「社会学講座」アーカイブ

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講義一覧

2/27 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(2月第4週分)
2/26 労働経済特論「競馬騎手の収入格差から見た、競馬社会のあり方に関する考察」
2/25 
マス・コミュニケーション論「続・マンガ新人賞の新しい姿」
2/24 
日本文化特殊講義「酒鬼薔薇の元校長、ポルノ小説を執筆」(2)
2/23 競馬学概論
「90年代名勝負プレイバック」〜“あの日、あの時、あのレース”(7)
2/22 
日本文化特殊講義「酒鬼薔薇の元校長、ポルノ小説を執筆」(1)
2/21 
文化人類学「2001年度・フードファイターフリーハンデ(4)〜総括」
2/20 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(2月第3週分)
2/18 
文化人類学「2001年度・フードファイターフリーハンデ(3)〜早大食い・大食いの部」
2/17 
文化人類学「2001年度・フードファイターフリーハンデ(2)〜スプリント・早食いの部」
2/16
 競馬学特論 「G1直前予想・フェブラリーS編」

 

2月27日(水) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(2月第4週分)

 今週もゼミのお時間がやってまいりました。

 それにしても、皆さん、今日発売の「週刊少年マガジン」13号は読みましたか?
 詳しくレビューする余裕も意欲も無いんで、ここで簡単に扱っちゃいますが、『つんく♂物語』作画:杉山真弓)について。
 まぁ、この手の『○○物語』というヤツは、真実1:虚構9というのが常なんですが(大抵、デビュー直前に超オフレコの出来事が起こるので)、それにしても今回の『つんく♂物語』は酷かったですね。多分、真実1:虚構49くらいなのではないかと。

 これを描かされた、仕事の断れない立場にある新人作家・杉山真弓さんは、どうにも災難としかいいようがありませんね。ま、早いトコ売れて、この作品を“消した過去”にしちゃって下さい。
 それにしても、ナイナイの岡村が命名したはずの“モーニング娘。”というユニット名を、しれっとつんく♂の手柄にしてしまうのですから、いやはや恐ろしい。
 ちなみに、当時の雰囲気をリアルに味わいたい方は、駒木の拙文「今日の特集・モー娘。新メンバー決定(5回シリーズ)」をご覧下さい。こちらは真実8:邪推2ってところですが、まだマシでしょう。

 ……それでは、今日は扱う作品も多いので、とっととレビューに行っちゃいましょう。

 ※文中の7段階評価はこちらを。簡単に言えば、B+はマンガ好きに推奨の作品A−以上は、誰にでも推奨したい作品、と考えてください。

☆「週刊少年ジャンプ」2002年13号☆

 ◎新連載『少年エスパーねじめ』作画:尾玉なみえ

 一部では連載前から大きな話題になっていた、尾玉なみえさんの新連載作品ですね。
 前作『純情パイン』(評価:読切時A/連載時Bでは、慣れない週刊連載と少ないページ数のためか、見事に打ち切りの洗礼を浴びた尾玉さん。しばし雌伏(無職)の時を経て、ようやく復帰を果たしました。

 さて、今回の『少年エスパーねじめ』ですが、以前掲載された同題名の読み切りとは大きく内容・設定を変えてきました。おそらく、「面白ければ何でもアリ」と開き直った結果だと思われますが、これが大成功でしたね。
 単刀直入に言って、大変面白いです。ハンパじゃなく笑えました。笑いのツボは人によって大きく違いますが、少なくとも、この第1回に関しては大半の人が支持してくれるのではないかと思います。

 で、この作品の面白さについて。
 ギャグマンガを分析する事は愚の骨頂と分かってるのですが、まぁそれをするのがこの講義ですので少しだけ。
 尾玉作品の魅力というのは、「ボケっぱなし」の展開なわけですね。もちろん、それを生かすための間のとり方や構図も秀逸ですが。
 日本のギャグ文化の基本として、登場人物を介してツッコミも入るのですが、尾玉作品のボケ役は、これを徹底的に無視します。聞く耳持ちません。『ピューと吹くジャガー』のジャガーさんが、まだ聞き分けが良いように感じる程、これを徹底させています。
 『純情パイン』連載時は、その全てが微妙に弱かったために失敗したのですが、今回は逆に全てが合格ライン。この調子で、せめて1年以上は持続できるように頑張って頂きたいものです。
 売れちゃえば原稿落としても大丈夫ですし。

 評価ですが、少なくとも今回はA評価にしても良いと思います。問題はこのパワーの持続性ですが、それは第3回の時に検討するという事で。

 ◎新連載第3回『あっけら貫刃帖』作画:小林ゆき《第1回掲載時の評価:B+

 巷ではあんまり良い評価を聞かないのですが、駒木の好感度は依然として高いです、この作品。もっとも、大物感の無さも相変わらずなので、ジャンプの看板作品に成長する見込みは薄いままですが……。
 何が駒木の好感度の源かと言いますと、この作品、ストーリーと設定が相当練られた節があるからなんですね。かなり先まで構想を立てた上でネームを切っているみたいで、行き当たりばったり感が皆無なんですよね。何と言うか、マンガを読んでいる感覚よりもライトノベルを読んでいる感覚の方に近いんですよ。
 最近特に痛感しているのが、少年マンガ作家さんのストーリー構成力の弱さでして、そこにこういうプロットを練って勝負してくるタイプの人が出てくると、自然と目に付くというわけです。
 大半の作品が打ち切り・尻切れトンボ終了になるのがジャンプ作品の宿命ですが、この作品は、何とか小林さんの考えているラストシーンまで読みたいものです。
 評価は
B+のまま据え置きです。大物感の無さが評価アップへの最大の障害になりましたが、個人的には大変期待度が高いです。

 ◎読み切り『ヒカルの碁・番外キャラ読切シリーズ・加賀鉄男』作:ほったゆみ、画:小畑健

 キャラクター人気投票で上位に食い込んだ、『中学囲碁部編』のバイプレーヤー・加賀鉄男のサイドストーリーですね。巧みに葉瀬中囲碁部の後日談にもなっている一石二鳥的な試みが、実に心憎いですね。ホント、ほったさんって、タダでは読み終わらせてくれません。

 それにしても、この回は完全にセルフパロディになってますね。ジャンプで発表せず、同人誌にして夏コミ売った方が良いような感じがするくらいですよ(恐ろしい行列できるでしょうけど)。名作家はパロディの名手でもあるんだな、とじみじみ実感する次第です。
 評価なんて野暮なんですが、前回と同じく
A−。この「番外キャラ読切」、次回は16号の奈瀬明日美編です。ツイニキタ─(゜∀゜)─! 

 ◎読み切り『偉大なる教師』作画:郷田こうや

 第54回赤塚賞で、島袋光年さんの猛プッシュを受けて佳作を受賞した、郷田こうやさんの読み切りです。『HUNTER×HUNTER』の代原なので、習作段階の作品を編集部が預かっていたものだと思われますが。
 郷田さんの受賞&デビュー作『グッドボール』は、本誌に掲載されていたので記憶に残ってるのですが、面白い、面白くないは別にして、15ページかけて1つのネタを勢い任せに引っ張ってゆく強引さが印象的でした。大化けすれば面白いかな、と思ったのを記憶しています。

 で、今回なんですが、有り体に言うと「永久に編集者の机で眠ってた方が良かったかな」と。ショートギャグにしてしまったせいか、現時点での唯一に近いウリの“強引さ”が翳ってしまったような気がします。
 多分、今は「何が面白くて、何が面白くねえかワカンネエよお」と呻いている時期だろうと思うんですが、早く自分なりの極意を身に付けてもらいたいものです。
 今は『ジャガー』『ボーボボ』『たけし』『サクラテツ』、そして今週からの『ねじめ』と、今「ジャンプ」ではギャグ作品が5作品も連載されていて、しばらく新人に連載枠は開きそうにありませんので、今の内にじっくりと力を蓄えて貰いたいと思います。
 評価は、ちょっと厳しく
C寄りのB−としましょう。

 

☆「週刊少年サンデー」2002年13号☆

 ◎短期集中連載・最終回(第4回)『ダイキチの天下一商店』作:若桑一人、画:武村勇治)《第1回掲載時の評価:

 長期連載を賭けた短期集中連載が終了しました。この期間のアンケート結果を見て、本格連載か月刊への左遷かが決まる事になります。
 まずは、原作・若桑さんの取材力を評価したいですね。4回で全てのエッセンスを詰めなくてはいけなかったからでしょうか、若干の消化不良感が否めないのが残念ですが、弁当屋の内部事情という、手垢の付いていない内容を見つけてきた事は、やはり評価に値すると思います。
 ただ問題点も。最近の「サンデー」新連載は全部そうなんですが、どうも演出がオーバーで極端なんですよね。それも、個性を出そうというのではなく、表現力の拙さを補うために極端な演出にしているようなんですよ。これがどうも、駒木には腑に落ちないのです。

 ……と、いうわけで一長一短のこの作品、評価は据え置きでとします。個人的な見解としては、「連載になっても構わないが、敢えて読みたいとも思わない」というところでしょうか。

 ◎読み切り『ピー坊21』作画:佐藤周一郎

 「サンデー特選GAGバトル7連弾」の第2回です。
 この作品の作者・佐藤周一郎さんは、デビュー間もない新人作家さんのようで、本誌は初掲載になります。

 まず絵なんですが、多少デッサンが狂うなどの初々しさが漂うものの、拙くは無いと思います。メジャーデビュー直後のゆうきまさみさんを髣髴とさせるものがあります。と、いうことは、修行すれば相当上達しそうですね。これはまぁ、ちょっと甘いですが合格点をあげてもいいかと思います。
 ただ、課題は肝心のギャグの方に山積みです。
 今回の作品中で、少なくとも2ケタの“笑い所”が仕掛けられていたと思うのですが、その全てにおいて、駒木が笑うに至らなかったのは、やはり大問題でしょうねぇ。逆にこの作品読んだ皆さんにお訊きしたいのですが、笑えましたか、この作品?

 どうもこの佐藤さん、残酷なようですがギャグ作家を目指す事自体が間違っている気がしますね。ストーリーの構成力をつけて、コメディ作家に転身すれば芽が出るチャンスも大きいと思うのですが……。
 評価は
Cに近いB−。将来性っぽいものは感じますので、あとは精進次第でしょう。

《その他、今週の注目作》

 ◎読み切り(週刊コミックバンチ13号掲載・世界漫画愛読者大賞・最終審査エントリー作品『灰色の街』作画:江口孝之

 消えたマンガ家&マンガ家予備軍敗者復活戦の様相を呈してきたこの企画も、ついに折り返しの第5回となりました。
 今回登場の江口さんは、バンチ本誌では経歴が不明だったんですが、どうやら「ヤングマガジン・アッパーズ」の第3回新人マンガ賞・奨励賞受賞20作品も受賞してますので、事実上の選外佳作?)コミックビンゴ第1回新人賞・佳作受賞&読み切り掲載という経歴を経ている、“消えかけ”のマンガ家さんのようです。ということは、今週も敗者復活戦ですか……。

 さて今回の『灰色の街』なんですが、江口さん自身もインタビューで語っているように、複数の作家さんの影響が複合的に表われているような感じですね。駒木はとりあえず、『はっぱ64』時代の山本直樹さんを感じたりしましたが。
 まず、絵は作風なのかもしれませんが荒いです。デビューから4年以上経ってますので、江口さん自身に上達する気持ちが無いのかもしれません。まぁ下手なりに個性は出てますので、売れた後に「BSマンガ夜話」で、いしかわじゅん氏に「絵が下手だ」と叩かれる覚悟をしているなら、このままでも良いのではないかと。
 ストーリーの方は、何というか、江口さんの受賞&掲載歴を如実に物語るように、マイナー誌向けのダークな話です。少年誌と青年誌の中間を行く「コミックバンチ」には、ちょっとそぐわない気がしますね。話自体は古臭いながら割と練られていますので力量はあるのでしょうが、残念ながら、今のままではメジャー誌で売れる事は無い気がします。

 評価は減点・加点入り混じっての評価というところでしょうか。これがデビュー作だというのならばまだしも、デビューから4年以上経過して、作風も自分で固めてしまった人という事を考えると、ちょっと大成は難しい気がします。

 しかしこの賞、大賞賞金5000万円なのですが、ここまで5作品見た感じだと、1/10でも高いくらいだと思ってしまいますねぇ。

 ◎連載第3回『キメラ』(「スーパージャンプ」掲載/作画:緒方てい

 『キメラ』の第3回は、急遽巻頭カラー&増ページになりました。「SJ」編集長の期待の表われでしょう。
 しかし、肝心の作品の方は、またしても期待外れと言わなくてはならないでしょう。もちろん、これが他の作家さんの作品なら絶賛に近いレビューを掲載するところなのですが、緒方さんはデビュー作が素晴らし過ぎたために、どうしても採点が辛くなってしまいます。

 これは第1回のレビューでも述べたのですが、大事なポイントなので、もう1度述べます。
 この作品最大の問題点は、やけに説明的なセリフ回しでしょう。複雑な設定を読者に伝えようとするあまり、どうしても意欲が空回りしてしまうんですね。
 マンガに限らず、ファンタジー系作品では現実世界とは全く別の世界が構築され、そこを舞台に話が展開してゆきます。そして、そのオリジナルの世界観を、如何に上手に説明するかに作者の技量が表われるものなのです。
 駒木が知り得る限りで、これに最も長けているのが小説家の宮部みゆきさんです。『ドリームバスター』で余すところ無く発揮された宮部さんのテクニックは一読に値すると思います。
 その点、『キメラ』の緒方ていさんは、経験不足のせいか、これがどうにも苦手なようです。見せ場での演出力は凄いものを持っているだけに、非常に残念でなりません。

 一応、今回で『キメラ』レビューは一時中断とさせて頂きます。次にレビューする時は、『キメラ』が大化けした時になると思います。評価は据え置きでB+

 ……と、今週は8作品のレビューを行いました。大変です、ハイ(苦笑)。
 来週も5〜6作品はレビューしなくちゃいけないようで、今から気が重たいのですが、頑張ります。
 それでは、今週のゼミを終わります。(来週に続く)

 


 

2月26日(火) 労働経済特論
「競馬騎手の収入格差から見た、競馬社会のあり方に関する考察」

 普段、この講座で競馬の話をするのは土曜日だけなんですが、今日は競馬に興味の無い方にもついていけそうな話題なので、別枠「労働経済特論」として実施する事にします。

 競馬ファンならご存知でしょうが、昨年秋、公営・笠松競馬のNo.1騎手・安藤勝己騎手がJRA(中央競馬)の騎手免許試験を受験するも、不合格になるという“事件”が起こりました。
 これが何故、“事件”かと言いますと、2つばかり事情があります。少しややこしいですが、頑張ってついて来て下さい。

 まず1点目。この騎手免許試験では、安藤勝己騎手の他にJRA競馬学校在籍の騎手候補生が受験しており、彼らは全員合格しています。
 安藤騎手が不合格になった理由は、学科の点数が規定に足りなかった事によるものだそうですが、それにしても、キャリアゼロの騎手候補生が、地方競馬で1、2を争う敏腕騎手より“優れている”と判定された事になります
 もしも実際に競馬場で、彼ら新人騎手たちと安藤騎手がレースをした場合、安藤騎手がルーキーたちを圧倒する事は間違いありません。この場合、ボクシングで言えば、4回戦ボーイと世界ランカーくらいの能力差があるでしょう。
 つまり、今回のケースは、「ボクシングで、他国の世界ランカーが日本のプロテストに落ちた」ようなものであるわけです。

 2つ目。安藤勝己騎手は、これまでも試験で落ちた先のJRA(中央競馬)のレースに数え切れないほど騎乗し、正規のJRA所属騎手の大半よりも優れた成績を残しています。
 これは、「公営競馬所属の競走馬がJRAのレースに遠征し、その馬に公営競馬の騎手が騎乗する場合、その騎手には1日限定の臨時免許が与えられる」という規定を活用したものです。この臨時免許に試験は必要ありません。これで安藤騎手は、公営からの遠征馬に加え、その馬が出る以外のレースではJRA所属馬に騎乗する事も可能になります。(ただし、公営からの遠征馬に乗らない場合は、JRAの馬にも乗れません。安藤騎手が敢えて正規免許の試験を受けたのはそのためです)
 ですので安藤騎手は、これ以降も臨時免許を活用してJRAのレースに騎乗する事が可能になるというわけですね。つまり、正規の騎手免許で不合格になった騎手が、平気な顔してレースに出場しているという逆転現象が起きてしまっているわけです。先の例で言えば、「プロテストに落ちた世界ランカーが、日本で世界タイトルマッチに出場している」という感じでしょうか。

  ……と、毎度の事ながら回りくどい説明文になりましたが、以上2つの理由から、この「安藤勝己騎手、JRA騎手試験不合格」は、“事件”と言って申し分ないでしょう。年がら年中事件にてんてこ舞いの、「ホテル」での高嶋(弟)も真っ青です。

 さて、当然の事ながら、この事件はあちこちで大きな話題となりました。競馬ファンはもちろんの事、競馬評論家の重鎮クラスまでがJRAの姿勢を批判したのです。
 この反響の大きさに驚いたのか、典型的なお役所組織のJRAも腰を上げ、今年度の騎手免許試験からは、以前から騎手として実績のある受験者には、学科免除などの特典が与えられる方向へと検討される事になりました。つまり、ある程度の実績を得ている公営競馬の騎手は、ほぼフリーパスでJRAの騎手免許を得られるようになるわけです。
 と、それに対応して、全国の公営競馬の騎手免許を統括するNAR(地方競馬全国協会)も対応へと動き出しました。
 これまでは、JRAの騎手試験を受ける際にはNARの免許を返上しなければならず(安藤勝己騎手は特例で返上せず)、JRAの試験に失敗した場合は住所不定無職となったのでした。それがこの度、“免許返上規定”を撤廃する情勢となったのです。

 これにより、今年のJRA騎手免許試験を皮切りに、公営競馬のトップ騎手たちが、続々とJRAに移籍するという
事態が予想されます。

 何せ、公営競馬とJRAとでは、騎手の収入が全く違います。同じ仕事をしている人とは思えないほどの格差が存在するのです。
 まず、中央競馬の騎手の収入は以下の通りです。

 ☆所属厩舎からの給与……ピンキリだが、新人で10万円台(フリー騎手はゼロ)
 ☆調教手当……1頭1回につき1700円(所属厩舎管理馬の調教は、給与内労働のためゼロ)
 ☆騎乗手当……1レースにつき、平地4万円〜/障害9万円〜
 ☆進上金……賞金(1〜5着)及び出走奨励金(6〜8着)の5%。※賞金は、最低が未勝利戦8着:30万円(進上金1万5千円)、最高がジャパンカップ1着:2億5000万円(進上金1250万円)
 ☆その他、馬主からの祝儀など雑収入有

 例えば、業界トップの武豊騎手になると、週に20レース前後騎乗しますから、騎乗手当だけで週80万円以上になります。その上、大抵2〜3勝はしますので、進上金が最低でも150万円程度は加算されます。週230万以上、月収約1000万円、というところでしょうか。もしG1レースなんか勝った時には、さらに数百万円加算です。
 週に5レースほど乗る、“中の下”程度の騎手でも、騎乗手当だけで週に20万円平均すると進上金も同額くらい稼げるでしょうから、レースだけで月収160万円以上、年収2000万円というところでしょうか。
 騎乗手当の内、1レースあたり2万円は自動的に積み立てされますし(引退時に受け取り)、雑収入ですので高額の税金がかかったりしますが、それでも相当な収入が得られます。デビュー数年、20歳ソコソコの若造が外車を乗り回して合コンに励むのも、自明の理であります。

 一方、公営競馬の騎手はどうでしょうか。各競馬場ごとに詳細が異なるのですが、ここでは代表的な例を紹介します。

 ☆所属厩舎からの給与……一律10万程度(厩舎の経営状態によって遅延もあり)
 ☆調教手当……1頭1回につき400〜500円
 ☆騎乗手当……1レースにつき1万円程度(ただし、内規により1人1日6レースまでしか乗れない)
 ☆進上金……賞金(1〜5着)の5%。 ※賞金は激しくピンキリだが、JRAの数十%〜数%。
 ☆その他、雑収入もあるが、祝儀の相場は、原則としてJRAとの賞金格差に準ずる。

 胴元の経済力に差があるとは言え、ちょっとコレは酷いですよね。
 公営競馬は原則週3日開催ですから、例えば安藤勝己騎手が地元笠松競馬場でフル活動した場合は、週に18レース騎乗。笠松競馬場での騎乗手当の相場は分かりませんが、上の表の通りであると仮定すると騎乗手当18万円笠松競馬の賞金は、中央の約1割(!)ですので、進上金は週15万円程度でしょうか。都合、週30万円強。月150万弱という計算になります。同じトップジョッキーでも、武豊騎手の収入と比べると約1/8、JRA“中の下”レヴェルの騎手とほぼ同額という事に。

 まさに、恐ろしいまでの収入格差ですよね。
 さっきからお金の話ばかりで申し訳ないですが、これはプロスポーツの話です。賞金や収入というのは非常に大事なテーマなのです。ご理解ください。

 というわけで、これだけの収入格差があるなら、JRAでも通用する技量のあるトップ級騎手は移籍を考えるのが当然。恐らくは、ここ数年の内に公営競馬のトップ級騎手の大半が中央競馬に移籍する事になると思われます。まぁ、実力のある者がそれ相応の収入が得られるのは、プロスポーツとしては極めて正しい姿ですので、これはこれで喜ばしい話と言えるでしょう。

 しかし、物事には全て功罪共にあるのが普通です。このJRAとNARの規則改正、実は大きな問題も孕んでいるのです。

 今回の規則改正は、公営競馬所属騎手のJRA移籍を円滑に進めるためだけのもので、逆のケース(JRA→公営)は、全く保証されていません。
 このままで突き進んだ場合、まず公営競馬ではトップ級騎手が大量に流出してしまい、人材の空洞化が発生してしまいます
 そして、JRAでは騎手の平均レヴェルが上がる一方で、中堅以下の騎手は移籍して来た騎手たちに仕事を奪われ、廃業を余儀なくされる事態に陥ってしまいます。
 ですが、もしJRAから公営への移籍が認められるならば、JRAで居場所を無くしてしまった騎手も(収入大幅減は覚悟の上で)現役生活を続行し、公営で実績を挙げてのJRA復帰を目指すことも出来ますし、公営競馬にしてみても人材の空洞化は避けられます。少なくとも賞金相応のレヴェルの騎手が確保できる事になるでしょう。

 ところが、こちらのJRAから公営への移籍に関しては、全くの白紙状態になっています
 どうやら、免許を事実上JRA・公営で一本化することをきっかけに、JRAと公営競馬そのものの一本化まで進んでしまう事に危機感を感じているような節があります
 何しろ、公営競馬は全国全ての競馬場で赤字を計上。廃止が論議されている競馬場も少なくありません。
 もし、そんな公営競馬の面倒をJRAが看る事になった場合、さしものJRAも大変な事になってしまいます。ただでさえ特殊法人(JRAもNARも特殊法人)に厳しいご時世、最悪、公営もろとも沈没してしまう事もありえます
 これは非常に難しい問題です。

 騎手問題から見え隠れする、日本競馬界の構造的な問題。我々競馬ファンも、日本調教馬の海外での活躍に浮かれる前に、少しはこの事を真剣に考えなければならないかも知れませんね。

 まずは、最寄の公営競馬場に、少しずつお金を落とす事から始めましょうか。あ、難しい事を考えなくても大丈夫です。どうやったって馬券じゃ勝てませんので、普通に競馬をするだけでお金を落とす事が出来ますのでね。

 と、問題提起だけで結論が出せたわけではありませんが(出そうと思っても出せないです)、今日の講義はこれで終わりにしたいと思います。競馬に興味の無い方は、「JRAの騎手って、こんなに儲けてるのか」とでも思って頂ければ、それで結構です(笑)。 (この項終わり)

 


 

2月25日(月) マス・コミュニケーション論
「続・マンガ新人賞の新しい姿」

 おかげ様で当講座も、間もなく正式開講から3ヶ月になります。最近は学園祭効果もあり受講生も増えまして、以前に比べて4〜5倍にまでなっております。
 もっとも、元々の母数が少ないため、「偏差値が30上がった! でも上がっても偏差値60」の予備校生みたいな状況である事は否定できませんが、それでも有り難い限りであります。多謝。

 さて、この約3ヶ月間で行った講義は、今回を含めて76回。本当に、様々な題材を採り上げてまいりました。しかし中でも、これらの講義を振り返ってみて、講師自ら最も異色と思えるのが、第1回の講義、11/29付の講義・「マンガ新人賞の新しい姿」だったように思えます。

 そして、今日はこの第1回講義の続編にあたる講義を行います。何だか、気が付いたら何度も同じネタの文章を書いている山崎“銀玉親方”一夫氏みたいで気が引ける思いですが、まぁそこは竹書房や白夜書房の雑誌を読むような生暖かい気持ちで、ご容赦ください。
 とはいえ、一言で「第1回の続編」と言いましても、先程申し上げた受講生の増加傾向を鑑みるに、開講当時からずっと受講生でいらっしゃる方は、ごく少数であると思われます。つまり、ほとんどの方は続編というより初耳、という感じでしょうから、以下しばらく、この講義についての解説を行います。というわけですので、第1回を受講されている方は、しばらく読み飛ばしてもらっても構いません。

 ………

 受講生の大半の方はご存知ないでしょうが、マンガ界には「カラフルBee」という、極めて実用性に富んだ成年向けマイナー月刊誌が存在します。
 掲載作品の大半が美少女系エロマンガでありながら、一番支持を受けているのは8ページのギャグマンガ『ゲノム』という、非常に個性的な雑誌であります。まるでビートたけしが出演している頃の浅草フランス座のような趣がありますね。

 また、この雑誌が個性的なのはマンガだけではありません。この雑誌の将来をいずれ担ってゆく新人作家を発掘するための新人賞・「カラフルトライアル」も、極めてオリジナリティに満ち溢れているのです。
 この「カラフルトライアル」は、“高額賞金を謳っていながら、『該当作なし』ばかりのマイナーマンガ誌新人賞”に異を唱え、「賞金は原稿料しか出せないけど、入選作は必ず出します」と、まるで99%の減資に踏み切ったダイエーのような開き直りで誕生した、新しいタイプの新人賞でありました。

 しかし、本当にこの新人賞が個性的なのは、別の部分にあります。その“別の部分”とは、入選作紹介の際に担当編集者が書き記す講評であります。
 「え? 講評?」と訝しむ方もいらっしゃるでしょうが、そんな貴方の想像は遥かに越えたモノであると断言しておきましょう。「微に入り細に入り」とはこの事である、と言わんばかりの凄まじい講評がそこにあるのです。これぞまさにニュータイプファンネルの4基や5基くらいアクロバット飛行させてしまいそうな、そんな「新世紀」という言葉に相応しい講評なのです。

 ………

 この講義は、そんな「カラフルトライアル」の講評を紹介した上で、マンガ界、ひいてはマスコミ界の新しい姿を模索しようか、というものです。
 あくまで「〜しようか」ですが
 こんな事で模索されると、マスコミ界の方にもご迷惑がかかるでしょうからね。

 ところで今回の内容、「微に入り細に入り」な講評を扱うわけですので、かなりキワどい部分もあります。よって、性描写等に不快感を感じる方、若しくは15歳未満の方は閲覧をご遠慮頂いた方が良いと思いますので、これから先は別ページにて、お送りしたいと思います。

 それでは、15歳以上で、なおかつキワどい描写でも笑い飛ばせる方は、こちらをクリックして下さい。

 

 


 

2月24日(日) 日本文化特殊講義
「酒鬼薔薇の元校長、ポルノ小説を執筆」(2)

 さて、少々予定が遅れてのスタートとなりました、日本文化特殊講義の2回目です。
 講義前、別のサイトの掲示板で厨房にケンカを売られまして。で、ちょっとテンションが高かったもんで、魔が差して相手をしてしまったら……あぁ、言論パワーでボコボコにしたんですが。
 すると今度は、そのやり方が気に入らん、ついでに駒木の文章も好かんと、今度は別の人からマジギレされまして(苦笑)そちらの方は、こっちの落ち度も大きいので平謝りですわ(苦笑)。
 てなもんで、ちょっとブルーが入ってました。申し訳ない。やっぱり、BBSは議論の場じゃないね。気をつけよう。

 さぁ、2日前の講義の続きです。
 前回は、色々な人の過去を暴きたてつつ、『酒鬼薔薇』少年の通っていた中学校の元校長が書いたポルノ小説の内容に迫ったところで終わったんですね。
 あぁ、何の事か分からない人は、レジュメを参照してください。(→こちらをクリック

 皆さんは、定年から数年経った60過ぎの熟年男性がポルノ小説を執筆、と聴くとどう思われるでしょうか?

 自分が路上で、女子大生にこの質問をしている風景を想像するだけで鬱になり、統計を取る気にもなりませんが、まぁ、大半の人は、様々な反応をしながらも「60過ぎた男性が、ポルノ小説書くなんて、珍しい話だなぁ」と思う、というところでしょう。

 しかし、文学業界の人からしてみると、初老、若しくは老人の男性がポルノ小説を描く事は、別段珍しい事でもないようです。

 ここに一冊の本があります。
 題名は『小説新人賞は、こうお獲り遊ばせ〜下読み嬢の告白〜』著者は奈河静香というペンネームの女性。タイトルを見れば分かりますように、雑誌社の小説新人賞で1次・2次審査を担当する、“下読み”という匿名のゴースト審査員が、自分の立場から新人賞選考の裏側を描いた本であります。
 奥付を見ますと、1997年出版とあります。大変面白い本なのですが、出版社が、あの謎本シリーズの元祖『磯野家の謎』で、たまごっち並の大ヒットをかっ飛ばした後、「日刊アスカ」という新聞で、映画版『ファイナルファンタジー』並の大コケをかました事で有名な、あの飛鳥新社なのです。したがって、非常に限られた流通を経て、駒木の手元に届いたものと思われます。

 と、それはさておき。
 この『下読み嬢の告白』によりますと、定年を過ぎ、新たな趣味を開拓しようと小説を描くご老人は非常に多いそうです。
 そう聞きますと、「あぁ、これまでの仕事で経験した事を活かして、ビジネスの裏側に迫る企業ドラマでも描いてるのかな」…と思ったりしますが、さにあらず。
 一応、色々な小説が応募されるそうですが、まぁ大体多くの作品は2つのカテゴリに集約されるようなのです。

 まず、ノンフィクション系は“戦記モノ”が多いそうです。
 しかし、これが新人賞の選考担当者の間では、「戦記に傑作なし」が合言葉になってしまっているとのこと。
 例えば、本文から一部引用しますと……

 戦記物の特徴は、小説にせよノンフィクションにせよ、文章が読みにくいことのようでございます。<北支第八連隊××歩兵中隊は、大連の北二十粁の地点に駐留中であったが、私は○○軍曹と歩哨を命じられ……>といった調子の文章が延々と続きます。軍隊用語のわかりにくさを云々しているのではございません。また、世代的ギャップの問題でもないのでございます。人に伝えるというお気持ちが薄いように思うのでございます。(前掲書・78〜79ページより)

 しかも、内容と言えば、

 ……(前略)……けれど、書かれているのは、大概、古参一等兵の××は熊本出身の豪胆な男で、とか新兵が飯盒を無くしてどうした、とかいったことばかり。昨今の「侵略」云々を慮ってか、具体的な戦闘が描かれる事はまずございません。まして、思い出話を越えた戦場の人間が描かれることは無いのでございます。(同上・79ページより)

 これじゃ戦記というより、「中国北部・軍隊体験ツアー参加レポート」といった趣です。そりゃ傑作は無いな、と思ってしまいますね。
 しかし、この辺りの問題は、テキストサイト業界でも見受けられる話で、ちょっとドキッとしたりします。
 何だか、この一連の戦記物には、“Read Me!で得票数1〜3辺りを疾走するサイト”でよくある、「『今日、半額のチーズバーガー5個頼んだら、店員に邪険な応対されてブチギレ』という内容を、「侍魂」さんのようなフォントいじりで延々と書き連ねる日記」に相通ずるものがあると思います。
 テキストサイトの場合は、見なきゃ良い訳ですから本質的には問題はないのですが、この手の小説は、少なくとも1人、延々と読まされる羽目になる人がいるだけ業が深いものと言えそうですね。

 と、まぁ、以上がノンフィクション新人賞の実態です。

 次に、フィクションの小説新人賞で、定年後の男性がどのような作品を応募してくるか?
 これは、件の下読み嬢・奈河さんの言葉を借りれば、「『老いてますます壮ん』系」の官能(特に浮気)小説なのだそうです。

 具体的にどんな小説が送られてくるのかと言いますと、

 さらわれた我が子を求めて旅に出る、若い母親が主人公の時代小説です。 (同上・26ページより)

 …ほう、これはオーソドックスながら、発想の広がりそうな題材だなぁ………などと思っていましたら、その内容たるや、まさに「老いてますます壮ん」系でありました。

 美しき母親は、息子探しの情報収集もその間の生活費稼ぎも、ひたすら寝間で行うのでございます。仇ともいうべき誘拐犯の若侍とさえ、あっさりと枕を共に致します。 (同上・26ページより)

<中略>

 約百枚の作品中、閨房描写は実に二十二ヵ所。下世話に申すなら、「ヤっては子を探し、探してはヤる」の繰り返しで、濡れ場をつなぐためにだけストーリーが存在するといったおもむきでございます。(同上・27ページより)

 駒木も恥ずかしながら、多少、小説を描いたりしまして、ゆくゆくはこれでメシを食っていければ……とも思っている小説家予備軍なのですが、自分の経験から考えても、原稿用紙100枚で濡れ場22箇所というのは、いくらなんでも多すぎると思います。
 例えば、以前、助手の珠美ちゃんがこの講座で発表した、ショートストーリー「ステイゴールド・フォーエバー」は、原稿用紙約30枚程度の作品です。これを、件の官能時代小説に当てはめて単純に計算しますと、この作品の長さで、濡れ場が7箇所あるという事に。

 凄まじい密度の官能地獄変であることは確かなようですが、これではマトモなストーリーが紡げるはずがありません。
 こうなれば、もう残すは肝心の濡れ場シーンしか見せ場は無いはずなのですが、その中身といえば……

 旅の途中、偶然露天風呂で一緒になった娘とは、
 <あら、ゆきちゃんのお乳桜色、美しいわ>
 <いえ、みさお(思わず笑ってしまいますことには、主人公の名前はみさおなのです)さんのお乳こそ、ふっくらしていて>

 などという会話を交わします。
(同上26〜27ページより)

<中略>

 作者は七十七歳のお爺さまでいらっしゃいます。ご老人のお楽しみとしては大変結構なのでございますけれども、「官能小説」としては、ご都合主義以上に重大な欠陥がございました。というのは、なにかというと<ツンと上を向いたみさおの乳首>が登場するのです。お爺様が「ツン」を深く愛するお気持ちはお気持ちとして、お書きになる折には、もう少し変化をおつけになることをおすすめしたいと思ったことでございました。(同上・27ページより)

 ちなみに駒木は、掌に収まるくらいの小振りの……いやいや、そんな事はどうでも良いのです。 
 まぁ、こちらも結局は、自分が書きたい、もしくはヤりたい内容を描いたというだけで、小説としては失敗作だったようです。
 しかし、77歳にして、この性欲! 弱冠26歳の駒木、50年後もこうありたいと、ごく一部分だけはリスペクト申し上げたい次第でありますが。

 また、この他、『下読み嬢の告白』で紹介された「老いてますます壮ん」系小説をダイジェストで紹介しますと、

 ・年金受け取りの方法を相談するところから、信用金庫の女の子と仲良くなり、遂に手に手をとって、老妻には“戦友会”と偽って一泊旅行。(70歳)

 ・明治末期、鯨漁を題材にした浮気小説(69歳・元漁師の会社役員)

 ・詩人の文学館建設という夢を追う初老の男性が、若い女と情事するだけの小説(65歳・会社嘱託)

 ・30歳半ばの愛人が女主人公の小説。キスシーンで「チューをした」などと表現(64歳・大手企業を退職後、子会社の顧問)

 ……いやはや、年老いても考える事は、“「ネプ投げ」が見たくて、眠い目を擦りながら起きていた13歳・中1”と大して変わらないものですね。

 と、ここまで講義を進めておいて、この講義の本題が何かを見失いかけていました。

 そうです、元校長の描いた、ストリップを題材にしたポルノ小説の中身でありました。
 しかし、ここまでの講義内容を踏まえて考えますと、結論に至るまでにそう時間はかからないように思えます。

 ストリップが題材でありますから、主人公は60を過ぎた男性客。おそらく、これは自身を投影した姿であると思われます。
 そしてヒロインは、その劇場で一番人気の売れっ子ダンサー。年齢は20代前半といったところでありましょうか。
 常連客として足繁く、劇場を訪れ、たびたび楽屋に差し入れをする主人公。その内、ヒロインのダンサーと懇意になり、色々と相談される仲に。
 相談の内容は、ヒロインにはヒモであるチンピラがいて、いくら稼いでも全部男のギャンブル代に消えてしまう、などというもの。主人公は親身に相談に乗りつつも、やがて「そんな男、別れてしまいなさい。そして私と…」と、告白。
 すると、それまで執拗にヒモの男に執着していたはずのヒロインは、涙を流しながらアッサリと、その主人公の告白を承諾。2人は見事結ばれて……

 …などといった内容が、ストリップ嬢同士のレズ関係&濡れ場という、本筋に関係無い部分を挿入しつつ繰り広げられる、原稿用紙200枚クラスの長編小説、とお見受けしましたが、どうでしょうか。

 このポルノ小説関連の記事が掲載された「週刊現代」は、明日25日に発売されます。興味のある方は、コンビニの立ち読みででもどうぞ。
 ↑すいません、先週発売分に掲載されていたようです。どんな内容か知ってらっしゃる方は、談話室(BBS)で情報提供お願いします。

 それでは、時間となりました。今日の講義はこれで終わりにしたいと思います。
 あ、言い忘れておりましたが、女性の描く小説で多いのは、やはり不倫小説。しかしこちらは40代の専業主婦の方が筆者である事が多いようです。
 何と言いますか、男女間の“春”の期間の差を思い描きつつ、講義を締めさせて頂きます。(この項終わり) 

 


 

2月23日(土) 競馬学概論
「90年代名勝負プレイバック」〜“あの日、あの時、あのレース(7)
1997年ドバイワールドC/1着馬:シングスピール

珠美:「今日の講義は海外のレースなんですね、博士」
駒木
:「うん。実は別のレースを採り上げるつもりだったんだけど、偶然資料を見つけてしまってね。先週のフェブラリーSを勝ったアグネスデジタルがドバイに行くということもあるので、こっちを採り上げることにしたんだ。どうせ、レース直前は日本もG1シーズンだし、競馬学概論は出来ないだろうからね」
珠美:「このレースといえば、この競馬学概論でもたびたび登場しているホクトベガが出走したレースですね」
駒木:「そう。ホクトベガは気の毒な事になってしまうんだけどね。それでも、このドバイワールドカップというレースを日本の立場から語るには、この年のレースが一番なんだよ。だから、敢えて採り上げることにしたんだ。
 それじゃ、珠美ちゃん、レースの紹介をしてくれるかな」
珠美:「ハイ。このレースが行われたのは1997年の4月3日。前回の競馬学概論で採り上げたフェブラリーSの2ヵ月後になりますね。
 ドバイワールドカップは、1996年に開始されたばかりで、この年が第2回でした。世界有数の大馬主・UAEのシェイク=モハメド殿下が中心となって開催された世界最高賞金レース。まさに競馬界のワールドカップですね」

駒木:「個人の財力で、世界最高賞金のレースを作っちゃうんだからねえ。まったく、オイルダラーの財力には恐れ入る。
 このレースが出来るまでは、アメリカのブリーダーズCクラシックが最高賞金レースだったはず。で、その前が日本のジャパンカップか、アメリカのアーリントンミリオンだったと記憶しているよ」
珠美:「現在は国際G1競走ですが、当時はまだ開始間もないという事で、国際的には“オープン特別”の扱いでした。凄いオープン特別ですね(笑)。
 このレースは、世界中から登録馬を集めて、その中で地域ごとに実力上位の馬を招待するシステムになっています。アジアにも出走枠があり、第1回のこのレースでは、日本のライブリマウントが出走枠を掴みました。この時の成績は10頭立ての6着。勝ったのはアメリカ史上最強クラスの名馬シガーでした。
 条件は、UAEの砂漠の真ん中に作られた、ナドアルシバ競馬場のダート2000m。芝の2400mと並んで、国際的に“チャンピオン・ディスタンス”と呼ばれる、最も価値があるとされる距離条件ですね。
 この時の出走馬は12頭。有力馬……は、あまり馴染みが無い馬が多いですので、人気上位の馬を簡単に紹介させていただきます。
 UAEはイスラム教国で、ギャンブルに類する行為が禁止されています。ですから、本来は馬券の販売は無いのですが、遠く離れたイギリスのブックメーカー(私設のギャンブル請負会社)では、ちゃんと馬券が売られていました。ですので、ちゃんと単勝人気が出るんですね。
 1番人気はブラジル産でアメリカ調教馬のサイフォン。前年から8戦6勝2着2回という好成績を残していました。絶好調の状態での参戦です。
 2番人気はサンドピット。この馬もブラジル産のアメリカ調教馬で、この時なんと(旧)9歳。実は、6歳、7歳の時にジャパンカップにも参戦していて、その時は芝馬でした。この年からダートに転向して、前走でサイフォンの2着。未知の魅力を買われての人気でしょうか。
 3番人気もアメリカ調教馬(カナダ産)のフォーマルゴールド。前々走で、チャンピオン馬のスキップアウェー相手に金星を挙げたのが評価されているようです。
 4番人気がアイルランド産・イギリス調教馬のシングスピール。でも、馬主はレース主催者でもあるモハメド殿下ですね。前年秋、1着となったジャパンカップ以来の実戦、しかも初めてのダートでした。
 その他には、日本でもお馴染みの種牡馬ラムタラの弟・カムタラなど。前年のジャパンカップ3着馬・エリシオも出走を表明していましたが、レース直前に出走を取り消しています。
 アジア・日本代表馬はホクトベガ。日本中のダート重賞に出走し、その全てで勝利を収めてきた、正真正銘のチャンピオン・ホースでした。前走も川崎記念を完勝して、前年のライブリマウントの雪辱を誓っての参戦でした。
 ……私からは以上です」

駒木:「ええと、ちょっと補足をしておこうか。
 国際レースの格付けは、国際的な格付け委員会があって、そこで決定されるんだ。イギリスやアメリカのように、ほぼ全てのレースが世界中の馬に解放されているような競馬一流国は、グループ1といって、国内の格付けが、そのまま国際格付けになる。で、日本香港、そしてUAEなど、レースが国内調教馬にほぼ限定されていたり、競馬開催国としての歴史が浅い国はグループ2という。これらの国では、国際レースのみ、過去2〜3年間の出走馬レヴェルに応じてグレードが決まるわけ。このドバイワールドカップは、まだ開催2年目だから、グレードを決めてる最中だったわけだね。まぁ、出走馬を考えたら、上に超が付くG1だけどさ」
珠美:「日本の国際レースも、そうして格付けが決まってるわけですね」
駒木:「そう。去年から宝塚記念や毎日王冠が国際格付けをもらったのはそういうわけ。ただ、安田記念やスプリンターズSが、いつまでもグレード外ってのは腑に落ちないけどね。かなりいい加減なものだよねぇ。
 あと、ライブリマウントの事が出てたから、これについても解説しておこうか。
 ライブリマウントは、ホクトベガと同じく、地方・中央のダート重賞を片っ端から荒らしていった当時の最強ダート馬だった。公営水沢競馬の英雄・トウケイニセイとの対決は、当時のコアな競馬ファンに大きな注目を集めたもんだった。強かったよ。今とはレヴェルが違うかもしれないけどさ、“強い”って雰囲気は、少なくともアグネスデジタルよりは持っていたんじゃないかな」
珠美:「私はライブリマウントが活躍した頃から競馬を見始めたので、あまりよく覚えてないんですけど、強かったんですね」
駒木:「うん、強かった。今の制度だったら、G1を幾つ勝っていたか分からない。
 でも、そのライブリマウントでも、ドバイワールドカップでは大きく千切られて6着。しかもこの馬お得意の、日本の地方競馬みたいに深いダートでこれだ。一応、賞金がもらえる着順に来て、翌年からのアジア枠を確保してくれたんだけどね。これでシンガリに負けてたりしたら、昔のジャパンカップのインド枠みたいに、1年で無くなってたかも知れないよ。
 日本で無敵のライブリマウントが6着惨敗で、日本のファンのショックは結構なものだった。『やっぱり日本の馬は、日本の競馬場の芝でないと勝てないのか』って、メチャメチャ暗い気分になったもんさ。
 今の若いファンの人は、当たり前のように『海外へ行こう』とか言うけどさ、当時の海外遠征って、馬にとっては競走馬生命を賭けた大勝負だったんだよ。シンボリルドルフも、サクラローレルも、レース中に故障して引退を強いられたし。ライブリマウントも、レース後は全盛期の力を無くしてしまって、寂しい晩年を過ごす事になったしさ」
珠美:「まだ5年しか違わないのに、今とは大違いですね」
駒木:「ホントにね。日本でG1未勝利の馬が、外国のG1で一番人気背負って勝ったりするわけだから、時代も変わったもんだと、ホントつくづく思う」
珠美:「じゃあ、この年のホクトベガも、『苦戦かな?』って感じだったんですか? 私はまだ競馬歴が浅くて、無邪気に期待してた覚えがあるんですけど(苦笑)」
駒木:「いや、『通用するはずだと思いたかった』、ってところかな(苦笑)。さっき、ライブリマウントがアグネスデジタル以上って言ってたけど、ホクトベガは今で言うとクロフネ級だったからね。『ホクトベガでダメなら、もうどうしようもないぞ』って、そんな感じだったかな」
珠美:「クロフネ級……確かに強かったですものね」
駒木:「うん。強かった。……あ、でもこの時は、ちょっと大きな不安材料も有ったんだった。
 実を言うと、この年のドバイワールドCは3月29日に実施される予定だったんだ。ところが、砂漠気候では珍しい集中豪雨があって、コースのダートが全部外へ流れ出しちゃったんだよね。これは、会場のナドアルシバ競馬場の設計ミスだったことが分かっている。この後に大改修工事が行われて、今ではこんな事は起こりえないけど、この時はどうしようもなかった。結局、レースは緊急復旧工事が終わるまで5日間順延された。これで馬のコンディションを維持出来なくなったエリシオ陣営は出走取り消しを決めた。まぁ、文字通りの災難だよね。
 で、このエリシオの逆を行ったのがホクトベガだった。
 ホクトベガは、国内ではタフで輸送減りしない馬だったんだけど、さすがに飛行機輸送は大分応えたらしくてね。ドバイ到着後はカイバ食いが減って、泣き面にハチのように裂蹄まで起こしてしまった。一時は出走も危ぶまれたらしいんだけど、5日間の順延が功を奏して、なんとか間に合ったというわけ」
珠美:「でも、もし5日間の順延が無くて、ホクトベガが出走を回避していたら……」
駒木:「……そうだね。命は助かったかも知れない。でも、その代わり、今残っている名声は5割減くらいになったかも知れない。名声よりも命が大事とは、僕も思うけれども、この辺のタラ・レバ話はちょっと辛いよね」
珠美:「……あ、すいません……」
駒木:「いや、いいんだ。架空の話で盛り上がれるのも、競馬に関わる人間の特権だと思うしね。
 まぁ、そういうわけで、不安と期待が交錯する、極めて微妙な状況の中、レースは始まったんだ。
 じゃあ、珠美ちゃん、レースの様子を」
珠美:「ハイ。でも、残念ながら研究室に映像資料が無かったので、当時の専門誌に載っていた観戦記の要約に近いものになっちゃいますけど……」
駒木:「じゃあ、ホクトベガを中心に、簡単に紹介してくれるかな」
珠美:「…分かりました。えーと、スタート前、サンドピットがゲート入りを嫌がって、3分レース開始が遅れたとありますね。それでも、ホクトベガは好スタートを切ります。
 レースは逃げ馬のサイフォンが引っ張る展開になりました。ペースはそんなに速くなく、多くの馬が一団となってレースが流れてゆきました。人気馬の多くは先行しましたが、ホクトベガは後方からのレースになりました」

駒木:「日本じゃ、ホクトベガがスピードの差で引っ張って行けたのにね。好スタートから後方待機ってのは、少しおかしい。世界のスピードに戸惑ったのか、それともやはり体調が完全じゃなかったのか……。どっちにしろ、この後の悲劇を案じさせるような展開であった事は確かだね」
珠美:「レースはこのまま4コーナーまで進んでいきますが、ここで悲劇が……。ホクトベガの前にいた馬がバテて下がったところ、その馬の後脚とホクトベガの前脚が当たってしまい、ホクトベガは、つんのめるように転倒してしまいます。一瞬起き上がろうとした所へ、さらに後ろから来た馬が乗り上げてきて……
駒木:「日本だったら、ここまで馬群がギュウギュウ詰めになる事は無いんだけどね。この辺りが世界の超一流騎手が争うレースの怖ささ。ホクトベガの横山典弘JKを責めるのは可哀想だけど、当時の彼には少し荷が重いレースだったのかも知れないね」
珠美:「この後は、アクシデントの影響を受けなかった先行馬有利に終始します。逃げたサイフォンが粘るところを、マークしていたシングスピールが交わしていって、1着。サイフォンとサンドピットのアメリカ勢が2、3着となりました」
駒木:「シングスピールには悪いけど、僕たち日本人にとっては、このレースは4コーナーで終わってしまっていた。ショックだったなぁ………いや、本当にショックだった……。もう、日本にホクトベガが戻ってくる事が無いのか、と考えると、本当に空しくて悲しくて……いや、失礼。ちょっと振り返るのが辛いね、もう」
珠美:「すいません。私も…限界です。……当時を思い出してしまって……(涙声)」
駒木:「…このレースを選んだのは失敗だったかな(苦笑)。とにかくホクトベガは、“砂の女王”と称えられたその経歴に相応しく、砂の国で永遠の眠りについた。
 もし、事故が無かった場合、ホクトベガがどうなっていたか、それは判らない。でも、レース中の動きを観る限り、残念ながら優勝までは手が届かなかったんじゃないかとは思うね。
 この後、日本の馬はたびたび挑戦したけれど、なかなか上位入着すらできない時期が続いた。ある年には、実力が出走レヴェルに達していないとされて、屈辱的な“門前払い”を食らった事もある。
 それが去年、トゥザヴィクトリーが突然2着に激走して、日本中をアッと言わせた。僕は、レース当日の朝、阪神競馬場でレース速報の映像を観たんだけど、嬉しいとか言う前に、とにかく驚いたのを覚えている。
 まさか、ホクトベガが追走すら覚束なかったレースで、トゥザヴィクトリーが逃げて2着に粘るなんて思ってもみなかったからね。いやぁ、あれは衝撃的だった。
 僕は、日本のダートでなら、ホクトベガの方がトゥザヴィクトリーより強いと思ってる。だから、今のナドアルシバ競馬場のダートは芝に近い馬場なんだろうね。それを考えると、今年のアグネスデジタルは有望だと思うよ」
珠美:「…先程は失礼しました。そうですか、楽しみですね」
駒木:「でも、何だか複雑だね。僕個人の勝手な思いを言わせて貰うと、このレースは、いつまでもホクトベガのために取っておいてもらいたいんだよ。どの馬が勝つにしても、その前にホクトベガに勝ってもらいたい。そういうレースなんだよね、ドバイワールドカップって」
珠美:「…博士って、意外とロマンチストなんですね(笑)」
駒木:「よしてくれ(苦笑)。僕にだって、感傷に浸りたい時だってあるんだよ。
 じゃあ、長くなったし、講義を終わろうか。ご苦労様」
珠美:「ハイ、ありがとうございました」
駒木:「それでは講義を終わります。また来週」

 


 

2月22日(金) 日本文化特殊講義
「酒鬼薔薇の元校長、ポルノ小説を執筆」(1)

 怒涛の文化人類学週間も終わりまして、しばしの間、平常講義に戻ります。

 受講生の皆さんは、当時世間を震撼させた、「酒鬼薔薇」を名乗る少年による殺人事件を覚えておられるでしょうか?
 実はこの事件、起こった場所から駒木の自宅までは、ものの数kmほどしか離れておらず、当時はかなりの騒ぎになっておりました。
 逮捕されるまでに、犯人が少年であると予想できた人間が皆無に近かったため、周辺では様々なデマが飛び交いました。マスコミはそれをたしなめるどころか、そんなデマに翻弄されるというお粗末さで、駒木を含め、近隣の住人を恐怖のどん底に陥れたものでした。

 そう言えば、この手の事件では、事件発生当初に、“識者”を名乗る人たちが犯人像の予想をやりますよね。そう、いつも和久峻三が大ハズレをかましているアレです。
 この時も様々な、自称、または新聞社認定の“識者”が好き勝手な犯人像を推測していたのですが、中にとんでもない犯人予想がありました。
 その“識者”は、自信満々で「犯人は同性愛者である」と断言していました。他の予想と見比べてみても、独創的で大胆な予想でした。
 しかし、もっと大胆だったのは、その予想を導き出した根拠でありました。

 「『酒鬼薔薇』の『薔薇』は同性愛の象徴である。だから犯人は同性愛者である!」

 この一文を読んだ時の駒木の心境を端的に表しますと、以下のようになります。↓

 

(´口`;;)

 ……どうやらこのセンセイは、『薔薇族』の読者であったようですが、いやはや。
 これが根拠になり得るのであれば、北島さぶ……
 ………………………………………
 ………………(汗)。
 ……今のは無かった事に

 まぁ、この事件は数ヵ月後、無事に解決。地域の住民はホッと一安心、深夜の客が減ったタクシーの運ちゃんはガッカリ、という結果に落ち着きました。
 ところが、解決から数ヶ月経った、梅の季節のある日、写真週刊誌にとある記事が掲載され、再び周辺地域は騒然となりました。その記事とは……

 「酒鬼薔薇の校長、卒業式当日にストリップへ!」 

 “酒鬼薔薇”少年が通っていた中学校の校長が、卒業式当日にストリップ小屋へ行ったところを写真に撮られてしまった、というものでした。
 この時、校長は定年間際不謹慎とか言う以前に、「お盛んだねえ」と感嘆が漏れるような記事だった事が記憶に残っています。
 が、お盛んだろうが無かろうが関係なし、とばかりに、この記事は教育委員会で問題とされ、その校長は処分を受け、晩節を汚す結果となってしまったのでした。
 不幸中の幸いか、この記事はその後長く尾を引く事は無く、その校長も無事定年退職。隠居の身となって、公の場に姿を現す事はなくなりました。

 しかし、それから数年。沈黙を破って、彼は帰って来たのです。
 ……と、こんな風に書くと、スプラッタ映画の続編みたいですが、まぁとりあえず、以下の切抜きをご覧下さい。

 神戸の連続殺人犯・酒鬼薔薇聖斗が当時通っていたT中学校の校長といってピンとくる方がどれだけいるでしょうか。事件が起こった年の卒業式当日に、ストリップ見物に出かけたところを写真誌に報道されて世間から手ひどく咎められた校長と言えば思い出すのでは。そのT中学校の元校長である I 氏が、なんとこのたびストリップをテーマとした官能小説を執筆したというのです。(Web現代より引用。固有名詞はイニシャルに変更しました)

 いやはや、再登場までストリップ絡みとは。
 芸風の変わらなさ加減は、エマニエル坊やと宅八郎に匹敵するレヴェルに達していますね。

 もちろん出版の予定などは立っていないのですが、『週刊現代』ではその原稿を独占入手しました。マスコミの報道により教師生活を台無しにされたと憤る I 氏は、開き直ってこの小説を書いたということですが、果たしてどれだけの意義があるかは大いに疑問が残ります。(同上)

 いや、I 氏も、別にマスコミとの軋轢をきっかけに小説書いているわけじゃないでしょうけど…。
 駒木は、この記事をわざわざ週刊誌に採り上げる講談社にも、大いに疑問を抱いてしまうのですが。こんな記事にスペースを割くぐらいなら、日刊ゲンダイから「それいけ大将」でも転載して来た方が意義があると思います。

 それにしても、この I 先生。自分の知識を生かして小説を書こうと言うあたり、なかなかの見識ですね。
 小説やマンガを描く人の中で、よくありがちなのが、自分のよく知らない題材に挑戦して自滅、というパターンであります。意外な話かもしれませんが、プロのマンガ家さんでも、時々この手の失敗をやらかします。

 中でも、一番多いのはプロレスを題材にしたケースですね。真剣勝負と虚構の狭間で揺れ動きつづける、極めて特殊な格闘技、プロレス。これを題材にマンガを描こうなどとして、なかなか上手くいくはずがないのです。
 特に代表的なものとして、プロレスをガチンコの真剣勝負のように描いて、逆にリアリティが無くなってしまい人気が低迷わずか15回前後で打ち切りになってしまった『天燃色男児BURAY』が挙げられます。
 ちなみに、この作品の作者・高橋一雅氏は、現在『遊☆戯☆王』をヒットさせ、税金対策する前に金を稼ぎ過ぎて、国にムネオハウスの資金を提供する羽目になった、あの高橋和希氏と同一人物との噂もあります。
 …それにしても、今日の講義は、他人の消したい過去を暴いてばかりのような気がしますが、まぁ気のせいでしょう。
 とにかく、プロレスマンガには酷い作品が多く見受けられます。大抵、プロレスをガチンコと勘違いしているか、さもなくば、“試合前のトイレで選手同士が談合”などと、まるで相撲の八百長みたいにプロレスを描いているか、そのどちらかです。これではプロレスファンの共感を得られるはずなどありません。たまに共感を得る作品が出てきたと思ったら、『最狂超プロレスファン列伝』だったりするのですから、前途は多難です。

 ……ん? プロレスは真剣勝負だ、馬鹿にするな?
 ………はぁ。いましたか、そういう方が未だに。
 それじゃ、いいですか? あの稲妻レッグラリアートで3カウントフォールが奪える格闘技の、どこがガチンコの真剣勝負ですか? 
 文句は、ミスター高橋の本を読んでからも、「いや、それでも俺は、勝ち負けの決まってなかった試合をいくつか言えるぞ!」と思えるようになってから言って来なさい。

 ……話を戻します。まぁ、このように、プロレスマンガはリアリティを持たせて描くのが難しいわけです。
 まぁ、リアリティを持たせたところで、“セコンドがリング下で額を切って流血”するシーンのあるマンガなど、観たくもありませんが。

 他のジャンルでも、競走馬の青毛(真っ黒な毛色)を文字通り解釈してしまい、真っ青なサラブレッドがターフを駆け巡った『風のシルフィード』など、失敗例を挙げればキリがありません。
 中には、当時日本ではサッカーがドマイナーだったのをいい事に、日本の少年に北朝鮮から見た日本人像のような誤解をサッカーに与えてでも大成功を収めた、『キャプテン翼』のような作品がありますが、それはもう、こちらにも持ち上げてしまった責任があるのですから、ユリ・ゲラーやエスパー清田を見るように、温かい白い目で見てあげるべきだと思います。

 話が脱線しました。
 ストリップを題材にした官能小説を書いたという I 氏、果たして描かれた小説はどのようなものだったのでしょうか……?

 ……おっと、話を脱線させすぎて、講義時間が終わってしまいました(汗)。申し訳ないですが、続きは次回という事に。明日は競馬学概論の日ですから、この講義の続きは明後日ということになります。
 では、今日の講義はここまで。 (続く

 


 

2月21日(木) 文化人類学
「2001年フードファイターフリーハンデ(4)
〜総括〜

 まず初めに、今回も訂正から。
 早大食いカテゴリに、「大食い選手権九州縦断ニューフェイス決戦」の予選(寿司30分)が反映されていませんでした。
 この競技を反映させる事により、新たに立石将弘選手のハンデとして、早大食いカテゴリ56ポイントが与えられました。
 関係者各位に御迷惑をおかけしました。お詫びします。

 では、本題へ。今日は3回にわたってお送りして来た「フードファイターフリーハンデ(以下:FFFハンデ)」の総括を行います。
 全カテゴリのハンデを収録した一覧表の公開と、フードファイト界全体に対する解説をお送りします。

 まず、全カテゴリ・ハンデ一覧表ですね。
 スペース等の事情により、別ページに掲載しました。

こちらをクリックして下さい
(新しいウィンドゥが開きます)

 一覧表の最下部には、これまで3回分の講義のリンクも付けましたので、各カテゴリごとの解説がご覧になりたい方は、そちらからでも閲覧できます。どうぞ、ご利用ください。

 それでは、総括に移ります。といっても、一覧表載せるだけじゃ能がないので、「フードファイトについて、何か書いてみようか」と思っただけですので、全然総括になってないかも分かりませんが……
 例によって、本文中は文体を変えます。


 激動の2001年を経て、フードファイト界はかつてない転換期に入ったと言えよう。

 まず、長時間競技を繰り返し、“大食い”系の最高実力者を選ぶ「大食い選手権」の独占状態が終焉を迎えた。
 そして、「大食い──」の対抗馬として、短時間競技中心で、実力だけでなく運も勝負のファクターに加えた競技会・「フードバトルクラブ」が登場、あっという間にフードファイト界のメジャー大会に成長した。

 この事実は、これまで我々ウオッチャーが抱いて来た、「60分以上の長時間で最も多くの食材を食べられる選手こそが、最強のフードファイターである」という、「大食い選手権」が我々に植付けて来た固定観念の崩壊に直結してゆく。何故なら、「フードバトルクラブ」の誕生により、「超短時間で一定量の食材を食べる事の出来るフードファイターもまた、最強のフードファイターに相応しい」という新しい概念が生まれたからである。
 「フードバトルクラブ」の開始以来続く、昔からのウオッチャーを中心にした「フードバトルクラブ」バッシングは、“「大食い選手権」製固定観念”の崩壊を阻止したい気持ちの表れなのであろう。

 そもそも、
「フードファイトにおいて、長時間の大食いに長けた選手と短時間早食いに長けた選手、どちらが評価されるべきか?」
 ……という疑問に、実は明快な答は無い。これは、この「FFFハンデ」を見れば明快に理解できよう。まだ発展途上中の早飲みカテゴリは別にして、他の5カテゴリの最高値は64.5〜67の間に収まっており、そこに大きな差は無い。カテゴリ間にレヴェルの格差は皆無と言って良い。あるのは個人の能力差だけである。
 “早食い”と“大食い”の間に貴賎は無いのだ。これまで我々が「大食いこそ、フードファイトの王道」と思っていたのは、実は「大食い選手権」運営サイドの意向に過ぎなかったのである。
 
 だから、“早食い”と“大食い”の間に価値の差などは存在しない。
 しかし、「大食い選手権」が独占的な支持を集めていた間、ほぼ“大食い”のみにスポットライトが当てられていたように、両者の間に“流行り廃り”が存在するのもまた、事実である。
 これは他のスポーツの分野で、本来そこに価値の差が無いはずの各競技の間に、流行り廃りによってカテゴリ分けされた“メジャースポーツ”と“マイナースポーツ”という言葉が存在している事からも分かるであろう。

 では、これから“大食い”と“早食い”のどちらがメジャー扱いされてゆくのであろうか?
 まず我々ウオッチャーの間では、依然として強く残る「大食い選手権」製固定観念の影響で、しばらくの間は“大食いメジャー志向”が優勢で推移するであろうと思われる。ただし、これから“「フードバトルクラブ」からフードファイトに触れたウオッチャー”が多数誕生するにしたがって、状況は変わりうると思われる。
 フードファイト選手の間では、これはもう「フードバトルクラブ」優勢、即ち“早食い”優勢に推移する事は間違いない。出場するまでの敷居の高さや賞金の額(優勝賞金は450万円差!)から考えて、有能な選手が「フードバトルクラブ」に偏るのは必然と言えるからだ。
 以上から考えると、これからは“早食い”のメジャー化、競技のスピード化が進展していくと推察できる。

 フードファイト界に起こっている、起ころうとしているこれらの事、実は、とあるスポーツの約300年前の姿と、多くの面で相似している。
 そのスポーツとは、競馬。そう、この「FFFハンデ」の元祖的存在の「フリーハンデ」が扱うスポーツである。

 約300年前、当時イギリスで盛んになりつつあった近代競馬は、現在とは全く違うレース方式で行われていた。
 そのレース方式とは、4000m以上の超長距離のレースを何度も行い、大きく遅れた馬を失格にしながら、最終的に勝った馬(若しくは1着回数の多い馬)を優勝とするもので、これを“ヒートレース”方式と言った。
 ヒートレースでは、能力値の高い馬が間違いなく勝つ。だから「強い馬を選抜する」という目的は果たせられた。しかし、同じメンバー、それも能力差が既に分かっている馬たちを繰り返し走らせるので、レースそのものに妙味は無い。
 よって当時の競馬は、関係者と一部のマニアだけの閉鎖的な環境に置かれていて、一般的な認識は広まっているとは言い難かった。

 そんな閉鎖的な状況を憂い、一部の競馬関係者が新しい競馬のレース方式を模索した。
 競馬人気が盛り上がらないのは、競技として面白くないからだ。競技として面白くないと言う事は、ヒートレースに代わる新しいレース方式を考えなければ……というわけである。
 競技の面白さを引き出すためには様々な方法があるが、最も手っ取り早く効果が大きいのが、「結果やその予想を不確実にする」ということである。何が起こるか、どの馬が勝つか分からないというだけで、観る人は、いわゆる“ワクワクドキドキ感”を味わう事が出来るからである。
 そういう事情の下、新しい方式のレースが実施に移された。
 距離を、当時としては短距離の2400m程度に設定し、レースの回数も複数ではなく一発勝負に。こうすることによって、これまでは起こるはずの無かった波乱も起き、しかも1回のレースだけでは馬の優劣がハッキリしないので、何度も勝負を繰り返す必要が生じてくる。そうすると、何度でも最強クラスの馬による大レースが組まれるようになり、ドラマも生まれてくる。
 この狙いは見事に的中し、それ以後の競馬は、ヒートレースが急速に廃れる一方で、一発勝負形式の競技が主流になっていった。
 この時生まれたレースの中に、現在も残る英ダービーや、英オークスなどがあり、現在に至る、というわけである。

 ……お分かりだろうか? 競馬の話で言うところのヒートレースを「大食い選手権」に、ダービーのような一発勝負レースを「フードバトルクラブ」に当てはめると、理解しやすいかと思われる。
 つまりは、現在のフードファイト界は、ヒートレースと一発勝負レースが混在している転換期というわけだ。
 この喩えに従うと、やがてフードファイト界は「フードバトルクラブ」に牛耳られていく事になるわけだが、そこまでいくかどうかは、正直言って分からない。現在の状況(「フードバトルクラブ」に対するバッシングと、番組構成の稚拙さ等)を考えると、「フードバトルクラブ」が、競馬で言うダービーのような存在になれるかどうか分からないからだ。
 その一方で、このまま行くと、ヒートレース=「大食い選手権」が下火になってゆく事は避けようがないと思われる。この事は、年始の視聴率戦争における「大食い選手権」の完敗からも分かる事だ。やはり勝敗が読める競技より、読めない競技の方が観ていて面白いのは確かだと言う事なのだろう。

 という事は、である。
 現在、フードファイト界は、転換期であると同時に業界全体が地盤沈下を始める危機に瀕しているとも言えるのだ。そして、この事を把握している人間は極めて少ない。
 駒木が知り得る範囲で、この危機を自覚している業界関係者は、フードファイターの岸義行氏くらいである。彼は、「フードバトルクラブ」と「大食い選手権」が共倒れに終わった時のフードファイト界を憂いて、自ら第三勢力となる団体を旗揚げするに至った。その意気込みたるや素晴らしいものだが、その活動が果たして的を得たものであるかは疑問である。これはまた、後で述べよう。

 「大食い選手権」時代の終焉、しかし、それに代わって天下を取ったはずの「フードバトルクラブ」の地盤が極めて脆弱。加えて、それに伍するような第三勢力の登場も望み薄。これが現状である。
 この現状を打破するためにはどうすれば良いか?
 手っ取り早い方法は、「フードバトルクラブ」の構成を洗練し、フードファイト界のダービーとして成長させる一方で、「大食い選手権」も、勝負の面白さにウエイトを置いたリニューアルを実行することだ。要は既存勢力の地盤強化と巻き返しである。新興勢力が登場しないという事は、ある意味で悲しい話だが、第三勢力が微弱な現在、致し方なかろう。
 幸いな事に、「大食い選手権」運営サイドは現状に大きな危機感を持ち、「大食い選手権」のリニューアルにとりかかっているようだ。それが即結果に繋がるかどうかは未知数だが、中期的には良い結果に繋がるであろうと確信している。
 対照的に心配なのは、運営スタッフに資質的・能力的問題のある「フードバトルクラブ」の今後である。駒木個人の希望としては、新井和響氏や岸義行氏、または赤阪尊子女史らベテラン選手が第一線を退き、運営サイドに名を連ねてもらいたいのであるが……。
 こういう状況であるから、我々ウオッチャーが、フードファイト界に貢献する方法といっても、極めて手段が限定されてしまう。せいぜい、視聴率を上げるように視聴率モニターの知人に働きかけたり、番組宛に激励の手紙を送る程度であろう。それ以外には、駒木のように、インターネットで微力ながらフードファイト振興に協力するくらいしかない。
 逆にやってはいけないのは、フードファイト番組そのものを批判したり妨害したりする事であろう。それは、一連の「フードバトルクラブ」バッシングも含めて、の話である。愛着のある「大食い選手権」を守りたいのは分かるが、だからと言って、「大食い選手権」の弱体化を放置したまま、「フードバトルクラブ」の存続を阻止するのはお門違いも甚だしい。それは、フードファイトウオッチャーとして有るまじき行為である。今、両番組に必要なのは叱咤激励であって、非難誹謗ではない。叱咤と非難を取り違えてはいけない。

 ……ここまで難しい事ばかり書いて、全く総括になっていないので、ここらへんで総括らしい事も書いておこう。
 2001年は、とにかく素晴らしい人材に恵まれたビッグ・イヤーであった。2000年秋の小林尊出現まで、なかなか現れなかった新世代のフードファイターたちが、ここにきて堰を切ったように台頭し、フードファイト界は一気に盛り上がった。この事は、常識外れのパフォーマンスを示す、65ポイントを超えるハンデを獲得した選手が3名も現れた事でも分かるだろう。

 そして、2002年シーズンの開幕戦である「大食い選手権」地方予選から、既に続々とニュースターが現れ始めている。近畿地区予選で優勝した山本卓弥選手は、予選決勝で新人離れしたパフォーマンスを見せ付け、暫定ハンデ62を獲得した。一部地区予選では大きな不手際があったとの情報も得ているが、大半の地区からは、山本卓弥選手のような新たなるタレントが出現していることであろう。

 ところで、今回の「FFFハンデ」では、「フードバトルクラブ」と「大食い選手権」をハンデ対象競技会として採用し、記録の信用性に欠けるバラエティー系番組の企画や、チェック不能なローカル番組、さらに地方での非TV系競技会は対象外とした。
 これは、駒木一個人で、事実上全ての作業をこなさなくてはいけない物理的事情によるものが大きいが、地方競技会に関しては、競技の状況が分からないという他に、競技会全体のレヴェルが低いということが挙げられる。
 ただし、そんな中で、駒木が非TV系競技会の中で、唯一採用する意向を持っていた競技会があった。
 それは、先に挙げた、岸義行氏が主宰する“日本大食い協会”なる任意団体が開催した、「全日本大食い競技選手権」であった。

 この競技会は、今回の「FFFハンデ」でベスト10にランクインした選手の過半数が出場しているという、言わば史上最大の非公式戦である。また、ハンデ対象競技会の少ない大食い60分カテゴリにあてはまる競技会であるため、ハンデ制定用資料としての価値も大きい。
 しかし、この競技会をハンデ対象競技会として採用するにあたって、最後までクリアできない問題が存在した。
 まず、この競技会は、日本大食い協会から販売されているビデオを観ないと、その模様を知る事が出来ない。しかし、これはまぁ良い。問題は別のところにある。

 問題は、このビデオの販売本数を増やすために、競技会の結果を完全非公開にしている事である。駒木は幸いにも、高橋信也選手のウェブサイト内のコンテンツ(現在は削除)でおおまかな模様と順位を知る事が出来たが、その結果を今、ここで書くことさえ出来ない。正確には、しても良いのだろうが、それをすると、恐らく日本大食い協会サイドから削除要請が来るであろう。
 「FFFハンデ」を観てもらえれば分かるように、ハンデ値と順位は、ハンデ対象競技会での順位が大きく反映される。もし、「全日本大食い競技選手権」をハンデ対象にすると、間接的にこの競技会の順位を公開してしまう事になるだろう。そして、「このハンデはどういう根拠からですか?」と訊かれた時も回答出来ない。これでは、とてもハンデ対象競技会には採用できないのである。

 競技会ビデオの売上は、協会の運動資金、つまりフードファイト振興に使われるわけで、売上を伸ばそうとする考え自体は間違ってはいない。しかし、やり方は大きな過ちを犯しているとしか言えない。
 競技会を開催して、利益をあげようと思ったなら、まず競技会を一般公開するべきである。観客席を設置し、入場料を徴収する。それは100円だろうが500円だろうが、数千円だろうが構わない。適正価格を判断して、設定すればいいことだ。
 その上で、競技結果を詳しくレポートし、マスコミ媒体やインターネットで公開する。もしも、その競技会がエキサイティングで興味を引くものであれば、必ず「ビデオは販売しないんですか?」という反応があるはずだ。その上で、予約を取ってビデオを作製し、販売すればよい。レポートの反応が悪ければ、どうやったってビデオは売れない。経費の無駄遣いになる前に止めるべきだ。そうなった時は、運営サイドの失敗なのだから、責任を自身で取るほかは無い。
 ビデオの内容詳細を隠し、ましてや「隠した方が、観たがる人が多いだろうから」などと考える事自体が極めて不謹慎である。これでは雑誌広告にある、怪しげな通販商品と何ら変わるところが無い。
 ……有料観客制、レポート公開後に反応を見てからの通販──
 協会サイドにしてみれば、どう思うだろう? 難しい事ばかりだろうか? 
 しかし、2つのテレビ局に次ぐ第三勢力になろうとするのなら、これくらいのハードルを越えなければ到底無理な話だし、弱小団体で良いというのなら、時間と労力の無駄だ。やらない方がまだマシである。
 フードファイト界を、選手の立場から牽引していくという姿勢は素晴らしいのだから、その中身を充実させていってもらいたいと思う。

 最後はまた脱線してしまった。総括としては失格の文章かもしれない。しかし、駒木のフードファイトに対する真摯な思いだけでも伝える事が出来れば幸いである。


 ……長々と失礼しました。講義時間もオーバーしてますし、ここで終わりたいと思います。
 次回の文化人類学講義は、春の大食い特番直前のレビューになると思います。お楽しみに。
 それでは、ご清聴ありがとうございました(この項終わり) 

 


 

2月20日(水) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評(2月第3週分)

 文化人類学ばっかりやってますが、演習もちゃんとやります。今週は忙しい時に、レビュー予定作品が多くて泣きそうですが(苦笑)

 まず、今週の動きを少々。
 1つ目。「週刊少年ジャンプ」の打ち切り作品は、なんと“大穴”『ライジングインパクト』でした。130話目ですが、終わり方からして“打ち切り”と言って良いでしょう。
 しかし、以前も短期打ち切りの後、山のような抗議によって、『BASTERD !!』以来の打ち切りからの復活を果たしたこの作品。またも打ち切り対象になるとは思っても見ませんでした。
 個人的には、『ライジング──』よりも打ち切るべき作品が、もっとたくさん有ったと思っているので、非常に惜しいのですが……。
 ……と、いうわけで、「打ち切りダービー」も不的中、と。こちらの方も絶不調です(苦笑)。どうにかなりませんかねぇ。

 2つ目。1月第4週分の演習でお知らせした内定の通り、小学館漫画賞受賞作が決定しました。
 少年マンガ部門の受賞作『犬夜叉』と受賞を争ったノミネート作は、『テニスの王子様』『クロマティ高校』だったようです。マガジン系は受賞しても辞退確実でしょうから、相手は『テニスの王子様』だったわけですね。ん〜、『テニスの──』も、確かに面白いんですが、どうもアテ馬にされたような気がしますな。少なくとも賞向けの作品じゃないでしょう。
 それにしても、秋田書店の作品が全く無視されてるのは、悲哀すら感じますね(苦笑)。まぁ、『エイケン』とかがノミネートされても、それはそれで問題でしょうが。

 さて、それではレギュラー企画のレビューへ。
 文中の7段階評価はこちらをどうぞ。

 ☆「週刊少年ジャンプ」2002年12号☆

 ◎新連載『いちご100%』作画:河下水希

 桂正和、高橋ゆたかと引き継がれていった、“話なんかどうでもエエから、とにかく絵の上手さでお色気担当”の3代目・河下水希さんの連載復帰作です。
 この“担当”の描いた作品は、ストーリーに期待してはいけないものなのですが、意外なことに(失礼!)、ちゃんとプロットが綿密に組まれているようで、好感が持てます。ストーリーを出し惜しみせず、1回目から話を進展させまくっているのも意欲を感じさせますね。
 そして何よりも、個性の出し難い日常劇なのに、主要キャラが性格面で完全に立っているのが素晴らしいです。河下さん、明らかに腕が上がってますね。引き合いに出して悪いですが、鈴木信也氏は彼女を見習うべきだと思いますね。奇抜な外見だけでキャラ分けしちゃあ、ストーリーテラーとしてはオシマイです。
 これからは一話完結型の、じれったいお色気ラブコメ劇が続いていくのでしょうか。しかし、この設定から『サラダデイズ』のようなシリアスラブストーリー路線へ向かっていくと、かなりの名作になるような予感がします。とにかく2話目が楽しみですね。
 あ、蛇足ですが、いちごパンツのドアップが、カラーページじゃなかったのは編集サイドの自粛なのでしょうか(笑)。
 おっとと、評価を忘れるところでした。評価は
B+第3回の再評価で大幅ランクアップも考えられます。要注目。

 ◎読み切り『ヒカルの碁・番外キャラ読切シリーズ・塔矢アキラ』作:ほったゆみ、画:小畑健

 ここで扱うのが失礼な程のクオリティを誇る、『ヒカルの碁』。いよいよ今週から読切シリーズがスタートです。
 あくまで番外編・サイドストーリーですから、驚くほどのお話ではなかったんですが、それでもただただ、「上手いなあ……」と思ってしまいます。まさに読み切りの教科書通りの展開、その上でキャラが既に立っているので、面白さに上積みがあるんですよね。いやはや、恐れ入りました。
 もう、詳しいレビューは必要ないと思います。美味い料理は『美味い』で充分なのと同様、この作品も『面白い』で充分だと思います。
 評価は番外編ということもあり、
A−。ちなみに、『ヒカルの碁』本編は、文句ナシのA評価作品です。

 余談ですが、ツボにハマって、大爆笑したのが、以下のやりとり。(予算不足でスキャナが買えないのが悔やまれます)

 「それにしても、さすがは「子ども名人戦」で優勝しただけのことはありますな」
 
「あんなもん、価値ないよ」

 わはは。一刀両断であります。ヤラレ役キャラにこんな事言われたら、中学生名人目指して、連日流血戦を展開している『365歩のユウキ!!!』はどうしたらいいんでしょうか。

 両作品の、そして作者のスケールの違いを見事に醸し出しているセリフ回しでありました。

 ◎読み切り『怪盗COLT』作画:村田雄介

 洗練された絵の上手さの割に、ちょっと見慣れない名前のこの村田さん、調べてみますとなかなかの苦労人でありました。
 まず1995年に、現在の「天下一漫画賞」の前身である「ホップ・ステップ賞」で入賞し、セレクション第17巻に収録されています。当時17歳。つまり、そこから起算するとキャリア6年強の23歳ということになりますね。
 ちなみに、同じ17巻に収録されている新人作家の中に、『幕張』の木多康昭氏がいます。木多氏の方が9歳も年上なのですが、同期です。まるで立川キウイみたいですね。
 ここでデビューを果たした村田さんは、98年に赤塚賞準入選&本誌掲載。ここから飛躍を目指したのですが、なかなか芽が出ず、これ以後は本誌掲載がありません。
 彼が売れなかった原因は、ギャグの割に絵が上手すぎるところにあったようです。当時のレビューサイトを閲覧しても、「彼の絵でストーリーマンガが読みたい」という感想がありました。

 そして今回の『怪盗COLT』。その期待通り、絵の上手さを活かした短編アクション・ストーリーでした。
 この作品でとにかく驚かされるのは、最近の少年マンガでは類を見ないスピード感。まるで『インディージョーンズ』シリーズを観ているかのような感覚にさせてくれました。
 ストーリーは単純で短いものですが、それもアクション映画の王道。問題ないでしょう。
 どうやら、6年間の伏臥は、彼を凄腕のマンガ家に成長させていたようです。
 とにかく、このスピード感と迫力の出し方は天才的です。「ジャンプ」も、とんでもない隠し球を持っていたものですねぇ。
 評価は、迷ったんですが
B+に近いA−14号から2号連続で、ストーリーキング入選作に彼が絵をつけた作品が発表されます。こちらも要チェックです。

☆「週刊少年サンデー」2002年12号☆

 短期集中連載第3回の『ダイキチの天下一商店』ですが、次号で最終回を迎えるため、レビューは来週に回します。

 ◎読み切り『笑福祈願ダルマイト・ガイ』作画:モリタイシ

 今週から始まった「サンデー特選GAGバトル7連弾」の第1回です。講義の題材が出来るのは嬉しいですが、最近、この手の読み切り連作・競作が多すぎます(汗)。
 作者のモリタイシさんは、駒木はチェックしてませんでしたが、先日まで『サンデースーパー』の方で『茂志田☆諸君!!』を連載していた、デビュー3年目のギャグ作家さんです。この作品で、本誌連載を賭けることになるのでしょうね。

 作品を読んで、まず思ったのが、「この人、ギャグマンガを分かってるな」ということ。最近のギャグ作家さんにしては珍しく、理詰めでギャグマンガを描く人ですね。こう言う人は、才能の枯渇が遅いので将来性があります。
 惜しむらくは、理詰めにした分だけギャグの爆発力が抑えられている事でしょうか。しかし、連載を前提にするならば、いつも全力投球よりも、八分の力を出し続けるような作品が求められるわけで、そういう意味ではうってつけの存在と言えるでしょう。
 それにしても、カワイイ女の子を描く事ができるのに、それを敢えて封印しているところに、何だか訳の分からない気概が感じられて良いですね。ギャグ描く人は、このくらい偏屈じゃないといけません。
 評価はとりあえず
B+。これが10週でも連続で維持できて、なおかつ1か月に1度以上、ホームラン級のギャグが飛ばせれば、A級のギャグ作家さんです。連載で観てみたい作家さんですね。

《その他、今週の注目作》

 ◎読み切り(世界漫画愛読者大賞・最終審査エントリー作品)『がきんちょ強』作画:松家幸治

 「世界漫画愛読者大賞」も4回目に突入です。
 今週掲載された『がきんちょ強』の作者・松家幸治さんは、8年前に赤塚賞準入選受賞を果たしながらも、活動に行き詰まって筆を折ったこともあるという苦労人……って、この企画に出てくる人は苦労人ばっかりですか。

 何だか、「漫画愛読者大賞」と言うより、「漫画家人生敗者復活戦」にした方が良いような気がして来ました。

 それはさておき、レビューなのですが。
 確かに活動に行き詰まるはずです。とにかく絵が古臭い。8年前どころか、20年前でも古臭く感じるであろう絵柄です。少なくとも少年マンガ向けではないですね。ある意味、「少年ジャンプ」デビューを目指さなくて正解だったかもしれません。
 そして作品全体の印象。編集部が用意した、この作品のキャッチフレーズは「現代版・火垂るの墓」なのですが、これは敢えて核心をズラしていますね。
 というのも、この作品、どう考えても『じゃりん子チエ』の世界観そのまんまなのです。パクりとは言いませんが、完璧にオマージュです。
 主人公は、チエとテツを足して2で割ったような性格の男子小学生。話の内容も、神社奉納の相撲大会があり、そこにアホみたいにデカい敵キャラが出場して……というもので、絶対どこかで観た事あるような話だったりします。
 ここまで露骨なマネをして、面白くなかったら怒り狂うところでしたが、幸か不幸か、これがなかなか面白いんです。面白さのツボまで『じゃりん子チエ』そっくりというのは、ちょっとどうにかして欲しいですが。

 面白い作品である以上、評価は高くなります。B+
 しかし、この作品、駒木は「コミックバンチ」じゃなくて、やっぱり「漫画アクション」か、もしくは「ビッグコミック」あたりで読みたい気がします。青年向けじゃなくて、大人向け。喩えは逆になりますが、『新潮』の新人賞にティーンズ向けラブコメが最終候補に残ったような違和感を感じてしまいますね。

 ……と、今週はこんなところでしょうか。
 次週は、「ジャンプ」で尾玉なみえさんの新連載に、『ヒカ碁』読み切りの2週目。「サンデー」では『ダイキチ』最終回とギャグ読み切り7連弾の2週目。他誌でも、「バンチ」の愛読者大賞に、「スーパージャンプ」の『キメラ』第3回と、盛りだくさん。今から頭が痛いです(苦笑)。

 それでは、今日の講義を終わります。

 


 

2月18日(月) 文化人類学
「2001年フードファイターフリーハンデ(3)
〜早大食い・大食いの部

 講義の実施が遅れており、御迷惑をおかけしております。

 まず初めに、前回の「FFFハンデ」の早食いカテゴリで2箇所訂正があります。
 前回のハンデ制定作業の中で、「大食い選手権・九州縦断ニューフェイス決戦」と「打倒赤阪! 甘味大食い女王選手権」のデータが漏れておりました。この両大会のデータによって、高橋信也選手が58→60.5ポイント赤阪尊子選手が56→58ポイントへと修正されました。関係者各位に御迷惑をおかけした事をお詫び申し上げます。

 ……と、この事でもよく分かりますように、言うは易し、行うは難しとはよく言ったものでして、まさかここまで資料整理が難航するとは思ってもいませんでした。しかし、今回の作業で明確な基準が出来ましたので、次回以降は比較的迅速な対応が出来るのではないかと思います。
 さて、今日は「早大食い」、「大食い45分」「大食い60分」の3カテゴリについて、ハンデと解説を掲載します。今回も、先に各カテゴリのハンデを発表し、その後に3カテゴリ総合の解説を掲載します。


「2001年度・フードファイターフリーハンデ」
〜早大食いカテゴリ〜

順位 ハンデ 選手氏名
66.5 白田 信幸
63 小林 尊
62 山本 晃也
58 高橋 信也
57 清遠 学
56 射手矢 侑大
  56 田澤 康一
  56 立石 将弘
54 稲川 祐也
  54 浜島 雅代
  54 山形 統
12 53.5 寺田 佳代
13 53 渡辺 人史
14 52.5 加藤 昌浩
  52.5 小林 由利枝
16 52 千田 香織
17 51.5 田川 理加

大食い選手権・九州縦断ニューフェイス決戦
第1ラウンド(早大食いカテゴリのみ)

ハンデ
()は他競技での最高値

選手氏名
57 清遠 学
56 射手矢 侑大
56 田澤 康一

TVチャンピオン・甘味大食い女王選手権
第1ラウンド(早大食いカテゴリ内のみ)

ハンデ
()は他競技での最高値

選手氏名
54 浜島 雅代
53.5 寺田 佳代
52.5 小林 由利枝
52 千田 香織
51.5 田川 理加

フードバトルクラブ2nd・1stステージ
(早大食いカテゴリ内のみ)

ハンデ
()は他競技での最高値

選手氏名
60(66.5) 白田 信幸
58 高橋 信也
54 山形 統

FBCキングオブマスターズ・2ndステージ
(早大食いカテゴリ内のみ)

ハンデ
()は他競技での最高値

選手氏名
52.5 加藤 昌浩

FBCキングオブマスターズ・決勝

ハンデ
()は他競技での最高値

選手氏名
66.5 白田 信幸
63 小林 尊
62 山本 晃也

〜大食い45分カテゴリ〜

順位 ハンデ 選手氏名
64.5 小林 尊
64 白田 信幸
63.5 岸 義行
  63.5 射手矢 侑大
62 赤阪 尊子
61.5 新井 和響
  61.5 加藤 昌浩
61 立石 将弘
  61 高橋 信也
10 60.5 山本 晃也
11 59.5 キングコング・バンディ
12 59 岩田 美雪
  59 平田 秀幸
14 58 稲川 祐也
  58 カーリーン・ドーン・
レフィーバー
  58 小林 千尋
17 57 柿沼 敦夫
  57 高山 昌平
  57 パク=クユンドク
  57 浜島 雅代
  57 ハン=チンユ
22 55 清遠 学
  55 小林 由利枝
  55 千田 香織
  55 渡辺 人史
26 54.5 田川 理加
  54.5 田澤 康一
28 52.5 寺田 佳代

フードバトルクラブ1st・2ndステージ

ハンデ(上位5名)
()は他競技での最高値

選手氏名
63.5(64.5) 小林 尊
62 赤阪 尊子
61.5 新井 和響
61 立石 将弘
61 高橋 信也

大食い選手権・九州縦断ニューフェイス決戦
第2ラウンド

ハンデ(上位5名)
()は他競技での最高値

選手氏名
58(61) 高橋 信也
57.5(61) 立石 将弘
56(63.5) 射手矢 侑大
55.5(64) 白田 信幸
55 清遠 学

大食い選手権・九州縦断ニューフェイス決戦
第3ラウンド

ハンデ
()は他競技での最高値

選手氏名
61.5(63.5) 射手矢 侑大
60.5(61) 高橋 信也
59.5(64) 白田 信幸
59(61) 立石 将弘

TVチャンピオン・甘味大食い女王選手権
第2ラウンド

ハンデ(上位5名)
()は他競技での最高値

選手氏名
60(62) 赤阪 尊子
57 浜島 雅代
55 小林 由利枝
55 千田 香織
54.5 田川 理加

フードバトルクラブ2nd・2ndステージ

ハンデ(上位5名)
()は他競技での最高値

選手氏名
64.5 小林 尊
64 白田 信幸
63.5 岸 義行
63.5 射手矢 侑大
61.5 加藤 昌浩

大食い選手権・スーパースター地上決戦
第2ラウンド

ハンデ(上位5名)
()は他競技での最高値

選手氏名
60(63.5) 射手矢 侑大
60(64) 白田 信幸
59(63.5) 岸 義行
58(62) 赤阪 尊子
58 稲川 祐也

大食い選手権・スーパースター地上決戦
第3ラウンド

ハンデ(上位5名)
()は他競技での最高値

選手氏名
61(63.5) 射手矢 侑大
58(64) 白田 信幸
58 稲川 祐也
58(63.5) 岸 義行
57.5 赤阪 尊子

大食い選手権・スーパースター地上決戦
第4ラウンド

ハンデ
()は他競技での最高値

選手氏名
61.5(63.5) 射手矢 侑大
60(64) 白田 信幸
59.5(63.5) 岸 義行
57(58) 稲川 祐也

〜大食い60分カテゴリ〜

順位 ハンデ 選手氏名
67 白田 信幸
66 射手矢 侑大
64 岸 義行
62.5 小林 尊
62 赤阪 尊子
61 高橋 信也
60 立石 将弘
58.5 岩田 美雪
58 別府 美樹
10 56.5 浜島 雅代
11 56 山口 奈津美
12 51.5 田川 理加

フードバトルクラブ1st・決勝

ハンデ
()は他競技での最高値

選手氏名
62.5 小林 尊
60(61) 高橋 信也
60 立石 将弘

大食い選手権・九州縦断ニューフェイス決戦・決勝

ハンデ
()は他競技での最高値

選手氏名
63.5(66) 射手矢 侑大
63(67) 白田 信幸
61 高橋 信也

TVチャンピオン・甘味大食い女王選手権・決勝

ハンデ
()は他競技での最高値

選手氏名
57.5(62) 赤阪 尊子
53.5(56.5) 浜島 雅代
51.5 田川 理加

フードバトルクラブ2nd・決勝

ハンデ
()は他競技での最高値

選手氏名
63.5(67) 白田 信幸
62.5 小林 尊
60.5(64) 岸 義行

大食い選手権・スーパースター地上決戦・決勝

ハンデ
()は他競技での最高値

選手氏名
67 白田 信幸
66 射手矢 侑大
64 岸 義行

大食いスーパースター史上最大の
チャレンジマッチ
甘味大食い女王・お正月スペシャル決戦

ハンデ
()は他競技での最高値

選手氏名
62 赤阪 尊子
58.5 岩田 美雪
58 別府 美樹
56.5 浜島 雅代
56 山口 奈津美

 2000年秋デビューの小林尊を初めとして、続々とスーパールーキーがデビューしてゆく中、2001年春の段階での白田信幸の存在は、さほど大きなものではなかった。他のルーキーに比べてスピードが完全に不足しており、せっかくの巨体を持て余しているような印象が否めなかったものだった。
 しかし、夏の間に各地の大食いイベントを転戦してゆく内に、何らかのコツを掴んだのであろう、秋のメジャー大会では、全く別人と化した彼の姿があった。
 長時間勝負の「大食い選手権」はもちろん、早食い力を要求される「フードバトルクラブ」でもトップクラスの成績で勝ち上がり、ついには、当時無敵を誇っていた小林尊を完封し、フードファイト界の盟主にまで登りつめた。
 2001年秋シーズンの白田の活躍は目を見張るべきものがある。その例を挙げれば、小林尊のリベンジを阻止した「フードバトルクラブ・キングオブマスターズ」決勝戦での圧勝劇など、枚挙に暇がないが、その中でも圧巻だったのが、「大食い選手権・スーパースター地上決戦」決勝でのラーメン(スープ抜き)30杯完食の大偉業であった。
 射手矢侑大や岸義行といったタイトルホルダーを相手にして一歩も引くところはなく、60分の競技時間中、早大食いのペースでラーメンをかき込み続けた。さすがに終盤でペースは落ちたが、それもご愛嬌。この春に射手矢が樹立したばかりの、20杯2/3という「大食い選手権」レコードを、さらに大幅更新して優勝を果たした。そのインパクトたるや、小林尊のホットドッグ12分50本に匹敵するものだと認めて良いだろう。
 恐ろしい事に、白田はまだ発展途上中の選手である。間もなく始まる2002年シーズンで、彼がどのような成長と活躍を見せてくれるのか、今から待ち遠しい。

 白田の大活躍で、少々影が薄くなったものの、「大食い選手権」2001年新人王・射手矢侑大の活躍も、特筆に価するものであった。 
 結果的に優勝を果たすことになった、メジャーデビュー戦「大食い選手権・九州縦断ニューフェイス決戦」で射手矢は、予選4位と出遅れた。これまでの「大食い選手権」では、予選で4位以下だった選手が優勝したケースはゼロ。しかも勝ち上がり過程で低空飛行を続けたため、恐らくは準決勝止まりに終わると思われた。
 ところがその準決勝において、45分でカツ丼11杯強を平らげて、ゲスト解説の小林尊を唖然とさせると、その勢いを駆って、決勝ではラーメン(スープ抜き)20杯2/3のレコードを達成して、まんまと優勝をさらってしまった。
 この快挙がフロックでは無かったのを証明したのが秋シーズンの「大食い選手権・スーパースター地上決戦」であった。ここで射手矢は、岸・赤阪ら旧勢力の英雄たちを完封して決勝進出を果たし、さらにラーメン大食いの自己ベストを7杯更新して、白田には及ばなかったものの、見事な準優勝を果たした。「フードバトルクラブ」では、残念ながら不運やスランプに見舞われて良績を残せなかったが、彼もまた、2001年を代表する選手の1人であった事は間違いない。

 “早食い”系競技では押される一方のベテランたちも、このカテゴリでは、まだまだ健在振りを示した。
 岸義行は、白田・射手矢らの前に敗れ去ったものの、自己鍛錬を怠らず、彼らについていこうという気概は充分に感じられたし、赤阪尊子も散発的とは言え、往年の冴えを取り戻したシーンも、まま見られた。
 唯一の“早食い”系ベテラン・新井和響も、色褪せたとは言え、まだまだメンバー次第では上位に食い込める力を維持しており、これからも若手の壁として頑張ってくれるだろう。

 “早食い”系競技では無敵を誇った小林尊は、「大食い選手権」欠場のトラブルもあって、とうとう“大食い”系競技では、「フードバトルクラブ」勝ち上がり段階の競技、「ウェイトクラッシュ」での2勝にとどまった。それも秋の大会では、得意の飲料系を絡めての“辛勝”であり、ここ数ヶ月で、小林が“大食い“系競技での覇権を失ってしまった事が如実となった。
 この事は、恐らく誰よりも本人がよく自覚していることであろうし、そんな自分がこれからどのような方向で競技を続けていくべきかも、彼はよく分かっていることだろう。
 これからも外野からの雑音にめげる事無く、小林尊に相応しいパフォーマンスをこれからも見せ付けて欲しいものである。
 蛇足だが、ハンデを見ての通り、小林の大食い能力は、色褪せたとは言え、フードファイト界トップクラスであることには間違いない。小林が弱いのではなく、白田・射手矢らが強すぎるのだ、ということを認識しておくべきである。

 山本晃也は、明らかに胃袋の容量に限界がある選手であり、一応は60ポイントを超えて一流選手の一角を占めてはいるものの、これ以上の能力の伸張は、やや望み薄だろう。
 ただし、今後は「フードバトルクラブ」が一層早食い・スプリント化の一途を辿る可能性が高く、その意味では時代に恵まれたフードファイターと言う事も出来るか。

 “早食い”系カテゴリと同様、“大食い”系カテゴリでも、高い実力を誇るバイプレーヤーが多数登場してくれた。
 高橋信也立石将弘といった、“早食い”系でも活躍しているゼネラリストや、最近では珍しい、“大食い”系のルーキー・加藤昌浩などがその代表的な存在である。

 「大食い選手権」組の稲川祐也、清遠学、田澤康一、渡辺人史といった面々は、ポイントが伸び悩んだ。
 これは、彼らの能力絶対値よりも、「大食い選手権」が抱えた構造的欠陥によるものが大きく、彼らには気の毒としか言いようが無い。しかし、客観的基準に基づいてハンデを設定する以上は、どうしてもこういうケースは発生してしまう。
 「大食い選手権」は、時に茹でダコのような、およそ大食いには向かない食材をテーマに設定することがある上に、1名ないし2名の成績下位選手が脱落してゆく競技を1日で3回も4回も行う形式で大会を行う。こうなると、上位選手は意識的に力をセーブして次に備えるため、どうしても記録が伸び悩みやすい。もちろん、これらの事情を考慮して、ある程度のポイント調整は行っているのだが、それにも限度というものがあるのが現状だ。
 この問題ついては、また明後日の総括で触れるが、今までになくフードファイトがスポーツ色を強く出している現在、未だに“ビックリ人間大集合”的意味合いを残した「大食い選手権」は、大きな過渡期を迎えている。これは何も、「フードバトルクラブ」を真似しろと言っているわけではない。「大食い選手権」の持つ長所を一杯に引き出せば、もっと面白くて競技色の強い「大食い選手権」ができるはずなのである。今、スタッフの方々が抱いているであろう危機感をもっとバネにして、よりよい番組と「大食い選手権」製作に力を注いで欲しいものだと思う。

 ところで、「フードバトルクラブ」では多数の海外招待選手が参加している。これは、恐らくフードファイトを良く知らない新規ウオッチャーに日本の一流フードファイターの高い能力を知ってもらうために、ある種の“モノサシ”を提供したものだと思われる。
 本人がそれを知っているかどうかは別にして、製作サイドから、“看板倒れの負け役”という役どころを期待されて出場した招待選手は、期待通り(?)、そのことごとくが日本の一流選手たちに敗れ去っていった。
 しかし、中には新井和響越えを果たしたキングコング・バンディのように、見せ場を残した選手も数名見受けられた。今後もこの招待制度が続くかどうかは極めて疑問だが、ひょっとすると、白田・小林らを脅かす存在が現れるかもしれない。この事も、脳裏の片隅には留めておく必要がありそうだ。

 繰り返し述べてきたように、2001年はスーパールーキーが多数現れ、フードファイト界が大いに隆盛した記念すべき年であったが、唯一残された課題が、女性大食い選手のコマ不足である。
 初期のフードファイト界に咲き誇った“元祖女王”・伊藤織江や、現在に至る赤阪尊子の活躍を見ても分かるように、かつてフードファイトは女性上位の世界であった。
 ところが、赤阪以後の女性フードファイターで目立つ活躍を見せた者と言えば、岩田美雪井手香里くらいで、彼女らにしても赤阪の牙城を崩すには到底至らないでいる。世代交代が全く進んでいないのだ。
 ディフェンディングチャンピオンの赤阪を迎えて行われた「甘味大食い女王選手権」でも、終わってみれば赤阪の圧勝。浜島雅代、田川理加といったルーキーたちは文字通り一蹴されてしまった。田川はその後、地方の大食い大会を行脚して実績を積み重ねてはいるが、「フードバトルクラブ2nd」では、ボーダーラインに到底及ばない記録で惨敗するなど、未だ“大食い以前”の印象が否めない。
 また、シーズン終了間際になってようやく、別府美樹が岩田美雪と互角の勝負をして希望を繋いだが、現時点では赤阪越えは難しい情勢である。
 赤阪の“本当の”引退が、遅くとも2〜3年以内に迫ってきている現在、新たな女性フードファイターの発掘は急務である。業界挙げてのスカウト活動を期待したい。


 以上で、各カテゴリのフリーハンデと解説が一通り終了しました。
 そして、これらを踏まえて、次回の文化人類学講義で「総括」を行います。各カテゴリを総合した順位表の発表と、総合解説を掲載する予定です。

 なお、明日(火曜日)は日程調整のため休講、明後日(水曜日)は演習(現代マンガ時評)がありますので、次回の文化人類学講義は木曜日になります。
 では、今日の講義を終わります。(続く

 


 

2月17日(日) 文化人類学
「2001年度・フードファイターフリーハンデ(2)
〜スプリント・早食いの部〜

 今日の講義は、一昨日からの続きになります、「フードファイターフリーハンデ(以下、「FFFハンデ」)」です。
 今日は5分以内の早食いを競う“スプリント”と、5分から15分までの早食いを競う“早食い”、以上2つのカテゴリについてハンデと解説を発表します。
 「FFFハンデ」についての規則等は、前回「早飲みの部」のレジュメをご覧下さい。こちらをクリック
 それではさっそく、「FFFハンデ」の公開へ移ります。初めに両カテゴリのハンデを掲載し、その後、両カテゴリまとめての解説を掲載します。
 なお、本文中は敬称略、文体を変えてお送りします。


「2001年度・フードファイターフリーハンデ」
〜スプリント・カテゴリ〜

順位 ハンデ 選手氏名
65 小林 尊
64 藤田 操
  64 山本 晃也
63 新井 和響
  63 高橋 信也
62 白田 信幸
61.5 山形 統
60 射手矢 侑大
  60 小国 敬史
  60 立石 将弘
11 57 田澤 康一
12 56.5 岸 義行
  56.5 駿河 豊起
14 55 赤阪 尊子
15 54.5 加藤 昌浩
16 54 中野 正紀
17 53.5 木村 登志男
  53.5 南 壮介
19 53 武田 明則
20 52 平田 秀幸
21 51 井出 香里
  51 柿沼 敦夫
  51 滝 宏隆
24 50 河津 勝
25 49.5 樋口 数佳
26 49 向口 誠一
  49 キングコング・バンディ
28 48 ハン・チンユ

※主な競技結果※

フードバトルクラブ2nd・プレステージ

ハンデ(上位5名)
()は他競技での最高値

選手氏名
65 小林 尊
63.5(64) 山本 晃也
63 新井 和響
63 高橋 信也
61.5(62) 白田 信幸

フードバトルクラブ2nd・1stステージ
(スプリントカテゴリ内のみ)

ハンデ
()は他競技での最高値

選手氏名
64 山本 晃也
54 中野 昌紀

FBCキングオブマスターズ・2ndステージ
(スプリントカテゴリ内のみ)

ハンデ
()は他競技での最高値

選手氏名
63 新井 和響
60 小国 敬史
55(57) 田澤 康一
51 柿沼 敦夫

FBCキングオブマスターズ・敗者復活戦
“fast”(天むす20個)

ハンデ(上位5名)
()は他競技での最高値

選手氏名
59(61.5) 山形 統
53(54.5) 加藤 昌浩
52.5(56.5) 駿河 豊起
52 平田 秀幸
49 K・バンディ

FBCキングオブマスターズ・敗者復活戦
“much”(ジャンボラーメン)

ハンデ(上位2名)
()は他競技での最高値

選手氏名
51 柿沼 敦夫
50.5(60) 射手矢 侑大

FBCキングオブマスターズ・3rdステージ
ラーメン、餃子、寿司ゾーン総合評価

ハンデ(上位5名)
()は他競技での最高値

選手氏名
65 小林 尊
62(64) 山本 晃也
62 白田 信幸
61.5 山形 統
60.5(63) 高橋 信也

FBCキングオブマスターズ・準決勝第1試合
第2セット(寿司・3分)

ハンデ
()は他競技での最高値

選手氏名
56(64) 山本 晃也
55(63) 新井 和響

FBCキングオブマスターズ・準決勝第3試合
第2セット(寿司・3分)

ハンデ
()は他競技での最高値

選手氏名
61(65) 小林 尊
59.5(63) 高橋 信也

TVチャンピオン・「大食いスーパースター史上最大のチャレンジマッチ」
キウイ70個早食い対決

ハンデ
()は他競技での最高値

選手氏名
64 藤田 操

〜早食いカテゴリ〜

順位 ハンデ 選手氏名
67 小林 尊
62 新井 和響
60.5 白田 信幸
  60.5 立石 将弘
  60.5 高橋 信也
60 射手矢 侑大
59.5 山形 統
59.5 山本 晃也
59 チャールズ=ハーディ
10 58 赤阪 尊子
11 57.5 岸 義行
12 57 小国 敬史
13 55.5 藤田 操
  55 滝 宏隆
15 55 加藤 昌浩
16 49.5 奥野 栄悟

フードバトルクラブ1st・準決勝第1試合

ハンデ
()は他競技での最高値

選手氏名
56.5(60.5) 高橋 信也
56(58) 赤阪 尊子

フードバトルクラブ1st・準決勝第2試合

ハンデ
()は他競技での最高値

選手氏名
57(67) 小林 尊
56(62) 新井 和響

フードバトルクラブ1st・準決勝第3試合

ハンデ
()は他競技での最高値

選手氏名
53(60.5) 立石 将弘
52(53) 加藤 昌浩

大食い選手権・九州縦断ニューフェイス決戦
第1ラウンド(早食いカテゴリのみ)

ハンデ
()は他競技での最高値

選手氏名
60.5 高橋 信也
58.5(60.5) 立石 将弘
58(60.5) 白田 信幸

TVチャンピオン・早食い世界一決定戦
日本予選・決勝

ハンデ
()は他競技での最高値

選手氏名
61(67) 小林 尊
55(60.5) 高橋 信也
54(60.5) 立石 将弘

ネイサンズ・国際ホットドッグ早食い選手権

ハンデ(上位3名)
()は他競技での最高値

選手氏名
67 小林 尊
62 新井 和響
59 C・ハーディ

TVチャンピオン・甘味女王選手権
第1ラウンド(早食いカテゴリのみ)

ハンデ
()は他競技での最高値

選手氏名
58 赤阪 尊子

フードバトルクラブ2nd・1stステージ
(早食いカテゴリ内のみ)

ハンデ(上位5名)
()は他競技での最高値

選手氏名
67 小林 尊
60 射手矢 侑大
60(60.5) 立石 将弘
60(62) 新井 和響
57 小国 敬史

フードバトルクラブ2nd・準決勝第1試合

ハンデ
()は他競技での最高値

選手氏名
60.5 白田 信幸
53 加藤 昌浩

フードバトルクラブ2nd・準決勝第2試合
※最高値は、山本が勝った寿司対決

ハンデ
()は他競技での最高値

選手氏名
57.5 岸 義行
58 山本 晃也

フードバトルクラブ2nd・準決勝第3試合

ハンデ
()は他競技での最高値

選手氏名
61(67) 小林 尊
59.5(60) 射手矢 侑大

FBCキングオブマスターズ・2ndステージ
(早食いカテゴリ内のみ)

ハンデ
()は他競技での最高値

選手氏名
60.5 立石 将弘
59.5 山本 晃也
58(60.5) 高橋 信也
54(60.5) 白田 信幸

FBCキングオブマスターズ・準決勝第1試合
第1セット(シューマイ・10分)

ハンデ
()は他競技での最高値

選手氏名
58(59.5) 山本 晃也
57(62) 新井 和響

FBCキングオブマスターズ・準決勝第2試合
第2セット(ステーキ・10分)

ハンデ
()は他競技での最高値

選手氏名
60(60.5) 白田 信幸
59.5 山形 統

FBCキングオブマスターズ・準決勝第3試合
第3セット(シューマイ・10分)

ハンデ
()は他競技での最高値

選手氏名
59(67) 小林 尊
57(60.5) 高橋 信也

 2001年のフードファイト界は、わずか半年余りの内に、大食いから早食いへ、そしてスプリントへと、針が右端から左端まで振り切れてしまうような激動の年になった。
 つい最近まで、日本のフードファイトでは何よりも大食いが重視され、早食いやスプリント勝負は、番外戦にも似たなおざりな扱いを受けていた。
 これは、フードファイトの原点が、人間の胃袋の限界を争うところから始まっているからだが、それと同時に、「時間をかけて膨大な量の食材を食べ続け、なおかつ、競技時間を終えても胃袋を余している」という事を最大の美徳としてきた、我々ウオッチャーのフードファイトに対する姿勢も大きかったであろう。日本のフードファイト界が民放TV局に大きく依存している以上、視聴者の嗜好を重視した大会の運営がなされる事は、ある種必然と言えた。

 しかし、そこへ大きな一石を投じたのが、後発のTBSが大々的に開催した「フードバトルクラブ」であった。
 「フードバトルクラブ」では、先発のTV東京「大食い選手権」シリーズとの差別化を図り、敢えてそれまでのフードファイト・ウオッチャーの嗜好に挑戦的な態度をとって、新たなフードファイト・ファン層の開拓に挑んでいった。すなわち、それが早食い・スプリント系競技を重視し、ノーカットで迫力のある“絵”を演出することである。
 これは非常に危険な賭けであり、そして3度の大会を経てもなお、未だにコアなフードファイト・ウオッチャーに嫌悪感を抱かさせているように、今でもその賭けが、完全に成功しているとはとても言えない状況である。
 だが、そのような課題を残しながらも、「フードバトルクラブ」が、フードファイト界に与えた影響は極めて大きい。
 というのも、「フードバトルクラブ」で、トップ選手による短時間の競技が複数回行われるようになって、それまで45分ないし60分かかって完食するのが相場とされた記録が、あっという間に早食いや早大食い、時にはスプリントの範疇にまで“降りてくる”ようになったのである。即ち、記録の高速化とインフレ化である。
 この高速・インフレ現象は、大食い競技の記録にも影響を及ぼした。早食いのペースが大食いに持ち込まれる事によって、それまで常識では考えられなかった大食い記録が次々と誕生する事となった。
 「フードファイトをスポーツと認識するかどうか」という論争は、現在もなお決着を見ていないが、少なくとも“競技”や“選手権”という用語が適用されるモノである以上は、勝敗や記録を重視するのは至極当然の事である。
 これまでの「記録はやや平凡でも余裕残しである」事から、「偉大な記録を残して圧勝する」という当然の認識へと、ウオッチャーの見る目を向けさせたという意味でも、「フードバトルクラブ」の果たした功績は大きかった。
 イメージ戦略の大失敗で、「フードバトルクラブ」は放送するたびに抗議が殺到するという“低俗番組”化してしまったが、我々ウオッチャーは、冷静にこの番組の清濁を合わせ飲んで、功績は功績として称え、問題点は問題点として改善を願うべきであろう。

 ところで、「フードバトルクラブ」の誕生により、様々なレギュレーションの競技が実施された事で、大きな混乱を招いたのが“早食い”と“大食い”の境界線の解釈に関する問題だった。
 TV東京主催の大会では、制限時間12分以内の競技を“早食い”とするが、TBSの「フードバトルクラブ」では、10分や、場合によっては2分半で勝負がつく競技でも“大食い”という呼称を使用している。
 これは言ってみれば、陸上の400m走を、五輪では「短距離」と呼び、世界陸上では「長距離」と呼ぶようなもので、極めて憂慮すべき事態と言える。
 だが、そもそも“早食い”とは「短い時間内で、多くの食材を食べる能力を持つ人」の事であり、一方の“大食い”は、「非常に多くの食材を食べられる(胃袋を持つ)人」の事であるはずだ。
 この事を考えると、優れたフードファイターが、どうやっても満腹になるまで食べる事が出来ないような、そんな短時間の競技を“大食い”とするのは明らかにおかしい。やはり、勝負の決め手がスピードではなく、胃の容量になる時間帯から“大食い”という呼称を使用するべきであろう。
 そこで「FFFハンデ」では、15分以内の競技を“早食い”30分を超える(主に45分以上の)競技を“大食い”として認識する。その中間(15分超〜30分)は、大半の選手には“早食い”の範疇と思われるが、トップクラスの選手では、人間の限界に近い10kg以上の記録を残せることから、“早大食い”という造語を充てさせてもらう事にした。あらかじめご承知願いたい。
 それでは以下、各選手の解説に移る。

 フードファイトの高速化の流れにいち早く乗り、見事に才能を開花させたのが、小林尊であった。
 小林は2000年秋、デビュー戦となった「大食い選手権」オールスター戦で、岸・赤阪・新井ら、それまでのチャンピオンクラスを総ナメにし、衝撃のデビューを果たした。それはそれでインパクト抜群の出来事であったが、“早食い”の力量については、その時点ではまだ完全に未知数だった。
 ところが、2001年春の「フードバトルクラブ1st」で、15分の早食い勝負で新井和響に勝利してから一躍脚光を浴び始める。それから返す刀でネイサンズ・国際ホットドッグ早食い選手権の予選会に参戦し、そこで高橋信也、立石将弘を一蹴して本大会出場枠を掴むや、その本番でも、12分で50本という大記録を叩き出して圧勝した。
 この記録がフードファイト界に与えた衝撃はハンパなものではなく、それまで我々が“早食い”と呼んでいたものは何だったのだろう、という気持ちすら抱かせた。
 それ以後も、2回の「フードバトルクラブ」では、スプリント・早食いカテゴリの競技で無敗をキープし、2001年シーズンを終えた。“大食い”では白田信幸に王座を明け渡したが、“早食い”に関しては、まだ彼の右に出るものはいない。
 ところで、小林尊の隠れたベストパフォーマンスと言えるのが、「フードバトルクラブ2nd」の1stステージ「ハングオーバー」であった。
 この入札方式の変則競技・「ハングオーバー」では、選手自身が把握している能力値ギリギリか、若しくはその半歩上の記録にチャレンジしなければ、ステージ通過は難しい。そのため、ステージ通過選手のチャレンジは、おおむね自己ベストの好スコアとなる。今回のフリーハンデでも「ハングオーバー」がベストパフォーマンスと認定された選手が多いが、それは偶然ではなく必然である。
 小林尊がこの時挑んだのは、「1皿490gのカレーライス13皿(6.37kg)を30分」という条件であったが、それを6分余り、1皿あたり30秒強でクリアしてしまった。重量、タイムとも常識外のハイ・レコードである。
 この「怪」記録は「FBCキングオブマスターズ」決勝の記録(19分弱で14皿)と比較しても、余りにも突出し過ぎた記録であるため、VTRで、食材の重量に詐称が無いか入念にチェックをした。が、この時のカレーライスは、「FBCキングオブマスターズ」決勝に使用されたカレーライス(1皿500g)と比較しても、少しだけライスの量が違う他は、ほとんど差は認められなかった。よって、この記録は正当であり、ホットドッグ世界一決定戦で見せたのと同程度のビッグ・パフォーマンスと認識するべきなのだろう。
 
 2001年のシーズン終了間際、“眠れる野獣”藤田操が素晴らしいパフォーマンスを演じ、我々を驚かせた。
 藤田操は、現役選手の中では武田昌子、赤阪尊子、新井和響に次ぐキャリアを誇るベテラン選手で、全盛期の1990年代後半には、同じく当時全盛期を迎えていた赤阪尊子と互角以上のパフォーマンスを見せつけていた。
 しかし3年ほど前から、消化能力と代謝能力に顕著な衰えが表れて肥満となり、往年の迫力が衰えていた。
 それでも、ホットドッグ早食い世界一決定戦などの一発勝負では強さを見せ付け、能力そのものは、現在の一流選手とも互角に争えるだけのものを持っている事を覗わせていた。
 そんな状況下で彼が挑んだのが、「大食いスーパースター史上最大のチャレンジマッチ」内の企画、「キウイ70個早食い勝負」であった。
 この競技は、なんと1人対7人のハンデ戦の上、藤田のみ、10個完食ごとに10mほど離れた次の皿が乗ってある机までダッシュしなくてはならない、というキテレツなもので、藤田に対する嫌がらせとしか言いようの無いレギュレーションであった。
 「TVチャンピオン」では時折、藤田に対して無謀なチャレンジを強いる事があり、これもその中の1つに数えられるものだった。もしかすると番組側は、負けても番組の看板に傷のつかない藤田に“負け役”を務めさせたかったのかも知れない。
 ところが、である。藤田は恐らく生涯最高とも言えるベストパフォーマンスで、この競技に勝利した。記録は70個(4.9kg)のキウイを、ロスタイム込みで2分34秒完食。1個あたり実質2秒弱というスピードである。しかも、巨体を揺らして走るというハンデを乗り越えて。
 この記録を数字のみで評価した場合、小林尊の「カレー13皿6分」と並ぶような驚異的なパフォーマンスであり、ハンデも66か67を与えなくてはならなくなる。そうなると、スプリントカテゴリで、小林尊を抜いてしまう。だが、「FFFハンデ」は、能力の数値化以外に選手の順位付けの機能も有している。無敗の小林尊が、直接対決では敗れたことの無い藤田操よりも順位が下というのは、やはりおかしい。そこで、競技に使われたキウイが柔らかくて食べやすいという事などを考慮して64までポイントを下げ、これを採用した。小林尊や山本晃也ならともかく、63ポイントを与えた新井和響や高橋信也には、クリアできるかどうか微妙な記録であろうから、このポイントは的確であると確信している。

 山本晃也は、“早食い”の隆盛が無ければ、恐らく埋もれたままになっていたフードファイターだろう。
 彼のデビューは、悪名高き「いきなり! 黄金伝説」で、その番組内で新井和響に勝利を収めたものの、新井が体調不良であったため、その評価はさほど高くなかった。
 しかし、「フードバトルクラブ2nd」でメジャーデビューを果たした彼は、あっという間に業界内の評価を一変させる。
 寿司60皿完食タイムトライアルでは、小林尊に次ぐ2位、そして「ハングオーバー」では、お茶漬け8杯5.2kgを3分3秒で完食というスーパーレコードを樹立。新井に勝利した事がフロックではなく実力であった事は、この時点でハッキリした。そして、「フードバトルクラブ・キングオブマスターズ」では決勝まで進出し、早大食い、大食いの範疇にまで活躍の舞台を広げている。
 蕎麦アレルギー、寿司嫌いという弱点は抱えているものの、卓越した早食い、そして早飲みの能力で、これからも“早食い”系競技の主役として活躍していく事だろう。

 新井和響にとっての2001年シーズンは、前年とは打って変わって、苦渋に満ちたシーズンとなった。
 小林尊、山本晃也らスーパールーキーの台頭に苦しめられ、また、記録の高速化は、口が小さいために食材をよく噛んで飲み込まなくてはならない新井にとっては、逆風そのものであった。
 だが、彼はそんな困難な状況下でも、競技会のたびに自己ベストを更新し、非公式ながら寿司60カンの早食いレコードを達成してもいる。ステーキなど、飲み込むまでに咀嚼が必要な食材では苦戦を強いられているが、寿司などの柔らかい食材では未だにトップクラスの実力を維持していると言えよう。
 よく考えてみれば、もともと新井の“早食い”における覇権は、己の力で勝ち取ったというよりも、中嶋広文ら、彼より早い選手が引退した事で転がり込んできたものであった。しかし、それに奢らず鍛錬を重ねていたからこそ、現在の彼があるのであって、その精神力は敬服に値する。

 黄金世代・2001年組の1人である高橋信也は、今回全カテゴリで高いポイントを獲得、稀代のゼネラリストとして幅広い活躍を見せている。各大会に出場しては好記録や見せ場を作り、今や大食い競技会には欠かせない存在だ。
 しかし、どの大会でも決勝進出がやっとで、小林尊、白田信幸ら、各カテゴリのチャンピオンとは逆転不可能な格差をつけられているのも確か。ゼネラリストというよりも“器用貧乏”という印象が強いのが現状で、今年、このイメージをいかに払拭するかが見もの。

 現在“大食い”では無敵に近い存在の白田信幸だが、そのパフォーマンスを支えているのは、実は相当な高水準の早食い能力である。
 デビュー当時の白田は、早食いが苦手であるという印象が強かった。だがそれは、早食いが苦手というよりも嫌いだったというのが真相のようで、本格的にフードファイトを始めてからは、そう間もない内に早食い能力を身に付けてしまった。
 巨漢の大食い体質という、極めつけの特異体質を持った白田信幸だが、どうやら彼は、食べる能力でも天賦の才を持っているようで、正にフードファイトのために生を受けたような男だ。

 ここに来て急成長を遂げつつあるのが、自衛隊員という異色のフードファイター・山形統である。胃の容量には明らかな限界があり、“大食い”での台頭は望めないが、ここしばらく“早食い”能力の成長がめざましい。今年の「フードバトルクラブ」では台風の目となり得る可能性を秘めており、要注目と言えよう。

 以下のランキングにも2001年組がズラリと顔を並べる。
 立石将弘は、力量的にはバイプレーヤーの域を出ないが、時折印象的なパフォーマンスを見せており、これからの活躍を期待したい。
 「大食い選手権」新人王の射手矢侑大も、早食い力をバックボーンにして“大食い”で活躍している選手である。年末には大スランプと引退問題に直面し、今年の活動が憂慮されているが、出てくれば、勿論主役の1人である。
 ルーキーの中で、最も成長力を秘めているのが小国敬史であろう。荒削りな才能をいかに洗練させるか、注目に値する選手である。
 その他、田澤康一など散発的に好パフォーマンスを見せる選手も多い。彼らが一流選手といかに伍していくかが、業界全体のテーマでもあろう。

 一方で、時代の流れに取り残されそうになりながら、懸命に頑張っている、かつての主役たちがいる。 
 “早食い”中心のフードファイト界において、追い詰められた立場にいるのが赤阪尊子であろう。唯一残ったタイトル「甘味大食い女王選手権」では、格下相手とは言え圧勝で初防衛を果たしたが、「フードバトルクラブ・キングオブマスターズ」の1回戦で、小林尊相手に餃子100個差をつけられて惨敗。かつての赤阪の栄光を知っている者には信じがたい光景であったが、何のことは無い、現在の実力差がそのまま現れただけの話であった。スプリントカテゴリでの10ポイント差が全てを物語っている。大食い力では、まだある程度の力を維持しているものの、そろそろ現役生活の幕引きを考えるべき時期に来ているのかもしれない。
 岸義行は、わんこそば15分の日本記録保持者でもあり、早食いに全く適性が無いわけではないが、それでもやはり、若い世代の勢いに押されっぱなしの1年となった。秋の「フードバトルクラブ」「大食い選手権」で共に決勝進出を果たしたように、健在はアピールしてはいるが、かつての勢いはもうない。


 …と、いうわけで、早食い系のフリーハンデをお送りしました。次回はいよいよ大食い系のフリーハンデです。どうぞ、お楽しみに。 (明日に続く) 

 


 

2月16日(土) 集中講義・競馬学特論
「G1直前予想・フェブラリーS編」

駒木:「今日から、今年度の競馬学特論を始めることにしよう。今年も、中央競馬の平地G1レースが実施される週の、土曜深夜に講義を実施するよ。ジャパンCダートについては、また秋に考えよう。
 それでは、今年も聞き手を担当してくれる、助手の珠美ちゃん、一言だけ挨拶を」
珠美:「ハイ。今年もよろしくお願いしますね……って、毎週、競馬学概論でお目にかかってるので、期間が開いた気がしないんですけどね(苦笑)」
駒木:「まぁ、物事には区切りとケジメが必要という事さ。…それじゃ、早速始めようか。今週はフェブラリーステークスだね」
珠美:「ハイ。東京競馬場のダート1600mで争われる、地方との統一G1競走ですね。あ、レースについての詳しい解説は、先週の競馬学概論のレジュメを参考してくださいね。今年でG1レースに昇格してから6回目となります。
 でも博士、正直言って、この時期に中央のG1レースと言われても、どうにもピンと来ないんですが(苦笑)」

駒木:「そうだね(苦笑)。僕も大分慣れたけど、未だにちょっと違和感がある。このレースを2月に施行する必要性は、レース名以外に存在しないとはよく言われたものだけれども(笑)。……まぁ、無駄話はそれくらいにして、とにかく出馬表を見ようか」

フェブラリーステークス 東京・1600・ダート

馬  名 騎 手
    イシヤクマッハ 本田
× ノボトゥルー ペリエ
トゥザヴィクトリー 武豊
    ゲイリーイグリット 松永幹
    サウスヴィグラス 横山典
  × イーグルカフェ 田中勝
× ウイングアロー 岡部
× トーホウエンペラー 菅原勲
アグネスデジタル 四位
    10 スノーエンデバー 村田
    11 ゴールドティアラ 江田照
× 12 トーシンブリザード 石崎隆
    13 ワシントンカラー 後藤
    14 リージェントブラフ 吉田
    15 プリエミネンス 柴田善
  × 16 ノボジャック 蛯名

珠美:「G1馬が1、2、3………わ、10頭もいるんですね。半分以上がG1勝ち馬ということになります」
駒木:「まぁ……ね(苦笑)。でも、いくら統一グレードとはいっても、公営競馬のレースに設定されたグレードは、かなり割引が必要だよ。その時のメンバーをキチンと把握しておかないと痛い目に遭う」
珠美:「と、いいますと……?」
駒木:「公営競馬のグレードレースってのはね、地元のオープン馬が出走馬の半数くらいを占める事が多いんだ。そして、枠の残り半分を、他地区の所属馬と中央所属馬で分け合う。で、公営競馬場の大半はレヴェルがかなり低いから、自然と出走馬の平均レヴェルは下がる事になるわけ。これはG1でも変わらない。勿論、レヴェルの高いG1だってあるけどね。
 だから、G1勝ちってことに惑わされず、戦績と対戦してきた相手関係なんかを注視しておかないとダメってことさ」
珠美:「わ、分かりました。奥が深いですね(汗)」
駒木:「まぁ、これはダートに関わらず、芝のG1レースでも大事な事なんだけどね。それじゃ、予想に移ろうか」
珠美:「ハイ。えー、今回は、あらかじめ博士にピックアップしてもらった馬だけ、具体的な解説を付けて頂く形式にします。ですので、解説に登場しなかった馬は、上位に食い込む可能性が相当低い馬、ということになります。あらかじめご承知おきください。
 それでは、まず1枠2番のノボトゥルーからお願いします。博士の本命馬ですね」

駒木:「そう。で、この馬、昨年の優勝馬だね。その時は、準オープン→根岸S(G3)と連勝して、その勢いそのままにG1まで勝ってしまった。昇り馬が頂点まで登りつめた珍しいケースだったね。
 それからは、やや調子を崩していたりしたけれど、この馬にとっては不得手の中距離レースが多かった。だから、さほど大きな問題じゃない。
 不覚らしい不覚は前走の根岸Sだけど、この馬に不利な条件が重なった上、1着馬がスプリンターのサウスヴィグラスだから、このレースでの影響は少ないよ。
 地力的な面は……そうだね、アグネスデジタルやトゥザヴィクトリーに比べると、ちょっと可哀想な気がするかな。でも、今回は鞍上がペリエになる上、展開有利になりそうな感じがする。今回は有望だね
珠美:「ハイ。それでは次は2枠3番のトゥザヴィクトリーを。有馬記念3着以来のレースになりますね。博士の▲印です」
駒木:「もうお馴染みだね。距離・条件問わず、ゴール前200mまでなら世界最強馬。でも、ゴール板では準一流馬。予想が本当に難しい馬だねぇ(苦笑)。
 去年のこのレースは、ダート適性を疑われはしたけど、3着粘り込みで力を示した。で、その直後のドバイワールドCで大健闘の2着。気が付いたら、ダートでは現役最強牝馬になっていた。
 力量的には申し分ないよ。勝ってもおかしくない。ただ、詰めの甘さがなぁ……。今回、先行馬は息の入らない展開になりそうなんで、特に心配だね。勿論、力とスピードの差で、他の先行馬を千切ってしまう事もあり得るわけだけど。僕的には、また3着かな、という気がしてならないんだけど」
珠美:「いよいよブロンズコレクタークラブからお呼びがかかりそうですね(笑)。……さて、次は3枠6番のイーグルカフェです」
駒木:「2年前のNHKマイルC馬で、ダートはこれで6戦目。昨年の武蔵野Sで、クロフネから約11馬身差の2着したのが、実績らしい実績になるのかな。今回はクロフネがいないわけだから、大差負けも度外視していいんだけど……。う〜ん、でもやっぱり他のメンバーが物足りないね。それ以前のダート実績も心許ないし、ちょっと今回は、微妙に力が足りない気がするなあ」
珠美:「…次は4枠7番、ウイングアローです」
駒木:「東京競馬場で行われたダートG1で、2勝2着2回か。凄いよねぇ。
 前走は大敗してるけど、これは極度に苦手のコースだったから仕方ない。問題は馬の仕上がり具合と展開。仕上がりの方は、この1週間で持ち直したみたいだけど、展開はどうかな。平均ペースが予想される今回のレースで、前の馬が揃ってバテることは考えづらいからねえ。地力そのものは、アグネス、トゥザに次ぐ3番手だと思うけど、今回はやや苦戦かな
珠美:「……もう1頭の4枠、公営の雄・トーホウエンペラーはどうでしょうか?」
駒木:「25戦17勝2着5回か。まぁ、参考になるのは、ここ4戦だけだと思うんだけど、それにしても健闘してるね。だが、問題が無いわけじゃない。
 ……これは後で述べるトーシンブリザードとも共通してる話題なんだけど、東京大賞典で競り合ったリージェントブラフとの力関係をどう解釈するか、というのが結構大きな問題になってくる。
 リージェントブラフは、中央G1だと入着も覚束ない能力しかないんだけど、南関東のコースとの相性が抜群で、大井や川崎だと、とにかく強い
 ただこれが、公営だと能力がこの馬に加算されるのか、それとも公営の重賞だと、中央に比べるとレヴェルが低いから勝てるだけなのか。その真相がどっちなのかが分からない。前者ならともかく、後者のケースだと、公営の2頭は中央では掲示板程度の実力ってことになる。
 僕は、とりあえず“真ん中”で解釈したけどね(苦笑)。
 あ、それとこの馬は左回りが苦手なんだ。これをどう克服するか、だね」
珠美:「受講生の皆さんがついて来れているか、ちょっと心配になってきましたが(苦笑)、大事なことをお話しになったみたいですから、要注意ですよ」
駒木:「おいおい、『なったみたい』って、珠美ちゃんも分かってないのかい(苦笑)?」
珠美:「いえ、私は何とか(苦笑)。では、次は5枠9番アグネスデジタルですね。1番人気が予想される馬ですが、博士は対抗の○印です」
駒木:「公営ダート、中央芝、香港国際とG1を3連勝稀に見るゼネラリストだねぇ。脇役的な存在で参戦して、しれっと勝っちゃう。今になって、ようやく実績に人気が追い着いたってところかな。
 多分、実力的にはナンバーワン。展開も、トゥザヴィクトリーを目標に置いてレースが運べるので不利じゃない。ただし、今回は海外遠征を睨んで、やや余裕残しの調整。レースでも無理して勝とうとはしないだろうしね。そういう馬を本命にするわけにはいかなかったから印を落としたけど、圧勝してもおかしくないよ」
珠美:「アグネスは私の本命馬ですから、頑張って欲しいです(笑)。……では、次は6枠の2頭ですね。11番ゴールドティアラと、12番トーシンブリザードを」
駒木:「ゴールドティアラは、本来なら有力馬なんだけど、すっかりスランプに陥ってしまった。復調気配が見えてこないし、今回は残念ながら圏外かな。
 トーシンブリザードは、とにかく相手関係だろうね。この脂っこいメンツに混じって、正攻法で勝負できるかどうか。トゥザヴィクトリーを競り落として、アグネスデジタルやノボトゥルーの追撃を完封しないと勝てないからね。それを考えると、かなりハードルが高い気がするなあ。勝たれたら『恐れ入りました』だけど、ちょっとねぇ……」
珠美:「差し勝負する可能性はどうでしょう?」
駒木:「うん。公営ローカル重賞で、1度だけ差し切り勝ちがある。でも、それはそれで前残りの可能性が大きくなる要因を作る事になってしまうよ。行くも地獄、引くも地獄だね」
珠美:「う〜ん。この馬が、何だか可哀想になって来ました(苦笑)。それでは最後に大外8枠16番のノボジャックの解説をお願いします」
駒木:「昨年、短距離の公営グレードレースを6連勝した馬だね。今回は1600mの距離と、他の先行馬、特にトゥザヴィクトリーとの兼ね合いが問題になってくるね。それに今回は、同厩舎・同馬主のノボトゥルーのペースメーカー役に徹するんじゃないかって噂もある
 好走の条件を挙げるなら、トゥザヴィクトリーが後方待機を決め込んで、なおかつトーシンブリザードが凡走した場合。……ちょっと厳しいよね。『同一厩舎・馬主の馬は人気薄を買え』って格言があるけれど、常識から考えると、ちょっと辛いかな」
珠美:「……ハイ。ありがとうございました。それでは最後に買い目をお願いします」
駒木:「本線は2、3、9のBOX。押さえを買うなら、2番から印の付いた馬へ。僕は100円馬券師だから、枠連1-4も念頭に入れてるよ」
珠美:「私は3、8、9、12のBOXが基本ですね。あと、9番から2、6、7、16…あぁ、どうしても多くなっちゃいますね(苦笑)」
駒木:「馬連なら、1番人気で10倍程度だから、手を広げても良いとは思うけどね。……ありゃりゃ、また大分時間オーバーだな(苦笑)。講義を終わろうか」
珠美:「ハイ。皆さんも頑張ってくださいね〜」


フェブラリーS 結果(5着まで)
1着 アグネスデジタル
2着 12 トーシンブリザード
3着 ノボトゥルー
4着 トゥザヴィクトリー
5着 トーホウエンペラー

 ※駒木博士の“敗戦の弁”
 えーと、1着-3着、1着-4着、それに2着-3着もか。
 笑うしかないね、こりゃ。まぁ、ノボトゥルーの地力を微妙に読み違えたのが一番大きいかな。競馬って面白いもので、大きな読み違えは“怪我の功名”になるけど、微妙な読み違えは致命的なミスになるからねえ。
 あと、アグネスデジタルの地力と、負けたら言い訳できない戦法で勝負した石崎騎手に脱帽ってところかな。

 ※栗藤珠美の“喜びの声”
 当たっちゃいました♪ しかも、この講座が始まってから、始めて博士に勝つことが出来ました。嬉しいです。10点買いしちゃったんで、当たっても儲からないですけど、嬉しいです(笑)。


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