた(かも知れない)名馬”列伝」(8)
第3章:フラワーパーク(後編)

※過去のレジュメはこちらから→ビワハヤヒデ編(第1〜3回)ライブリマウント編(第4回〜第6回)/フラワーパーク編(第7回  

駒木:「こんばんは。何だか最近、ずっと体がキツいとか、講義遅れて申し訳ないとかばかり言ってる気がするけど、今日もその通り(苦笑)」
珠美:「フルタイムのお仕事を2つ同時進行って感じですものね(苦笑)。でも、私は静かに気合が入ってるんですよ。ほら、ここ何週かは順子ちゃんも講義に出るじゃないですか。そうするとやっぱり、私も元気付けられるっていうか……」
駒木:「なるほどね。それじゃあ、気合の入ったついでに、僕の代わりに講義してくれないか(苦笑)。」
珠美:「そうさせて頂きたいのはやまやまなんですけれどもね(笑)。でも、私はあくまでもアシスタントなので」
駒木:「遠慮する事なんか無いんだけどなぁ(苦笑)。
 ……じゃあせめて、講義を早く進行させてもらうよ(笑)。早速、今日のテーマであるフラワーパークの成績表を改めてご覧頂こう」

フラワーパーク号・全成績(略式)
<詳細はこちらのリンク先を参照>
日付 レース名 着順 騎手 1着馬(2着馬)

95.10.29

未勝利戦

10/17 村山

キョウワグレイス

95.11.11 未勝利戦 1/18 村山

(サクラミヨシノ)

95.12.03 恵那特別(500万下) 1/16 村山 (ヤクモエンジェル)
95.12.24 千種川特別(900万下) /13 村山 (ハギノエンデバー)
96.01.20 石清水S(1500万下) 3/16 村山 ムツノアイドル
96.02.24 うずしおS(1500万下) /12 村山 (ハセノライジン)
96.03.23 陽春S(オープン) /13 村山 エイシンワシントン
96.04.28 シルクロードS(G3) 1/13 田原 (ドージマムテキ)
96.05.19 高松宮杯(G1) /13 田原 (ビコーペガサス)
96.06.09 安田記念(G1) 9/17 田原 トロットサンダー
96.11.23 CBC賞(G2) /14 田原 エイシンワシントン
96.12.15 スプリンターズS(G1) 1/11 田原 (エイシンワシントン)
97.03.02 マイラーズC(G2) 4/14 田原 オースミタイクーン
97.04.20 シルクロードS(G3) 4/16 田原 エイシンバーリン
97.05.18 高松宮杯(G1) 8/18 田原 シンコウキング
97.10.25 スワンS(G2) 6/16 田原 タイキシャトル
97.11.22 CBC賞(G2) 4/15 田原 スギノハヤカゼ
97.12.14 スプリンターズS(G1) 4/16 田原 タイキシャトル

珠美:「博士には先週の講義の中でお話して頂きましたが、このフラワーパークは全盛期の短い馬ですよね」
駒木:「ピーク期間を最大限長めに解釈しても、95年の晩秋から96年の末までの1年強だものね。しかも重賞戦線で活躍していた時期となると半年と少ししかないんだよなぁ。まぁ、97年シーズンだって着順だけなら酷い成績では無いんだけどね」
珠美:「それでは、いつも通りデビュー戦から振り返っていくわけですが、いきなり驚かされるのがデビュー緒戦の大敗ですよね。1着馬と0.7秒差ながら、17頭中10着という成績になっています。これはどうしたんでしょう?」
駒木:「その週のレース結果が載ってる『週刊競馬ブック』を探そうとしたんだけど、実は今、資料をしまってる僕の部屋がエラいことになっててね(苦笑)。15年分のプロレス資料と10年分の競馬資料が積みあがってて、部屋の奥深くに眠っている雑誌は引っ張り出せないんだよね(笑)。他のレースのは大体見つけ出せたんだけど、この週の分に関してはお手上げだった。
 だから、ここはとりあえず推測で喋るしかないんだけれども、デビュー当初のこの馬は、馬体は重め残りだわ、気性は荒いわ、脚質的にも融通が利かないわでね。いつ大敗を喫してもおかしくなかった。だって、ベスト体重が470kgなのに490kgもあるんだよ(笑)。しかもこの時はデビュー戦だし。」
珠美:「……ということは、色々な敗因が複合したものだということでしょうか?」
駒木:「無難に言えばそうなるね。でもまぁ、後のG1馬が秋の3歳(当時は4歳)未勝利戦で2ケタ着順っていうのは確かに珍しいね。相撲で言えば、序ノ口で負け越した力士が後に大関・横綱までのし上がるようなもんだ」
珠美:「それでも2戦め以降はさすがといったところでしょうか。11月から翌年2月までの3ヶ月間で次々と条件戦をクリアして、一躍オープン入りを果たすことになります。この時期は逃げ切り勝ちが多いですね」
駒木:「スピードの違いだね。マトモに走ったら、条件馬クラスなんて話にならないよ。条件馬時代に1回だけ3着に負けてるけど、これはまた距離が合わなくて、レース前からイレこんだ上に後手を踏んだものだから仕方ない。競馬に絶対は無いっていうのを証明するようなアンラッキーなレースだったね」
珠美:「私はこの頃はまだ馬券を買ってませんでしたけど、今だったら間違いなく損しているレースだと思います(苦笑)。
 ……というわけでオープン入りを果たしたフラワーパークですが、そのオープン入り第一戦で、後に因縁の相手となる馬と出会うことになりました

駒木:「エイシンワシントンだね。何だか少年マンガみたいな出会いだけどこういうのがあると、やっぱりドラマ的には面白いね」
珠美:「私は少女マンガみたいな出逢いだと思ったりするんですけれども(笑)」
駒木:「わはは(笑)。それもアリかもしれないね。でも、エイシンワシントンの成績を見てみると、どうも水島新司作品の脇役チックなデタラメな成績なんだよな。だから間を取って、『野球狂の詩』みたいな…とするのはどうか」
珠美:「いや、全然間を取ってないんですけど(苦笑)」
駒木:「まぁ、冗談はそれくらいにしておいて。この陽春Sのエイシンワシントンは、大スランプ期の合間に少しだけ調子が戻ってた時期だったんだ。それを考えると、フラワーパークは運が無かったね。条件戦からいきなりG1・G2クラスの馬が相手になったんだから」
珠美:「ハイ。フラワーパークはこのレースでは2着に敗れていますね。そして、このレースを最後に騎手が村山騎手から田原成貴騎手(当時)に乗り替わりになっています
駒木:「いつも思うんだけど、本当に乗り替わりってヤツはタイミングだよね。乗り替わりがこのタイミングじゃなかったら、一体どうなってたか。まぁそれで村山騎手がG1レース2つ勝てたかどうかは判らないけどね」
珠美「……2着に敗れるも、オープンでも充分通用する実力がある事が実感できたのでしょう、フラワーパークはいよいよ重賞戦線に参戦して行きます。その第1戦はG3のシルクロードSでした」
駒木:「この頃のローテーションでは、このレースが高松宮杯(当時)に直結するレースだったんで、とてもレヴェルが高かった。今で言えば阪急杯のようなレースだね」
珠美:「事実、このレースは昨年のスプリント王者・ヒシアケボノなどの錚々たるメンバーが揃っていて、オープン入りして間もないフラワーパークは4番人気でした。しかし、いざフタを開けてみれば、ゴールを先頭で駆け抜けたのはフラワーパークでした
駒木:「フラワーパークより人気だった馬の状況に触れてみると、ヒシアケボノは休養明けでリズムが狂いまくり、ヤマニンパラダイスは復調途上、エイシンワシントンは再びスランプ突入…って感じで、多少恵まれはあったかな。ただ、タイム(1分7秒6)は胸を張れるね
珠美:「そして、この実績を手土産に、フラワーパークはスプリント戦にリニューアルされたばかりの高松宮杯に出走します」
駒木:「ナリタブライアンが出走して論議を醸したレースだね。で、これに関しては去年の3月17日付講義で詳しく採り上げてるから、皆さんにはそっちのレジュメを読んでもらう事にしよう。結果だけを言うと、フラワーパークがビコーペガサス以下をスピードの絶対値で完封してG1初勝利を達成した。特攻タイプ逃げ馬のスリーコースについていって、そのまま2着以下に2馬身半の差をつけるんだから、これは本当に強かった。まだスプリント界が黎明期でメンバーが揃いきらなかったって事もあったんだけど、それでも大したもんだ」
珠美:「この後は余勢を駆って安田記念に挑戦したのですが、こちらはトロットサンダーの9着に敗れてしまいました」
駒木:「これは距離。国際G2クラスのG1じゃあ、さすがに誤魔化しが利かないね。残り200m──つまり1400m地点までは踏ん張ってたんだけど、そこからはスプリンターの距離じゃないからね。このレースはヒシアケボノが3着に粘ってるんだけど、これは奇跡に近い大健闘だよ」
珠美:「そして安田記念の後は、11月まで5ヵ月半の休養に入ります」
駒木:「当時はスプリンターズSが暮れの中山開催だったからね。安田記念で距離適性も割れた事だし、無理してマイルチャンピオンシップに出す事は控えたんだろうね」
珠美:「休養明け緒戦は中京の名物レースCBC賞。開幕集のパンパン馬場で行われるスプリント戦として定評のあるレースですよね」
駒木:「ただねぇ、この時のフラワーパークは+24kgだからねぇ。高松宮杯の時と同タイムでエイシンワシントンの2着だったんだけど、これでもよく走ってる方かもね。
 ちなみにエイシンワシントンはこの頃が競走馬生活最後の絶好調期だった。正直、今現在の短距離戦線で走っていたらG1の2つや3つでも獲れる位の勢いが有ったんだけどね」
珠美:「CBC賞はあくまで叩き台…というわけで、いよいよ本番・スプリンターズSです。16kg馬体を絞って万全を期したフラワーパークは1番人気に支持されました。レースの方は、またしてもエイシンワシントンとのマッチレースとなりましたね」
駒木:「文字通りのデッド・ヒートだったね。その差数cmの際どい写真判定を制してG1レース2勝目。乗ってた田原成貴もゴール前の手綱捌きが会心の出来だったんだろう。自分の書いたエッセーで自慢したり、原作担当してたマンガで主人公にその技をやらせたり好き放題だった(笑)。まず馬を褒めてやれよって、今になったら思うんだけれども(苦笑)」
珠美:「こうしてスプリント界の女王として君臨したフラワーパーク。この馬の時代がしばらく続くかと思われたのですが、現実は厳しいものでした……」
駒木:「翌春に休養からカムバックしてみると、心身とも完全に燃え尽きてしまってた。全く別の馬だね。だから、ここではもう扱わない。
 引退レースになったのは翌年のスプリンターズSで、何とか4着には入ってるんだけど、レース振りを観てると単なる流れ込み。タイキシャトル時代の幕開けと共に静かにターフを去ってゆく。典型的な埋もれた名馬の消え方だね」
珠美:「……この企画、いつも最後が切ないですよね(苦笑)」
駒木:「それは仕方ないよ。最後まで幸せだったら埋もれてないはずだから(苦笑)」
珠美:「──というわけで、フラワーパーク編も終わりですね。次回はどうされますか?」
駒木:「今度はアングロアラブでも採り上げようかと思ってるんだよ。元祖・アラブのメッカ・兵庫県の住人としてね(笑)」
珠美:「分かりました。でも、受講生さんにはちょっと馴染みが薄すぎるかも知れませんね(苦笑)」
駒木:「それがこの社会学講座ってもんだよ(笑)。まぁそういうわけで、今日の講義は終了だ。ご苦労様」
珠美:「ハイ、お疲れ様でした」 (この項終わり/次回へ続く

 


 

3月7日(金) 労働経済論
「役に立たない? アルバイト時給案内」(15)

※前回までのレジュメはこちらから→第1回第2回第3回第4回第5回第6回第7回第8回第9回第10回第11回第12回第13回第14回

 ここしばらく、駒木も助手の2人も皆さんに謝ってばかりの毎日ですが、また今日の講義も開始が大変に遅れてしまいました。本当に申し訳有りません。肉体的披露に睡眠不足、そして数カ月おきにやってくるスランプが重なってしまい、どうにもこうにもならんのです。
 今、皆さんがご覧になっているはずである1週間の講義の模様を収録したこのトップページも、普段ならhtmlテキストだけで100キロバイトを超えていたりするわけですが、現状は臨時休講もあってその7割ほど。受講者数も増え、業務縮小前の最後の一頑張りをしなくちゃいけないこの時期に全くもって情けない思いで一杯です。
 あと1週間余り、何かと支障が出るかもしれませんが、予定した講義は随時実施するつもりですので、どうかよろしくお願いします。

 ……さて、今日の講義はクソゲーム屋話の“敗戦処理”編の第2回。店の経営が傾く中、オーナーのバカ息子2人がどのような壊れっぷりを見せたかをご覧頂く事にします。

 まずは「店長」。ご存知、本来の役割を一切果たさず、母親であるオーナーの傀儡としてのほほんと生きる、雇われ店長ならぬ“養われ店長”です。
 この御仁、以前に申し上げた通り、生まれながらの短気・気配り知らずで気まぐれな性格だったもので、店のオープン当初はアルバイトから一番嫌われていた存在でした。が、ある時期からは金持ちのボンボン的な鷹揚さが顔を出し始めまして、この“敗戦処理”期は比較的付き合いやすい人物であったのも確かでした。
 とはいえ、タチの悪い人間であったというのも事実でして、結局のところはベジータやフリーザが出て来た後で改めてマジュニアに会ったとしても、何だか悪い奴には思えない…みたいなものでしょうか。事実、駒木はそれ以前のアルバイト先で大概な人間と接し、その度に激怒して来たのですが、このオーナー一家に出会った後から振り返ると、そのほとんどの人たちが大して悪い人間には思えなくなってしまいました。駒木ハヤト、今ではどどん波太陽拳も片手で跳ね返せる男です。

 で、その「店長」ですが、店が傾いてからの言動は典型的なボンボンのそれでした。
 前々回の講義で、「店長」が血相を変えて広島から素っ飛んで来て経営状態の酷さを説く「ドロンズ兄さん」に、「はぁ」とか「まぁ」とか、まるで親戚の葬式で20年ぶりに会った叔母さんから「まー、すっかり男前になってー」とか5000円の入った茶封筒を右手に押し付けられながら言われた時に出すような返事をカマした事をお伝えしましたが、その後も現実感のぶっ飛んだセリフを連発します。

 まず、週5日12時間拘束&時給750円(実働時間のみ支給。残業手当ナシ)&交通費支給月5000円までという、冗談は顔だけにして欲しい待遇で連日無益な労働を繰り返し、ようやく月に1度の給料日に辿り着いた我々バイト連中に発した言葉がこれです。

 「おぅ、お前ら、給料とか待遇で不満あったら言うとけよ」

 …我々が不満をぶつける代わりに、口を安物のダッチワイフのように開けて呆然としたのは言うまでもありません。まぁ、その後もキッツイ体験を繰り返して来た駒木なら、とりあえずは「じゃあまずそこへ正座せえ」くらいは言えると思うんですが。
 
 あ、あとその翌月の給料日には、給料袋を手渡しながら「まー、この店も年越せるか分からんけどなー」
…などと、株式上場企業なら死人が出るような言葉をシラフで平然と吐いていたのが印象深かったですね。実際はその次の年が越せなかったんですが。

 そういえばこんな事もありました。
 ある時、いつも通り有線放送が空しく鳴り響く閑散とした店内で、「店長」がアルバイトたちに、
 「おい、ちょっとみんなでコレやってみいひんか?」
 と、何やら小さな箱を見せて来たのでした。
 その箱とは、某国際的に超有名なトレーディング・カードゲームのカードが収められた箱。このクソゲーム屋でサイドビジネス的に扱っているカードゲーム商品の1つでした。この商品、店では結構力を入れて仕入れていたものの、実際の売り上げ的には、このゲームをパクって出来た、某少年マンガに出てくるバッタモンカードゲームに惨敗を喫しており、ちょっとテコ入れの必要があったものでした。
 「店長」は、こう言うわけです。

 どうせ店はヒマなんやから、みんなで店の中でコレをやってデモンストレーションをやってやな、子供に『面白そうやな』と思ってもって売り上げ伸ばしてみようやないか」

 そして、更にこうも付け加えました。

 「せやから、皆、自腹切ってカード用意してくれや。従業員割引は利かせとくから」

 バイト一同が、郷ひろみコンサートに行ってみたら若人あきらが出て来た時のような顔をしたのは言うまでもありません。

 
 ──と、「店長」はこんな感じでした。しかしまぁ、タチが悪いと言っても基本的には人畜無害。まぁ笑ってやり過ごせば無事に済む、みたいな感じだったのも事実です。

 が、残る「ポンカス息子」こればっかりはどうしょうもないクズでした。まさにポンカスそのものの奇行・蛮行を紹介してゆきましょう。

 まず、“敗戦処理”期におけるコイツの全体的な印象としては、いつもブスっとした顔で不貞腐れていた…というところでしょうか。笑った顔をほとんど見た事がありません。自分が(一方的に)心を許していた1人のアルバイトとは談笑する場面も見られましたが、原則的には産気づいた雌猫くらい機嫌が悪い状態が延々と続いていました
 その理由としては、コイツと駒木との間にコミュニケーションが一切無かったので知る由もありませんが、どうも可能性として一番大きいのは、金銭面のわがたまりだったのではないか…と考えています。
 もう既にご存知の通り、このクソゲーム屋は開店当初から店を開ければ開けるほど赤字が累積されていく…という悲惨な状態にありました。いくらオーナー一家が金持ちの部類に入るとはいえ、決して楽な台所事情ではなかったでしょう。バイトの給料は遅延する事無く全額支払われており、他の支払も滞った様子は見えませんでしたが、身内の「店長」と「ポンカス息子」に支払われたサラリーは小遣い銭程度であったようです。その証拠というわけではありませんが、「ポンカス息子」の昼食はいつも近所の弁当屋で最も安いメニューであるカレー弁当(並)でした。
 そういうわけでこの「ポンカス息子」は、働いても働いてもバイトより稼ぎの低い自分の境遇に納得出来ず、1日中プンスカとしていたのだと思います。しかしコイツの場合、“働いても働いても”の中身は、ゲームをしてるかエロゲー雑誌読むだけだったりしますので、同情の余地は一切有りません。というか、「金欲しかったらモデムの1台でも配って来い」と言いたい気持ちで一杯です。

 ……というわけで、これから「ポンカス息子」のやらかした事績をお話していくわけなのですが、改めて色々と思い返してみれば、このバカ息子、ポンカスだけあってやる事もポンカスでして、なかなかコレといった“大ネタ”が無い事に気がつきました。
 人が一所懸命やっつけ仕事をしている背後から丸めた雑誌の固い部分で頭を小突いて振り向かせ、意味不明のボソボソ声で「……☆●△◇Σ#ろうが」と因縁をつけたり、自分は一日中格闘ゲームをプレイしておきながら「仕事せんかったら給料から差っ引くぞ」などという自家中毒発言に至るなど、大いに人をムカつかせる割にはスケールがやたら小さいのが「ポンカス息子」の言動なのです。
 現在『最強伝説 黒沢』を絶賛連載中の福本伸行さんならば、この矮小なスケールのダメ人間振りをアジフライ大作戦よろしく3ヶ月かけて精緻に描写してくれると思うのですが、残念ながら駒木にはそこまでの才能がありません。申し訳ない。

 いや、それでも1つだけ特筆すべき出来事がありました。

 ある日、駒木がレジ横でPOP描きをしていると、そのレジで待機していた「ポンカス息子」が突然怒鳴り声をあげました。
 「……★〇▼Σ#〒×やめんかい!」
 …何が起こったのか、と思ってそっちの方向を見てみますと、先述のバッタモンカードゲームのパックをいくつか握り締めたまま怯えた顔をしている小学生の姿がありました。
 どうやら、「サーチ禁止」の張り紙を無視してプレミアカード入りのパックを探そうとしていた子供相手にマジギレしたようなのです。
 うわコイツ、子供相手には平気で怒鳴れるんや…などと呆れておりますと、店の奥から母親であるオーナーが素っ飛んで来ました。しかし、このオバハンもこのオバハンで、何を言うかと思えば──

 「まぁ、○○君(『ポンカス息子』の本名)、虫の居所が悪かったんやね。でも、アカンよぉ、お店で大声出したら。ねっ、機嫌直して」

 う、うわ、うわわわわわ………

 

 寒───!
 


 
 ──えぇそうです、「ポンカス息子」はマザコンだったんですね。
 エロゲオタクで性格最悪のマザコン。
 …もし、「TVチャンピオン」に『ダメ人間選手権』があったら、「魚通選手権」におけるさかなクン並の最強王者になれる事でしょう。番組の最後で、田中義剛から「あなたにとって、ダメ人間とは何ですか?」…と訊かれたら、どう答えるんでしょうね。

 
 ……というわけで、前回と今回は“敗戦処理”期のオーナー一家の動向を追いかけてみました。

 さてさて、このクソゲーム屋話、そしてこのシリーズもいよいよあと2回となりました。(モデム配り話は別シリーズでお送りします)
 次回は番外編的に、ゲーム屋そのものの舞台裏についてちょっとお話をしてみたいと思います。どのような感じで店は運営されているのか、興味のある方はお楽しみに。 (次回へ続く

 


 

3月6日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(3月第1週分)

 さて、2ch掲示板のモデム配りアルバイト関連スレをチェックしていたら、今日の講義の準備がダダ遅れになってしまった駒木です(苦笑)。申し訳有りません。

 で、とりあえず、今週のゼミも「世界漫画愛読者大賞」レビュー1本と、“チェックポイント”のみになってしまいます。今年の春は「ジャンプ」の新連載シリーズが遅れ気味(一説によると今年は長期連載作品終了含みの変則シフトの模様)なので、レビュー対象作が稼げないのが痛いところです。まぁ、体力的・時間的に余裕が無いというのもあるんですが……。
 しかしまぁ、来週はまだしも、再来週には体も空きますので、質・量共に充実したゼミが出来るのでは…と思っています。

 それでは早速、「ジャンプ」と「サンデー」のチェックポイントから行きます。

☆「週刊少年ジャンプ」2003年14号☆

 ◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 今週はどうもチェックポイントの題材になりそうな部分が少ないんですよねぇ……。
 一発ネタの類なら、118ページの1コマ目なんてのは絶好のターゲットになるわけですが(笑)、ストーリーの意外性とかに関しては、どうも今週はイマイチでした。残念。

 ◎『アイシールド21』作:稲垣理一郎/画:村田雄介【現時点での評価:A/雑感】 

 あっという間にVS賊学戦が終わってしまいましたね。あ、いや、凄い良いテンポなんで構わないんですが。モン太加入のエピソードで引っ張り過ぎたって反省でもあったんでしょうかね。
 試合の方はモン太が主役か? ……と思わせておいて、キッチリ美味しい所はセナが持って行きましたなぁ。いつの間にかメンタル的にも随分と成長したようで。

 ところで、売れ行きが色々な意味で注目されるであろう単行本の2巻が発売になりましたね。内容はもちろんの事、相変わらずオマケページが充実しているわけですが、駒木は王城の女子マネージャーにちょっと萌え(笑)。第二の奈瀬さんみたいに出世しないものか?(笑)
 それにしても、オマケページの文章読むたびに思うんですが、何だか良く出来たテキストサイトみたいな文章ですよね。特に太字の使い方とか。

 ◎『グラナダ ─究極科学捜索隊─』作画:いとうみきお【現時点での評価:B−/雑感】
 
 現時点で打ち切り候補筆頭と目される作品ですが、むー、何だか当初とは全く別のマンガになっちゃいましたね。序盤のドタバタよりは今の方が中身が濃くて良いとは思うんですが、それにしても話変え過ぎだろう…って気が(苦笑)。

☆「週刊少年サンデー」2003年14号☆

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 ◎『MÄR(メル)作画:安西信行【現時点での評価:B 

 今回で主人公の目的がハッキリし、仲間が一人加わったわけですが、何だか、物凄く取ってつけたような設定のような気がプンプンと……(汗)
 特にギン太の加入は、「ただ単にセオリー通りメンバーを増やしたいだけ」的な印象が漂って来て、あまり好ましくないですねぇ。どうも迷走の予感がしてきました。どうして最近の「サンデー」は連載前からプッシュした作品に限ってポシャるんだろう(苦笑)。

 ◎『美鳥の日々』作画:井上和郎【現時点での評価:B+/雑感】
 
 身体検査中の美鳥の表情とか仕草とかの描写がいちいち細かくて感心しました(笑)。特に、美鳥に目がいかないようなコマに力を入れてるのが……。井上さんがこの作品に愛情を注いでいるのが良く分かります。
 そう言えば、どうでもいい部分の描写を極力どうでも良く描く人の代表格故・藤子・F・不二雄先生でしたね。「変ドラ」さんの『白ドラ』を見てもらえれば分かるんですが、もはやナンジャコリャの世界でして(笑)。同じマンガという媒体でも表現の方法は十人十色なんですねぇ。

☆第2回☆
☆「世界漫画愛読者大賞」最終エントリー作品☆

 ◎エントリーNo.5 『極楽堂運送』作画:佐藤良治

 恐らく今回のエントリー作の中で最も“濃い”作品(そして作者さん)の登場です。第1回でも独特過ぎる世界観で読者を色々な意味で惑わせた作品がありましたが、今回のその“枠”は、どうやらこの作品のようですね。

 作者の佐藤さんは37歳。19年前と17年前の2回「手塚賞」の佳作を受賞し、2回目の受賞の時に増刊号デビュー。しかし、他の作家さんとの力量差を痛感し、また自分の求める作風が少年誌に合わないと判断して、活動の舞台を青年誌へと移します。
 その後、「週刊漫画アクション」で連載をするなどして来ましたが、なかなか芽が出ずにここまで来てしまった模様。しかし、これほどまでキャリアが長くて実績が乏しい作家さんも珍しいのではないかと思います。執念深いといえば良いのか、それとも……

 さて、では作品の内容に。
 まず絵柄ですが、上手下手を別にして「主流から外れてるなぁ」…という印象がありますね。恐らくは「バンチ」か「モーニング」くらいしか拾ってもらえなさそうな気がします。
 あと、女の子キャラの描き方がワンパターン&表情が固めなのが気になる点でしょうか。オッサンキャラが濃い分だけ女の子を可愛く描こうという気持ちは感じられるのですが、腕が追いついていない感じですね。

 ちょっと解釈が難しいのがストーリーの方ですね。独特な世界観をどう評価するかでも意見が割れそうなんで、いつにも増して主観が入ってしまいそうなんですが、とりあえず駒木の考えを述べてみます。

 まずシナリオの流れそのものは、そんなに不自然ではなかった気がします。ただ、“地獄猫”の家の前で張っている刑事が何のために張り込みをしているのか全く無意味なのが気になる点ではありますが。
 むしろ問題なのは、作品全体のテーマが1つに絞りきれなかった点でしょう。親子の絆がメインなのか、ヒロイン・蘭の復讐劇がメインなのか、それとも裏社会に生きる人間の逞しさを描くのがメインなのか、その辺が伝わって来ませんでした。なので、ラストシーンが今一つ効果を上げていないような気がするんですよね。

 あと、それ以上に問題なのはキャラクター描写です。
 なるほど、出て来るキャラというキャラがアクの強い印象を与えてくれますが、しかし本当の意味で“キャラが立った”キャラは1人もいなかったような気がします。
 物語の登場人物には、話を進めるために与えられた役割と設定が存在します。しかし、これだけでは登場人物が本当の個性を身につけた事にはなりません。個性的なキャラを生み出すためには実際には話の展開には役立たない、言ってみれば“遊び”の部分が必要です。これは“裏設定”と言い換えても良いでしょう。
 この作品に出てくる登場人物にはそれが無いんですね。だから作中の性格描写がシナリオに引きずられてチグハグになったりするわけです。どうやらこの作品は読者審査会後の修正で“改悪”されてしまったようですが、そういう修正を許してしまう“セキュリティホール”みたいなものが元々有ったのではないかと駒木は思っています。

 結論を言うと、この作品は失敗作(not駄作)です。佐藤さんの力量が果たしてこれが限界かどうかはよく判りませんが、少なくとも『極楽堂運送』がグランプリや連載作に相応しいものであるとは言えないと思います。
 評価はB寄りB−

 投票行動は以下の通りです。

 ・「個別人気投票」支持しないに投票。(現在連載中の作品と比較して、この作品が勝っているとは思えません)

 ・「総合人気投票」「グランプリ信任投票」でこの作品を支持することはありません。

 ……なんだか8週連続で「支持しない」になりそうな気がしてきました(苦笑)。総合人気投票、どうしましょう?

 
 ……といったところで、今週のゼミは終了です。来週はレビューを2本お届けできそうです。では。

 


 

3月4日(火) ギャンブル社会学特論
「麻雀・競技プロの世界」(2)

 ※過去のレジュメはこちらから→第1回

駒木:「……さて、今週もギャンブル社会学特論として、麻雀の競技プロの世界について話をするよ」
順子:「先週はプロテストのことで時間が来ちゃったんですよね。かなりヌルい基準で合格者をたくさん出したりして、『プロって何なの?』…って感じの話題になったところで終わっちゃいました。結局、そうしないと業界全体がやっていけないって話だったと思うんですけど……」
駒木:「そうだったね。じゃあ今日はそこからお話を始めよう。
 ……まずね、そもそもスポーツやゲームの競技プロっていうのは、どうやって経済的に成り立っていると思う?
順子:「えーと、『○○杯』って感じで、団体がスポンサーからお金を集めて大会を開いて、選手の人たちはその賞金で生活するわけですよね? で、団体は賞金を払った残りのお金で運営していくって感じで……」
駒木:「ご名答。まぁ野球とかサッカーみたいなメジャースポーツの場合は、企業が興行収益を見込んでプロ選手を給料制で囲い込んだりするわけだけどね。でも、麻雀みたいな個人戦のプロスポーツやゲームの場合は、順子ちゃんの言ってくれた通り、スポンサーを募って、そこからもらったお金で業界の経済が維持される
 例えば、囲碁とか将棋もそうだね。あれは主に新聞社がスポンサーになって、“名人”なんかのタイトル戦をやってるわけ。あれも言ってみれば賞金トーナメントだよ。将棋界は一部給料制になってるけど、あれも実は毎日新聞が名人戦の予選としてやってる順位戦の対局料が姿を変えたようなものだしね」
順子:「麻雀には無いですけどね、新聞主催のタイトル戦って(苦笑)」
駒木:「そうそう、それが問題なんだよ」
順子:「へ?」
駒木:「間の抜けた声が出たね(笑)。いや、だから新聞社が主催する賞金の大きな大会が開けないのが麻雀界の大問題だったりするんだよ。一応、スポンサーつきのタイトル戦はいくつかあるんだけどね。
 でも、それは賞金額も微々たるものだし、麻雀のプロ団体にはほとんどお金が入って来ない。さっき話した囲碁・将棋の世界は新聞社が億単位の金を払っているんだよ。それを考えると大違いだよね」
順子:「あれ、そんなにプロの大会賞金って安いものでしたっけ?」
駒木:「業界内のタイトル戦を片っ端から独占して、それでやっと賞金で生活ができるかどうかだよ。高くて優勝100万とか200万、普通は数十万円ってところだね」
順子:「うわー、それじゃ誰も賞金だけじゃ……」
駒木:「食べてゆけない(苦笑)。そりゃあ、トップクラスしか賞金で生活を維持できない競技ってのは結構あるよ。ゴルフ、テニス、ボウリング、あと囲碁もそうだね。『ヒカルの碁』で、ヒカルたちが地方の囲碁イベントに派遣されたり指導碁を打ったりしてお金を稼いでるシーンが出てくるけど、実は大半の囲碁棋士はそういうイベントの収入で生活しているんだよ」
順子:「へぇ〜、そうなんですね〜」
駒木:「でもね、競技麻雀の世界はもっと厳しい。他の業界ではね、個人個人はなかなか食べられなくても、プロ選手を統括する団体そのものはスポンサーからのお金でなんとかやりくり出来ているんだけど、麻雀界はそれも出来ていない。中にはそういうスポンサー収入がゼロの団体もあるはずだよ」
順子:「え? じゃあどうやってお金を集めてるんですか?」
駒木:「実はね、その団体に所属するプロ選手たちが少しずつお金を出し合って、自分たちの団体を維持してるんだよ。団体主催の大会で出る微々たる賞金も、元はといえばそれを貰う選手たちが出し合ったお金だったりするんだよ(苦笑)」
順子:「え〜と、それって…ですよね……?」
駒木:「うん。変だね(笑)。でも、そうしないとやってけないからね。仕方ない(苦笑)。プロ団体も収入を増やすために選手の数を仕方なくガンガン増やしてゆくしかないし
順子:「『仕方ない』ですか。じゃあ仕方ないですね(笑)」
駒木:「おいおい、それじゃ話が進まないだろ。アシスタントらしく話を進行させてくれよ(苦笑)」
順子:「は〜い(笑)。……じゃあ、麻雀プロ選手の人たちの生活について教えてくださーい」
駒木:「順子ちゃんと講義をすると、何か、こうノリが変になるんだよな。まぁ仕方ないけど(苦笑)。
 ……じゃあ、プロ雀士の収入についてね。まずは、さっきから言ってるようなタイトル戦・大会の賞金。公表されているタイトルの中では200万円が賞金の上限かな。まぁ、大体優勝賞金100万円を超えると“メジャータイトル”ってことになるんだろうね。で、これが10くらいある。逆に、新人プロを対象にしたマイナーな大会とかになると、優勝でも10万円程度のことも珍しくないみたいだ。まぁ全部の大会の賞金を掻き集めても2000万円に届くかどうかじゃないのかな。
 しかもこういう大会では優勝者以外に賞金が出ない事の方が多いので、プロ選手の大半は賞金ゼロのまま1年を過ごす事になってしまうね。賞金の高い大会はプロ・アマ混合で競争率が凄く高い事もあるし。だから、賞金だけで食べて行こう…なんて事は──」
順子:「夢のようなお話ですね(苦笑)。あ、でも、普通こういうゲームのプロって、“対局料”みたいなギャラが出ませんか? 参加賞みたいな感じで……」
駒木:「これがほとんど出ないんだな(苦笑)。少なくとも若手や無名の選手はゼロだね。で、各団体が主催する順位戦とかタイトル戦なんかも全くのゼロらしい。
 これがキチンと出るようになれば、競技麻雀も立派なモノなんだろうけどね。でも、こればっかりはスポンサーがつかないとどうもねぇ。さっきも言ったように、所属選手からの持ち出しでなんとか維持されてるのがプロ団体の現状だから」
順子:「そうなんですか〜」
駒木:「だから、プロが純粋に競技生活の中で得られる収入というのは、いつ貰える立場になるか分からない賞金だけ。年間賞金ランキングを作ると、トップは恐らく200〜300万円ってところで終わってしまうんじゃないかな。つまり、最高賞金の大会を勝った人がそのままランク1位(笑)。で、ベスト10から下は総賞金100万円以下で、少なくともプロ全体の80%以上は年間賞金総額0円なんじゃないかと思うよ。
 しかも大会に出るにはエントリー費がいるし、プロでい続けるためには団体に年数万円の会費を納めなくちゃいけない。だからプロ雀士全体の9割近くは金払って麻雀打ってるだけって事になる。プロって言うか、単なる物好きの世界だね(笑)」
順子:「うわ〜、別の意味で凄い世界ですねー(苦笑)」
駒木:「まったくね。ただ、囲碁の世界と同じように、麻雀プロにも、プロという肩書きを利用して、別の手段で稼ぐ方法もある。いわゆる普及活動ってヤツだ。
 一番多いのが、ギャラを貰ってフリー雀荘で客に混じって打つ“指導対局”かな。若手の、特に美人女流雀士にはこの手の仕事が殺到する。いくつかの店を掛け持ちして、週に5日ほど働いて生計を立てている人もいるはずだよ。
 あとはメディアへの露出。麻雀雑誌に原稿を書いたりするのは勿論、TVとか一般誌に出て麻雀プロの世界をPRするお仕事がある。プロテストの時、一芸に秀でた人とか美人とかを優遇するのはこの辺りに理由があるわけ。麻雀がソコソコ強い普通の兄ちゃんと、ちょっと弱いけど可愛い女の子を比べると、女の子の方が業界全体に貢献する可能性が高いんだよね。ただ、そういうのを別の言い方をすれば“客寄せパンダ”と言ったりするんだけれども(苦笑)」
順子:「なるほど〜(苦笑)」
駒木:「あぁ、あと忘れちゃいけない若手プロの収入源が、牌譜(囲碁・将棋の棋譜のようなもの)採りだね。これが大体日給で1万円程度。時々、対局してるプロのギャラよりも額が上だったりもするらしい(笑)」
順子:「(笑)」
駒木:「……と、以上が、プロ雀士の収入だね」
順子:「あれれ、でも全部のプロが指導対局したり、雑誌とかに出たり、牌譜採ったりするわけじゃないですよね?」
駒木:「そうだね」
順子:「じゃあ、そういう人たちは麻雀じゃ生活できませんよね?」
駒木:「という事になるね。だからそういう人は別の仕事で食ってるんだよ。一番多いのは雀荘のメンバー。プロとしてでなくて普通の店員として働いてる。これはボウリングのプロの大半がボウリング場で働いてるのと同じようなもんだね。あ、でもたまに雀荘のオーナーになる一流プロもいるね」
順子:「あ〜、そういえばわたしがバイトしてる店の近くの店でそういう人います、います」
駒木:「だろうね。で、他はサラリーマンとかの“カタギ”の仕事。中には税理士しながらタイトルホルダーになっちゃった人もいる
順子:「あ、聞いたことあります。物凄くギャップがありますよね〜(笑)」
駒木:「──と、まぁこういうところだね。これがプロの生活実態。ユメもチボーも無い感じだけどね」
順子:「でも博士、どうしてこんなに頼りなげな業界なのに、団体だけはたくさんあるんですか?
駒木:「うわ、鋭いところを指摘されちゃったな。まぁいいや、それじゃ来週のテーマはそれでいこう」
順子:「分かりました〜」
駒木:「それじゃ、今回はこれまで。皆さん、ご苦労様」 (次回へ続く

 


 

3月3日(月) 労働経済論
「役に立たない? アルバイト時給案内」(14)

※前回までのレジュメはこちらから→第1回第2回第3回第4回第5回第6回第7回第8回第9回第10回第11回第12回第13回

 前回でお話した通り、駒木は急速に経営が傾いて来たクソゲーム屋から解雇予告を受けました。告げられた解雇予定日までは2週間。本当は今すぐクビでも良かったのですが、切迫した懐具合は勝手が効かず、ギリギリまで残留する事に決めました。
 しかし、元から低かった勤労意欲は更に急低下し、このゲーム屋働く事は、時間を金に換金する行為以外の何物でも無くなりました。言うなれば、この2週間はプロ野球で言うところの“敗戦処理”。プロ野球ファンの受講生さんは、引退間際の巨人・水野(元)投手のやる気の無いブルペンでの様子を思い出して頂ければ、当時の駒木の姿も想像がつき易いかと思います。
 そんな“敗戦処理”期間中の仕事は相変わらずのPOP描きばかり。すっかりサボタージュのテクニックも板につき、文字を明朝体でレタリングするにも、

 鉛筆で下描き→ポスカの細字でふちどり→ポスカ太字でベタ塗り→ポスカ中字ではみ出た部分を補正→別の色のポスカ中字で最後のふちどり

 ……と、手間に手間を重ねます。本当は文字なんぞマジックでキュキュッと書いてしまえば5秒で済むんですが、そこを30分以上引っ張るところに意義があるわけです。
 特に雑誌記事や広告等にタイトルロゴが掲載されたゲームのPOPなどは腕の振るい所でした。あらかじめ、なるべくロゴの模写が難しそうなゲームを探しておき、2時間以上かけてジックリと筆を進めるのです。この際、そのゲームのタイトルが、POPを描こうが描くまいが売り上げに全く影響しないマイナーなものであれば言う事はありません。
 何しろ、負け試合を更に惨めに際立たせるというのが“敗戦処理”の原則です。従って、駒木たちは目一杯の努力で赤字拡大のお手伝いをしていったわけです。

 しかし勿論の事、当のオーナーにとって当時の店の状況は、未だ“敗戦処理”ではありません。一発逆転を狙い、経営を立ち直らせようと必死の足掻きをしていたようでした。
 これでもし、本当に的確な方針で店を建て直そうとするのであるならば、やれ“敗戦処理”だ、やっつけ仕事だ…などと言っていた駒木たちも心を新たにして仕事に励んだと思うのですが、悲しいかな、現実はそれと全く逆の方向へと突き進んでいったのです。
 簡単に言えば、オーナーの経営戦略及び日々の行動が、この時期を境にして大きく迷走を始めます。人間、必死になると何をするか分からなくなる…とは申しますが、本当に何をするか分からなくなるケースはハッキリ言って貴重だと思われます。
 ……というわけで、今回は“敗戦処理”期のオーナー妄言・妄動録をお送りしたいと思います。


 ●オーナー妄言・妄動録その1

「開店から1ヶ月経ちました。ご覧の通り、経営はかなり厳しいです。で、どうしましょう?

 ……これは、開店以来しばらくの間、毎週日曜日の仕事終了後にロッカールームで開かれていた従業員ミーティングにおける、オーナーの開会宣言です。
 特筆すべきはやはり末尾往年のダウンタウンの漫才を想起させる破壊力抜群の一撃です。これならば、はぐれメタルだろうがメタルキングだろうが一刀両断に出来る事でしょう。
 結局この時の会議はバイト側から差し障りの無い意見がいくつか出ただけで、あとは田村正和と相席になったボックス席のように沈黙のまま。「店長」は終始すっトボけた表情のままで、「ポンカス息子」に至っては足を無造作に投げ出した、葬式のお経に飽きてブー垂れてる5歳児のような格好でつまらなさそうな顔をして爪のアカをほじくっておりました。今となって思えば、カルロス=ゴーン氏の耳のアカでも煎じて飲ませてやりたい瞬間でした。
 …あと、中には「どうせなら差し障り有るようにズバリ言っちゃえよ!」…とおっしゃる方もいるかも知れませんが、ズバリ言ってしまったら、

 「もう店畳みましょうや。今ならまだ傷は浅いでっさかい」

 ……と、竹内力扮する萬田銀次郎のような口調でカマさなければなりませんので、これは事実上不可能でした。

 ●オーナー妄言・妄動録その2

 「人手が足らなくなるのでダメです。休みたいなら、その日休みの店長に言って、代わりに出てもらうよう言って頂戴」

 ……これは、駒木ともう一人のアルバイトが解雇通告を出された翌日に出された言葉、しかも急用が入って次の日に休まなくてなならなくなった、その解雇通告を受けたアルバイトにオーナーが浴びせた容赦ない言葉です。
 突然自分の都合でクビを切っておいて、そのくせ休みたいと言ったら「人手が足らなくなるので、変わりに上司に休日返上で出てもらうようにお願いしなさい」とカマすこの無神経さ、いかがですか?
 かつてフランス王妃・マリー=アントワネットは「パンが無ければケーキを食べればいいじゃない」と言ったという伝説が残されていますが(実は架空の言葉のようです)、このオバハンがもしその立場だったら、「パンが無ければ、小麦を植えて、育てて、収穫して、粉を曳いて、水と混ぜてこねて、形を整えて、かまどで焼いて、それをお店に出すように言いなさい」…と抜かすに違いありません。
 もしもこの世に輪廻転生というものが本当にあるのだとしたら、このオーナー、前世でどこぞの国や王朝の1つを滅ぼしているような気がします。

 
 ●オーナー妄言・妄動録その3

「今日入った商品ね、後で返品しやすいように(普通のソフトとは)別の場所でまとめて置こうと思ってるねん」

 ……前回、仕入れた不良在庫の買取を本部に飲ませたオーナーですが、その代わりに返品可能条件のゲームソフトを本部から入荷したのです。で、その商品を前にしてオーナーが吐いた言葉がこれです。
 何と言っても、入荷した時点で既に返品を前提としていて、しかも客の利便性そっちのけという凄まじい暴言です。しかしそれでいて極めて現実に即した発言である…という事も見逃してはなりません。奥の深い一言です。

 
 ●オーナー妄言・妄動録その4(プレステ2用ソフト担当の駒木との会話)

駒木:「この『店内売り上げ上位ソフト』なんですけど、昨日僕が並べた順番と大分違ってませんか?」
オーナー:「ああ、私が変えました。」
駒木:「……この新しい1位のゲームって、売れてましたっけ?」
オーナー:「いいえ。売れてません。でも、1位に置いたら売れるかな…と思って」
駒木:「え、でもこの売れてるソフトがベスト10圏外っていうのはいくらなんでも……」
オーナー:「こんなん、ランキングに載せてなくても勝手に売れてるやないの

 ……あぁ、頭痛に顔をしかめている受講生さんの顔が目に浮かびます。でもホントなんですよ、これ。
 しかし、駒木は今ここで、敢えてオーナーに一言申し上げたい。いくら1位だろうが殿堂入りだろうが、『ぶちギレ金剛 !!』が売れるはずないじゃないですか。というか、そんな「ひょうきんベストテン」みたいなランキング、誰が信じますか。


 ……とまぁ、こんな感じです。
 この他にも、開業資金込みの負債が3千万円に達してからゴミ袋と画用紙の節約を始めるという、肺ガンになってからタバコをピースからマイルドセブンに変えるようなマネを始めたりと、話題には事欠かない毎日でした。

 そして、そんな毎日の中で、今度は馬鹿息子たちの人格と脳味噌が崩壊&融解を始めました。人格メルトダウンです。
 そういうわけで、次回は彼ら、「抱かれたくない男」にノミネートしたら出川だろうが江頭だろうが松村だろうが敵わない最凶の兄弟について述べてみたいと思います。 (次回へ続く

 


 

3月1日(土) 競馬学概論
「“埋もれた(かも知れない)名馬”列伝」(7)
第3章:フラワーパーク(前編)

※過去のレジュメはこちらから→ビワハヤヒデ編(第1〜3回)ライブリマウント編(第4回〜第6回)  

駒木:「受講生の皆さん、講義開始が遅れてすみません。今から講義を開始します」
珠美:「今、実時間では3月3日未明です(苦笑)」
駒木:「いやー、いくら取材活動と研究費稼ぎのためとは言え、やっぱりフルタイムの仕事と掛け持ちってのは辛い(苦笑)。二足のわらじは履けても二足の靴はなかなか履けないねぇ」
珠美:「靴ですか(笑)」
駒木:「……さて、今回からはフラワーパーク特集だ。スプリンターのG1馬って、意外と“埋もれた(かも知れない)率”が高いんだよね」
珠美:「それはやはり、日本の競馬界で芝の中長距離戦線が重視されているからでしょうか?」
駒木:「それも少しはあるかな。まず大レースの数が絶対的に少ないわけだからね。でもそれ以上に、スプリンターのG1馬の多くは、そのキャリアの中に埋もれる要素を多く含んでる事が多いんだよ」
珠美:「埋もれる要素……ですか?」
駒木:「そう。……じゃあ。それを説明するためにまず、フラワーパークの成績表を見てもらうことにするかな。珠美ちゃん、お願いするよ」
珠美:「ハイ。それではいつも通り、簡易版ですがデビュー以来の全成績表をご覧頂きましょう」

フラワーパーク号・全成績(略式)
<詳細はこちらのリンク先を参照>
日付 レース名 着順 騎手 1着馬(2着馬)

95.10.29

未勝利戦

10/17 村山

キョウワグレイス

95.11.11 未勝利戦 1/18 村山

(サクラミヨシノ)

95.12.03 恵那特別(500万下) 1/16 村山 (ヤクモエンジェル)
95.12.24 千種川特別(900万下) /13 村山 (ハギノエンデバー)
96.01.20 石清水S(1500万下) 3/16 村山 ムツノアイドル
96.02.24 うずしおS(1500万下) /12 村山 (ハセノライジン)
96.03.23 陽春S(オープン) /13 村山 エイシンワシントン
96.04.28 シルクロードS(G3) 1/13 田原 (ドージマムテキ)
96.05.19 高松宮杯(G1) /13 田原 (ビコーペガサス)
96.06.09 安田記念(G1) 9/17 田原 トロットサンダー
96.11.23 CBC賞(G2) /14 田原 エイシンワシントン
96.12.15 スプリンターズS(G1) 1/11 田原 (エイシンワシントン)
97.03.02 マイラーズC(G2) 4/14 田原 オースミタイクーン
97.04.20 シルクロードS(G3) 4/16 田原 エイシンバーリン
97.05.18 高松宮杯(G1) 8/18 田原 シンコウキング
97.10.25 スワンS(G2) 6/16 田原 タイキシャトル
97.11.22 CBC賞(G2) 4/15 田原 スギノハヤカゼ
97.12.14 スプリンターズS(G1) 4/16 田原 タイキシャトル

駒木:「……それじゃ、説明するね。本来目立たなくちゃおかしいはずのG1馬が埋もれるパターンとしては、大体5つある。
 1つ目はトップに立つまでの過程。デビューが極端に遅いか、一旦フェードアウトするかして、条件戦や二線級のオープン特別を経てトップグループ入りしている事。いわゆる“裏街道”出身だね。これは一番華やかな3歳G1戦線から外れてしまっているという事だから、台頭するまでの注目度やドラマ性がどうしても削がれてしまうんだよね。
 2つ目は全盛期が短い事。大体埋もれる馬っていうのは、総じて全盛期が半年から1年くらいだね。つまり、活躍していた事自体がファンの記憶に残り辛い。
 3つ目は活躍できる条件──距離・馬場・展開が限られている事。いわゆるスペシャリストだね。こういう馬は自分の苦手なパターンにハマると大敗する可能性が高くて、その結果、成績表にキズがつき易い。また、必然的に出走数や勝ち鞍が少なくなる。
 4つ目。引退する時期を間違えた馬。簡単に言えば晩節を汚してしまった馬だ。これも成績表にキズがつくし、最後の弱かった時期の印象が強く残ってしまって、全盛期のインパクトが薄れてしまう。
 そして最後は同時代の同カテゴリにもっと偉大で人気のある馬がいた場合。要は相対的に目立たなくなってしまうってわけだね。あと、ビワハヤヒデみたいに絶対的に人気の無い馬も結局はここに入る事になるのかな。ビワハヤヒデは1つめから4つめまでの条件はあまり満たしてないんだけど、最後の条件だけで埋もれてしまったわけで、そういう意味では凄い馬だよな(苦笑)」
珠美:「……でも、『そう言えば…』という条件ばかりですねー。前回採り上げたライブリマウントにしてもほとんど条件を満たしてますし……」
駒木:「埋もれる条件は他にもあると思うけどね。でもまぁ、それは受講生の皆さんに考えて頂く事にしよう。
 で、フラワーパーク。この馬も色々と条件を満たしている事が成績表からも一目瞭然だ。何しろ“フルマーク”なんだよ、この馬。まずデビュー時期が凄い。」
珠美:「あ、そうですね。この開催が終わると未勝利戦が無くなるという3歳10月のデビューですね。そこから条件戦を潜り抜けてオープン入りしていますから、1つ目の条件は完全にクリアしています」
駒木:「で、全盛期は正味1年弱。2つ目の条件もクリアだね。そしてこの馬は守備範囲が狭くてマイル戦ではあまり活躍できなかった。というわけで3つ目の条件もクリア」
珠美:「全盛期を過ぎてから丸1年現役を続けていますし──」
駒木:「この馬の活躍したすぐ後にタイキシャトルとかシーキングザパールが海外G1を獲ってしまって、実績や人気の面でも遅れをとった。オマケに主戦騎手があの田原成貴だから、今となってはどうしても話題に出し辛い(苦笑)」
珠美:「(苦笑)」
駒木:「似たようなパターンで、オサイチジョージも話題になり難いんだよねぇ(苦笑)。全盛期のオグリキャップに勝った数少ない馬の1頭なのに、主戦騎手がアレだったせいで、どうしてもね。まぁ、あの時代の名馬は種牡馬成績がイマイチだから、最近話題にならないって事もあるか。
 ……と、6つ目の埋もれる条件が見つかった(笑)。牡馬の場合、種牡馬入りしてからの成績がイマイチだという事。いつの間にか話題に上らなくなって“あの馬は今?”ってパターンに陥ってしまう。そういう意味では牝馬は余計に埋もれやすいよね。産駒が年1頭しか出せないわけだし」
珠美:「これでこの企画の候補馬探しも大丈夫ですね(笑)」
駒木:「業務縮小まで1ヶ月切っちゃったんだけどね(笑)。
 ……というわけで、フラワーパークは埋もれる要素満点の可哀想な名馬なんだけど、さっきも言ったようにスプリンターには埋もれる要素を多く含んだ馬が他のカテゴリよりも多いんだよ」
珠美:「え、それはどうしてなんですか?」
駒木:「まず、スプリンターは生まれつきに3つ目の条件(スペシャリストである事)を満たしている上に、3歳のG1戦線に全く向かない。敢えて言えばNHKマイルC路線だけど、それもベストの距離じゃないし、フラワーパークの世代まではNHKマイルそのものが無かった。だから3歳戦線で活躍出来ないし、馬によってはデビュー時期を遅らせて3歳夏頃から始動するケースも多い。するとどうしても条件戦経由の出世街道になるよね。
 で、スプリント系の馬でG1を勝つような逸材は、2年続けて活躍できないものが多い。大抵1年で壊れてしまうんだ。これは多分、道中で息の入らない激しいレースばかりやってるから馬の心身の消耗が大きいんだと思う。一方で、2着・3着ばかりのスプリンターは息が長いんだよね。ギリギリのところで走るのを止めちゃう馬は消耗しないのかも知れないね。
 また、更に全盛期の短い馬はどうしても引退の時期が“手遅れ”になってしまうから、晩節を汚しやすい
珠美:「……これで4つの条件が一気に埋まってしまいましたね(苦笑)」
駒木:「そうなるね。1200mをメインに戦う馬は最低でも2つほどの埋もれる条件を満たしてしまうわけだから、そりゃあ埋もれやすいはずだよ」
珠美:「そういう秘密があったんですねー」
駒木:「逆にマイルもこなせるスプリンターや、スプリントにも対応できるマイラーは埋もれ難い。タイキシャトル、サクラバクシンオー、ヤマニンゼファー……こういう馬は不思議と全盛期も長いんだよね」
珠美:「なるほど……」
駒木:「今回はフラワーパークを扱うけれども、スプリント界にはヒシアケボノ、エイシンバーリン、エイシンワシントン、マサラッキ…とか埋もれた名馬候補はたくさんいるね」
珠美:「分かりました。それではフラワーパークの現役時代について追いかけていくわけですが……」
駒木:「悪いんだけど、今週はココまで。本当に申し訳ないんだけど、時間が無くてどうしようもない」
珠美:「仕方ないですね、2日遅れで振替講義するわけにもいきませんものね(苦笑)」
駒木:「とりあえず、次回で一気にフラワーパークの競走馬生活を全部追いかけていくつもりでいるから、どうか楽しみにしてて欲しいね」
珠美:「それでは、お疲れ様でした」
駒木:「ご苦労様」 (次回へ続く


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