「社会学講座」アーカイブ

 ※検索エンジンから来られた方は、トップページへどうぞ。 


講義一覧

8/31 競馬学概論 「90年代名勝負プレイバック〜“あの日、あの時、あのレース”」(16)
8/29 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(8月第5週分)
8/28 社会経済学概論「映画業界の異端児・アルバトロス風雲録」(8)
8/27 ギャンブル社会学特論「フリー雀荘麻雀、ギャンブルとしての期待値の考察」
8/26 犯罪社会学「拝啓、駒木ハヤト様〜夏の困った贈り物」(1)
8/25 社会経済学概論「映画業界の異端児・アルバトロス風雲録(7)」
8/24 競馬学特別講義「目指せ回収率アップ! 馬券学基本講座(4・最終回)」
8/22&23 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(8月第4週分)
8/21 社会経済学概論「映画業界の異端児・アルバトロス風雲録(6)」
8/20 ギャンブル社会学特論「雀荘メンバーというお仕事(2)」
8/18 文化人類学「2002年度・フードファイターフリーハンデ・中間レイト(4)〜総括」
8/17 競馬学特別講義「目指せ回収率アップ! 馬券学基本講座(3)」
8/16 教育実習事後指導(教職課程)「教育実習生の内部実態」(10・最終回)」

 

8月31日(土) 競馬学概論
「90年代名勝負プレイバック〜“あの日、あの時、あのレース”(16)」
1992年菊花賞/1着馬:ライスシャワー

珠美:「丸2ヶ月ぶりの競馬学概論ということになりますね、博士」
駒木:「あれ? そんなに間隔が開いてたんだ」。確かに、ここ最近はご無沙汰だったような気がしてたけど……」
珠美:「今月はずっと馬券学のお話でしたし、先月は特編カリキュラムで競馬学自体を実施してませんでしたし。
 ……えーと、6月29日の、宝塚記念に出走した3歳馬の特集以来になりますね」

駒木:「あー、思い出した! …そうそう、宝塚記念の予想をした時に、随分とトンチンカンな内容を喋っちゃったんだった。それで、懺悔企画ということで、宝塚記念に出走した3歳馬についての特集をやったんだよね。そうか、それ以来になるのかぁ」
珠美:「今日採り上げるレースは、博士には大変思い出深いレースとお聴きしていますけれども……?」
駒木:「そうなんだ。僕が一番好きだった馬がミホノブルボンでね。そのブルボンが唯一の敗戦を喫して、しかもシンボリルドルフ以来の3冠を阻止されたという、何とも辛いレースになるんだよね」
珠美:「…分かりました。その辺りも博士に後でお話していただきますね。
 それでは受講生の皆さんにはまず、このレースの出走表をご覧いただきましょう」

第53回菊花賞 京都・3000・芝

馬  名 騎 手
ヤマニンミラクル 河内
メイキングテシオ 大崎
サンキンタツマー 石橋
メイショウセントロ 上籠
ワカサファイヤー 小屋敷
グラールストーン 松永昌
ミホノブルボン 小島貞
ライスシャワー 的場
ランディーバーン 菅谷
10 マチカネタンホイザ 岡部
11 ヘヴンリーヴォイス 田面木
12 キョウエイボーガン 松永幹
13 ヤングライジン 佐藤哲
14 バンブーゲネシス 武豊
15 セキテイリュウオー 田中勝
16 スーパーソブリン 横山典
17 セントライトシチー 南井
18 ダイイチジョイフル 千田

駒木:「菊花賞っていうのは、上位陣以外の出走馬レヴェルは下がりがちなんだけど、この年は特にさびしいねぇ。G1常連と言えるのは、このレースの上位3頭ライスシャワー、ミホノブルボン、マチカネタンホイザ)と、後の天皇賞2着馬・セキテイリュウオーくらいだね。敢えて付け加えるなら、ダート路線で重賞を勝ったバンブーゲネシスは、今ならダートグレード競走でG1常連になっていたかも知れない。
 まぁ、言ってしまえばこのレースはミホノブルボンとライスシャワーのためだけにあったようなレースだね。それ以外の何物でも無い」
珠美:「……と、博士に決め打たれてしまいましたけど(苦笑)、一応ここで人気上位馬について、実績等を紹介させていただきます。菊花賞のレース概要については、3月2日付レジュメ(1994年菊花賞)をご覧下さいませ。
 まず、ダントツの1番人気に推されていたのがミホノブルボン。博士のフェイバリット・ホースですね(笑)。
 ミホノブルボンはここまでデビュー以来7戦7勝。その内5勝が重賞で、朝日杯3歳S(当時)、皐月賞、ダービーと3つのG1レースを制しています
 持ち味は卓越したスピードと、過酷な坂路調教に培われたスタミナを生かしたレースが持ち味で、ここまでのクラシック2冠は2レースとも見事な逃げ切り勝ちでした」

駒木:「ブルボンは逃げ馬なんだけど、決して『逃げないとお話にならない』ってタイプの馬じゃなかった。とにかくスピードの絶対値が違うんだよね。実際、デビュー戦は出遅れてからの追い込み勝ちだし。中京の1000m芝で、上がり3ハロン33秒0だったって言うんだから凄いよね」
珠美:「今で言う2歳馬が上がり33秒0ですか(苦笑)」 駒木:「上がりタイムのレコードだったらしいよ。だからこの馬の場合は、馬ナリで走らせてたらいつの間にかハナに立って逃げ切ってるって感じ。後でも話すけど、この馬の場合は下手にペース配分とか考えるよりも、好き勝手に走らせておいた方が良かったかも知れないね。
 それから、この馬を語る時に欠かせないのが、故・戸山為夫調教師のスパルタ式坂路調教。他の厩舎なら絶対にやらないし、他の馬なら間違いなく潰れていたような激しい調教を施されて、大分後天的な筋肉やスタミナを身につけたみたいだね。当時、ブルボンを担当していた調教助手さんが言ってたけど、『ブルボンにしてみたら、調教よりもレースの方が随分楽だったんじゃないか』って(苦笑)。皐月賞とダービーの間にも、危うくリタイア寸前の猛稽古をしていたって言うから徹底してるね」
珠美:「どうして戸山調教師は、ミホノブルボンにそこまでの猛稽古を施したんでしょうか?」
駒木:「ミホノブルボンというのは、血統的に見て、本質的には中距離もこなせる短距離馬って感じだったんだよね。少なくとも戸山調教師はそう考えていたみたい。
 で、そんな馬が2400mのダービーや3000mの菊花賞で勝つためには、とにかく調教でスタミナを養うしかないと考えたんだろう。生半可な調教で負けるよりも、激しい調教で玉砕した方がまだマシだって思っていたんだと思う。勿論、ブルボンが素質があって、尚かつとんでもなくタフな馬だという事を見抜いた上でのチャレンジだろうけどね。
 戸山調教師は、ブルボンが(旧)4歳になって以来、レースのたびに『これで負けたらブルボンは短距離路線へ向かう』と言っていた。チャンピオンでいながら、いつも崖っぷちで戦っていた。色々な意味で特異な馬だよね。ブルボンって」
珠美:「菊花賞ではダントツの1番人気でしたけど、この時は距離不安云々と騒がれたりはしなかったんですか?
駒木:「距離に関しては2000m皐月賞から『距離が保たない』って言われ続けてたからねぇ(苦笑)。菊花賞の時も一応、言われてはいたけど、散々言われてたダービーを4馬身千切って勝った時点で、“ブルボン距離不安説”のピークは過ぎていたと思う。そうじゃなきゃ、単勝1.5倍のオッズは出てこないよ。ナリタブライアンの時ほどじゃないけど、3冠馬達成濃厚…という感じだったんじゃないかな
珠美:「なるほど、分かりました。それでは次に行きます。2番人気のライスシャワーですね。
 ライスシャワーはこの年のダービー2着馬。秋シーズンには、セントライト記念と京都新聞杯に出走し、共に2着に終わっています。

駒木:「後のG1レース3勝馬も、この時はまだ一介の挑戦者に過ぎないポジションだったかな。
 まぁ、この馬が生粋のステイヤータイプだったと分かっている今なら『無理ないなぁ』と思えるんだけど、とにかくデビュー以来の成績が地味だったんだよね。
 新馬とオープン特別を僅差で押し切った他は、とにかく勝ち味が遅くてねぇ。スプリングSは4着、皐月賞とNHK杯は8着。だからダービーで16番人気だったのもうなずけるってもんだ。
 そのダービーで、熾烈な2着争いを制して、馬連導入後初のダービーで万馬券の立役者になったのが、この馬の出世のきっかけかな。
 それでも秋には当時はまだ条件馬に過ぎなかったレガシーワールドに競り負けたり、京都新聞杯でもブルボンに相手にされなかったりと、どうしてもブルボンとの格の差は否めなかった。菊花賞でも2番人気には推されていたけど、これは他の有力馬がリタイアした影響も強かったね。父リアルシャダイの血でどこまで立ち向かえるか…といったところだったんじゃないかな」
珠美:「3番人気がマチカネタンホイザです。朝日杯4着、ダービー4着という戦歴を経て、秋緒戦には古馬との混合オープン戦・カシオペアSを選択し、そこで2着しての菊花賞挑戦でした」
駒木:「後にナイスネイチャと並び称される“イマイチ君”になるんだけど(苦笑)、もうこの辺りからその片鱗は窺えるよね。この時点までの戦績で、皐月賞の7着を除いた他のレースでは掲示板を外していないんだけど、もうどうにもならないくらい勝ち味が遅かった。
 本来なら3番人気に推されるような戦績じゃないんだけど、ブルボン・ライスシャワー以外の皐月賞・ダービー上位馬が軒並みリタイアか大スランプだったからね。これも致し方なかったんじゃないかな。
 ただ、結果論にはなるけど、この馬は菊花賞の後、3000m以上のG3レースでは無類の強さを発揮したんだ。それを考えると、この3番人気は先物買いだったと言えるかもしれないね」
珠美:「4番人気がスーパーソブリン。主な戦績はセントライト記念の3着くらいしか残っていないんですが……」
駒木:「菊花賞が近付くと出てくる“血統表だけ見たらステイヤー”ってヤツだよ。『スタミナ血統だから3000mの菊花賞では善戦できるはず』とか書かれるタイプの馬。まぁこういうタイプの馬は間違いなくスピード不足でお話にならないんだけど、この時も見事にそうなったね」
珠美:「なるほど…。そして5番人気はヤマニンミラクルです。(旧)3歳時に大活躍した馬で、京成杯3歳S(当時)1着、朝日杯でミホノブルボンとのハナ差2着という成績が残っています。ただ、年が明けてからはスランプ気味で、秋2戦目になった京都新聞杯の3着が最も良い成績ということになります」
駒木:「これほどファンに迷惑かけた馬は無いね(笑)。特にトライアルレースで人気を背負っては惨敗するってパターンは、この頃の競馬を知ってる人間には非常に思い出深いんだよね(苦笑)。まぁ、僕はブルボン派だったから、自然とアンチ・ヤマニンミラクルになったんだけど。
 ……まぁ、私情は抜きにして、結局は早熟って事だったのかなぁ。朝日杯のハナ差も、この馬の善戦というよりは、ブルボンに乗ってた小島貞博騎手の作戦ミスだったというのが定説になっているし」
珠美:「…他に採り上げておかなくてはいけない馬はありますか?」
駒木:「そうだね、挙げるとするなら11番人気になっていたけど、神戸新聞杯を逃げ切りで勝ったキョウエイボーガンかな。京都新聞杯ではブルボンにハナを譲って惨敗してるんだけど、この菊花賞では『一生に一度のクラシックレースで、初めから負けるようなレースをするわけには行かない』ってことで、“逃げ宣言”をしていた。これがレースになって大きく運命を左右する事になる
珠美:「それでは、そのレース映像を観ながら、この菊花賞を振り返ることにしましょう。映像資料をお持ちの方、または入手できる環境にいらっしゃる方は、是非映像と合わせて受講下さいませ。
 ……まずスタートですが、宣言通りキョウエイボーガンが飛び出して、早々と大逃げを打つ格好になりました。ミホノブルボンは無理せず押えて2番手ですが、この時点ではハナを切っているのと同じような感じになっていますね。その後ろも大きく切れて、3番手にメイショウセントロ、さらに差が開いて4番手、5番手にマチカネタンホイザとライスシャワー。非常に縦長の隊列で1周目のホームストレッチを迎えました」

駒木:「キョウエイボーガンは、逃げは打ったけど自分が勝つよりもブルボンに迷惑を掛けない事を最優先にしたような逃げ方だったね(苦笑)。まぁ、この辺りは仕方なかったんじゃないかな。どんなレースをしたって勝ち目が薄かったのは誰の目にも明らかだったから。
 でも結局、いくら気を遣ってもブルボンのレースに綾をつけた事は間違いなかった。まぁそれが競走ってもんだし、仕方ないんだけどね。…珠美ちゃん、話を進めて」
珠美:「……ハイ。ホームストレッチで一旦、キョウエイボーガンとミホノブルボンの差が詰まるんですが、ミホノブルボンもスピードを抑えて2番手のまま。淡々としたペースですが、隊列は縦長で変化の無いまま、2周目3コーナーまで進行します」
駒木:「結果的にはここが勝負の分かれ目だったかな。馬ナリで逃げる事が当たり前だったブルボンが、このスローダウンで引っ掛かってしまったんだ。
 戸山調教師は亡くなるまでずっと、『1周目のホームストレッチでキョウエイボーガンを交わして、ペースを下げずにいれば逃げ切っていたはずだ』って言っていた。
 ただ、これは小島貞博騎手を責める事も出来ないんだよね。当時の長距離戦では、1000m〜2000mまでのラップはペースを下げるのがセオリーだったんだよ。そうしないとスタミナが最後まで保たないと思われていた。だからペースは落ちても、他の馬も差を詰めて来なかったんだ。
 小島貞博騎手もレース後ずっと悩んでた。『あの時、ペースを下げなかったらどうなっていただろうか』ってね。確かにセオリーを曲げるという事は、取り返しのつかない大チョンボに繋がる恐れもあるからねぇ。それをやっと栄冠を掴んだばかりの苦労人ジョッキーに求めるのは酷だったかもしれない。こういう仕事は田原成貴みたいな騎手がやる仕事だろうなぁ。事実、田原はマヤノトップガンに乗った天皇賞・春で、そのセオリーを破って大レコードタイムで優勝してるしね」
珠美:「博士は、もしこの時にミホノブルボンがペースを下げずにレースを進めていたら、勝てたと思われますか?
駒木:「十中八九はイケてたんじゃないかと思うよ。ライスシャワーに勝負所で脚を使わせて、直線前で貯金を貯め込んでいたら、何とか1馬身くらいは残ってたんじゃないかな、と思う。まぁこれはあくまで推論だけどね。
 でも、それも今だから言えることであってね。10年前じゃ無理だったろうなぁ。……じゃあ、話を進めて」
珠美:「ハイ。3コーナーの坂を登って下ったあたりで、後続の集団が一気に差を詰めて来ます。ミホノブルボンもスパートを開始して、直線入口では堂々先頭に立ちました。しかし、その後ろからライスシャワーとマチカネタンホイザも追撃を開始します」
駒木:「この時点でね、『あぁ、もうブルボンは危ない』と観念したよ。
 これまでのレースなら、ブルボンは後続の馬が手綱をしごいてムチが入ってから、悠然と仕掛けに入ってスパートをかけていたんだけど、この時は手応えが悪くなっていたのか、随分と早いスパート開始だった。ライスシャワーとの差も広がらないし、『もうヤバい』な、と」
珠美:「博士の言葉通りにレースはフィニッシュを迎えます。ライスシャワーが残り100mのあたりで単騎先頭に立ち、ミホノブルボンとマチカネタンホイザを振り払います。そしてそのまま、当時のレコードタイムとなる3分5秒0でゴール。第53代菊花賞馬となりました。
 ミホノブルボンは、一時は2着も危ないといった感じでしたが、何とかこれを死守。“準3冠馬”となって菊花賞を終えました」

駒木:「う〜ん、何度見ても悔しいなぁ、このゴールシーンは。
 悔しかったのはJRA関係者もそうだったみたいでね、レース後、誤って『ミホノブルボン3冠達成おめでとう!』っていうバルーンが揚がってしまったりしたらしい(笑)。色々考えてたんだろうなぁ……」
珠美:「なるほど…(苦笑)。それでは時間もありませんし、上位馬のその後について簡単に解説をお願いします」
駒木:「ミホノブルボンは、この後ジャパンカップに向けて調整をされていたんだけど、レース直前になって故障を発症してリタイア。この故障自体は大したものではなかったんだけど、この後に連鎖的に色々な故障が出て来てね。結局は1回も走れないまま引退、種牡馬入りになった。
 種牡馬になってからの活躍があまり聞かれないのは残念だね。多分、これはブルボンが後天的に鍛えられた馬だから遺伝だけで伝える能力には限界があるからだと思うんだけど。
 ライスシャワーは、ご存知の通り、この後2回天皇賞・春を勝って名ステイヤーの仲間入りを果たす。ブルボンやメジロマックイーンといった“善玉”キャラの馬の記録を阻止したってことで、随分“悪役”呼ばわりされていたけどね。
 中距離戦での不甲斐なさはアレだったけれども、長距離戦で勝ちパターンにハマった時の強かったこと、強かったこと。
 しかしこの馬、最後は“善玉”キャラになって、その直後に宝塚記念で故障を発症して安楽死処分になる。こう言っちゃナニだけど、最後まで悪役らしい悪役だったよね。いかにも悪役らしい消え方をした馬だった。
 マチカネタンホイザは、その後は一貫として善戦マンとして競走馬生活を送ってゆく。地味ながらもファンを抱えて幸せな競走生活を送ったんじゃないのかな。……まぁ、4着以下は大きく離されちゃったし、以上かな」
珠美:「ありがとうございました」
駒木:「珠美ちゃんもご苦労様。それでは、また来週の競馬学講座をお楽しみに」

 


 

8月29日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(8月第5週分)

 先週のゼミで実施した緊急特集に関しては、各方面から(刺激的なモノを中心に)様々な声を頂きました。
 1週間経って振り返ってみますと、その内容はともかくとして、このゼミの本来の趣旨である「良作・佳作を発掘し、その良い所を多くの人に伝える」という所から大きく逸脱していたと思います。この点は深く反省ですね。
 今後は原点に立ち戻って、自信を持って高評価が出せるような作品を見つけて紹介する事に力を注ぎたいと思います。これからもどうか何卒。

 また、今回から「週刊少年ジャンプ」と「週刊少年サンデー」の連載作品について、特筆すべき点のあった作品について述べる、「今週号のチェックポイント」を開始します。これにより、連載が進むにつれて段々“味”が出てきた作品についてフォローが出来るようになると思いますし、レビュー作品が少ない新連載の谷間期のゼミをいくらか充実させる事が出来ると思います。
 ただし、先程紹介した当ゼミの趣旨に則って、原則として“良くなって来た作品”だけを紹介しようと思っています。(A評価を付けていた作品を、B+やBに下げなければならないような事情が出てきた場合は別ですが……)

 さらに今週と来週の2回に渡って、「週刊少年ジャンプ」夏季増刊「赤マルジャンプ・2002SUMMER」の全作品レビューを行います。ただし、作品数が多いので、普段のレビューに比べると、かなり簡単な内容になってしまうと思われます。あらかじめご了承下さい。
 (前回の「赤マル」レビューに関しては、5月9日付ゼミのレジュメを参照)

 ……では、ゼミを始めましょう。

 まずは情報なんですが、今週は1つだけ。
 「週刊少年ジャンプ」の今週号(39号)で、正式に連載打ち切りがアナウンスされた『世紀末リーダー伝たけし!』の作者・島袋光年氏ですが、逮捕された件については起訴、そして同じ児童買春の別件容疑2件で再逮捕されました。裁判に向けての証拠固めのため、さらに拘置所(留置所)での取り調べが1ヶ月ほど続く事になりそうです。
 まぁ、裁判が始まってしまえば、事実関係を争わずに島袋氏がワビを入れて即日結審→次の公判で判決(おそらく執行猶予付き懲役刑)…という流れになりそうでありますが。しかし、ここまで大事になってしまったら、どのような形でも現役復帰はかなり難しくなりましたね。どこかで同じ事を言ったかも知れませんが、少なくともギャグ作家としては才能のあった人ですので、残念です。

 ……では、今週のレビューですが、新連載の谷間に入ってしまったため、今回の「ジャンプ」「サンデー」のレビュー対象作は、『──たけし!』打ち切りに伴う代原読み切り1作品しかありません。しかも、その代原を描いた作家さんが、島袋光年氏の猛プッシュでデビューを果たしたという経歴を持つ郷田こうやさん。何というか、凄まじいまでの因縁を感じさせるお話ですね(苦笑)。
 それではまず、この1作品のレビューと、今日から始まります「今週のチェックポイント」を合わせてどうぞ。

 

☆「週刊少年ジャンプ」2002年39号☆

 ◎読み切り『青春忍伝! 毒河童』作画:郷田こうや

 ……というわけで、“しまぶーの忘れ形見”という有り難くない異名を戴く事になりそうな、郷田こうやさんの代原作品レビューです。

 郷田さんは第54回赤塚賞(01年上期)の佳作受賞者で、描いた原稿が代原として本誌に掲載されるのは、これで4回目という事になります。
 当ゼミでも、デビュー2作目の『偉大なる教師』と3作目の『ボウギャクビジン』についてのレビューを実施していますので、興味のある方はそちらもどうぞ。(レビュー詳細については2月27日付、及び4月11日付レジュメを参照)

 さて、今回の『青春忍伝! 毒河童』ですが、まず結論から言ってしまうと、“代原の域は越えているが、連載を前提とする作品としては不満”という微妙なレヴェルのギャグマンガという事になるでしょうか。
 まるっきり寒いギャグばかり…というわけではないですが、かといって多くの読者を何度も笑いに持っていく事は難しい…という、そんなレヴェルの作品です。ネタそのものは悪くないのですが、間の悪さなどが手伝って、完成度が鈍ってしまったのでしょう

 しかし、これを郷田さん本人の過去作品と比較すると、格段の進歩が窺えます。
 まず、絵柄がこれまでの作品に比べて一気に洗練されています。これまでの3作品では、極太線を多用した荒っぽさの残るタッチが目立ったのですが、この作品では個性を残したまま、オーソドックスなペンタッチに近付いていっています。ギャグマンガ家として重要な、キャラのディフォルメ絵も描けるようになって来ていますし、もはや「ジャンプ」系のギャグマンガ家としてはかなり上位の画力と言っても良いでしょう。
 またギャグの持っていき方も、以前の“同パターンネタ一本槍”型から脱皮して、色々なパターンのギャグを適当な密度で次々と繰り出せるようになって来ました。『偉大なる教師』のあたりでは、ギャグに対する迷いらしきものも見られたのですが、この試行錯誤が今になって活きて来ているような気がします。

 ただし、最初に触れたように、ここまでレヴェルアップを果たしても、まだまだ未熟な点も多くありますこれからの課題としては、間の取り方(ページをまたいでオチを見せる…など)の上達、もっとオチ部分にインパクトを持たせる事、そしてギャグのパターンを増やす事…などが挙げられるでしょう。
 その確率としては、現時点では何とも言えませんが、もしもこれらの課題の克服が果たせた場合は、最終的には「サンデー」の椎名高志さんのような名コメディ作家になる可能性もあると思います。郷田さんの更なるレヴェルアップに期待しましょう。

 評価はちょっと甘目かもしれませんが、B+寄りのB。とにかく次回作が楽しみな作家さんです。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 ◎『アイシールド21』作:稲垣理一郎/画:村田雄介《第3回掲載時の評価:B+

 主人公・セナの視点を通じて、アメフトの基本ルールを読者にさりげなく伝えたポイント、秀逸です。
 ダラダラと試合を引き伸ばさないのも良い傾向ですし、連載5回目にして早くも“化ける”予感がして来ました。少なくとも今回だけならA−評価に値すると思います。

  

☆「週刊少年サンデー」2002年39号☆

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 ◎『からくりサーカス』作画:藤田和日郎《開講前に連載開始のため、評価未了》

 語弊のある言い方かも知れませんが、相変わらず“人の死なせ方”が抜群に上手いですね。
 ある程度デジタル的に泣かせる話を量産できる才能というのは、異形ながら貴重だと思います。

 ◎『ふぁいとの暁』作画:あおやぎ孝夫《第3回掲載時の評価:B

 やや良化の兆しです。今回みたいに、読者にストレスを与える一方で、少しずつ救いのある話が続けられるようになれば、画風が活きて来るのではないかと。

 ◎『いでじゅう!』作画:モリタイシ《第3回掲載時の評価:A−

 回を追うごとに、どんどん良くなって来ています。レギュラーキャラ4人に、週代わりで準レギュラーキャラを交えていく作戦が功を奏している格好です。
 392〜394ページの辺りは個人的に完璧にツボでした。他の方はどう思われたのか知りたいところです。

 ◎『一番湯のカナタ』作画:椎名高志《第3回掲載時の評価:A−

 正直、ここ最近は息切れ気味だと思っていたんですが、新キャラ・ワネットの登場で一気に形勢逆転! 見事にテコ入れ大成功ですね。
 問題は、主人公・カナタの影が段々薄くなってゆく所なんですが(苦笑)、どうやってそれを克服してゆくか、椎名さんの手腕に期待しましょう。

 

 ……と、いうわけで、以上がレビューと「今週のチェックポイント」でした。

 それでは、これから「赤マルジャンプ」全作品レビュー(前編)です。前回と同様、本誌連載陣のショートギャグは対象外としました。

◆「赤マルジャンプ」完全レビュー(前編)◆

 ◎読み切り『電人タロー』作画:小林ゆき

 本誌連載デビュー作『あっけら貫刃帖』12回打ち切りの憂き目に遭い、一敗地にまみれた小林ゆきさんの復帰作です。
 連載終了からそう間が無かったのですが、少しタッチが変わったようですね。全体的に丁寧になってますし、特に女の子キャラのイメージが『あっけら──』の頃と随分違います。好みが分かれそうな絵柄というのは相変わらずですが、少なくとも悪くはなっていないと言えそうです。
 ただ、ストーリーが小じんまりとまとまり過ぎているのも相変わらずなのが痛いですね。具体的に説明するのが難しいですが、もう少しスケールの大きな話が描けるようになれば良いのですが……。

 評価は微妙ですが、B寄りB+というところでしょうか。

 

 ◎読み切り『アマツキツネ絵巻』作画:海図洋介

 昨年に『犬士ヒムカ』天下一漫画賞佳作を受賞し、本誌デビューを飾った海図洋介さんの1年ぶりの新作となります。
 デビュー当時から随分洗練されていた絵柄の方は、1年経っても健在。少なくとも絵だけ見れば、原作付きの作画担当作家が目指せるレヴェルです。
 ただし、ストーリーの方は、よく練られてはいるのですが、やや詰め込みすぎて中盤辺りでダレてしまうのが難点。特に、話全体のポイントとなる「ユタの筆」のエピソードの印象が随分とボヤけてしまったのは致命傷に近いです。
 もう少しシンプルに、読者に分かって欲しい部分だけ描いておけば、随分と印象が違ったかも知れません。
 評価は絵柄を加味してもBが限界でしょう。


 ◎読み切り『UN★TURBO』作画:吉田真

 第58回手塚賞(99年下期)で準入選を受賞、その後も散発的に「ジャンプ」系雑誌で作品を発表している吉田真さんの新作です。
 絵柄の方は、背景処理があまりにもお粗末ですし、幼いんだか老けてるんだか微妙な上、表情の変化が乏しい人物描写問題点が残っているような気がします。パッと見はそんなに不快感が残らないんですけどねぇ。
 ストーリーは、プロットがしっかり出来ているのか、綺麗にまとまっているようには見えます。ただし、先にストーリーありきで考えてしまったためか、主人公のキャラと行動から一貫性が欠けているのが残念ですね。
 絵柄、ストーリーともパッと見は良いんですが、中身的には今一歩。ちと厳しいかもですが、B−としておきましょう。


 ◎読み切り『40mmアイアン』作画:高野ひろ

 高野ひろさんは、「週刊少年ジャンプ」系の雑誌には初登場となる新人作家さん。恐らく女性作家さんですね。

 の方は、キャリア実質2年(プロフィールより)という事を考えると、線にも無駄が少なくてアマチュア臭さが感じられないのが良い感じです。ただし、表情の描き分けが全くと言って良い程出来ていないので、妙なぎこちなさが残っているような気もします。まぁこの辺りは、これからのキャリアが解決してくれる事でしょう。
 ストーリーは、典型的な悪役が、典型的な善玉に負けるべくして負ける……という、言い方は悪いですが、かなり使い古されたパターンを何のヒネりもなく流用したような感じで、独自色が全く感じられなかったのが非常に残念です。ワンシーンだけでも、ほとんど全ての読者を驚かせたり感動させたりする場面があれば良かったのですが……。
 評価はB−

 
 ◎読み切り『リ・サイクルZ』作画:安藤英

 第63回手塚賞(02年上期)で佳作を受賞、今回が受賞後第一作&デビュー作となる新人・安藤英さんの作品です。
 絵柄は鳥山明&尾田栄一郎両氏の影響が色濃く見られるものの、一応は別モノの画風には仕上がっているようです。ただ、良し悪しは別にして個性がキツい絵柄ではあるので、これを如何に作品に活かしていくのかが、今後の活動ではカギになってくるのではないでしょうか。
 ストーリーは、主人公の体を改造したポイントが、最後の戦闘で伏線になっているなど、“技あり”な部分が見逃せません。ただ、ご都合主義的な面が多々見られるので、今の状態で連載を始めたりすると、短期間でボロが出てしまいそうではあります。また、不必要な設定が多すぎる嫌いもあり、ちょっとセンスが古臭い気がしないでもありません
 評価はB−寄りといったところですね。


 ◎読み切り『TORA TAKE OFF !!』作画:ゆきと

 第62回手塚賞(01年下期)で準入選を受賞したゆきとさんの受賞後第一作&デビュー作という事になります。

 絵柄まだ完成手前という感じ。トビラのダンクシュートシーンなんかは、下手な人には描けないアングルでしょうから、実力不足というわけでは無さそうです。どうやらペンではなくロットリングを使っているようですが、それがプラスになっていないのが問題点でしょう。
 話も地味ながら、テンポ良く進んでいると思います。地区予選1回戦が舞台…というスケールの小ささは否めませんが、まぁ等身大のストーリーというところでコレくらいが丁度良いのかもしれません。
 唯一もったいない点が、主人公・トラが太ったままでスーパープレイを突然連発できるようになった理由付けが曖昧だったという所でしょうか。ここをもう少し丁寧に押えておけば、読者の感情移入度も高まったのではないかと思われます。
 評価は。連載獲得には、もう一押し欲しいところです。

 ◎読み切り『なるほど納得てんこもり !! おバカちん研究所』作画:日の丸ひろし

 第49回赤塚賞(98年下期)で佳作を受賞以来、増刊号や本誌の代原で度々作品を掲載している日の丸ひろしさんのショートギャグ作品です。
 この作品、マンガというよりも企画モノ的なショートギャグ数個によって構成されています。
 中には『ウォーリーを探せ!』(古!)的なオフザケもありますが、これは論外。メインの、お笑い芸人の“いつもここから”や“鉄拳”のような1枚絵+キャプションというギャグも、どうにも消化不良気味で話になりません
 絵柄やタイトルのセンスにも古臭さや世間とのズレも感じますし、どうも将来性も怪しい感じです。相当の意識改革が無ければ、このまま埋もれてしまう作家さんでしょう。評価は久々の

 ……というわけで、今週は目次順に前半の7作品のレビューをお送りしました。残るはまた来週です。

 では、今週のゼミを終わります。また来週この時間に 

 


 

8月28日(水) 社会経済学概論
「映画業界の異端児・アルバトロス風雲録(8)」

 このシリーズも8回目。今のところ、キリよく10回目あたりで終わらせようと思っていますが、こればかりはどうにも分かりません。まぁ、『3×3EYE’S』みたいに14年半も伸ばしたりしませんので、それだけは安心して下さい。
 3回目から脱線して講義名まで変えた人間がこう言うのもアレですが、一応、講義の筋立ては出来てますので、ちゃんとした終わらせ方は出来ると思います。

 ※前回までのレジュメはこちら↓
  第1回第2回(ここまでは競馬の話)第3回第4回第5回第6回第7回(第3回以降は外国映画買い付けの話で、段々変な方向へ流れていきます)

 
 …さて、前回は1998年のアルバトロス映画史をお届けしましたが、今日からは1999年以降の主なアルバトロス作品を紹介してゆきたいと思います。
 前回の最後にも述べましたが、1999年は、アルバトロスにとって久々のヒット作が出た年でもありました。ノストラダムス系作家が“退職金”を全力で稼ごうとしていたのと同時期にヒット作を出すあたりが、いかにもアルバトロスといったところでありましょうか。

 この年のアルバトロス最大のヒット作は、いきなり1月に飛び出します。マイナー映画中心のアルバトロス作品とは言え、ひょっとしたら題名だけでも聞いた事がある受講生の方も多くいらっしゃるかも知れません。
 アルバトロス映画・90年代最大のヒット作、その名も……!

 

 『キラーコンドーム』

 

 ……この映画は、大半の方のご想像の通り、ナニをガブリと噛み千切るコンドームが暴れ回るドイツ映画(またドイツ!)です。男性受講生の方たちは、この設定を聞いた時点でキンタマがキューッっとなるでしょうが、まぁしばらくお付き合い下さいませ。
 ちなみにアメリカの放送批評家協会選定の90年代映画ベスト1『シンドラーのリスト』だったそうですが、90年代のアルバトロス映画ベスト1は、他の誰が何と言おうが、この『キラーコンドーム』であります。なんだか、手塚治虫先生の『ブッダ』『ボボボーボ・ボーボボ』を同列に扱っているような気がしないでもないですが、そこは深く考えず、元気にスルーしてゆきましょう。

 ……さて、この『キラーコンドーム』ですが、妙にスタッフが豪華であるのが特徴的です。
 まずSFX担当には、あの『ネクロマンティック』でドイツ政府指定の危険人物となった、アルバトロス御用達監督のユルグ=ブットゲライト「SFXは、“F”じゃなくて“E”じゃないのか?」…なんて、男子中学生が抱くような素朴な質問が脳裏に浮かびますが、ここも元気良くスルーしましょう。
 そして、この作品のポイントでもある、怪物・キラーコンドームのデザインを担当したのは、なんと『エイリアン』シリーズのエイリアン造型でお馴染みの、H=R=ギーガーでありました。
 ちなみに、そのキラーコンドームはこんな怪物です。↓

 怪物の造型がどうとか言う前に「仕事選べや、オッサン」とツッコミを1つ入れたくなる話なのですが、こうした草野球の試合に松坂大輔が先発するような豪華スタッフによって、『キラーコンドーム』は非常に印象的な作品となる事が出来たのでありました。

 もう題名聞いた時点で大バカ映画確定『キラーコンドーム』でありますが、その内容は意外と真面目なタッチの刑事モノ。ただし、出発点が出発点なので、評論家筋からは「文学座がドリフのコントをやるみたいなもんだ」と酷評されたりしたのですが……。

 舞台はニューヨークのダウンタウン。とあるラブホテルに、大学教授が教え子の女子学生を連れ込むという、非常に羨ましいけしからん場面から話は始まります。
 さすがに大学教授、万が一の事も考えて、ホテル備え付けのコンドームを装着し、いざ…と思ったその時! 辺り一帯にイチモツを食い千切られた教授の悲鳴が響き渡ったのでした。……そしてこの夜、ニューヨークのラブホテルで、同様の痛ましい事件が続発していたのでした。
 警察は「痴話喧嘩の末に、相手の女が噛み切ったんだろう」と断定してテンションの低い捜査を進めますが、その中でただ1人、「これは普通の事件じゃないぞ」と考えた変わり者の刑事・ルイジ=マカロニが独自の捜査を始めます
 現場のホテルで検証を始めるルイジ。しかし、そこで美少年・ビリーに出合うと、たちまち意気投合してベッドイン。そう、ルイジはゲイだったのです。
 こんな行きずりの同性愛関係でも、エイズ予防のためにコンドームは欠かせません。女性向同人誌で言うところの“攻め”役にあたるルイジは、そそくさとコンドームを装着しようとするのですが、まさにその時、ゴムが牙を生やして(ナニに)襲い掛かって来たのでした!
 辛うじて直撃は避けたものの、左のタマをもぎ取られて爆笑問題の田中状態になったルイジは病院送りに。しかし、それにも屈する事無く、退院後も周囲の冷たい視線を無視して孤独な捜査を続けてゆきます。その間も哀れな被害者の数はとどまる事を知りません。
 やがて、ルイジは一匹のキラーコンドームを仕留め、それを鑑識に分析させます。怪物の実態は、有機物の合成体。人為的に作られた凶悪モンスターでした。
 一体、誰がこんな怪物を……? ますます深まる謎。しかしここで事態は急展開。大統領候補がキラーコンドームに襲われて、いよいよ事件は大事に。そして、ルイジの前に現れる、狂信的女性上位主義の尼さんの集団と超巨大キラーコンドーム。愛する人・ビリーを守るため、ルイジ人生最大の闘いが始まろうとしていました──。

 ……とまぁ、ストーリーはこんな感じです。確かに硬派な映画と言えなくもありません。何せ映画全体のテーマは「愛は地球を救う」です。来年辺りにはキラーコンドームが24時間テレビの公式マスコットに指名されてもおかしくありませんモー娘。が笑顔でキラーコンドーム人形を持つ風景が、今から目に浮かびます。

 とにかくこの映画は単館上映としては記録的な大ヒットを記録。しかも薬局で売られてるようなコンドーム箱の形をした変形パンフレット(中にキラーコンドームのグッズ入り。1000円)までバカ売れし、アルバトロスは一気にこれまでの損害を取り戻します。

 やはり時代はバカ映画なのか。そう考えたアルバトロスは続々とバカ映画を日本に送り出します。

 しかし、アルバトロスの道のりはそんなに容易なものではありませんでした……。 (次回へ続く) 

 


 

8月27日(火) ギャンブル社会学特論
「フリー雀荘麻雀、ギャンブルとしての期待値の考察」

駒木:「3週間連続でお送りして来たフリー雀荘関連のギャンブル社会学特論だけど、とりあえず今回で“第一部完”という事にさせてもらうよ」
順子:「人気低迷して打ち切りですか(苦笑)。Live Like Rocket! ですね」
駒木:「いや、そういうわけじゃなくて、とりあえず用意していた題材が尽きただけ。また講義の題材が見つかったらまた、この火曜日に順子ちゃんと講義をする予定だよ」
順子:「そうだったんですね〜。でも、今度はフリー雀荘に関係無い話題でお願いします。内容が内容だけに何だか居心地が悪くて(苦笑)今日の講義内容だって、フリー雀荘にとって一番触れられたくない部分なんですもん」
駒木:「考えとくよ(苦笑)。まぁとりあえず、今回は一蓮托生って事でよろしく頼むね」
順子:「は〜い(苦笑)」
駒木:「さて、今日の講義は、常連さんでも普段はなかなか意識していない、フリー雀荘で打つ麻雀の期待値についての考察をやろうと思うんだ。期待値っていうのは、確率統計的に賭け金の何%が戻ってくるはずなのか…という数値の事だね。まぁこの辺は、競馬学講義を受講している人だったらもう理解してもらってると思うけれども……」
順子:「競馬なら期待値約75%だから、賭け金100円に対して平均75円戻ってくるってお話ですよね?」
駒木:「そうそう。ちなみに麻雀以外のギャンブルの期待値を挙げていくと、宝くじは46.8%(例外あり)、toto(サッカーくじ)が47%(キャリーオーバー時は変動)、公営競技が75%前後。事実上合法のパチンコは97〜98%…といったところらしい。イメージの良いギャンブルほど期待値が悲惨なほど低いっていうのは、いかにもギャンブル後進国・日本らしい話だね(笑)」
順子:「特に50%切ってるギャンブルなんて、詐欺ですね(笑)」
駒木:「まったく(笑)。まぁ、宝くじなんかでも、まだ少額で高額賞金狙いが可能なロト6くらいなら良いんだけど、ナンバーズとかインスタントくじなんかは帝国金融並にエグい商売だろうね。totoも当てようと頑張り出すと、もう勝ち目の無いギャンブルだろうし。
 …今日採り上げるフリー雀荘にしても、さすがにここまでは酷くない……と思う
順子:「『思う』って何ですか、『思う』って(笑)」
駒木:「フリー雀荘の場合、レートとゲーム代によって期待値が変動するからね。特に、最近増えて来た1000点20円とか30円とかの場合、悲惨な事になりそうな気がするし」
順子:「でも、わたしは思うんですけど、1000点20円とか30円のレートで打たれるお客様って、ギャンブルをしているというよりも、ギャンブル気分を味わえるゲームをしている感覚だと思うんですけど……」
駒木:「僕もそう思う。だから、今日は1000点50円以上のレートについて考察してみるつもりだよ」
順子:「分かりました〜」

考察1.点5(1000点50円)フリーの期待値

駒木:「さて、まずは大都市圏のフリー雀荘では最も一般的なレートである、点5においての期待値の考察からだね。
 地方や店によって細かいレートは違うけれども、ここでは首都圏で一般的な“0.5-500−1000”、つまり1000点50円&順位ウマがトップ+1000円、2着+500円、3着−500円、ラス(4着)−1000円……というレートで考えてみる事にしよう。ゲーム代は一応300円で考えるけど、350円とか400円の場合の計算も付け加えるね。
 また、各順位を取る確率だけれど、これも一応は1〜4着をそれぞれ均等に25%ずつ取るという事で考えてみよう。だから、各順位での収入額と支払額の合計を出して、『収入額÷支払額×100=期待値(%)』という公式に当てはめればO.K.
順子:「あと、各順位の点数もバラバラなんですけど……」
駒木:「一番困るのがそれだよね(苦笑)。誰か各順位の平均点数とかのデータを出してくれてたら助かったんだけどねぇ。競馬の平均払戻金とかなら、いくらでもデータがあるんだけど、こればっかりは難しかった。何せ、元々が一応は非合法なギャンブルだから、麻雀は(笑)。
 まぁ、仕方ないから、これは単純に『トップ40000点、2着30000点、3着20000点、4着10000点』って感じでやってみて、これにゲーム代と同じように色々なパターンを組み合わせてみよう
 ……それじゃ、いくよ。点5のフリー雀荘の期待値っていうのはこんな感じになる

点5(0.5-500-1000)、ゲーム代300円の場合

順位 点数 支払額(ゲーム代&負け分) 収入額
(勝ち分)
40000 300円 2500円
30000 300円 500円
20000 1300円 0円
10000 2300円 0円
合計 4200円 3000円
※1着の時は、オカ(トップ賞みたいなもの)20000点分(1000円)を加算して計算。

 期待値=3000÷4200×100
      =約71.43%

※1.ゲーム代350円の場合(支払い総額200円増)
 期待値=3000÷4400×100=約68.18%
※2.ゲーム代400円の場合(支払い総額400円増)
 期待値=3000÷4600×100=約65.22%

※3.1着の点数が50000点、4着0点の場合
 (支払総額、収入総額共に500円増)
 期待値=3500÷4700×100=約74.47%
 (ゲーム代350円なら約71.43%、400円なら約68.63%
※4.1着の点数が30100点、4着19900点の場合
 (支払総額、収入総額共に500円減)
 期待値=2600÷3700×100=約70.27%
 (ゲーム代350円なら約66.67%、400円なら約63.41%

駒木:「……と、こんな具合かな。ゲーム代や点数によって随分と変わってくるけど、大体63.5%弱〜75%強の範囲に落ち着くんじゃないかな」
順子:「競馬とかより少し分が悪いんですか?」
駒木:「そうだね。しかも、麻雀は競馬とかと違って一気に大勝する手段がごく限られてるから、実際には相当に分が悪い。トップ率を30%にまで上げても期待値は90%ソコソコだから、点5麻雀で長期的な利益を計上するのは不可能に近そうだね(苦笑)」
順子:「うわ〜、こんな講義に出てる事をバイト先に知られたら絶対怒られちゃいますよ〜(苦笑)。
 ……あ、でも博士、この計算だと、裏ドラとか赤牌のチップがある場合の計算が入ってませんよ」

駒木:「あ〜、そうだったね。チップを採用している店の標準的なルール(赤3枚で面前時のみ赤牌1つにつきチップ1枚、一発&裏ドラ1枚ごとにチップ1枚/チップ1枚100円)の場合、大体1回の半荘で遣り取りされるチップは、平均1000円には満たないだろうと思う
 これを支払いと収入の総額にそれぞれ1000円を加算して計算してみると、ゲーム代300円の標準パターンで76%台だね。んで、71%〜80%くらいの範囲に落ち着く。ちょっとは上がるけど、まぁそれでも厳しい事には変わりないね。平均程度の技量では、100半荘も打てば間違いなく赤字になってるはず。
 だからまぁ点5の店で打つならば、少なくともゲーム代分はサービス料だと思わないと仕方ないね。フリードリンクとか、可愛い女の子と麻雀打てるとか(笑)」
順子:「えっ? その『可愛い女の子』ってわたしの事ですか?(笑)」
駒木:「(半ばなげやりに)そういう事でいいんじゃないの?」
順子:「うわ、博士、そんな言い方するなんて酷いですよ〜(苦笑)」

考察2.点ピン(1000点100円)の期待値

駒木:「さて、次はちょっと大人向け、点ピンと呼ばれる1000点100円のレートの場合だ。順子ちゃんの働いてる雀荘では、点5と点ピン両方やってるんだよね?」
順子:「そうです。点ピンの方は、腕自慢の学生さんと、40歳過ぎのおじさんたちが中心ですね〜。わたしは負けた時のことが怖くて、点ピン卓に入るのは控えてます(苦笑)」
駒木:「点ピンの場合、点5と違って順位ウマが大きいんだよね。いわゆる“ワン・スリー”と呼ばれる、トップ+3000円、2着+1000円、3着−1000円、ラス−3000円というレートが一般的だね。
 あと、ゲーム代も割と高め。500円くらいが相場で、店によって前後100円くらいの差があるかなって感じだね。
 それと、点ピンの店ではほとんどチップが採用されていて、それも1枚500円っていうのが普通。点5の時に比べて5倍になるから大きいんだ。つまりチップ採用の店だと、通常の計算以外に5000円くらいが動く。トップよりもチップ狙いの方が大事って言われるくらい。だからこれも最初から計算に入れてしまおう
珠美:「そうですねー、点ピン卓で1000円チップが大移動するのを見ていると、何だか頭がクラクラします。『あー、わたしの2時間分の時給が一瞬で〜』みたいな(笑)」
駒木:「現実感出てるなあ(苦笑)。
 ……まぁ、そんな感じでこれも表にして計算してみよう。

点ピン(1.0-1000-3000)、ゲーム代500円の場合

順位 点数 支払額(ゲーム代&負け分) 収入額
(勝ち分)
40000 500円 6000円
30000 500円 1000円
20000 2500円 0円
10000 5500円 0円
チップ総額 5000円 5000円
合計 14000円 12000円
※1着の時は、オカ(トップ賞みたいなもの)20000点分(1000円)を加算して計算。

 期待値=12000÷14000×100
      =約85.71%

  
(チップ無しの場合:77.78%)

※1.ゲーム代400円の場合(支払い総額400円減)
 期待値=12000÷13600×100=約88.24%
※2.ゲーム代600円の場合(支払い総額400円増)
 期待値=12000÷14400×100=約83.33%

※3.1着の点数が50000点、4着0点の場合
 (支払総額、収入総額共に1000円増)
 期待値=13000÷15000×100=約86.67%
 (ゲーム代400円なら約89.04%、600円なら約84.42%
※4.1着の点数が30100点、4着19900点の場合
 (支払総額、収入総額共に1000円減)
 期待値=11000÷13000×100=約84.62%
 (ゲーム代400円なら約87.30%、600円なら約82.09%

順子:「やっぱりレートが上がると、期待値も上がってきますね」
駒木:「そうだね。チップの額が大きいから、ゲーム代や点数による変動も少ないし。まぁ85%前後だと考えたら良いんじゃないのかな?
 で、この場合だと、トップ率が30%を超したらどうにか期待値は100%を上回る。だから店の“エース級”と呼ばれる常連客なんかは、なんとか黒字を計上してるはず。
 ん〜、それでも分が悪いギャンブルには変わりが無いかな。これよりレートが上がると、強い人なら麻雀で食べていけるくらい稼げるはずなんだけど、最近はそういう店は手が後ろに回っちゃうからね(笑)」
順子:「(苦笑)」
駒木:「バブル景気の頃は凄かったらしいけどね。1000点1万円とか、凄いレートで麻雀が打てるマンションとかがあったらしいし」
順子:「『近代麻雀』『むこうぶち』の世界ですね」
駒木:「あの時期に、本当に1億円以上稼いだ人もいたらしいよ。…という事は、逆に億単位で負けた人もいるって事になるけれども……
順子:「あ、背中が煤けそうな話ですね(苦笑)」
駒木:「もう、今の景気じゃあ、そんな話も無いけどね。
 ……と、話が脱線した。まぁフリー雀荘の麻雀って言うのは、期待値的には勝てるギャンブルじゃないんで、あまりのめり込まないようにしてもらいたいね」
順子:「わたしたちは、ほどほどにはのめり込んでもらいたいんですけど(笑)、でも、頻繁にアウト(借金)をするお客様は、ちょっと困ってしまいますね」
駒木:「そうだね。小遣いの範囲で、止め時をちゃんと決めて。それさえ守れば、ちょっとしたお金で、快適な場所で好きな麻雀が打てるんだから楽しいよね」
順子:「最後はフォローしてもらって、ありがとうございます(笑)」
駒木:「まぁね(笑)。でもまぁ、麻雀好きは期待値がいくら悪いと知ったところで関係無いからなぁ(苦笑)。体に悪いの承知でタバコ吸うみたいなものかも知れない」
順子:「そう言えば、麻雀好きの人って、ほとんどタバコ吸いますね(笑)」
駒木:「僕は吸わないけどね。あ、でもだから雀荘通いを止められたのかもね(笑)」
順子:「なんだか誤解を招く表現だと思いますけど、それは……(苦笑)」
駒木:「おっと、失言だったかな。……まぁ、とりあえず今回はこんなところで。皆さんも、フリー雀荘での麻雀は、くれぐれも大ヤケドしないように楽しんでください。では、今日の講義を終わります。順子ちゃんもご苦労様」
順子:「お疲れさまでした〜♪」(この項終わり)

 


 

8月26日(月) 犯罪社会学
「拝啓、駒木ハヤト様〜夏の困った贈り物」(1)

 さて、8月もいよいよラストウィークです。駒木は勤務先の高校から40日以上の無休休暇を貰っていたのですが、様々な事情でロクに遠出も出来ず終い。気が付いたら社会学講座だけに専念していた2002年の夏でありました。
 これを充実していたと解釈すれば良いのか、それとも単なるひきこもりスカタン野郎と解釈すれば良いのかは、未だに髪型をソフトモヒカンにしている男がイケてるかどうか…という位に極めて微妙なところではあります。が、もしもこの夏の講座が受講生の皆さんに喜んで頂けたのであれば、この駒木ハヤト、勿論悔いはありません。

 本来ならば今日辺りから、お約束していた「授業で教えたい世界史」を開講するはずだったのですが、手持ちの資料一式を職場に置きっぱなしでありまして、今月一杯はどうにもなりません。
 ですので、今月一杯は、当社会学講座の原点に立ち戻って、短期や単発の講座をお送りしてお茶を濁そう良い形で秋シーズンに繋げようと思います。どうぞよろしく。

 それでは本題に移ります。

 …え〜、珠美ちゃんの「観察日誌」でもお伝えしたんですが、この夏、駒木の自宅にいきなりYahoo! BB(ブロードバンド)のモデムが宅配されて来るという出来事が起こりました。これはどうやら、Yahoo側から営業活動を委託された代理店が、電話帳から無差別に電話をかけて営業てきたものだと思われます。
 が、それにしても「資料送りますが、よろしいでしょうか?」と訊いておいてモデム一式を送りつけてくるというのは、いささか乱暴としか言いようがありません。巷では「新手の送りつけ商法か?」…などとYahooサイドに非難の声があがったりしましたが、まぁそれも致し方なしでありましょう。
 しかし、これからはおちおち宅急便だからといって、ホイホイと物を受け取れない世の中になって来たと言えます。今回はモデムだったから良かったですが、これがダッチワイフ製造会社の営業活動だったりしたら、全国で多くの家族が崩壊の憂き目に遭ったに違いありません。

 ただ、今回のケースは、とりあえず現物を送りつけた後に確認の電話が入り、そこで「不要だ」と言えば無料で回収しに来てくれるそうなので、こちらとしてはひとまず安心であります。
 まぁこの後、大量の不良在庫を抱えるハメになるであろう代理店が、いつ2回目の不渡りを出すか?…といったあたりが最大の興味のポイントになって来るんですが、これについては帝国データバンクさんにお任せして、当講座ではとりあえずノータッチとさせてもらいます。

 ……それにしても、何故か夏になると駒木宛には様々なモノが届き始めます
 例えば一昨年の夏。この時期を境にして、どこで間違った名簿を買ったのか、当時24歳の駒木相手に大学3回生向けの就職用資料が届くようになりました
 まぁ当時は収入が極めて心細く、仕方無しに中古ゲーム屋で週60時間労働に励んでみたりしていた頃でありましたので、ちょっと本気で就職を考えたりもしたのですが…。
 ちなみにそのゲーム屋、小金持ちのオバハンがオーナー社員が2名という構成だったのですが、その社員が2人ともオーナーの息子でした。
 まず店長が、ゲーセンやパチンコ店のバイトを転々としていた30歳前の長男、そして専門学校出たものの就職先が見つからずに引き篭もっていたエロゲーオタクの三男がチーフという構成でした。ここに勤めた後ならば、日本ハムだろうがダイエーだろうが、どんな会社でも任天堂並の優良企業に思えてしまいます
 さらに店の場所も、マンションの1階という好条件ながらも潰れたコンビニの跡地、しかも隣が流行らないエロビデオ屋…という、何だか香ばしい匂いが漂う所にありました。恐らく、不動産情報誌でババを掴まされたのでありましょう。(雑誌の店舗情報はカスが多いのです)
 結局、開店当初からこの店は、同規模ゲーム店の平均的な売上の1/5以下という記録的な営業不振に見舞われ、その果てに駒木は、「いつか近い内に高校の先生に雇ってもらえるから」という物凄い理由をもって僅か2ヶ月でリストラされたのでありますが、この2ヶ月は駒木の人生の中でも特に印象深いものとして心に刻み付けられております。この件についてはまた、何かの講義で詳しいお話が出来れば…と思います。その店も1年前に数千万の負債を抱えたまま潰れましたから、今更何を言っても平気でしょう。

 そして去年の夏に届いたのは、一通の奇妙な封筒でありました。水色のシンプルな封筒、そして裏面の差出人欄には見知らぬ名前だけ
 異物が入っていないのを確認した後に中を開けると、中からはこんな手紙が……(文面中の伏せ字には、実際には法人・個人等の実名が書いてありました)


突然のお便りお許しください

 私は五十余年にわたる実業界(○○○○/△△△)と教育界(□□学園・◇◇大学他)における経験から、日本の再生再建は、地方の興隆と教育の刷新以外にないと痛感しております。この思いから

新しい兵庫県知事は●●●●君

をおいて他にないと信じます。何卒よろしくお願いします。


 2001年7月

 

 

 

 

 〒×××-×××× 神戸市××区×××-×-×
         ○○ ○○ 
             電話(×××) ×××-××××

 …どうしてこんな手紙が…と言いますと、実は当時、駒木の自宅のある兵庫県では兵庫県知事選挙の真っ最中だったのです。察しの良い受講生の方なら、もうお気づきですね?
 そうです。文中伏せ字の“●●●●”の部分には、とある候補者の実名が記されておりました。

 この手紙を受け取った時に駒木が思った事は、
 「この手紙って、公職選挙法違反じゃないのか?」
 ……でした。腐っても現役教員、思想は若干傾いていても選挙・国政マニアであります。駒木、この手の法律にはちょっとだけ詳しいのです。実際、この手紙は公職選挙法第142条(文書図画の頒布)に抵触していました禁固2年以下、または罰金50万円以下の罰則もあります。
 「とりあえず、手元に置いとくか。後で選挙管理委員会に送りつけたら面白い事になるし
 この手のDMは即ゴミ箱に叩き込む駒木ですが、この手紙は眼の届くところにしばらく放置。とりあえず事態を静観する事に決めたのです。

 そしてそれから5日後の夜──

 駒木の自宅に、突然電話のベルが鳴り響きました。駒木の携帯にならともかく、自宅の電話にこんな夜半の電話は珍しいのですが、その時は何も考えず受話器を取ったものと記憶しています。

 「ハイ、駒木ですが」
 「えーと、こちら兵庫県警なんですけれども……」

 キタ━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━ !

 いきなり一足飛びの展開に興奮を隠せない駒木は、
 「……あ、ひょっとしたら選挙の事ですか?」
 …と、向こうから訊かれる前から、勝手に供述を始める始末。刑事ドラマの情報屋でももう少し口が堅いだろうと、今から考えると少し恥ずかしい事でありますが、後に刑事さんから「いやー、今回の件で色々な人にあたってみたんだけど、あなたが一番話が早かった」と、変な感謝をされたりしましたので、まぁヨシとしましょう。

 …まぁそういうわけで、要件はまさにその手紙の事でありました。簡単に事情を訊かれた後、翌日に事情聴取も兼ねて、その手紙と封筒を証拠として任意提出してくれないか、という依頼が。もちろん了承。
 もっとも、“任意提出”とはいえ、「提出する事で、あなたはこの選挙違反から無関係であったという証明ができますので」と言われてしまいましたので、任意の挟める余地は全く無かったのですが。

 電話を切った後も駒木のテンションは上がる一方で、勢い余って翌日提出する手紙を全文起こして、パソコンに保存させたりしました(だから今になって手紙が再現できるのです)。まるで遠足前夜の小学1年生のようなハイテンション。自分がいかに野次馬根性にまみれているのか、嫌と言うほど自覚させられたものです。

 

 そして翌日の昼、自宅のインターホンからピンポーンという音が。

 刑事キタ━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━ !

 刑事VS駒木の激しいトークバトルの幕が切って落とされたのでした── (次回へ続く

 


 

8月25日(日) 社会経済学概論
「映画業界の異端児・アルバトロス風雲録(7)」

 ※前回までのレジュメはこちら↓
  第1回第2回(ここまでは競馬の話)第3回第4回第5回第6回(第3回以降は外国映画買い付けの話で、段々変な方向へ流れていきます)

 先週辺りまで、6本の講義を同時進行させていた当講座ですが、気が付けば毎週やってるゼミと、この社会経済学概論だけになってしまいました。
 まぁ、別に困るというわけでもなくて、むしろ先週までがある意味異常だったわけなんですが、それにしてもこうアッサリとレギュラーが減ってしまうと、何だか一時期の花田勝(元3代目若乃花)か山田邦子になったような気分が味わえて、無意味に侘しかったりしますね、しかし。

 …さて、今日の講義では、もうお馴染み・人畜“有害”映画配給会社・アルバトロスの1998年からの歴史を追いかけていく事になります。相変わらずのスローペースですが、どうか何卒。

 前回までの講義でお送りしたアルバトロスの歴史は、一部の例外を除いて、血みどろスプラッター映画に彩られた、スクリーンの中で流された血と鑑賞者が思わず催したゲロの上に成り立つ歴史でありました。
 何と言いますか、ヒストリーというよりカストリーとか下衆トリーとか言いたくなるようなお話を長々と続けてしまいまして、受講生の方もさぞかし苦痛だったと思われます。

 しかし、今回扱う1998年からのアルバトロス映画は、同じ血を見るホラーでもこれまでのような、死体が腐っていく様子を映して行くような作品とは違います。
 この時期のアルバトロス配給作品は、「怖い」と言うより先に「アホか」と口走りたくなるような、またはシロガネーゼの淑女もM字開脚でゲラゲラ笑ったりするような、いわゆる“バカ映画”と呼ばれるモノにシフトしていくのです。

 …この1998年の春には、今なお記憶に新しい“酒鬼薔薇”少年の連続児童殺傷事件が起こりました。
 以前から当講座を受講している方ならご存知の通り、駒木の自宅並びに駒木研究室は、この事件現場から数キロの地点にありまして、色々と大変な思いを致しました。その事件の爪痕は、“近隣住民は犯人の少年の本名を漏れなく覚えている”というイヤな形でハッキリと残されております。
 そしてこの“酒鬼薔薇事件”は、アルバトロスにも打撃を与えました。なんとこの少年が、アルバトロス初期のスプラッタ映画・『人肉饅頭』『ネクロマンティック』を観ていた事が分かり、その影響でこの時期発売予定だった『ドイツチェーンソー大量虐殺』のビデオ発売が延期されたのでした。まぁこのビデオ、ほとんどの人にとっては、うっかり見つけてしまった親戚の伯父さん夫妻のハメ撮りビデオ級に嫌悪感を抱くようなモノですので、「んなモン、永久にお蔵入りしとけ」みたいなもんでありますが。

 そんな出来事があったせいか、この1998年前半のアルバトロスから、目を引くようなスプラッタやホラーの映画はリリースされませんでした。
 では、開店休業状態だったかというと、そうでもなかったようです。この時期、アルバトロスのもう1つの顔である“洋物ポルノ部門”から『背徳小説 第二章』というイタリアポルノを劇場公開しています。
 この映画、『巨匠』、『巨匠』と言われながら、無名の映画評論家には『尻フェチ』と一刀両断されてしまう映画監督・ティント=ブラス氏の作品でしたが、ソコソコの動員は得られたらしく、この後もアルバトロスは時々イタリアン・エロス映画を公開し、特に冥土の土産を求める爺さんたちの熱烈な支持を受けるようになってゆきます。

 アルバトロスが本格的に活動を再開させたのは6月。ここでついに“バカ映画路線”の幕が上がります。
 この時劇場公開されたドイツ映画(またドイツかよ)『ユナイテッドトラッシュ』は、まさにバカと不条理を映画にしてしまったような作品でありました。しかも監督は『ドイツチェーンソー大量虐殺』と『テロ2000年集中治療室』でお馴染みのクリストフ=シュリンゲンズィーフ氏というから穏やかではありません。

 映画が始まってまず登場するのは、アフリカ某国に国連治安部隊総司令官として派遣された男。彼には妻がいますが、ゲイの上に重度のマゾという、牛フィレ肉のソテーをフォアグラで挟んだような脂っこい性癖の持ち主であるために、自宅で留守を守る妻は処女のままです。
 ところがこの妻が子供を産みます。しかも夫婦は2人とも白人なのに、産まれて来たのは黒人の赤ん坊。しかし、この赤ん坊の出生の秘密について、何にも説明はありません
 しかしこれも序の口…というか前相撲みたいなモンです。それから妻は、日々、ボーイフレンドに鞭打たれては喜んでいる夫の不貞に心悩み、布教活動中であった異教の宣教師と不倫に至ります。異教の神父は絶頂の瞬間叫びます。「アーメン!」……ツッコミを入れるのもはばかられるような不謹慎さ炸裂であります。
 この後、赤ん坊がひょんな事から母親に編み棒を頭に突き刺されて医者にかかるのですが、この医者が何故かマッドサイエンティスト頭部を両性具有の性器に改造されてしまい、興奮するたびに『怪物くん』のテーマソングよろしく、たちまちオツムが(白濁液で)大噴火してしまうようになります

 ……この映画やアルバトロスの事をよく知らないままで、偶然この映画の試写会に紛れ込んでしまった一般の映画評論家の皆さんは、大体ここでギブアップされたようです
 「面白いとかつまらないとか以前に不愉快だ」と、巷の女性が出川哲郎や江頭2:50に抱くような感想を述べておられた方も多かったとか。

 この映画はその後、舞台となっているアフリカ某国の独裁者が、大陸弾道ミサイルを作ってアメリカのホワイトハウスに向けて攻撃するのですが(しかもそのミサイルに何故か自分が乗り込んで特攻)これを阻止すべく人間ミサイルとなって飛んでゆくのが、○ン○型(呼び方は2パターンです)頭の5歳の坊やです。
 ところが映画最大の見せ場となるはずのこのミサイル発射シーン、なんとCG合成やミニチュア映像どころか、なんとパラパラマンガ以下の止め絵で展開されたというから物凄い話です。予算と時間が行き詰まった時のガイナックスのアニメ作品や、「ジャンプ」掲載時の冨樫義博作品も真っ青であります。

 ……というわけでこの映画、全編「ナンジャソラ」精神に支配された、得も言われぬテイストの超バカ映画でした。
 しかも、こういう映画を配給していると、アルバトロスの関係者の頭も毒されてくるのでしょうか、来日予定の主演女優が乳癌発覚でキャンセルとなった時に招いた代役は、何故かヤギとニワトリだったとか。これぞ説明のつかない不条理さ。「俺は不死身だ!」の一言で生き返ってしまう青銅聖闘士・フェニックス一輝の生き様の分かりやすさとは全くの好対照であります。

 ……以上、まさにテツandトモに12時間くらいぶっ通しで「♪なんでだろう〜」と唄わせたいような映画・『ユナイテッドトラッシュ』の説明だったわけですが、さすがにこれでヒットを飛ばすのには無理があったようでした。
 そこで次にアルバトロスは、誰にでも分かりやすい単純明快なバカ・スプラッター映画(あくまで“バカ”が主)を上陸させます。その名も『ラットマン』文字通りのネズミ人間が人を食い殺すだけの映画でありました。

 この映画の“主役”であるラットマンは、ネズミと猿の遺伝子を合成されて作られた…という、確かにどこかで聞いた事があるような設定の怪物です。
 ネズミの本能と猿の知能、さらに爪に人を一撃で殺せる猛毒を持ち、しかも(人を含めた)動物の生肉しか食わない危険な生物・ラットマン。ネズミの本能に従って1年間に2000匹の子を作る事が出来るそうですが、交配相手がいませんから、『ユナイテッドトラッシュ』の世界にでも行かない限りはジュニア誕生は不可能だと思われます。
 で、このラットマン、身長50cm弱の小さい生き物なんですが、なんとこれを生身の人間が──ギネスブックに“世界最小の人間”として名を残しているネルソン=デ=ラ=ロッサ──が演じています。……というか、これがこの映画で一番のウリなのです。それを証拠に、この映画の日本での宣伝キャプションはこんな感じでした。

「CGというニセモノの"恐怖"が幅をきかす今、禁じ手とも呼べる最終兵器が遂にベールをぬぐ!」

「全世界が驚愕!想像を絶する実在の奇形人間が恐怖のドン底にたたき落とす!」

最も残忍でケダモノ以下!この世界に実在する狂暴な生命体が人間を呪い人類に復讐を開始する!」

これは人間なのか?もうこれ以上ない変態指数500%!狂気ホラーの最高峰!」

「世紀末奇形人間誕生!」

 

 ……いくら何でも失礼だろ、と思ってしまうのですが、しかしストーリーを俯瞰してみると、それも致し方なしかと思わせてしまうのが、この映画の凄いところです。
 何しろ、ラットマン誕生のシーンすら無し。さらに、この危険生物は、鎖にも繋がずにボロボロの籠に入れておくだけという、日本の原発並に杜撰な管理状態から当然のように逃亡し、後は1時間以上にわたって、登場人物を不意打ちしては食い殺すだけなのです。とにかくラットマン以外に見るべき物無しこの映画のラットマンは、カントリー娘。に石川梨華(モーニング娘。)の石川梨華みたいなものだったのです。

 …というわけで、この映画は諸事情あってか劇場公開も出来ず、レンタルの方でも“トンデモ映画”としてカルトな話題は呼ぶもののヒットには至らずに終わってしまいます
 こうして、意気込みが空回りしたままでアルバトロスの1998年は終わってゆきました。

 『ネクロマンティック』の大ヒット以来、なかなかブレイクに至らないアルバトロス映画。このままアルバトロスはフェードアウトしてしまうのでしょうか?

 いや、そうではありませんでした。
 よりにもよって地球滅亡が囁かれていた1999年、アルバトロスは、久々に局地的な大ブレイクを巻き起こします。

 その様子についてはまた、次回のお楽しみ(?)としたいと思います。それでは、今日の講義を終わります。(次回へ続く

 


 

8月24日(土) 競馬学特別講義
「目指せ回収率アップ! 馬券学基本講座(4・最終回)」

駒木:「2回の予定で始めたこのシリーズも、やっと今日で最終回だね」
珠美:「なんだか、夏休みの夏期講習みたいな感じになっちゃいましたね(笑)」
駒木:「まぁ、秋以降の本格的な競馬シーズンで、少しでも役に立ててもらえば……だね」
珠美:「そうですね。……あ、この2週間、この講義の冒頭でお伝えして来たサンデーサイレンスなんですが…。結局、残念なことになってしまいました…
駒木:「最後は安楽死じゃなくて、衰弱死って形だったみたいだね。でも眠るような最期だったとも聞くし、関係者が最後の最後まで諦めずに頑張ってくれたという証拠だと思いたいね。今は、とにかく日本を競馬の一流国に押し上げてくれた名馬の冥福を祈る事にしよう
珠美:「はい。関係者の皆さん、お疲れさまでした。私からもサンデーサイレンス号のご冥福をお祈り申し上げます──
駒木:「……さて、ここから馬券の話に持っていくのは、ちょっとギャップがある気がするけど、とにかく本題に移ろう。今日も話さなくちゃいけない事がたくさんあるしね」
珠美:「ハイ。それでは、今日は“穴党”──馬連で50倍以上の高配当をアグレッシブに狙いに行くような方のための馬券学基礎講座、そして最後に、馬券の買い方による賭け金の回収期待値についてのお話をしてみたいと思います」
駒木:「それじゃあ、“穴党”向け講座から始めようか。採り上げるテーマは、先週の最後に紹介した通りの3つだよ」

実戦編3:“穴党”向け実戦講座

 3−1:少数の勝ち組と多数の負け組──それが“穴党”の真実

珠美:「これなんですけど、ギャンブルにおいては当たり前のような話ではないんですか?」
駒木:「まぁ、そうなんだけどね。でも、それは仲間内の麻雀カジノのギャンブルみたいに、賭け金に対する胴元の取り分が、ゼロだったり極めて少ないギャンブルだけにあてはまるものでね。賭け金の25%以上がザックリと差し引かれる日本の競馬では、普通は勝ち組は出てこないんだよ。出て来るのは小負け組か、大負け組
珠美:「うー…、夢の無いお話ですねー(苦笑)」
駒木:「でも、条件付で例外なのが、この“穴党”と呼ばれる人たち。レースを絞って、明らかに間違った馬券の買い方をしなければ、確率は高くないんだけど、収支をプラスに持っていける可能性があるんだよ。だから、『回収率90%だろうと負けは負け。こちとら、金儲けるためにギャンブルしとんのじゃい!』って人は、“穴党”以外に生きる道は無いんだよね。
 ただし、これだけは忘れて欲しくないのは、“穴党”っていうのは、リスクがメチャクチャ高いという事。確かに勝ち組が存在する一方で、“本命党”や“中穴党”じゃ考えられないような低回収率の大負けをする可能性があるという事なんだ。これは、今日の講義の後半で、具体的な数字を挙げつつ述べていくので、どうか注目して欲しい。
 “穴党”の醍醐味は、あくまで“少ない投資で多くの利益”であって、負けてもシャレで収まる範囲でチャレンジするのが鉄則だからね。絶対に生活を脅かすような賭けをするのだけは止める事。日本の競馬みたいな、呆れるほど賭ける立場の分が悪いギャンブルで無茶して人生破綻なんて、本当に馬鹿馬鹿しいからね」
珠美:「……と、いう事ですので、どうぞよろしくお願いしますね」

 3−2:「○倍の馬券を当てた」事よりも、「賭け金を○倍に増やした」事に注目しよう!

駒木:「さぁ、ここからは具体的な話に移っていくんだけど、ただ、“穴馬の見つけ方はこうだ!”…みたいな話が出来ないのが辛いよね(苦笑)。…ていうか、それが分かってたら、僕はもっと楽な生活が出来てるはずだからねぇ……」
珠美:「そう言えばそうですよね(笑)。馬券の必勝法の本を書いたと言われる本がたくさんありますけど、よく考えたら本当の必勝法なんてどこにもありませんものね
駒木:「大体、大穴馬券に繋がるような穴馬っていうのは、普通、常識から考えたら実力が明らかに足りないような馬だからね。その実力差を覆す僅かな可能性があるような馬──例えば、ごく限られた条件に限って信じられないような好走をする馬──を見つけて、さらにその僅かな可能性が実現する事に賭ける。これが“穴党”のスタイルなわけだからね。
 そんなモノにマニュアルなんて作りようが無いし、もうこれは、自分なりのオリジナルな穴馬の見つけ方を追求してもらうしかない。僕が出来るのは、ほんの少しのお手伝いに過ぎないんだよねぇ」 
珠美
:「確かに、穴馬券の当て方なんて、説明できませんものね
駒木:「実力馬が凡走するケース…とかなら、いくらかは説明できるんだけどね。でも、その逆は難しいんだな。
 ……と、話が横道に逸れた。“『○倍の馬券を当てた』事よりも、『賭け金を○倍に増やした』事に注目しよう!”…というテーマに話を戻そう。
 これはね、よく“穴党”の人が陥りがちな事なんだけれども、万馬券、つまり100倍以上の配当のある馬券を的中させると、『とんでもない額を儲けた!』って感覚が先走っちゃって、本当はどれくらい儲けたのかって事が頭からすっ飛んじゃうんだよね(苦笑)。
 ほら、万馬券当てた人って、『150倍の馬券当てたぞー!』とは言うけど、『万馬券当てて、賭け金を30倍にしたぞー』とは普通言わないじゃない」
珠美:「あー、そういえば……」
駒木:「よほど腹の据わった“穴党”ギャンブラーじゃない限り、万馬券になる組み合わせを中心に馬券買ったりしないはずなんだよね。大体、30〜50倍くらいの馬券を多目の額で買って、万馬券は100円台の少額馬券で押えるって人が多いと思うんだよ。それか、ボックスや総流し馬券で“引っ掛かる”って感じ。
 …でね、“穴党”の人に多いと思われる買い方で説明すると、中心となる組み合わせを1000円で3点、それからちょっと当たる可能性の低いと思われる組み合わせを500円で2点、そして万馬券狙いで200円を3点。これで買った馬券の合計は…」
珠美:「4600円ですね」
駒木:「で、200円の馬券の内、150倍の馬券が当たったとする。払戻金の総額は?
珠美:「30000円…ですか」
駒木:「馬券自体は150倍だけど、儲けは賭け金総額の何倍になる?
珠美:「えーと、ちょっと待ってくださいね…(電卓を叩いて)、え? 約6.5倍ですか?」
駒木:「そう。大儲けしたようで、実はそれだけしか賭け金は増えてないんだよ。これじゃ、“中穴党”の人が3点均等買いで20倍の中穴馬券を当てるよりも分が悪くなっちゃうんだよね(苦笑)。
 これが例えば、150倍の馬券を500円買っていたとしよう。でも、それでも75000円にしかならない。確かに7万円以上儲けてるし、とんでもない大ホームランに見えるけど、4600円に大しての倍率は?」
珠美:「75000、割る、4600…と。…約16.3倍ですね」
駒木:「つまりは16レース分強の賭け金というわけだね。……こんなの、2〜3日馬券が全く当たらない日があったら、あっという間に溶けちゃうよ。中央競馬のスケジュールで言うと1週間か2週間だ」
珠美:「あらら…それじゃ、せっかく万馬券当てたのに、意味が無くなっちゃいますね」
駒木:「そうなんだ。“得した気分”は味わえるけど、得はしてないんだよね(苦笑)。で、気分だけが先行してて、気が付かないうちに負けが込んでいる。怖いんだ、こういうのが。
 さっき、『8点買いの押さえで150倍の万馬券的中』『3点均等買いで20倍的中』なら後者の方が上だって話したよね。で、この2つのケース、どっちが実現するのが簡単だと思う?
珠美:「えーと、3点で20倍の方がまだ簡単だと……」
駒木:「僕もそう思う。そんなに簡単に万馬券が当たるなら苦労しないよ。
 …つまり、万馬券当てても賭け金が10倍前後になるような買い方をしている人は、“気分だけの穴党”であって、本当の“穴党”じゃないって事なんだ。勝ち組に回れるような“穴党”になりたいのなら、賭け金がせめて30〜40倍になるような買い方をしなくちゃね。」
珠美:「でもそれって、大変そうですね…」
駒木:「大変だね(苦笑)。まぁ、そう簡単にギャンブルでは勝たせてもらえないって事だよね。
 これでもし、『そんなの出来ないよ。俺はチョイ負けで良いや』…って言うんなら、悪い事は言わない。今すぐ“中穴党”に鞍替えするべきだね」


 3−3: 『穴馬券は当てに行くな。儲けにいけ』

駒木:「……と、いうわけで、さっきのテーマからこう繋がって来るわけ。賭け金を何十倍にも増やそうと思ったら、何点も馬券を買ってちゃ間に合わない
珠美:「“穴党”の人も点数を絞っていかなくちゃいけないってことですか…」
駒木:「そういう事。だって、元々当たる方が珍しいから穴馬券になるんだよ。それを毎レース当てようとして、買い目を5点も10点も増やしていくのは、よく考えたら矛盾してるよね。
 だから、60倍位の馬券を2点買いとか、万馬券必至の軸馬から3点買いとか、そういう買い方が必要になって来るよね。1回当たったら、1ヶ月くらい的中が無くても大丈夫…みたいな買い方
珠美:「うわー、大変ですー(苦笑)」
駒木:「こういう時に馬単が役に立つ。『これだ!』っていう穴馬を頭(1着)に指定してしまえば、ヒモ(2着)はある程度上位人気の馬でもノルマは十分達成できるよ。その代わり、“ウラ”(1、2着が逆の馬券)なんか買っちゃいけないよ。そういう当てようってスケベ心が天敵なんだからね(苦笑)。勝ち組を目指す“穴党”の人は、とにかく人気薄を軸にして馬単勝負!
珠美:「それを考えると、馬単の導入というのは有り難いんですね」
駒木:「そうだね。“何週間かに1回、たまたま当たった時に儲かる”って事を前提に考えると、これほど効果的な馬券は無い。的中を第一に考えた時は、これほど厄介な馬券も無いんだけどね(笑)。
 まぁ本当なら、三連複とか、南関東公営で導入されてる三連単が一番お得ではあるんだけどさ。でもそれだと『半年に1度当たれば大儲け』になっちゃうからね(苦笑)。そんなに人間って気長な生き物じゃないと思うから」
珠美:「(苦笑)」
駒木:「まぁ、そういうわけで、“穴党”を選ぼうって人は、そういう覚悟を持って競馬に挑んで欲しい。“気分だけ穴党”っていうのは、儲からない割に賭け金がかさんで行くっていう、ギャンブルでは一番危ないパターンだからね。
 恐らく、『お馬で人生アウト』になる人は、馬券の基礎も知らないのに大金を突っ込む“本命党”か、この“気分だけ穴党”のどちらかだと思うんだ。これらのタイプの人が、お金に行き詰まって、これまで負けた分を取り戻そうとして、間違った賭け方のままで更に大金をぶち込むようになったら、もうオシマイ。後は自殺か犯罪者か……。
 そういう事にならないように、釘をさしておくね」
珠美:「ま、この講座で他人の意見を聴いてみようって思われた受講生の方たちなら安心だと思いますけど♪」
駒木:「ん、そうだね」

 

 実戦編4:確率論から見た多点数買いの危険と“本命党”の限界

駒木:「……というわけで、いよいよこのシリーズも最後の講義になるね。
 ここでは、これまでたびたび述べてきた、馬券の買い目を絞るの大切さや、“本命党”の回収率の限界、それから勝ちに行くためなら穴馬券がいかに大事か…という事について話してみようと思う。」
珠美:「えーと、まず『買い目を絞る』というのは、“本命党”にしろ“穴党”にしろ、2〜3点以内に留めておかないと、高い回収率は期待できないというお話でしたね」
駒木:「そう。馬連の4頭6点ボックスとか、5頭10点ボックスとかよく言われるけれども、回収率の観点から考えると、実はこんなのは問題外に近いんだよ。多くの人間から均等にお金をむしり取ろうとする、JRAの陰謀みたいなもんだよ(笑)」
珠美:「それから『“本命党”の限界』というのは、“本命党”の買い方だと、どうしても回収率は80%程度が限界になってしまうという事、そして『勝つためには穴馬券が大事』というのは、今の競馬のシステムでは極端な穴狙いが、黒字達成のための唯一の道筋、ということでしたね」
駒木:「そういうことだね。本命狙いに徹する限り、かなりレースを厳選して、正しい馬券の買い方を徹底しても、回収率は80%台がやっと。90%に乗るのはかなり難しい。穴馬券については今日の前半で述べた通りだね。
 ……で、これらの事は、ほとんどが確率統計の話で説明できる。数字が全てを物語ってくれるんだね」
珠美:「それでは早速、数字の話をお願いします。私も楽しみです」
駒木:「じゃあ、始めるよ。……まずね、日本の馬券のように、ほぼ一定の期待値──胴元(JRAなど)に収められる額を差し引いて、馬券を買う側に戻ってくる賭け金の割合──が決まっているギャンブルの場合、非常に長い目で見たら、収支は必ずこの期待値に収束されてゆく。日本の競馬で言えば75%弱だね。
 これを『大数の法則』と言って、1回ごと試行の結果を予想するのは困難だけど、充分な回数の試行がなされた場合、その総合的な結果は、完全に確率から予想できる…って事さ。ちょっと難しいかな?」
珠美:「えーと、ちょっと待ってください。それじゃあ、どんな買い方をしても、同じ事になっちゃいませんか? 何回も馬券を買えば、回収率は75%に近付いていくんでしょう?」
駒木:「まぁ、何十年、何百年とやってれば、あるいはそうなるかもしれない。でも、1年単位とか数年単位では、ちょっと話が違ってくるんだ
 難しい話は省略するけど、実はね、馬券の買い方によって、この『大数の法則』に支配されるまでのスピードが随分と違って来るんだよ。つまり誤魔化しが効くって事」
珠美:「誤魔化しですか(笑)」
駒木:「確率は本来、絶対的なものだからね。誤魔化すくらいしか為す術は無いんだよ。
 ……でね、『大数の法則』に一番支配されやすい馬券の買い方というのが、“的中確率を上げる替わりに、儲かる額を減らす買い方”なんだよ。要は、的中率の高い本命狙いに徹したり、的中率を上げるためにバンバン買い目を増やしていくという事
 ……ここで話が繋がったでしょ?」
珠美:「あー、なるほど。つまり、買い目を増やすな、本命ねらいは止めようっていうのは、『大数の法則』から逃れるための努力なんですね」
駒木:「そういうわけ。まぁ、それ以外にも理由はあるんだけど、とりあえずそれは置いておこう。
 ……例えば、珠美ちゃんとかだと、次に挙げるような馬券の買い方をよくしてるんじゃないかな? 本命馬券で賭け金を確保して、中穴馬券で儲けを狙う買い方

 本命〜中穴サイドの4頭の馬連ボックス買い
(100円×6点、計600円)

 6.0倍(100円)→当たれば600円(±0円)
 6.0倍(100円)→当たれば600円(±0円)
 7.4倍(100円)→当たれば740円(+140円)
14.8倍(100円)→当たれば1480円(+880円)
24.7倍(100円)→当たれば2470円(+1870円)
37.0倍(100円)→当たれば3700円(+3100円) 

珠美:「……あ、ありますねー」
駒木:「馬券の成績が酷く悪かった頃の僕の買い方と同じなんだけど(苦笑)。この買い方ってね、とても的中率が高そうに感じるんだよ。本命も中穴も押えているし、万全に思えちゃう。でもね、期待値をセオリー通り約75%と仮定した場合、的中率は45%にしかならない
珠美:「え?」
駒木:「しかも、詳しい計算式は省略するけど、馬券が当たった場合の平均配当は991円にしかならない。つまり、24倍とか37倍とかの馬券で儲けるつもりでいても、実のところは的中率45%で賭け金を約1.65倍にしようとしているに過ぎない。これじゃ、馬連じゃなくて複勝だ(苦笑)」
珠美:「えー! そんなに割に合わないんですか?」
駒木:「合わないねえ。もっとショッキングな数字を教えてあげようか? この“的中率45%で賭け金1.65倍”を目指す買い方を500レース続けたとして、黒字になる確率はどのくらいだと思う?」
珠美:「えーと、0.1%くらい、ですか?(汗)」
駒木:「そんなにあったら苦労しないよ(苦笑)。正解は、約0.00000000018%。ざっと考えて55億人に1人の割合だ」
珠美:「…………(絶句)」
駒木:「これでも手加減してるんだよ。本当なら500レース分なんて、確率統計の試行回数から考えると少な過ぎるくらいなんだ。
 その代わり、この買い方だと、極端な額を負けるという事も少ないんだけどね。ほぼ全ての人が回収率70%台に落ち着く計算になる
珠美:「えーと、博士、私の回収率はもっと低いんですけど……(苦笑)」
駒木:「それは、確率統計からちょっと外れた話になる。
 今は全ての組み合わせの期待値を75%で計算したけれど、実際の競馬はもっと複雑だからね。馬の強さに対してオッズが低すぎる状態になったり、その逆もある。だから、人気が先行している1番人気の馬から馬券を買ったりすると、期待値はもっと下がるんだよ。
 それに珠美ちゃんはレースを絞らないでしょ? そうすると、期待値が75%よりも随分低い、割に合わない馬券も買わされてるはずなんだ。ほら、あるだろ? 『いくら買っても当たる気がしない馬券』とか。レースを絞っていると、そういう馬券を買わないで済むから、実質期待値はもっと上がるんだけどね。
 …珠美ちゃんの場合、さっきの買い方をしても的中率は期待値通りの45%に達していないんじゃないかな、と思うんだよ。45%って言ったら、ほぼ2レースに1度当たる計算だ。1日12レース全部買ってるなら、いつも5〜6レースは当たってないといけない」
珠美:「そんなに当たってませーん(苦笑)」
駒木:「じゃあ例えば、的中率が45%じゃなくて、37.5%だと仮定すると、回収率は60%前後に収束される事になる。75%に届く確率なんて0.1%程度。珠美ちゃんの場合、今年はスランプ状態みたいだから、まぁ60%をちょっと切っててもおかしくはないね」
珠美:「じゃあ、レースを絞らないといけませんね」
駒木:「まずはね。でも、こんな6点買いだと、いくら的中率を上げても限界がありそうだ。この買い方で、例えば的中率を何とか50%に上げたとしても、回収率90%を達成できる確率は2%余り。大体80%台前半で限界がやってくるね。普通に馬券を買ってて、6点買いで的中率50%なんて夢の数字だよ。それでもこの始末だもの」
珠美:「なるほど…だからもっと効率の良い買い方をしなくちゃダメってことですね」
駒木:「そう。だから点数を絞って、的中率を少し下げる代わりに、儲ける額を増やす。まぁそれでも、本命中心の買い方をしている限り、回収率90%は至難の業だと思うけどね。オッズを見れば分かるけど、本命サイドの馬券って不利なオッズになり易いしさ」
珠美:「そこで“中穴党”へって話なんですね」
駒木:「うん。これは確率じゃなくて僕の経験に基づく話だから信頼度はイマイチなんだけども(苦笑)。
 実は、この講義で紹介した“中穴党”の買い方っていうのは、本来なら“的中率25%強で、当たった場合は賭け金の3倍弱の回収が期待できる”って買い方なんだけど、これにデータの読み方や展開予想なんかの馬券の基本をマスターして、さらに1日3〜5レース程度に絞って狙いを定めたら、的中率は30%以上にまで上げることが可能なんだ。この場合、回収率は90%以上が期待できるし、的中率を33%まで上げる事が出来たら、ほとんどプラマイゼロだろうけどトータル黒字まで期待できる
 この謎を解明するには、非常にややこしいデータ分析が必要になって来るだろうけど、とにかく“中穴党”の買い方は、馬券の基本さえマスターすれば一番健全なギャンブルになり得ると思ってくれて良いよ。まぁ、確率の話じゃないから信用されなくても仕方ないけどね(苦笑)」
珠美:「……では最後に“穴党”の方たちの期待値についてお話してください」
駒木:「これも数字を出せば一目瞭然だと思うから、そうするね。
 ここでは“的中率1.5%で、当たった場合は賭け金の49.4倍が望める”というパターンの賭け方を500回繰り返すとするね。これも期待値は約75%で固定されているよ。
 この場合、トータル黒字になる確率は、なんと13.61%にもなる。10人に1人強だね。さすがに期待値75%の状態で倍以上の収益を求めようとすると苦しいけれども、さっきの55億人に1人と比べると雲泥の差だよね」
珠美:「全然違いますねー」
駒木:「だから、これが『大数の法則』を誤魔化す方法なわけ。穴狙いは偉大なり、なんだよ。
 ただし、やっぱり危険も大きい。“本命党”や“中穴党”では考えられないような大負けだって考えられるからね。この買い方の場合、的中率が1.5%から1%に落っこちただけで、全体の4割以上の人が回収率50%を割ることになるちょっとしたスランプが命取りになるんだよね。その分、少しでも的中率が上がれば儲けもデカいんだけど、こちらの方はどうだろう? 僕は“穴党”の人間じゃないからよく分からないけど、賭け金を50倍にする馬券を当てる確率を1.5%から2.5%(大抵の人が楽々黒字計上できる数字)にするのは、かなり難しそうな気がするしなぁ…」
珠美:「私には真似できそうに無いですね(苦笑)」
駒木:「僕にも無理(笑)。特に僕は、セミプロの馬券師が絶好調から崩れていって、行方不明になった様子を見ているからね(苦笑)。
 ……最後に、戒めも兼ねて『気分だけ穴党』の人の馬券についても話をしておこう。
 このタイプの人たちはこんな馬券を買うんだったよね」

穴狙いの変形8点買い(賭け金計4600円)

37.0倍(1000円)→37000円(+32400円)
37.0倍(1000円)→37000円(+32400円)
49.3倍(1000円)→49300円(+44700円)
73.9倍(500円)→36950円(+32350円)
73.9倍(500円)→36950円(+32350円)
147.7倍(200円)→29540円(+24940円)
147.7倍(200円)→29540円(+24940円)
295.3倍(200円)→59060円(+54460円)

駒木:「……この場合、期待値75%で固定すると、的中率7.75%、的中の時は賭け金を9.41倍させる事になる。これだけ穴狙いしてるのに、結局10倍に届かないんだよね(苦笑)。
 で、この買い方を500回繰り返すと、黒字になる確率は1%に満たないし、回収率90%に乗る確率も10%未満。逆に回収率60%を切る人だって出てくるから、“穴党”の悪いところだけを強調したパターンだね、これじゃ。同じ穴馬券を買う人でも、さっきの50倍狙いのパターンと大違いだ」
珠美:「なるほど……」
駒木:「その上、このタイプは賭け金もかさむしね。『少ない投資で多くの利益』っていうのが“穴党”の本道なのに、そこからどんどん外れていってしまう。
 でね、中央競馬だけでも、この額を賭け続けていくと、まず1年間で100万円は負ける計算になる
珠美:「100万円!」
駒木:「それにこれは的中率7.75%、つまり1日12レース中、平均して1回はこういう馬券を当てる事の出来る人の場合だ。さっきも言ったように、穴馬券買いというのは、ちょっとしたスランプで回収率がガクっと下がるからね。そうなると……」
珠美:「考えたくありませんね(苦笑)」
駒木:「まぁそういうわけで、勝ちたい人は覚悟を決めて“穴党”健全に遊びたい人は、テクニックと知識を身に付けて“中穴党”難しい事考えずに楽しみたいって人は、多少の負けを覚悟して“本命党”。どういうスタイルにしても、くれぐれも間違った賭け方をしないようにして下さい。これが当講座からのアドバイスです」
珠美:「……というわけで、博士お疲れさまでした」
駒木:「うん、珠美ちゃんもご苦労様。次回はまだ何も考えていないけど、やっぱり競馬について何か講義をしようと思ってます。では、また来週」

 

 


 

8月22日(木)・23日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(8月第4週分)

 今週もゼミを始めます。
 今週のゼミは、通常の内容に加えて、どうやら2ch掲示板で当講座のゼミ内容を含めて話題になっているという『がきんちょ強』関連の“緊急特集”として、
 「どうして『がきんちょ強』は『じゃりん子チエ』になれなかったのか?」
 ……という内容の講義を予定しています。講義日程が詰まり気味のため、2日にまたがる可能性大ですが、最悪でも金曜夜のテレホタイムには間に合うようにしますので、どうぞご注目下さい。

 あと、最近よく当ゼミについて頂くご意見として、
 「レビュー内の作者紹介に的外れな内容が多い」
 ……と、いうものがあります。
 これについては、毎回ある程度時間をかけて調査をかけているのですが、やはり長年専門的にマンガ評論をなさっている方たちよりは作家さんに関する知識量とキャリアが不足しており、時々誤りや曖昧な内容を含んだ事を述べてしまうケースが、ままございます。
 言葉通り駒木の不徳の致す所であり、ご指摘を受けるたびに本当に申し訳なく思っているのですが、いかんせん、今の駒木ではどうしようもならない部分もあります。ですので、もしも作家さんの情報について、ゼミで発表した内容よりも更に詳しい情報・知識をお持ちの方がいらっしゃるなら、是非駒木研究室までメールでお知らせ下さいませ。どうぞ、よろしくお願いいたします。

 ……それでは、気を取り直して講義へ。まずは情報系のお話ですが、今週は「週刊少年サンデー」系の月例新人賞・「サンデーまんがカレッジ」の6月期分の発表がありましたので、受賞者・受賞作を紹介しておきます。特に、今月は“入選”作が出て、受賞作の掲載が確定していますので、どうぞご注目を。

少年サンデーまんがカレッジ
(02年6月期)

 入選=1編
  ・『サブ・ヒューマンレース』
   小澤 淳(23歳・東京)
 
(「ここがポイント!!」〜本誌より引用)
 白昼夢のような異世界を描きつつも、リアルな若者の“渇き”を表現するのに成功しています。また、大ゴマや空間を大胆に使うことで感情を上手く演出している点も評価できます。エンターテインメントを意識しつつ、強いメッセージをさらりと流す作者の才気が見どころ。

 佳作=該当作なし
 努力賞=1編
  ・『higher higher』
   中馬孝博(23歳・福岡)
 あと一歩で賞(選外)=2編
  ・『Dragon Tattoo』
   寺本直子(22歳・島根)
  ・『パワー・パワー』
   町田哲也(26歳・東京)

 入選受賞作については、本誌か増刊に掲載決定、という事で、審査員サイドもべた褒めといった感じですね。当ゼミでも、本誌掲載の時は勿論、増刊で掲載になった場合でも、評価によっては「その他注目作」のカテゴリ内でレビューを掲載したいと思っています。

 次は「週刊少年ジャンプ」関連ですが、どうやら鳥山明さんが『ドラゴンボール』の続編か、非常に関係の深い作品の連載を開始する模様です。
 このには『──たけし!』の他にもう1作品(長期連載作品?)が終了して、都合2作品の新連載が立ち上げられるとの噂があるんですが、『ドラゴンボール』は、どうやら更にその後の新連載シリーズに回されるようですね。
 …と、いうことはですね、このままいくと、『ドラゴンボール』と『ワンピース』との、“新旧看板作品対決”が見られるわけですよ。まさに“夢のカード”
 この対決がどの位のレヴェルで争われるかはさておき、何だかボクシングのホリフィールドVSフォアマンとか、プロレスの馬場&ハンセンVS三沢&小橋みたいなマッチメークなんで、今からとても楽しみではありますよね。

 ……と、いうわけで情報系の話題は以上で、続いて今週分のレビューをお送りします。

 今週は「週刊少年ジャンプ」が合併号休刊のため、レビューもお休み。春にやった「赤マルジャンプ」レビューも、現在のところは考えていません。(受講生の皆さんのリクエストが多ければ考えますが……)
 「週刊少年サンデー」からは新連載1本と新連載第3回の後追いレビューが1本。計2本のレビューという事になりますね。若干数が少なめですが、今日はこの後に特集もありますので、どうぞご容赦を。

 文中の7段階評価はこちらをどうぞ。

☆「週刊少年サンデー」2002年38号☆

 ◎新連載『きみのカケラ』作画:高橋しん

 「週刊ビッグコミックスピリッツ」で、『いいひと。』、『最終兵器彼女』とヒットを連発して来た高橋しんさんが、心機一転(?)して、少年誌に進出です。
 しかし、本誌18ページの「高橋しん先生より」を見るまで失念していたんですが、実は高橋さん、「週刊少年サンデー」は2度目の登場でした。
 前回登場は、今から6年前の1996年に前・後編計83ページで掲載された『有森裕子物語』。駒木、勿論この頃にはもうバリバリの「サンデー」読者だったんですが、作品が駒木のあまり好きではないスポーツ・ノンフィクション物だったため、相当な飛ばし読みをしていた模様です(苦笑)。
 しかし、この時には『いいひと。』連載中だったはずで、小学館もかなり無茶な事をさせるもんですねぇ(恐らく『いいひと。』を休載させたのだと思いますが)。だって、江口寿史氏なら1〜2年はかかりそうな仕事量ですよ、これ(笑)。
 まぁこの頃の高橋さんは、ちょうど“使い勝手の良い”新進気鋭の若手だったという事なんでしょうね。まるで、「ギャラ安い〜」とかボヤきながらハードスケジュールに追われる、売れかけの吉本芸人みたいな話です。

 …と、蛇足が過ぎました。作品の内容に触れてゆきましょう。

 まずはいつもながら独特の絵柄なんですが、適度にシリアスとデフォルメを使い分けていますし、世界観とミスマッチな絵柄でもないですので、これで良いんじゃないかと思います
 ただ、何でもそうですが、“独特”なモノというのは、熱心な支持者を生む一方で、存在すら嫌悪するようなアンチも生んでしまうので、青年誌よりも大衆受けする事が求められる少年誌では、以前より損をする事も多いかも知れませんね。

 次にストーリー
 まず目を引くのがオープニングですね。これは少し意識すれば判ると思うんですが、明らかに映画を意識しています。後々のストーリーの伏線になるようなインパクトの大きい“事件”を描いて、タイトルがバーン! ……という感じ。
 どちらかというと映画よりも連続TVアニメに近いマンガという媒体でコレをやって、果たして効果的に働くのかどうか、という事はさておき。とりあえず、そういう手の込んだ演出をやろうと考えて、実際にそれを立派な形でやってのけてしまった…という点に関しては素直に評価するべきなんじゃないかと思います。

 ただ、第1話のストーリー全体を俯瞰してみると、とにかく与える情報量が多すぎるのが気になるところです。
 ネームが多いのは高橋さんの作品ではよくある事なんですが、今回の作品は特に、とにかく読者が覚えておかなくちゃならないキャラやその設定が多すぎて、63ページを読み終えた時にはヘトヘトになってしまうんですね。
 これで下手糞な作家だと、「もういいや」で熱心に読む事を止めてしまうので、そうは疲れないんです。けれど、高橋さんの場合は、ちゃんと表現力が備わっているので無理矢理にでも読ませ切ってしまうんですよね。だから余計に疲れるんです。何というか、打球はどう見ても凡フライなのに、パワーだけでスタンドにギリギリ届いたホームラン、みたいな感じでしょうか。

 なので、本来の良い作品ならば、最終ページを読み終わった後には「続きが気になる。早く来週号読みたいなぁ」…と思わせるんですが、この作品は「やっと終わった…。とりあえずしばらく休ませて」と思わせてしまうんですね。これはちょっとさすがにマイナスかなぁ、と思います。
 いつも駒木は「とにかく話は贅沢なほどテンポ良く」なんて事を述べたりするのですが、この作品に関しては、第1話を3回に分けてちょうどいい感じになるんじゃないかと思うんですが、どうでしょうか?

 ……まぁ、色々言いたいことを言いましたが、この『きみのカケラ』話のスケールも大きいですし、これでもう少し主役2人のキャラが立ってくれば、十分サンデーの主翼を担う作品になれる可能性はあると思います。
 ──というか、この作品が打ち切りになると、色んな意味でイタ過ぎると思うんで、何とか良作に育っていって欲しいと思います。

 とりあえずの評価はB+寄りのA−としておきましょう。ただし第3回では変動の可能性が大です。
 

 ◎新連載第3回『ふぁいとの暁』作画:あおやぎ孝夫《第1回掲載時の評価:B

 さて、「サンデー」では久々のバスケットマンガ『ふぁいとの暁』の後追いレビューです。

 どうやらこの作品のスタイルは、「無茶な要求をされ続ける主人公が、決して笑顔を絶やさず、黙々と努力して課題を達成していくサクセス・ストーリー」で固まったような気がしますね。
 この形式は、かなり長期にわたって読者にストレスを与え続けて、ある程度まで話を進めたら反動でドーンとカタルシスを与えるタイプの話になります。で、ある程度主人公が強くなったら、今度は溜め込んだ実力で一気にその世界の頂点に登りつめていって、ハッピーエンドに繋がっていく…という話の進め方になるはずです。
 この形式は昔から色んなマンガで採用されてきたもので、駄作も多いですが、佳作・秀作も多いです。現在の「サンデー」連載作品では『DAN DOH!! Xi』が典型的なこのパターンのストーリーですね。
 ちなみにこの形式、短期で勝負をかけなくてはいけない「ジャンプ」の作品では少なくて(得てして、そういう数少ないこのタイプの作品が10回打ち切りになって、見るも無残な終わり方になるんですが)、比較的長期連載になりやすい「マガジン」では非常によく見られます。ただ、「マガジン」でこのパターンを採った作品は、どうもご都合主義がミックスされて、とんでもない駄作になってしまうケースが多いので、あまり好感が持てなかったりしますが。

 …まぁそういうわけでして、『ふぁいとの暁』は、かなり使い古されたパターンのストーリーです。それが悪いとは言いませんが、同タイプの作品が多数出回っている以上、何がしかこの作品の独自性を出していかないと凡作で終わってしまいます
 しかし、どうも現時点では、この作品の独自性はかなり弱いような気がしてなりません。作者のあおやぎさんは、主人公が要所要所で見せる(ある種、場違いな)笑顔を作品のシンボルにしようと努力されているようですが、これがむしろ話全体のシリアスさを削いでしまっているようで、逆効果になってしまっています。変に極端な演出をしろとは言いませんから、せめて深刻なシーンは深刻に感じられるように演出してもらいたいものです。

 評価はB−寄りBで据え置きです。現時点ではかなり苦戦が強いられそうです。何せ、今の「サンデー」にはスポーツ系連載作品だけで9作品もあったりしますから、その中に埋没しないだけでも大変だと思います。

 ……と、いうわけでレビューも終了。続いて、今週のゼミの目玉・緊急特集をお送りします。

 緊急特集! 「『がきんちょ強』は、何故『じゃりん子チエ』になれなかったのか?」 

 ……さて、冒頭で述べた通り、今週は緊急特集として、「週刊コミックバンチ」連載中の『がきんちょ強』作画:松家幸治)についての分析を行いたいと思います。

 ご存知の通り、『がきんちょ強』は、第1回「世界漫画愛読者大賞」で読者投票ポイント2位を獲得し、準グランプリを受賞した作品です。このゼミでも「世界漫画愛読者大賞」エントリー作(読み切り)掲載時と、新連載第1回にレビューを実施しました。(それぞれ2月20日分6月6日分レジュメに掲載)

 当ゼミでの評価は2回ともB+(漫画好きに推奨できる作品)。相当な数の問題点や、連載を続けて行く上での課題は山積みになっているものの、作者である松家さんの持っているセンスを高めに評価して、このランクをつけたのを記憶しています。
 しかしこの作品は、ネット世界での評判が回を追うごとに低くなり、ついには当講座に問い合わせ・指摘が来るまでになりました
 駒木自身も確かに、いつまで経っても連載開始当初以来の問題点や課題がクリアされない、現状の『がきんちょ強』に思うところがありましたので、談話室(BBS)にて、B+からB(商業誌の作品として及第点。可も不可もなし)への評価格下げをお知らせしました。ただ、それでもまだ巷の評判とはギャップが大きかった模様で、「『がきんちょ強』は不快でたまらない」という意見が多数派を占めているようでした。

 そういう状況に至って駒木は、「何故、ここまで『がきんちょ強』は嫌われるのか?」という疑問を持ち、その答えを出すために、この作品が強く影響を受けている名作マンガ・『じゃりん子チエ』(「週刊アクション」連載《完結》/作画:はるき悦巳との比較・分析を行ってみる事にしました。
 …そしてそんな比較・分析の結果、いくつかその疑問を解明させてくれそうな答えが見つかりましたので、ここで皆さんにその“研究成果”を報告させて頂きたいと思います。

 ──とまぁ、大袈裟な事を言いましたが、内容はそんなに大仰なものじゃありませんので、過大な期待と緊張は遠慮して頂いて、気軽に受講して頂ければと思います。

 ※注:8月23日発売・現時点で最新号での『がきんちょ強』では、これまでの路線からの大幅な転換が図られました。これについても分析の最後に述べますので、分析自体は先号までの内容について行ったものだとご承知おき下さい。


 1.『がきんちょ強』と『じゃりん子チエ』との関係

 まず、この分析の前提条件として、『がきんちょ強』『じゃりん子チエ』との関連性について説明しておきたいと思います。

 『がきんちょ強』の読み切りが「コミックバンチ」に掲載された時点で、既に気がつかれた方も多かったと思いますが、この作品は、『じゃりん子チエ』の影響をかなり色濃く受けています。

 まず、大阪かそれに近い地区の下町エリアが舞台で、登場人物の大半が関西弁(大阪の方言)で喋っているという点からして、かなり『じゃりん子チエ』に近いです
 さらに、『がきんちょ強』の読み切り・連載両方で描かれた町内小学生相撲大会のエピソードは、『じゃりん子チエ』でもかなり似たような話があり、名脇役であるヒラメちゃんが大活躍するエピソードとして、数多い『じゃりん子チエ』“サーガ”の中でも特に有名なものであります。

 そしてもう1点、これは意外と知られていないようですが、『がきんちょ強』の中で、鳥取出身のテキ屋が、語尾に「〜とっとり」をつけて話し、それを鳥取弁として通用させる…という事をやっているのですが、これも『じゃりん子チエ』で酷似した設定があるのです。
 それは、猫の小鉄とアントニオJr.が主人公になって猫の世界を描く『じゃりん子チエ』番外編の中での設定で、この番外編で地方の猫が喋る時は、“関西弁+語尾にその地方を表すフレーズ”になるのです。
 例えば東北の猫が喋る時は、
 「そんな事言うたらアカンがなズーズー
 となり、博多の猫が喋る時は、
 「どおしたどってん、早よ返事せんかいばってん
 ……と、いう感じになります。
 この“猫方言”を使う猫が登場するのは、『じゃりん子チエ』本編ではなく、別枠の単行本になっている『じゃりん子チエ番外編』『どら
猫小鉄』という別の単行本ですので、『じゃりん子チエ』を知らない人が偶然、この設定を知っているとは考え難いと思われます。まぁ、知っていたからといって、それを中途半端に人間の言葉で使ってしまう感覚には、いささかの疑問を感じますが。

 ──というわけで、『がきんちょ強』は『じゃりん子チエ』の影響をかなり色濃く受けているという事は間違いないと思われます。
 …それによく考えてみたら、作品タイトルも、両方とも「わんぱくな子供を表す5文字の言葉+主人公の名前」ですよね。もうこれは“影響”というよりも、確信犯的な強いオマージュ(または劣化コピー)と言ってしまってもいいと思われます。

 それでは、次のトピックからは、そんな酷似した設定・内容の両作品の中で明らかに異なる点を指摘しつつ、その中で『がきんちょ強』の問題点を浮き彫りにしていきたいと思います。

 2.『がきんちょ強』における、主人公と脇役の設定ミスについて

 『がきんちょ強』と『じゃりん子チエ』の間で異なる点として真っ先に挙げられるのは、何と言っても主人公とそのキャラクターでしょう。

 このポイントについては、両作品を見比べると一発で判りますので、あえて詳しくは述べませんが、『がきんちょ強』の主人公・は、『じゃりん子チエ』では主人公・チエの“愚父”テツにあたるキャラクターです。よく言えば怖い物知らず、悪く言えば好き放題・やりたい放題な傍若無人キャラ、という事になります。
 こういうキャラクターを主人公に持ってくるというのは、実はかなり危険な行為です。何故なら、このキャラは“劇薬”であり、放っておくと作品そのものまで壊しかねないからなのです。
 で、これだけ『がきんちょ強』に対して不快感を抱く読者が多いというのは、その“劇薬”(つまりアクの強い、強のキャラ)が中和されずに作品そのものに悪影響を与えているためだと思われます。

 一方の『じゃりん子チエ』では、この“劇薬”キャラ・テツのエグい部分を程よく中和させる事に成功しています
 これは『じゃりん子チエ』をよく読んで頂けるとよく分かるのですが、テツという登場人物は、これだけ怖い物知らず・傍若無人なキャラであるにも関わらず、作品に出てくる主な登場人物の中では相当弱い立場に置かれているのです。
 例えば、テツの一家での力関係を強い者順に並べていくと、
 「おバァはん→(チエ&ヨシ江で場合によって逆転)→小鉄→テツ→おジィはん」
 ……という形になります。テツは猫よりも弱いんです。
 一家以外での人間関係を考えても、花井拳骨(父)という最強キャラが控えていますし、普段はテツより弱い百合根(お好み焼き屋)も“有事”には酒に酔って天下無敵になります。ハッキリとテツより弱いキャラとなると、町のチンピラ・ヤクザやレイモンド飛田などの悪人・小悪人ばかりです。また、カルメラ屋2人組チエの担任・花井(息子)もテツより弱いキャラですが、テツがこの3人をイジめた場合には強烈なしっぺ返しが来るようにしてバランスを取っています

 ……このように、『じゃりん子チエ』では巧みにテツという“劇薬”を中和して上手く活かしているわけですが、先に述べたように、『がきんちょ強』では、それに大失敗してしまっています
 その理由としては、“劇薬”である強の傍若無人な行動にブレーキをかける役回りの脇役が極端に少ないことが挙げられます。
 現時点で強よりも明らかに力上位のキャラといえば、強のクラスを担任している学校の先生くらいしかいません。それにしても強が上手く追及を逃げ切ってしまうので、引き分けに持ち込むのがやっとです。
 また、本来なら強兄妹に対する“強大な敵”であったはずの居候先の母親と息子が、既に強に力負けして白旗状態強兄妹に意地悪するどころか、逆に強が居候先の母子をイビっている状態です(これも読者の不快感を煽った理由の1つでしょう)『じゃりん子チエ』で言えば、主人公・チエのポジションにいる強の妹にしても、強の乱暴狼藉をただ指をくわえて見ているだけの弱弱しいキャラであり、ブレーキ役を全く果たしていません
 こんな状態では、どんなに話を練ろうと「強が好き放題暴れて終わり、以上!」…という感じになってしまい、いくら“感動のエッセンス”を持ってきても、機能しません。侵入先の一家を惨殺して奪い取って来た金で人助けする話の『ねずみ小僧』みたいなもので、全く有り難くない感動話になってしまうのです。

 『がきんちょ強』の登場人物を使って、本当に面白いギャグを作るなら、強の妹をチエみたいな主人公にして、強の傍若無人振りを痛快に阻止するような話が良いでしょう。『じゃりん子チエ』そのまんまですが、そこまで設定を真似ておいて何を今更、という話です。
 
 
 3.一人称ドラマ『がきんちょ強』の限界

 当然の事だとツッコミを受けそうですが、『がきんちょ強』では、主人公・強は他のキャラとは完全に“格”の違う絶対的な主人公になっていて、話も一貫してずっと強の視点から描かれています。小説で言えば“一人称”のお話です。
 そのため、話の中心となるのも、ギャグの中心となるのも全て強であって、彼抜きでストーリーが進んだり、ギャグが放たれたりする事はほとんどありません。
 勿論、これはこれで構わないのですが、この形式では、ただでさえ印象の弱い脇役キャラが、どんどん影が薄くなってしまいますし、強の歯止めの利かない暴走ばかりがクローズアップされていく事になります。さらに、話やギャグの流れがワンパターンに陥ってしまうという欠陥にも繋がってしまっています。

 では、一方の『じゃりん子チエ』はどうかというと、実はこの作品、チエを一応の主人公にしながらも、場面場面で主役級キャラが代わってゆく“三人称”ドラマなのです。
 『じゃりん子チエ』では、実に数ページ〜10数ページという短いスパンで、次々に視点が変わり、その都度主役級の人物が変わっていきます。そうして何話分ものページ数を費やし、色々な場所で同時進行的に話が進行させた後、やがて沢山の登場人物が一斉に集まってドンパチが起こって大団円…というパターンとなります。
 この形式は、話を収拾させるのが大変な代わりに、限られたページ数で非常に多くのキャラクターやエピソードが活きて来る事になり、大変密度の濃い話になってゆきます。『じゃりん子チエ』の登場人物&猫が、揃いも揃って個性抜群なのは、実はそういうポイントがあったのです。

 ……ですから、『がきんちょ強』をもっと質の良い作品にするためには、強以外のキャラクターを主役級に据えた話を散りばめて、脇役のキャラをどんどん立てていく事が必要だと思われます。


 4.「ギャグ満載の人情モノ」になりきれない「人情味溢れるギャグマンガ」・『がきんちょ強』

 さて、これまで『がきんちょ強』と『じゃりん子チエ』にある、多くの共通点といくつかの相違点を挙げて来ましたが、ここで両作品に最も大きな違いを挙げて、この分析の締めくくりとしたいと思います。

 その“最も大きな違い”とは、小見出しに挙げた、「ギャグ満載の人情モノ」と「人情味溢れるギャグマンガ」との差であります。勿論、前者が『じゃりん子チエ』で、後者が『がきんちょ強』ということになります。

 『じゃりん子チエ』は、とても“笑い所”の多いマンガでありますが、実はギャグマンガではなくて人情モノマンガです。ストーリーの間に非常に多くのギャグが散りばめられていますが、最終的には人の心の暖かさを重視したドラマになっています。読者を感動させるべき所では、完全にギャグを抜いて感動させます。そのため、いくら作中で「フンドシから漏れたスカ屁以下のような…」という下品な表現が連発されても、読後感が爽やかなのです。
 しかし『がきんちょ強』は、そういった路線を目指しながらも、そこまで達していませんこれは主人公・強が暴走しすぎて人情どころじゃなくなっている事、さらにはギャグで読者を笑わせようとする方に作者の神経が回りすぎていて、人情味を効果的に生かしきれていない事から来たものだと思われます。せっかく人がホロリとしそうになっているところに下品なギャグが飛んでくるので、気分が台無しになってしまうんですね。

 そういうわけで、『がきんちょ強』はギャグと人情のメリハリが利いていないのです。これを何とかしない事には、多数読者の支持は得られないことでしょう

 

 ──と、思ったら、最新号(8/23日発売号)にて、『がきんちょ強』は大幅なイメージ転換が図られました。最後にこれについて述べておきましょう。
 

 5.『がきんちょ強』に未来はあるのか?〜人情路線への大転換 !?

 最新号の『がきんちょ強』は、これまでの話とは明らかに違う話が掲載されました。主人公・強が引き起こすエゲつないドタバタを描いた話ではなく、ほぼギャグを封印した人情モノマンガになっていたのです。

 ポイントは、強が学校の友人たちと空き地でサッカーをしている途中に、ボールが塀を乗り越えて人家の盆栽鉢植えを壊してしまうシーンです。
 これまでの『がきんちょ強』ならば、
 「強が蹴ったボールが盆栽を壊して、強が友人に罪をなすりつけて逃亡→担任登場、強さらに逃亡→最後に因果応報が巡って強に不幸が訪れる→次回へ続く」
 ……という形になるのですが、今回は違いました。なんと、傍若無人な強が友人を庇って、「自分がやりました」と言ったのです。これに感動した盆栽の持ち主が、強たちを招いて歓待し……という形で非常に心温まる話に展開されていきます。とうとうこれ以降、ほとんど最後までギャグらしいギャグは無く、ホロリとさせられっ放しで話が終わっていきます

 今回の話は、メタファー(暗喩)の利かせ方も見事で、非常に良質な話に仕上がっていました。なので、こういう話になっても評価はできるのですが、急に良い子になってしまった強に違和感を感じたのも確かです。萩原流行が『いいひと。』の主役を張るくらい、これはヘンな事なのです。
 この“強の改心”が、作者・松家幸治さんの確信犯的なシフトチェンジなのかどうかは分かりませんが、もし今後の『がきんちょ強』が同じ路線の話を続けていくという事になれば、これはもう別の作品の連載が今週から始まったと認識して良いと思います。
 その場合、これまでのように読者に不快感を与えるという事はなくなるでしょう。ただしその分、作品の持っていたインパクトも大きく削がれる事になります。事実、今回の『がきんちょ強』は、『じゃりん子チエ』というより、『三丁目の夕日』みたいな感じになっていました。

 ……結局、この“路線変更”は、『がきんちょ強』が「バンチ」の看板作品になることを諦め、ウェブサイト「OHP」のしばたさんが仰るところの“ごはん系”のポジションを目指して、ただ雑誌の片隅で細々と生き残る道を選択した、という事になるのでしょう。
 それが果たして良いのか、悪いのか。ここで結論を下す事は止めておきますが、脳天を突き抜けるような傑作を求めて止まないタイプである駒木には、何ともやりきれない思いが残ってしまったりしますね。


 ……と、いうわけで、今週号の路線変更もあって締まらない終わり方になりましたが、以上で今回の特集を終わります。

 次回のゼミは「ジャンプ」の代原レビューを中心にお送りする事になりますが、他にも何か佳作・良作が見つかれば、それも紹介したいと思います。

 では、また来週のゼミをお楽しみに。

 


 

8月21日(水) 社会経済学概論
「映画業界の異端児・アルバトロス風雲録(6)」

 さてさて、講義する方も受講する方も、何故だか気が重い社会経済学講義の時間がやってまいりました(苦笑)。どうしてこんな講義になっちゃったんだろうなぁ……。
 まぁ、自己反省は後でじっくりするとして、とりあえず講義です。今日も社会経済学とは殆ど関係無いスプラッタ映画の紹介で終わりそうな気がしますので、その手のモノが苦手な人は自主休講して頂いて結構です(別に映像見せるわけじゃないし、ノリはいつも通りなので本当は受講してもらいたいんですが^^;;)

 では、前回までのレジュメを紹介した後に、講義本題へ移ります。
 ↓前回までのレジュメはこちら
  第1回第2回(ここまでは競馬の話)第3回第4回第5回(第3回以降は外国映画買い付けの話で、段々変な方向へ流れていきます)

 
 ……今日お送りするのは、人畜“有害”映画配給会社・アルバトロスの1995〜97年までの歴史になります。
 先に言っておきますが、この辺りは、このシリーズ最後のための壮大な“ネタフリ”でありますので、まだオチはありません。つまりいわゆる“ヤオイ”講義なんですが、話題は美形少年の同性愛じゃなくて血飛沫ズバズバのスプラッタであるところが我ながらイタいですね。
 まぁこういう辺り、いかにも大学の講義らしいダラけっぷりではないですか…と、大学関係者の名誉を傷つける自虐な言い訳をカマしつつ、話を進めていきましょう。

 …さて、この3年間、アルバトロスと買い付け担当の叶井俊太郎氏は、とにかくドイツ・スプラッター映画に傾倒しまくっていました

 駒木もこの講義の準備を進めていく上で始めて知ったのですが、ドイツという国は、何故だか(マニアにとっての)良質スプラッター映画がバンバン誕生する所のようです。とにかく、他の国では発想も出来ないようなキ○ガイ映画が撮られては上映禁止になってゆく……という感じです。
 これはおかしな話でして、実はドイツという国は、ナチス問題やネオナチの影響があるせいなのか、表現の自由に関する統制が厳しいんですね。聞いた話によると、『美少女戦士セーラームーン』の1シーンが児童ポルノであると糾弾された事があったそうで…。そんな国でどうして、何の脈絡も無くキ○ガイが別のキ○ガイを撲殺するような映画が作られるのか、また、どうしてそんな映画を作ろうとする映像作家が現れるのか、それが不思議でなりません

 ただ、そんな本国でも上映禁止を喰らうような映画を堂々とTSUTAYAでレンタルさせてしまう、我が日本も大概な国であります。『E.T.』が大ヒットした同時期、その次にヒットした映画が『食人族』だった…という凄まじい話もありますし、日本人というのも他の国の人から見たら、とんでもないグロ好きなのかも知れません。
 もっとも、世界中で大失笑を買った、ゴールデンラズベリー賞作品賞ノミネート作品・『アルマゲドン』が、何故だか感動巨編で通じてしまう日本ですから、ただ単に他の国の映画ファンと比べてどこか感覚がズレてるだけ…という説も有力ではありますが。

 閑話休題。
 1995年、実はこの年は、アルバトロスが親会社・ニューセレクトから完全に独立した年でもありました。これで親会社に一切気を遣わなくて良い状況になった叶井氏は、先程から述べているように、もうこれでもか、これでもかとドイツ産スプラッタ映画をバンバン買い付けてきます。

 まず手始めに叶井氏が日本に持ち込んだのは、今なおスプラッタ映画及びB・C級映画ファンの間では名高い超残酷映画・『ネクロマンティック』でありました。
 この映画、実は本国ドイツでは上映禁止に加えて、フィルム等の素材を完全に焼却せよという、始皇帝の焚書坑儒を思わせる御無体な命令がお上から下された映画なのですが、それが何の因果か日本のレンタルビデオ屋に陳列される事になりました。まるで、元ポル=ポト兵士の政治難民が日本にやって来て、さらにタレント事務所に雇われて『タモリ倶楽部』の準レギュラーになるようなものであります。
 で、その映画ですが、主人公が死体愛好者でしかも死体回収業者、その彼女も死体愛好者、続編(!)のヒロインも死体愛好者。もうこの時点で確率変動確定のフィーバー突入です。
 ストーリーもエグい上にバカです。猫を虐待死させるという21世紀の日本を先取りしたようなシーンは序の口で、主人公、恋人、そして主人公がパクって来た死体との3Pシーンがあったり、その恋人が失業した主人公に愛想を尽かして死体と駆け落ちしたり。最後は主人公が切腹しながら射……すいません、さすがにこれ以上は当社会学講座でも無理です。
 で、続編は、その主人公の死にっぷりを粋に感じた死体愛好者(続編のヒロイン)が墓場から主人公の腐乱死体をパクって来る所から始まります。しかし、さすがに腐った死体ではどうしようもないので(先に気付かんかい)、首だけ残して後は捨ててしまい、恋人(唯一の常人)とのH中に首を挿げ替えて(詳しい描写は避けますが、まぁそういう事です)思いを遂げ、妊娠したところで大団円(?)となります
 ……受講生の方は説明されても「ナンノコッチャ」かもしれませんが、詳細な描写をするとヤバすぎるので、どうしてもこういう感じになります。とにかく死体をグチャグチャに弄ぶ映画だと認識して頂ければ幸いです。どこまで解りやすい喩えか判りませんが、マンガ『殺し屋1(イチ)』を、ファミコンゲーム「ロードランナー」みたいにチャンピオンシップ版にしたようなものだと考えてもらえれば…と思います。

 ……で、この『ネクロマンティック』なんですが、日本ではまず、『1』、『2』を合体・編集した『特別編』がリリースされました。当然というかこのビデオ、全国各地で有害指定を受けたのですが、それでも日本のスプラッタマニアにバカ受けしまして、レンタルビデオ業界で超大ヒット。主演男優呼んできてイベントするわ、翌年には『完全版』として、『1』と『2』のノーカット版が発売される“祭り”状態に至りました。

 このヒットが、さらに叶井氏の心に火をつけたのは言うまでもありませんでした。アルバトロスは、更に血みどろ路線へと突っ走っていくのです。

 『ネクロマンティック』(全人口比0.03%くらいのコアな人たちに)大ヒットした後、アルバトロスは『死の王』という映画を買い付けてR-15指定で単館公開し、これでまたも(例によってコアな層を中心に)スマッシュヒットを記録します。
 この映画、実は『ネクロマンティック』シリーズの監督であるユルグ=ブットゲライト氏の本格デビュー作でありました。後の名映画監督のデビュー作を発掘して公開、というのは、まぁよくある話でありますが、「撮ったフィルム燃やせ」と国から言われるような監督のデビュー作を発掘してくるのは、アルバトロスくらいなものでしょう。また、この『死の王』も、やはりヨーロッパ全域で上映禁止&フィルム等廃棄処分の指示が下されており、監督がネガをコッソリ持ち出して再プリントしたというから筋金入りであります。何というか、言論弾圧に対する抵抗がここまで美しくない事例も珍しいですね。
 この頃にはブットゲライト氏は、既に当局にマークされて映画撮影が出来ない状況に陥っており、まさに貴重なフィルムを発掘して来たといえます。ただ、ワイセツ事件を起こしてクビになった野球選手を、ほとぼり冷めてから獲得するような話なので、その叶井氏の敏腕ぶりが全く自慢できないのがナニですが。
 で、その映画の内容はと言えば、7つのパターンの自殺を描いたオムニバス・ストーリー。しかもただ人が自殺するだけじゃなくて、他の何の関係も無い人が次々と殺されてゆくという、『世にも不思議な物語』の自殺&無差別殺人特集みたいな映画です。さらに、『世にも──』のタモリが台本を棒読みするシーンの代わりに、自殺した死体が1週間かけて虫が湧いて腐乱してゆく様子が、教育テレビの「小学6年理科」のワンシーンのように挿入されていくので、嫌な意味で息つく暇もありません
 ……何と言うか、人間の趣味・嗜好というものは本当に人それぞれだな、と思いますね。

 さて、この『死の王』の後にアルバトロスが送り込んだドイツ・スプラッター作品は、『バーニングムーン』という作品。頭のイカれた兄ちゃんが妹を寝かしつけるために、2つの大量殺人犯が更に人殺しをする話をし、話が終わった後は兄の手によって妹も永遠の眠りにつくという、心底救いようの無い話です。
 受講生の皆さんも酸っぱい臭いのゲップが出そうになっているでしょうから、ストーリー(というか殺人シーン)の詳細は割愛して、その場面場面を連想させるキーワードのみを紹介させて頂きます
 「車から生首のポイ捨て」
 「バラバラ人体のオブジェ」
 「人間たいまつ」
 「釘で四肢拘束」
 「コルク抜きで眼球を」
 「歯+電気ドリル−麻酔」
 「内臓大放出」
 「股から真っ二つ」

 

 ……この映画、どんなスプラッター好きでも気が重くなるという、加藤鷹が泣いてションベン漏らしながら『勘弁してください』とNGを出す企画のアダルトビデオみたいな作品であったために、さすがにヒットというところまで届きませんでした。まぁ、ヤクザ実録雑誌「実話ドキュメント」並にコンビニで売られているのが不思議な、アングラ誌・「GON!」に推奨を貰ったのが致命傷だったかもしれませんが。


 これにちょっとだけ反省したのか、この後のアルバトロスは、スプラッタ要素よりバカ要素が強い映画をプッシュするようになります。それが進行しすぎて、やがてバカ要素しかない映画を山ほど日本に持って来るようになるのですが、それはまた次回以降のお話にしたいと思います。
 ……で、そのバカ要素をミックスしたドイツ・スプラッタ映画は、1997年の4月と5月に相次いで劇場公開されます。まぁもっとも、単館のレイトショーという、青果市場でやるプロレス並に客入りが望めない条件だったんですが……。
 で、その2つの映画、題名からイカしてます。まず4月公開の映画が『ドイツチェーンソー大量虐殺』、5月のが『テロ2000年集中治療室』。何だかTBSがスポーツ選手につけるニックネームを髣髴とさせる、脱力しそうなセンスの邦題ですが、映画の内容から考えればこれで構わないのが凄いです。
 ちなみに、この2本の映画を撮った監督は同じ人です。しかも映画が上映されたシアターが政治団体に襲撃されたり、監督本人が撮影中に逮捕されたりしています。あのブットゲライト氏も顔負け上には上がいるものですね。ていうか、ドイツ凄すぎます
 この2本の映画に共通しているのが、「登場人物の大半が、人を殺しても罪に問われない病気の人たち」である事。そのため、ストーリーらしいストーリーなど描けるはずも無く、脈絡も無くただ血が飛び散るだけという映画になってしまいました。日本での試写会では観ていた女の子が思わず嘔吐したという“逸話”まであり、まさに世紀末的作品と言えるでしょう。そういう意味では単館レイトショー公開で良かったのかも知れません。超人オリンピックのラーメンマンVSブロッケンマンのような映画です。

 ……以上が1995〜97年にアルバトロスが買い付けたドイツ・スプラッター映画5部作でした。
 「おい、こんなんばっかりか!」…と思われるかも知れません。確かに、他のジャンルの映画もたくさん配給してたのですが、そのことごとくがスカばっかりだったのです。
 どうスカだったかというと、観ている側から内容を忘れていってしまう、『エンカウンター〜遭遇〜』のように間延びしたサスペンス映画ったり、または、作品中最大の見せ場であるダムの決壊シーンが、誰が観てもミニチュアとわかるジオラマから水がチョロチョロと流れるだけ…という、『電人ザボーガー』みたいな災害アクション映画だったり……。
 本当に映画を観て買い付けて来てるのか怪しんでしまうような作品ばっかりでは、紹介する気も起きませんでした。すいません。

 ──あ、この時期に1つだけありました。万人受けするようなヒット作が!
 『ネクロマンティック』と『死の王』の間に挟まれる形(!)で公開され、なんと東京ファンタスティック映画祭で第1回の観客大賞を受賞した映画があったのです。
 その映画はコメディ映画『マッシュルーム』“死”とか“虐殺”とは無縁の、ごく普通の題名です。
 で、その映画の内容といえば、「万引き常習犯と外出拒否症の夫婦が経営する下宿屋に居座った強盗がガス中毒死。その死体の処理に困った夫婦が、死体をバラバラにして冷蔵庫に入れておいたら、強盗と入れ替わるように下宿人になった老刑事が、勝手に死体を料理して食っちゃって……」

 ──おい、やっぱりそんな映画かい! 

 …ちなみに、題名の「マッシュルーム」とは、強盗の死体の腕をエサにして育った鶏が排泄した糞で作ったマッシュルームのことでありました。

 ……まぁ、これはブラックコメディ映画なんで、スプラッタ5部作とは、中川家とエスパー伊東くらい芸風が違うモノなんですけど、日本人の趣味嗜好って、やっぱり変かも知れません。


 ……と、いうわけで時間になりました。次回はスプラッター路線からバカ路線にシフトした1990年代末期のアルバトロス映画についてお話します。では、また次回。(次回に続く

 


 

8月20日(火) ギャンブル社会学特論
「雀荘メンバーというお仕事(2)」

 ※前回のレジュメはこちらから→第1回

順子:「博士〜、もう朝の4時過ぎてますよ〜。遅いじゃないですか〜!」
駒木:「いやぁ、ごめんごめん。談話室(BBS)で受講生の皆さんの質疑応答をしていたら、遅くなっちゃったよ(苦笑)。何しろ、延べ12人分の回答だったもんでね。何だか、もう講義1回分のエネルギーを使い果たしてしまって、今日も休講にしたい気分だよ(笑)」
順子:「ダメですよ、博士! わたしも先週の続きを、ずう〜っと楽しみにしてたんですからね。ちゃんと講義はしてもらいますよっ」
駒木:「了解、了解(笑)。そりゃあ、バイトのゲーム代・賭け金店負担のフリー雀荘の話じゃ、順子ちゃんは気にならない方がおかしいよな(笑)。
 まぁそれに、2日連続休講なんて僕もやりたくはないからね。だから、こうしてちゃんと講義をやりに来たんだよ」
順子:「それじゃ、さっそくその話を……(身を乗り出す)」
駒木:「まぁ、焦らない焦らない。とりあえず前回の講義からの繋がりを説明しておかないとね。順子ちゃんのためだけの講義じゃないんだよ、これは」
順子:「あ、ハイ、ごめんなさ〜い(苦笑)」
駒木:「分かればよろしい(微笑)。
 前回はフリー雀荘のメンバー(店員)の仕事内容、特に勤務時間待遇についての話をしたんだったね。
 一見すると高給優遇の仕事なようだけれど、その実態はその正反対。休みもロクに無い長時間労働で、しかも、人数合わせに客と打つ分本走のゲーム代と負け分は自腹という御無体な職業、それがメンバーというお仕事……という内容だったよね」
順子:「でも、でもでも、時給は高くてゲーム代も負け分も払わなくて良い所もあるんだよって、そういう話でしたよね!」
駒木:「そうだね。そこまで話したところで時間になって、1週間ご無沙汰って事になったんだった」
順子:「でも、信じられないんですけど。とても同じお仕事だと思えません(笑)」
駒木:「業界内でもそう思ってる人は結構多いみたいだよ。特に男子メンバー(笑)。でも、彼らはそんな雀荘には絶対に採用してもらえないんだな」
順子:「どうしてですか?」
駒木:「だってね、そういう雀荘って、『ギャル雀』って言って、女の子しかアルバイト・メンバーに入れてもらえない雀荘なんだもの」
順子:「ぎゃるじゃん?」
駒木:「そう、『ギャル雀』ギャルばっかりで接客する荘、略して『ギャル雀』(笑)」
順子:「それって、店中わたしみたいな女の子ばかりのフリー雀荘ってことですか?」
駒木:「そうだね。店長やチーフには1人、ガードマン役を兼ねた男性メンバーがいるみたいだけど、実際に接客するのは、みんな18〜25歳くらいの女性。当然、本走にも入るよ。……っていうか、それが一番重要なんだけど」
順子:「つまり、女の子と麻雀打ちたい男の人のための雀荘って事ですか?」
駒木:「ミもフタもない言い方だけど、そういう意味合いも強いんじゃないかな(笑)。まぁ、必ず1卓に1人女性がつくってわけじゃないんで、正確に言えば、『無精ヒゲ生やした男の代わりに、若い女性がドリンクやおしぼりを運んでくれる雀荘』って事になるんだけどね」
順子:「変なサービスとかしなきゃいけないとか、あったりしないでしょうね?」
駒木:「無い無い(笑)。中年のオヤジさんみたいな質問だな、それ(笑)」
順子:「え〜、でも、高い時給でゲーム代とかはお店が負担でしょう? 何だかウラがあるような気がしてならないんですけど〜(苦笑)」
駒木:「メンバーの女の子がやる事は、普通のフリー雀荘と一緒だよ。だから雀荘オーナーの負担は大きいんだけど、流行ってる店なんかは、その負担を払って余りあるくらいの儲けがあるらしい
順子:「へぇ〜そうなんですか〜」
駒木:「違うのは客層かな。ギャル雀は原則的に点5オンリーなもんで、『熱い勝負がしたい!』って思う人はレートの違う店に行っちゃうんだ。だから、客層は中級者の若者が中心になるみたい。あと、客の年齢制限をしている店もある。35歳以下限定とか」
順子:「年齢制限?」
駒木:「言っちゃ悪いけど、若者中心の麻雀に中年以上の人が入るとトラブルの元になるんだよね。今の10代から30代前半の人は、先ヅモ禁止とかポン・チーの発声とかが当たり前になってるけど、それ以上の人にとってはそうじゃない。その上、キャリアが長いからプライドも高いしねぇ。それに、ちょっと怖い人っていうのも中年の人が多いしね。第一、店員の殆どが女の子だからね。トラブルの元や雰囲気を壊す要素は出来るだけ消したいみたい。
 それから、中年以上の人はギャル雀をキャバクラかなんかと間違えて来る人も多いというのもあるらしい(苦笑)
順子:「セクハラですか(苦笑)。でも、そんなの若いお客さんでも可能性はありますよ。セクハラっていうよりナンパの方に近いかもしれないですけど
駒木:「やっぱり、順子ちゃんも経験ある?」
順子:「たまに、ですけど(笑)。どこまで本気か判らないですけど、『携帯教えて〜』っていうのは結構(笑)」
駒木:「へぇー。で、そういう時はどうしてるのかな?」
順子:「『携帯持ってません』って言ってます(笑)一度だけ、本走の時にしつこく言い寄られた時がありましたけど、その時は、こんな感じで睨んで…
駒木:「
うわ、怖! 夜の神社で藁人形に釘打ってそうな顔だよ、それ」
順子:「なんて表現するんですか、も〜(苦笑)……で、少しドスを利かせた声で、『お客様、他のお客様のご迷惑になりますので、私語はお慎みください』って言うと同時に、小手返しでカチャカチャさせた牌を思いっきりスパーン! と卓に叩きつけて。それで黙らせました。イェイ♪
駒木:「『イェイ♪』…じゃないだろ(苦笑)。……その客、二度と来なかったんじゃないの?
順子:「よく分かりますね〜
駒木:「分かるも何も……(苦笑)。まぁいいや。まぁ、そういうナンパまがいの男っていうのは後を絶たないとか聞くね。中には追っかけや出待ちまで出るような人気女性メンバーもいるみたい」
順子:「追っかけ(笑)! 出待ち(笑)! モー娘。じゃないんですから、それ(笑)」
駒木:「そういうのも貴重なお客さんだから、出入り禁止にしてしまうわけにもいかない。なので、適当にあしらう事になるんだそうだけどね。
 でも、メンバーの女の子たちも、カッコ良くて麻雀の強い男とか見つけたら、逆にアプローチする事もあるらしいよ(笑)。中にはお客を“兄弟”にさせちゃう娘もいるとかいないとか……」
順子:「(苦笑)。でも、わたしは絶対そんなことしませんけどね〜」
駒木:「それがアイドルや俳優真っ青のカッコいい男でも?」
順子:「本当のイイ男だったら、わざわざ女の子に会いにフリー雀荘に来ないですよ、きっと。わたしは、パッと見の顔貌がいい人よりも、全身がヒリヒリするような勝負をしても眉一つ動かさないようなクールな人がいいんです!
駒木:「凄い表現(笑)」
順子:「……で、そんな感じのお店で、時給が4ケタに乗っちゃうような待遇なんですよね?」
駒木:「うん。個別差はあるけど、大体のギャル雀が時給1000円スタートみたい。それから実績によって比較的簡単に昇給する店も多いみたいだよ。中にはミニスカートを穿いて仕事する事を条件に、時給がハネ上がる店もあるらしいし(笑)」
順子:「穿きます、穿きます! なんだったらメイドコスプレでも何でも。減るもんじゃなし、若い内に稼がせてもらいますよ!」
駒木:「順子ちゃん、飛ばしすぎ(笑)。……で、さらに本走で打った分はゲーム代と負け分は店が負担。これはギャル・メンバーの平均的雀力が、フリー雀荘で打つには低すぎるってこともあるみたい。せっかく雇った可愛い娘に、実質給料が低いって事で辞められても困るからね。で、もっと凄い事に、もし月トータルで黒字になったら、その分はお小遣いとして貰えるらしい
順子:「……わたし、眩暈がしそうです(苦笑)」
駒木:「だから、ギャル雀を経営するにあたっては、このゲーム代・負け分負担が一番重くのし掛かってくるらしい(苦笑)。さっき言ったように、今は流行ってる店が多いみたいだけど、潰れる店が出て来るとしたら、多分、メンバーの女の子が負け過ぎたからと思って間違いないみたい(笑)」
順子:「あ〜、でもいいこと聞きました♪ 今のお店に勤めたままで、コッソリと面接受けにいこうかな〜(笑)」
駒木:「まぁ、そんな高待遇なんで、採用倍率も高いらしいんだけど、順子ちゃんくらい器量があって、麻雀にも精通してたらまず大丈夫だと思うよ。でもね、順子ちゃんがギャル雀に勤めるためには大きな問題が1つある」
順子:「何ですか?」
駒木:「そういう好条件のギャル雀は、今のところ首都圏に集中してるんだよ(苦笑)。少なくとも、京阪神地区で純粋なギャル雀があるなんて話、聞いたことが無い
順子:「
エ───! そんなのって無いですよ〜」
駒木:「悔しかったら、今の店のオーナーを説得するんだね(笑)」
順子:「東京の大学に入りなおそうかなあ…」
駒木:「そこまでするか(笑)。そんな事言い出したら親御さんが泣くから止めとけよー(苦笑)」
 …で、あと最後に、客の立場からみたギャル雀。これは、店によってメチャクチャ中身が違うらしいんで、1つの店に1回行っただけで『ギャル雀とはこういうものかー』とは思わないことだね。ギャル・メンバーが常連客と馴れ合ってて一見客には感じ悪い雀荘もあれば、メンバーが必要以上に客と会話する事を禁止していて、常連客になってもそれほどメリット……って、何のメリットだ(笑)…が、無い店もある。これは個人個人の好みだね」
順子:「それは、普通のフリー雀荘でも変わらない事ですけどね」
駒木:「まぁ、そうだね。……と、いうわけで今日の講義はこれで終了。順子ちゃん、ご苦労様」
順子:「は〜い、お疲れさまでしたー」
駒木:「来週は、ちょっと趣向を変えて、『フリー雀荘で打つ麻雀は、果たして儲かるギャンブルか?』…というお話をしようと思ってるんだ」
順子:「え〜と、また雀荘勤務のわたしにとっては居心地の悪い講義になりそうなんですけど(苦笑)」
駒木:「大丈夫。麻雀好きって、何を言われようがフラフラとフリー雀荘に舞い込むもんだから(笑)」
順子:「(苦笑)」
駒木:「……と、いうわけでまた来週、どうかよろしく」 
(この項終わり。次週も麻雀関連のギャンブル社会学です)

 


 

8月18日(日) 文化人類学
「2002年度・フードファイターフリーハンデ・中間レイト(4)〜総括」

 いよいよ、このシリーズも今日で最終回、総括という事になりました。
 今日は、全カテゴリの一覧表の公開をし、さらに今年上半期のフードファイト界の動きについて述べさせてもらいます。

 ※前回までのレジュメ…第1回(早飲み系競技)第2回(早食い系競技)第3回(大食い系競技)

 

 ──では、まずは全カテゴリのハンデ一覧表ですが、今回もスペース・容量の都合で別ページとさせて頂きました。この一覧表ページから各カテゴリの解説文へリンクが繋がってますので、どうぞご利用ください。 

こちらをクリックして下さい
(新しいウィンドゥが開きます)

 

 ……次に、総括文に移ります。例によって、文中敬称略・文体を常体に変更しますので、どうぞよろしく。


 2001年の総括の際に駒木は、2001年という年を「激動」という言葉で表現した。
 本来なら短期間での言葉の重複は避けるべきであろう。しかし、敢えて今回もこの言葉を用いる。2002年上半期は、まさに激動の半年間であった。

 だが、同じ言葉を用いるにしても、その意味合いは随分と違う。2001年の“激動”はフードファイト界という狭い世界の中での“激動”だったが、今年のそれは、業界の外からの圧力によって、フードファイト界そのものが地盤もろとも揺るがされたという意味での“激動”であった。

 今更ながらの話ではあるが、実はこの“激動”の素因のようなものは、随分と前から業界内外にくすぶってはいたのだ。
 「いつか、こういう事態になるのではないか?」、
 または、
 「そういう事態になったなら、その時どうすれば良いのだろう?」
 ……そんな事を考えていた人も多かったはずである。しかし、そんな人たちも、昨年来の、“大食いバブル”とも揶揄された業界内の“激動”の中で翻弄されてしまい、誰も明確な回答を引き出す事は出来ないでいた。
 そして、“それ”は突然やって来た。いや、突然では無かったのかもしれない。必然の事が最悪のタイミングで襲って来た。そういう事だったのかもしれない。
 その後は悲惨だった。何気なくハイカーに捨てられたタバコの吸殻が、次々と樹木に引火して大きな山火事になるように、1つの悪材料が悪影響を与えつつも次の悪材料を作り出し…というようなネガティブな連鎖反応が次々と起こった。
 気が付いたらフードファイト界は、これまでの10年間で築き上げて来た殆どのものを失い、茫然自失の状態に陥った。色んなモノを失って、始めてフードファイト界の住人は、大事な事を忘れていた事に気が付いた。ある者は悲嘆に暮れ、またある者は激しく憤った。だが誰が何をしようと、覆った盆の水は、もう二度と返る事はないのである──。

 ……と、どうやら、やや抽象的な事を長々と話し過ぎたようだ。これでは、受講生の方には余りにも不親切に過ぎよう。
 では、ここで今年の“激動”の様子を、詳細に、時系列に沿ってお話する事にしよう。時計の針は、若干の余裕を持って、2001年の12月暮れまで巻き戻す。

 

 2001年暮れ、テレビ情報誌に掲載された年末年始の番組表を見て、多くのフードファイト・ファンは思わず天を仰いだ事だろう。
 年末・年始は、番組改変期の4月、10月に次ぐTV特番シーズンである。そしてそれは、フードファイト番組が一斉に放映されるという、フードファイト・ファンにとってはたまらない時期でもあるのだ。小林尊の雄姿に黄色い声援を飛ばし、白田信幸のパフォーマンスに嘆息を漏らし、競技に使われていたステーキやケーキが無性に食べたくなり、荒れまくる大食い系BBSを見て静かにキレる。…まぁ、端的に言えばそんな事を毎日繰り返すというのが、このシーズンである。
 当然、この2001〜02年の年末年始でも、多くのフードファイト番組や、フードファイト企画のある番組が放映予定となっていた。だが、問題は1月3日のタイムテーブルにあった。
 この1月3日のゴールデンタイムに、なんとTBS系「フードバトルクラブ」とテレビ東京系「大食い選手権」の両特番がバッティング。さらに、他局でも同時間帯のバラエティ特番内で、有名選手が多数出演するフードファイト系企画が放映される事になったのである。
 これは、目一杯大袈裟に言えば、サッカーW杯とオリンピックと世界陸上を同時にやるようなものである。体はともかく、テレビやビデオを2つ、3つ用意しないと対応しようが無い事態になってしまった。多くのファンは、「大食い(フードファイト)が盛んになるのは嬉しいんだけどなぁ…」などと思いながら、どの番組をリアルタイムで視聴し、どの番組をビデオ撮りし、どの番組を諦めるかで頭を悩ませたのであった。

 また、この番組バッティングは、TV業界内の確執も呼んだ。いや、冷戦状態が高まって、ついに直接衝突に至ったと言うべきか。
 確執の主役となったのは2つのテレビ局だった。1つは、10数年来に渡って「大食い選手権」を放映し、フードファイト番組のノウハウを作り上げて来たテレビ東京。そしてもう1つは、高額賞金のフードファイト競技会「フードバトルクラブ」で一躍、業界最大手の団体に登りつめたTBSであった。この両局の首脳が公の場で顔を合わせた際、テレビ東京の首脳がTBS側に直接「フードバトルクラブ」について不快感を表明したのである。水面下で視聴率戦争をしていても、テレビ局の首脳が公の場で他局を非難する事は極めて異例であった。

 この確執の原因は勿論、お互いが同日同時間帯に同種の番組をぶつけて来た(そして視聴率戦争で後発のTBSが大差で勝利した)ことであるのだが、それ以前からの伏線めいたものも存在する。
 実は、TBSでは「フードバトルクラブ」の開始以前から度々、フードファイトの競技会とその特番を実施・放映して来た。しかしそれらの企画は、構成が稚拙な上に、肝心の出場選手のレヴェルが低く、一般層はおろかフードファイト・ファンの支持も得られず失敗に終わっていた。
 だが、そんな反省の上に企画された「フードバトルクラブ」では、構成面で(かなりの問題は有れど)格段の進歩を見せただけでなく、「大食い選手権」の10倍以上と言う破格高額賞金を用意し、「大食い選手権」出身一流選手の招聘に成功した。
 こうなれば、元々テレビ局としての地力に勝るTBSである。「フードバトルクラブ」が一般層に対する知名度や認知度、さらに視聴率で「大食い選手権」を凌ぐのにそれほど時間はかからなかった。
 これでたまらないのはテレビ東京である。せっかく自分たちが発掘して来た選手たちをヘッドハンティングされて、しかも視聴率戦争で敗れてしまっては、何のために「大食い選手権」をやっているか分かったものではない。しかも「大食い選手権」はテレビ東京の看板番組だ。長かった視聴率低迷期を救ってくれたという恩義もあり、たただの番組ではないのである。以前から、複数のテレビ局で番組の企画を奪い合って、その関係がギクシャクすることは度々有るが、今回の件はテレビ東京にとっては特殊な事だ。その屈辱、いかばかりか。
 もっとも、テレビ東京もただ手をこまねいているだけではなく、色々と手を尽くしたようである。出場選手の待遇改善や、某有名選手を専属タレント化しようとまでしたらしい。だが、選手のTBSへの流出は止められず、専属化を試みた某選手からは、テレビ東京側の致命的な過失があって、逆に三くだり半を突きつけられる始末であった。
 看板番組を“汚され”た屈辱感と、劣勢を挽回できないと言う無力感。テレビ東京関係者の心中は、そのような複雑な感情がない交ぜになっていたのだろう。そしてそうしたものが、テレビ東京の首脳が公の場でTBS側に直接批判すると言う直接行動に繋がったのではないだろうか。
 幸いにも、この確執はそれほど悪い方向には進展せず、そのまま終息に向かった。しかし、この確執がその後の両テレビ局の(特にテレビ東京の)姿勢に変化をもたらしたのも事実である。これはまた、後で述べよう。

 

 さて、この年末年始のフードファイト番組ラッシュの後、昨年以来、徐々に増加していたフードファイト選手のテレビ番組への露出や、全国各地のフードファイト・イベントの数が更に増えていった。
 これは、明らかに一般層のフードファイトに対する認知度とイメージの向上ぶりを示す事であり、長年業界外からは色眼鏡で見られがちだったフードファイト界にとっては、大変喜ばしい事だったと言える。
 また、この時期にはアングラ雑誌・『噂の真相』にフードファイト業界の内部告発めいたレポートが掲載されたりしたが、これも事の善悪は別にせよ、フードファイトというものが一般層でメジャーなものになって来たという証だと言えよう。
 ちなみに『噂の真相』に書かれたレポートは、1人の選手がライターに情報提供をして書かせたものだと推定されるが、その内容は、情報提供した某選手が得をし、その選手と業界内で対立する選手たちが不利になるように虚実を混ぜて書かれているようである。ここで下衆な犯人探しをする事は避けておくが、その『噂の真相』をお持ちの方は、このレポートで誰が一番得をするかを見極めておくべきだと思われる。

 

 …こうして、フードファイト選手の各方面への露出が進んでいくと、本来は“素人”であったトップクラスの選手たちのタレント化が進んでいったのは言うまでも無い。
 そうなると、スケジュール管理やギャランティー交渉、さらには雑収入に対する税金の対策など、様々な雑務が選手たちの活動を圧迫する事になる。また、先にも挙げたが、テレビ東京が某選手を、その本人が預かり知らないところで専属タレント化しようとするなどのトラブルも発生していた。
 ところがそういう背景に置かれている選手たちの殆どは、学業や職業を持つ“兼業”選手であり(山本晃也のように知人にマネージャーをしてもらっている選手もいるが)、これらの諸問題に対して余りにも無力であり無防備であった。駒木は業界内の人間と言うわけではないので詳しい事は知る由も無いが、一躍売れっ子になった選手たちの中には、戸惑いと不安を抱いていた者もいただろう。
 そうした状況の中、日本フードファイト界の一流選手の大半(小林尊、白田信幸、山本晃也、高橋信也、射手矢侑大、加藤昌浩、立石将弘、小国敬史、山形統、以上順不同)を所属選手として誕生したのが、FFA(=Food Fighter association)なる団体であった。
 このFFAは、所属選手のイベントやテレビでの活動のマネージメントや、グッズ販売、さらには所属選手参加によるイベントの企画を行う団体で、言わばフードファイト選手専門のプロダクションというわけである。しかも一説によるとこのFFA、大企業のスポンサーも得ている、かなりバックボーンのしっかりとした団体のようである。
 これにより、所属選手たちは諸々の雑務から解放されるだけではなく、それまでどうしても受身にならざるを得なかったテレビ局との関係も、対等に近い形で交渉が出来るようになった。逆に言えば、テレビ局は自局主催のフードファイト競技会(番組)を成功させるためには、FFAを通じて所属の一線級選手をブッキングしなければならなくなったわけで、これまでのような口約束やいい加減な対応は出来なくなった事になる。
 この新たな関係は、一見すると話がややこしくなったように思われるが、関係そのものは以前に比べて明らかに健全である。
 勿論、これまではテレビ局がフードファイト界を支えて来たのは確かだ。しかし根本的に、テレビ局にとってフードファイトとは、会社の営利を得るための一手段に過ぎない。当然ながら、テレビ局はフードファイトのために存在するわけではないのだ。
 それに対し、FFAはフードファイトの発展が団体の目的そのものであり、存在意義でもある。そういう団体が、営利の手段としてフードファイトを求めるテレビ局と交渉して、選手を派遣する。これは、選手たちにとってもフードファイト界そのものにとっても理想に近いものであろう。
 というわけでこのFFAは、資金力的な規模ではTBS、テレビ東京に次ぐ三番手ながら、人的規模においては両テレビ局を圧倒するという極めてユニークな団体となった。これからのフードファイト界は、どのような形に発展していくにしろ、このFFAを抜きにしては考えられなくなるのは確かである。今後も注目が必要だ。

 

 3月下旬、FFAの設立と相前後して、春のメジャー系フードファイト競技会が開催された。TBS主催の「フードバトルクラブ3rd ザ・スピード」と、テレビ東京主催の「全国大食い選手権・全国縦断最強新人戦」である。
 大会の結果等については、既に詳しく述べているのでここでは省略するが、「フードバトルクラブ──」は早飲みとスプリント競技のみに特化された、過去に類を見ない競技会となったが、トップ選手の奮闘と早飲み系新人選手の健闘が光り、メジャータイトル戦に相応しいハイレヴェルな競技会となった。ただ、テレビ業界の大不況に伴う賞金総額の大幅な減額や番組放映時間の短縮などの懸念材料も浮き彫りになった。視聴率そのものは同時間帯で首位をキープし、番組の存続自体には問題が無いものの、番組制作費の更なる削減などがあれば、競技会のグレードダウン等の悪影響も考えられるだけに心配である。
 一方の「大食い選手権」新人戦は、昨年来の劣勢に危機感を抱いたテレビ東京が制作費を大幅に増額して勝負に出た。全国5都市で予選を開催するなど大会規模を拡大し、さらに番組の演出方法も大幅にアレンジを加えた。今年の新人戦は、発掘された新人選手の平均レヴェルはやや小粒に留まったものの、競技会と番組そのものは極めて完成度の高いものとなった。番組放映後の業界内外の評判も上々で、昨年危惧されていた「大食い選手権」のマイナー化や衰退が杞憂に終わった事を印象付けた。まさに、フードファイト番組の老舗・テレビ東京の底力を見せつけられた出来事であった。

 

 こうして、今年春までのフードファイト界は、まさに順風満帆であり、業界内の情勢判断も極めて楽観的なものが多かった。不況の影響は確かに感じられたが、その悪条件を補って余りあるだけの勢いが、確かにその時のフードファイト界には備わっていた。

 だが、勢いはあくまで勢いであった。
 この時点のフードファイト界には、業界全体を揺るがす大きな出来事が起こった際、それを受け止めるだけの基礎体力はまだ備わっていなかった。それをいつの間にか、皆が忘れていたのである。
 そこへ、嵐が吹き荒れた。

 4月27日、何の前触れも無く、新聞各紙の社会面に「中学生、テレビ番組をまねて給食パンで窒息死」という記事が踊った。その内容は、
 「今年の1月、中学2年生(当時)が、テレビ番組(駒木注:恐らく『フードバトルクラブ・キングオブマスターズ』であろう)を真似て給食時間に友人と早食い競争をしたが、その際誤ってパンを喉に詰め、昏倒。約3ヵ月後の4月24日に死亡した」
 ……というものであった。
 このニュースは、言い方は悪いが、いかにも“ネタ”になりそうなものだっただけにマスコミの反応も大きかった。新聞によっては3段ブチ抜きのスペースで掲載される事もあったし、テレビのニュースでも報道された。死亡した側の過失による事故としては異例とも言える扱いであった。

 そしてこのニュースをきっかけにして、フードファイト界に対しては猛烈な“逆風”が吹き荒れ始めた。4月下旬から予定されていたフードファイト・イベントやローカル系の競技会が続々と中止となり、さらにはテレビのワイドショーを中心とした“フードファイト・バッシング”も開始された。
 出る杭を叩くのが仕事のようなものであるワイドショーにとって、最近メキメキと存在感を増しつつあったフードファイトは格好の標的だったのである。

 この突然の“逆風”に、フードファイト界は何ら為す術が無かった。FFAはまだ設立当初で、団体がまとまってこの事態に対応できる状況に無く、他の個人で活動している選手やフードファイト・ファンたちは、自分たちの意見を幅広く広める手段を持ち得なかったし、テレビなど大手マスコミに対するパイプも無かった。いや、もしパイプが有ったとしても、フードファイトを擁護する立場の人間が、望むような形で新聞やテレビに出演する機会は与えられなかったであろう。マスコミとはそういうものである。
 そんなわけでフードファイト界は、荒れ狂う波の中、ただ我が身の無事を祈りつつ、嵐が過ぎ去るのを待つしかなかったのである。

 いや、その状況の中で、表立った行動を取ったフードファイト選手が1人いた。フードファイト界の早食い・スプリント競技反対派の急先鋒・岸義行であった。

 岸は、メジャーデビュー当時は早食い系競技会にも多く出場していた。テレビ東京系の「早食い選手権」では3位入賞の実績もあるし、ローカル系競技会においては、わんこそばの早食い日本記録まで樹立して未だにそれを保持している。だが、昨年秋以降を境に突如として早食い系競技を批判し始め、その廃止を訴えるまでになった。事故の報道直後から、岸自身の運営するウェブサイトにも「危険な早食いより安全な大食いを推進しよう」旨の主張が掲載されたのは記憶に新しいところである。
 本当に早食いが大食いより危険なのかはさておき、岸はどうしてそこまで早食い系競技に敵意を剥き出しにするようになったのだろうか?
 彼は「フードバトルクラブ1st」において、寿司を喉に詰めて窒息寸前という事態を経験しているが、その後、「フードバトルクラブ2nd」で数々の早食い系競技に参加していることから、それが直接の原因ではないはずだ。
 また、死亡事故の報道前の彼は、「(早食い系競技では)味わう事無く食べ物を飲み込む。それは食べ物を粗末にしているから良くない」という理由で早食い系競技を批判していたが、事故の報道後は「窒息の恐れがあり、危険だから」という主張に切り替えている。これも彼の経歴から考えると、やや不自然であると言わざるを得ない。何故、事故が報道される前から、自らの窒息事故の経験を元に早食い競技の危険性を訴えなかったのだろうか?
 このように、岸の早食い系競技に対する反感を分析するのには、どうも要領を得ない。欠席裁判のような状態で憶測を交えた事を述べるのは止めておくが、彼の主張には、絶えず何か奥歯に挟まった印象を受けるのは否定できないものがある。

 結論の出ない話はひとまず棚に預け、とりあえず話を戻そう。
 ワイドショーがフードファイト批判を繰り広げる中、岸は自ら進んで“フードファイト選手代表”として番組に出演し、早食い系競技批判を展開した。彼の計算では、自分の発言をきっかけにして世論の助けを借り、自説の「早食い廃止・大食い推奨」を実現するつもりだったはずだ。
 その結果、どうなったか。
 効果は絶大であった。岸の主張を聞いた一般層の人たち、特にマスコミの影響を受けやすい人たちは思った。「大食いは危険である」、と。
 岸は肝心な所を読み違えていた。一般層の人々にとっては、いくらフードファイトに対する認知度が上がって来たとは言え、未だ早食いと大食いの区別がついていなかったのである。そこへテレビで見た事のあるような有名な選手が「早食いは危険である」と言ったらどうなるだろうか──?
 そこから生まれた結果は更なる猛“逆風”であった。イメージ悪化を敏感に感じ取ったテレビ局は姿勢を硬化。TBS系「フードバトルクラブ」とテレビ東京系「大食い選手権」と「早食い選手権」の無期限開催休止が決定され、とりあえず7月一杯までのフードファイト番組放映は中止が決まった。
 特にテレビ東京の首脳は、早食い系競技中心の「フードバトルクラブ」に対するライバル心もあって、早食い系競技会(つまりネイサンズ国際の予選会)の廃止を窺わせる発言をするにまで至った。ネイサンズ国際は、フードファイトの凄さを一般層にアピール出来るかけがえの無い機会であるだけに、これは大打撃としか言いようが無い。
 岸の目指したものが正しかったかどうかは、この際置いておこう。だが、結果として、彼の行動がフードファイト界にとって大きなマイナスをもたらしたという事だけは確かである。フードファイト・ファンの意見の中で「早食い擁護」が多数を占めた事が判明して以来、岸は早食い批判を控えて沈黙を守っているが、今後早食い批判を続けるにしろ撤回するにしろ、この事に関しては本人の猛省を求めたい。

 こうしてフードファイト界は未曾有の大打撃を被ったが、辛うじて救いだったのは、この激動を経験した選手やファンが、フードファイト界を離れる事無く、懸命にこれを支え、復旧・復興を目指そうとした事だった。人は宝である。人的損害が無ければ、どんな深刻なダメージを受けてもリカバリーは早いことだろう。

 

 では最後に、下半期の展望めいたものを付け加えて、今回の総括の締めとしたい。

 まず、未だ無期限休止が撤回されていないテレビ局主催のメジャー系競技会であるが、テレビ局側の様子を窺う限り、どうやら少なくとも「大食い選手権」のオールスター戦は実施できそうである。ディフェンディング・チャンプの白田信幸をはじめとする大食い系のトップ選手や、さらには山本卓弥、舩橋稔子といったルーキーたちの活躍によって大いに大会を、そしてフードファイト界を盛り上げてくれる事を祈ろう。

 6月頃に入ってようやく活動が軌道に乗ってきたFFAは、7月のネイサンズ国際で早速その力を発揮した。
 前年度王者の小林尊の派遣や現地でのマネージメントだけでなく、結局不成功に終わったが、ワイルドカード枠での高橋信也の出場を主催者側に打診するなど、その姿勢と意欲は十分評価できるものであった。
 また、ネイサンズ国際の試合ビデオも発売にこぎつけるなど、これまでのテレビ局主導の状況下では不可能であった企画がどんどん実現に向かっている。
 ただ、課題もある。団体設立から4ヶ月になるが、一般層へのアピールがまだまだ欠けているのは否定できない。FFAはフードファイト界と言う狭い世界だけの団体であってはいけない。最近はようやく改善されつつあるとは言え、未だにフードファイトを見るたび「気持ち悪い」と顔をしかめる人もたくさんいる。そういう人たちをフードファイトに振り向かせる事が大切であり、またそれがFFAの使命とも言えよう。

 最後に最近はすっかり影が薄くなってしまった岸義行主宰の「日本大食い協会」についても述べておこう。フードファイト界第4位の団体である。大食い協会は、この秋には第2回の「全日本大食い競技選手権」を開催予定だという。
 この競技会の第1回大会には、小林尊、白田信幸をはじめとする現在のフードファイト界を支える一線級選手が多数出場したことから、本来なら大いなる期待を抱きたいところではある。しかし今回は現時点で既に主力級選手の大半が欠場を表明し、開催そのものが危ぶまれる事態に陥っている。
 これにはどうやら、前回大会の運営に関するトラブルや、岸と他の選手との競技観及び競技に対する姿勢のすれ違いなど、様々な要因が絡み合っているようで、解決の糸口すら見つからないのが現状だ。
 もしこれで大会が中止に追い込まれた場合には、岸のフードファイト界における求心力が大幅に低下する事も考えられる。この秋は、大食い協会にとっても岸にとっても大きな正念場と言えるだろう。

 

 ……さて、いささか総括としては長くなりすぎたが、これで今回の企画の締めくくりとしたい。最後に、フードファイト界に幸あらんことを── (この項終わり) 

 


 

8月17日(土) 競馬学特別講義
「目指せ回収率アップ! 馬券学基本講座(3)」

 ※前回までのレジュメは以下の通りです。
 第1回(基礎編)第2回(実戦編・本命党向け)

駒木:「さて、今日からは“中穴党”、“穴党”の人向けへの実戦講座なんだけど、先週の講義の冒頭で話に挙げたサンデーサイレンス、なんとかまだ踏ん張ってるみたいだね(注:8/18未明現在)」
珠美:「小康状態というところなんでしょうか?」
駒木:「うん。社台ファームも世界中のホースマンからハッパをかけられて、奇跡を信じて頑張ってるみたいだね。蹄葉炎からの復活っていうケースは本当に稀なんだけど、これで完治できたら競馬史に残る快挙だね。生き延びる確率は高くないし、種牡馬として復帰できる確率はさらに低いけど、何とか頑張って欲しいものだよ」
珠美:「そうですね、頑張ってもらいたいものです。
 ……さて、今週からは“中穴党”“穴党”と呼ばれている人向けの講義になるんですけれども、まずこの2つはどこで区別をつけたら良いんでしょう?

駒木:「そうだねー。まず“中穴党っていうのは、主に馬連オッズで約15〜30倍程度の馬券を狙うタイプの人。馬券戦略的には、ある程度は人気上位馬の実力や実績を信頼しつつも、そこへ5〜8番人気くらいの馬を絡めてソコソコの配当を狙うって感じかな。穴狙いしている割には、万馬券とは不思議なくらい縁が薄いのも“中穴党”の特徴だね(笑)。
 で、“穴党”っていうのは、馬券の中心に人気薄の穴馬を据えて、最低でも馬連で50倍以上の馬券を狙いにいくような人の事。この人たちはオッズの関係上、人気馬を故意に軽視して馬券戦略を立てる。だから、1番人気馬を無条件で馬券対象から外したり、買うにしてもギリギリの押さえに留めるような事が多かったりするんだよ。ほら、『じゃじゃ馬グルーミンup!』梅ちゃんあのキャラが典型的な“穴党”だよ」
珠美:「あー、なるほど(笑)。なんとなく分かった気がします」
駒木:「あと、“中穴党”と“穴党”行ったり来たりって人もいるだろうけど、そういう人は、とりあえずどちらの話も聴いてくれたら良いと思う。ただ、この2つは全く別物だから、本当ならどちらか1つにスタンスを固める方が良いね。
 ……それじゃ、講義の本題に移ろう。まずは“中穴党”の人たちからだね」

実戦編2:“中穴党”向け実戦講座

 2−1:まず知っておこう、“中穴党”の希望と現実。

駒木:「前回の講義で、『“本命党”の人は、回収率80%程度が限界じゃないかな』…なんて話をしたんだけど、“中穴党”の人たちにも、まずこれを話しておこうかな、と思うんだよ」
珠美:「“中穴党”入党を目指している私にも興味深い話ですね、それは(笑)」
駒木:「これは、勝ち目の薄いレースをスルーしたり、基本的な競馬の知識を一通りマスターしている事が前提になるけれども、“中穴党”になれば、ほぼ間違いなく回収率は90%まで上がるよ。博才がある人なら毎年黒字を計上し続けることも不可能じゃない
珠美:「ええっ!? そんなに回収率が上がるんですか?」
駒木:「人一倍博才の無い僕が、実際に3年連続で回収率90%以上になってるんだから、まず間違いないね(笑)。
 ただし、馬券戦術を間違えたまま馬券を買い続けると、回収率は酷い事になるこれも僕が身をもって数年間体験した事だから間違いない(苦笑)
珠美:「でも、収支がそれだけプラスマイナス・ゼロに近付くのなら、頑張ってみようって気になりますよね♪」
駒木:「ただし悲しい事に、どれだけ頑張っても回収率は120%以上はいかないんじゃないかと思うんだよ。多分、黒字でも100%近辺で頭打ちになる人が殆どだと思う。だから、勝つにしろ負けるにしろ、その額が少ないんだよね(苦笑)。ほら、いつか珠美ちゃんが順子ちゃんに言ってたじゃない、『駒木博士って、人生よりもギャンブルの方が堅実なのよー』…ってさ(笑)。あれ、まさにそのまんまになんだよな(苦笑)」
珠美:「(焦って)あ、いや、博士、わ、わた、私は別にそんな、あの、その…(汗)。もー! 順子ちゃん余計な事をー!(泣)」
駒木:「あー、別に怒っちゃいないから(笑)。まぁそういうわけでさ、“中穴党”は、それほど損しない代わりに、それほど得もしない。健全なギャンブルをするならば、これが一番なんだけどね。でも、もしギャンブルで一攫千金を目指したいんだったら、危険覚悟で“穴党”を目指す事。虎穴に入らずんば虎子を得ず、だよ」
珠美:「はい、わかりましたー(汗)」

 2−2:予想印に惑わされるな。信じられるのは己自身だけ。

珠美:「これ、基礎編の続きですね。競馬新聞の予想印は人気のバロメーター代わりにだけ使えって事ですよね?」
駒木:「まぁ、そういう事だよね。新聞の予想印は、原則的に木曜夜の時間の無い中で打たれてるから精度が低いし、第一、印通り買ってるんじゃ“中穴党”じゃなくて“本命党”だよね(笑)。
 “中穴党”の人がするべき予想の作業は、大きく分けて2つ。1つが『弱点のある人気上位馬を馬券の対象から外す』って事で、もう1つが『見所のある人気中位〜下位の馬を1〜2頭ピックアップする』という事。
 つまり具体的に言えば、新聞では『強いよ〜、この馬強いよ〜』って言ってる馬の弱いところを探して、逆に『ちょっとこの馬、力足りないんじゃないかなぁ?』って言われてる馬の勝つ可能性を探るのが“中穴党”のスタイルなんだ。要は、競馬新聞のアドバイスを裏切る努力を一生懸命するわけで、そのためには印よりも自分を信じる気持ちを持っていないと……
珠美:「なるほど。だから『信じられるのは己自身だけ』なんですね」
駒木:「そういう事。“中穴党”の予想では、いつもギリギリの決断が求められるんだから、自分をしっかりと持っていないとね

 2−3:連複は原則3点買い。馬単・三連複はここぞの勝負馬券。

珠美:「“本命党”の時は2点まででしたけど、今度は3点ですか?」
駒木:「本当の理想は1点買いなんだよ。1点買いで15倍〜30倍の馬券を狙い撃ち。でもね、これだと最後は理詰めよりも当てずっぽうに近くなっちゃうから、予想のスタンスが崩れやすいんだよね。
 そういうわけで、基本スタイルは3頭ボックスの3点買い。いわゆる“タテ目”で高配当を狙うというスタイル。どうしても、という時はもう1点増やしても良いけど、それは十分な利益が期待できる時に限る特例的なものだね」
珠美:「でも、博士もG1予想の時、最高6点買いしてらっしゃるじゃないですか(笑)」
駒木:「言い訳がましくなるけど、あれは赤字覚悟のサービスなんだよ(苦笑)。予想を公開している以上、やっぱり利益より的中にシフトして考えないといけないからね。G1に関しては採算度外視なんだよ」
珠美:「そうだったんですね(笑)」
駒木:「まぁ、G1レースは当ててナンボみたいなところがあるからさ(笑)。でも、3点だろうが6点だろうが的中率に大差無い事を考えると、やっぱり3〜4点に絞るべきかもしれないね。これは秋のG1シリーズまでに考えておく事にしよう(苦笑)。
 あとは他の馬券なんだけど、複勝とワイドは配当的な事を考えると買わない方が賢明だね。単勝は『これだ!』という穴馬を見つけた時に馬連と併用して買うのがベスト馬単は買い目がどうしても増えるからお薦め出来ないんだけど、どうしてもって時は“ウラ目”狙いで勝負に出るんだね。三連複は原則的に馬連3頭BOXと併用して1点勝負。ただし、これはボーナス・チャレンジ。当たったら儲けモノの感覚でいないと精神衛生上良くない」
珠美:「基本は、馬連3点と三連複1点の計4点、ってことですね」
駒木:「そうだね。ただ、三連複についてはまだ研究の余地があるんで、結論めいた事は言えないんだよね。確実に回収率をキープしたい人は、今の内はまだ馬連だけに絞った方が良いかもしれないよ」
珠美:「分かりました」

 2−4 “中穴党”は穴馬券のみで生きるにあらず。

珠美:「なんだか、いきなり哲学っぽくなってきましたね(笑)」
駒木:「タイトルはそうだけど、別に中身はそうでもない(笑)。簡単に言うと、勝負馬券も大事だけれど、押さえに買う本命サイドの馬券も大事にしようって話だよ。」
珠美:「私は何となく、『堅い馬券なんて目もくれるな!』って言われるのかと思ってましたけど、逆なんですか?」
駒木:「初めにも言ったけど、中穴狙いの基本は『人気上位馬を信頼しつつ、そこへ穴馬を絡めて勝負』なんだよ。負ける要素が多い人気馬は喜んで馬券の対象から外すけど、信頼できる人気・実績馬は信頼しなくちゃね
 それに、中穴狙いの勝負馬券って、当たり難い割には配当が高くないんだ。20〜30レースも勝負馬券が不発に終わる事もしばしばなのに、配当は15〜30倍程度。3点買いしてたら大赤字なんだよね」
珠美:「はぁ……」
駒木:「そんな条件の中で、どうやって利益を出すかっていうと、これは押さえ馬券をコツコツ当てて、損害を最小限に抑えるしかない。本命サイドの馬券って言っても、3点買いで6〜8倍の馬券を的中出来たなら、それで2〜3レース分の投資金は回収した事になるから、賭け金回収という意味では結構効果的なんだ。
 そうやって何とか粘っている内に、勝負馬券で収支をプラスに持っていく。“中穴党”の戦いというのは、この繰り返しみたいなもんさ。
 だから、傍から見たら地味なもんだよ(笑)。『万馬券当てた』とか『1日で○万円儲けた』とかいった自慢の種とは無縁だから、普段は全く目立たない(苦笑)。しかも、『ここ3年、回収率90%以上キープしてるよ』って言っても、普通の人には何が凄いんだか分かってもらえない(苦笑)」
珠美:「なんだか、孤独な戦いですね(苦笑)」
駒木:「でもまぁ、競馬っていう面白いギャンブルをタダみたいなお金で楽しんでるって考えたら優雅なもんだよ。『ギャンブルは金儲けの手段だ!』って言う人には全然物足りない話だろうけどね」
珠美:「とりあえず私は、これまで競馬に使っていたお金を別のお買い物に充てたいので、優雅になれるよう頑張りたいと思います(笑)」
駒木:「じゃあ、頑張ってもっと競馬の勉強しないとね。自分なりの競馬理論が完成するまでファイトだよ。
 あと補足。いくら本命サイドの馬券が大事だといっても、賭け金の配分は増やさない事。あくまでも狙いは中穴馬券でのロングヒットなんだからね。
 それから、馬連3点買いなら的中率33%が損益分岐点だね。これで20〜30レースに1度のペースで勝負馬券を的中させると、回収率は100%近辺まで上がる。去年の僕の場合、効率の悪い買い方とかしてるG1レースの分を除外すると、的中率35.6%で回収率が103.85%。わー、本当に地味だなぁ(苦笑)」
珠美:「(苦笑)」
駒木:「で、1年以上に渡って的中率が25%に届かなかったり、回収率が75%に届かないって場合、それは言い難い話だけど実力不足の証。もう少し競馬の基礎的な事を勉強したり、自分より馬券が上手い人からレクチャーを受けたりして、実力アップに励んで欲しいんだ」
珠美:「私は大丈夫なんでしょうか……?」
駒木:「珠美ちゃんは競馬歴6年でしょ? それならば、ちゃんとレースを絞って3点買いに徹すれば、大丈夫だと思うよ、多分」
珠美:「……多分(苦笑)」

2−5:最後に勝つのは理屈よりも勝負勘

駒木:「最後は、ちょっと上級編っぽい内容を入れてみたよ」 
珠美:「理論派の博士らしくないタイトルですねー」
駒木:「これは僕の経験則から出てきたものだから、『科学的に証明しろ!』って言われても、ちょっと困るんだけどね。それでも、こういう話もあるんだなっていう事だけは知ってもらいたいと思ってね」
珠美:「この『勝負勘』って、一体何なんですか?」
駒木:「うん、これは長い間競馬をしている人なら経験があると思うんだけどね。ごく稀になんだけど、理屈で考えたらどう考えても実力が一枚足りないような馬が、何故だか2着以上ありそうな気がしてならない時があるんだよ。経験から沸き出してくるインスピレーションっていうのかな。だから、まさに「勝負勘」だよね。
 で、半信半疑でその馬から勝負馬券を買ってみると、何故かキッチリと2着に飛び込んでくる。勿論、外れる時もあるけれど、回収率的には抜群に良い」
珠美:「これはどうしてなんでしょう?」
駒木:「分からない(苦笑)。でも、そういうのが繰り返されるたびに、『競馬ってのは通り一遍の常識が通用しない部分もあるんだな』って事は思うよね。勿論、全体の90数%は理詰めで計算するべきなんだけど、最後の最後には、そういう理屈じゃ説明できない部分ってのも信じてもいいと思うんだ」
珠美:「うーん、何となく分かったような、分からないような、なんですが(苦笑)、具体的には何をどうすれば良いんでしょう?」
駒木:「例えば、競馬新聞を見てて、気になって仕方ない馬が出てきた。でも、戦績を見ると実力はどう考えても少し足りない気がする。理詰めで考えたら馬券が買えない馬だ。…そういうシチュエーションでは、迷わず馬券を買ってみる。単勝でもいいし、信頼できる人気・実績馬と絡めての馬連でもいい。本当にギリギリの場面では、理屈よりも自分の勘を信じなさい。そういう事だね。
 ……けれど、よく考えたらほどんどの人はこれを実践してるのかも知れないね(笑)。デジタル派の人間が分かりきった事をゴーマンかましてるだけかも知れない(笑)」
珠美:「少なくとも、私には参考になりましたので、それで良しとしませんか(笑)?」
駒木:「じゃあ、そうするか(笑)。
 ……と、いうわけで“中穴党”編はこれで終わりなんだけど、また悪い癖が出て講義時間が長引いちゃったなあ。2週間もお待たせして申し訳ないんだけど“穴党”編はまた来週だね。これじゃ、『エンカウンター』の木之花夫妻に偉そうな事言えないよね(苦笑)」
珠美:「じゃあせめて、次回の講義の触りだけでもお話されてはどうですか?」
駒木:「そうだね。じゃあ、ポイントだけ。
 まず、『“穴党”は多数の負け組と少数の勝ち組からなる』。“穴党”の人は、競馬と言うギャンブルで勝ち組になれる資格を持っている。だけどその反面、酷い回収率で低迷する危険性も極めて大きいんだ。とにかく大穴狙いは諸刃の剣である事を意識してって話。
 次に『何倍の馬券を的中したか、ではなく、賭け金の何倍を回収したかを意識せよ』。万馬券当たったら、メチャクチャ儲けたような気がするけど、実は投資金額の10倍程度しか回収できていない事もあるから、絶えず自分の収支を意識しておこうねってお話。
 で、もう1つは『穴馬券は当てに行くな。儲けにいけ』。“穴党”の人で以外に多いのが、10何点も馬券を買って当てに行っちゃう人。わざわざ当たる確率の低い馬券を買っておいて、それで当てに行くなんて本末転倒。穴馬券は、外れるのが当たり前なんだから、覚悟を決めて年に何回かの大ホームランを狙わなくっちゃねって話。
 ……まぁ、こういう話を詳しくお送りしようかな、と。さらに、基礎編で言った『馬券は多くの点数買えば買うほど不利』っていう事を具体例を挙げて説明したいと思ってるんだ。ちょっと分かり難い説明だったかもしれないからね」
珠美:「……はい、分かりました。それでは、また来週ですね」
駒木:「そうだね。ご苦労様」
珠美:「はい、博士も受講生に皆さんも、お疲れさまでした」次回へ続く

 


 

8月16日(金) 教育実習事後指導(教職課程)
「教育実習生の内部実態」(10・最終回)」

 もう再三申し上げていますが、ここ最近の当「社会学講座」は、いつの間にか講義6講座同時進行という、まるで『まんが道』で原稿落とす寸前の足塚茂道先生のような状態になっておりまして、そのため各講座の進行が遅れ気味になっています。ちょうど1週間ぶりの教育実習レポになります。お待たせしてすみませんでした。

 前回までのレジュメはいずれもアーカイブに収録されています。復習をご希望の方は、どうぞこちらからご覧下さい↓
 第1回第2回第3回第4回第5回第6回第7回第8回第9回

 

 さて、いよいよこのシリーズも最終回。今日は実習生社会学講座アーカイブの打ち上げ(呑み会)での模様を中心にお送りします。

 この打ち上げとか呑み会などという言葉で表される、いわゆる無礼講の宴席。これが乾杯の音頭から数十分経過して“宴もたけなわ状態”になりますと、しばしば無礼講の範囲が仲間内から宴会場の従業員、さらには他の客にまで波及してしまう事があります

 宴会場のあるホテルや飲食店関係者の方たちによりますと、そういう粗相をしでかす傍迷惑な宴会客グループのワースト3は、医師、警察官、そして学校や塾の教員・講師とのことです。
 このワースト3職種に共通する点は、勤務時は人前で別人格を演じなくてはならないという所にあります。駒木はまだ、学校現場でも素を曝け出している方だと思いますが、それでも諸事情によって、生徒の前では隠し通している己の部分も少なからずあります。これは相当なストレスが溜まる行為だったりするのです。
 駒木も学校教員の端くれではありますが、駒木の場合は、そういう所から来るストレスを、この社会学講座や休日のギャンブルで発散しているために、なんとか健全な精神状態をキープ出来ています。しかし、そういう事が出来ない先生方も多数いらっしゃるのです。
 そもそも学校教員や塾講師という仕事は、第一線でバリバリ働くためには、無趣味のワーカホリックにならないとやってられないものです。つまり、ストレスが溜まり易い状況下に置かれている人ほど普段ストレスを発散する事が出来ないというわけで、正にこれは深刻なジレンマと言って良いでしょう。

 こうして発散されずに残ったストレスは、日本道路公団の抱える負債のようにどんどん蓄積されます。それは、ハードボイルド風に喩えれば、人の心の中で溜まりに溜まったヘドロ某深夜ラジオ番組風に喩えれば、「女のアソコが見てぇよぉ〜!」と叫びながら床の上をゴロゴロ転がって悶絶する男子中学生の溜まりまくった性欲とアレであります。
 全くタイプの異なる喩えをしましたが、強いて言うなら、淫行で捕まる先生方も多数いらっしゃいますし、後者の喩えの方が適切でしょうか

 ……とまぁ、そういうわけでして、賢明な受講生の皆さんはもうお分かりでしょうが、そのジレンマによって蓄積されたストレスが一気に放出される場、それが宴会の席なのです。
 当講座でも以前、現ナマと猥雑な言葉が飛び交う塾講師の乱痴気大宴会についてのお話をした事があると思うのですが、まぁとにかく教育業界の宴会と言うのは荒れます

 例えば、駒木が体験した学校教職員の宴会。駒木が勤務する職場の宴会は、以前の職場(学習塾)等に比べて非常に大人しい方なのでありますが、そんな“大人しい宴”でも、2時間弱で店中のビールを飲み干して“飲み放題”を崩壊に追い込んだ挙句、呑みに呑まされた若手教員のゲロで便所を詰まらせたりしました。
 また、職員の給料から天引きされた資金で商品がそろえられたビンゴ大会は、酒も入って殺気立ったものとなります。昨年の忘年会などでも、リーチ一番乗りを果たしたものの、ビンゴ達成を20〜30人に先を越された駒木が、「なんでダブリーでツモれんのじゃあ〜〜〜〜!」と絶叫したりしました。

 ……でもまぁこんなのは、まだ一般でも常識の範囲でしょう。しかし、これは“非常に大人しい”宴会での出来事であります。本格的に盛り上がった宴会の様子は、公ではお話できるような類のモノではありませんので、そこのところをどうか、ご了承下さい。


 ──で、話をここで実習生の打ち上げ宴会にシフトしましょう。

 ご存知の通り、実習生は、この時点ではまだ一介の学生、教員予備軍にすぎません。
 ですが、2週間とは言え学校教員と同じ立場を経験し、そこからようやく解放されたばかりの状態で行われる打ち上げは、やはり“教員の宴会の予備軍”的な盛り上がりを見せたりするものなのです。
 しかも、そういう打ち上げは、予約など取らずに成り行きで雪崩れ込んだ大衆居酒屋で行われるわけでして、尚更タチが悪いのです。

 ではこれから、駒木が体験した教育実習打ち上げの模様をお送りしていきましょう。

 駒木ら教育実習生20名が打ち上げ会場に選んだのは、神戸三宮の繁華街にある大きな居酒屋。週末の夕方ともあって、店内は既に満席に近い状態で、駒木たちの周りでも華やかな宴の席が設けられておりました。

 さて、このシリーズの第5回でも述べたのですが、駒木が実習に参加した時の実習仲間は、男女比2:18という女性優位の状況の上に、ドラマ『ショムニ』シリーズを髣髴とさせるような女傑揃い江角マキコや戸田恵子級の猛女が3人も4人もいるという、客引きノルマに苦しむホストクラブの黒服も、あたふたと尻尾を巻いて逃げ出すような凄まじいメンバー構成です。
 ですからもうこの時点で、この日の宴会がどのようなものになるか、というのは、ダウンタウンの松っちゃんと優香が部屋でナニ何をしていたのか…というくらい容易に想像できるものでありました。

 と、いうわけで宴会です。
 「乾杯!」の掛け声と共に20のジョッキとグラスが激しく音を立てて、宴は始まりました。8人掛けの座敷を3つ占領しての、周囲の客完全無視、スタートからいきなりエンジンバリバリ全開・トップスピードの大騒ぎであります。
 普通、宴会などでの会話には「歓談」という言葉があてがわれますが、この度の宴会は「歓絶叫」「歓馬鹿笑い」はたまた「歓男談義」という造語が相応しい阿鼻叫喚の場合コン慣れしている百戦錬磨な男たちでも、「違う、これは違う…」とうわ言を呟きながら退場していくであろう光景が展開されておりました。
 あれから4年。駒木は今にして思います。この娘たちの彼氏(女子実習生の大半は彼氏持ちでした)は、この光景を見ていたらどうなるだろうか…と。ひょっとしたらそのまま結婚したカップルもいたかも分かりません。人生の墓場に身を投じた若者に、合掌

 さて、そんなフィーバーの中で駒木はどうしていたかと言いますと、普段と勝手の違う状況に若干の戸惑いは覚えつつも、「まぁいいや、この場はこの場で楽しもう」という、やや刹那的な感情のもと、このバカ騒ぎに身を投じておりました。もうこうなりゃヤケのヤンパチ、「踊る阿呆に見る阿呆──」というヤツであります。

 ──ただその時の駒木は、恥ずかしながらやや調子に乗り過ぎていたのも否定できません。

 恥を忍んで、イタかった場面を告白します。それは駒木が始めに座っていたテーブルから別のテーブルへ移動・乱入する際の事でした。
 ここで駒木は、当時少し流行っていた、ネプチューンの原田演じる似非ホストよろしく、 
 「ご指名有難うございます、ハヤトでぇす」
 などとカマしてしまったのです。すると、それまでハイテンションで騒いでいた女子実習生は急に冷静さを取り戻し
 「いや、駒木君、それは貴方のキャラと違うから」
 …などと、タイガーウッズのドライバーショットのように的確なツッコミを駒木に浴びせたのでした。その時の彼女たちの視線の冷たかった事、冷たかった事…
 駒木、思わずその場で割腹自殺したくなったのを克明に覚えております。

 ……とまぁ、荒れも荒れたり、という雰囲気の中で小一時間経過しました。というより、ここまででまだ小一時間かよ! と、さまぁ〜ずの三村マサカズがツッコミを入れそうな状況でありますが。
 と、そんな中、ふと気が付いたら、つい先刻までジョッキ片手に彼氏自慢と男談義をやらかしていた江角・戸田軍団がテーブルから消えています。
 「あれ、どうしたのだろう──?」と、周囲を見回していると、駒木たちのすぐ隣で呑み会をやっていた学生風の男性グループ客のテーブルの方から、ここ2週間、イヤと言うほど聞き慣れた女性の声が聞こえてきました。

 「さー、一緒に盛り上げるよぉ!」
 「自分、名前は何て言うの? そう、下の名前。……へー、タカユキって言うんやー」

 

 嫌な予感がしました。

 

 

 

 「さー、いくよぉー。タカユキの! ちょっといいトコ見てみたいー!

 

 

 

 予感は的中しました。

 

 「それ、イッキー! イッキー! イッキー! イッキー!」

 

 有無を言わさぬ場のペースの押え方で、見ず知らずの男にイッキ呑みを強要する江角・戸田軍団。そして、されるがままにコップに並々と注がれたアサヒスーパードライを飲み干していくタカユキ君。風呂上りの牛乳イッキの時よろしく、腰に当てられた左手が哀愁をそそります。

 そして、イッキ終了後、放心状態のタカユキ君を無視して、“戸田”さんが雄叫びを上げます。

 

 

 「さぁー、次行くよー!」

 

 

 「お願いだから、もう『次』とか言わずに、このままア・バオアクーかどっかへ行ってくれ」という駒木の切なる思いをよそに、軍団は次のターゲットを求めて店内を彷徨します。

 そして、数十秒後、今度は駒木たちのいるテーブルの奥の方で“狩り”が始まりました。

 

 “Hi! Nice to meet you!”
 “Enjoy your party?”

 

 今度の獲物は、なんとアメリカ人の若者男性グループ。そうです。よりにもよって、江角・戸田軍団には、留学経験のある英語科の実習生も混じっていたのです。
 しかも、そのガイジンたちも多少の日本語が話せるようで、会話は非常にスムーズに進行しているようでした。
 やがて────

 

 

 「あ、マイケルのー! ちょっといいトコ見てみたいぃー!」

 

 やはりコップに一杯に注がれたアサヒ・スーパードライを片手に、イッキ呑みをするマイケル君。彼もまた、哀愁漂う左手を腰に手を当てるポーズ付きであります。このポーズは万国共通なのでありましょうか。

 


 やがて、イッキを達成したマイケル君に拍手を送りつつ、“江角”さんが感嘆の声をあげます

 「いやー、日米親善やねぇー」

 その光景を他人の振りをしながら遠巻きに眺めていた駒木は、「いや、お願いですから、そういうのはクリントンとか橋本龍太郎に任せて下さい」…などと思ったものでした。


 ……こうして宴会は、他の客まで巻き込んで大いに盛り上がりつつも2時間でお開きとなり、やがて2次会のカラオケに雪崩れ込んでいきました

 この2次会は、江角・戸田軍団が、客引きの兄ちゃんを半泣きにさせるくらい料金割引とワンドリンク無料を強要して確保した場末のカラオケボックスで行われました。

 が、しかしここで受講生の皆さまにお詫びです。

 勿論、この2次会での模様も詳しくお送りしたいのですが、恥ずかしながら、駒木は1曲目で『アニメタル』を絶叫したっきり、その後の記憶が曖昧でありまして、状況をよく覚えておりません。ブルーハーツの『トレイン・トレイン』か何かが唄われている時、女子実習生4〜5人と共にソファーへ土足のまま乗り上がり、「ヒャッホー」とか叫びながらタテノリをしていたのは、何となく覚えているのですが……。

 まぁ、どっちみち覚えていても人前で話す事が出来ない事ばかりでしょうから、結局は一緒のような気がしないでもないですが──。

 

 ……とまぁこうして、多くの人にお世話になり、それ以上に迷惑をかけながら、実習は打ち上げも含めて滞りなく終了したのでした。
 駒木と共に実習を共にした19人は、残念ながら教職の道を志す事無く、今では別の業界へ流れていきました。宴会での壊れっぷりを見る限りは教員の素質十分だっただけに、何とも惜しい気もしますが、まぁこればかりは致し方ないでしょう。ただ、この実習で得たものを、それぞれの生活の中で活かしていれば良いよなあ、と思います。

 今頃、どこかで日米親善のイッキ呑み交歓会が行われているのかと、嫌な感傷にふけりながら、このとりとめも無く2ヶ月に渡り続いて来たシリーズに、一応の幕を引きたいと思います。どうも、ご清聴ありがとうございました。(この項終わり)


トップページへ