「社会学講座」アーカイブ

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講義一覧

8/15 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(8月第3週分)
8/13 ギャンブル社会学特論「雀荘メンバーというお仕事(1)」
8/12 
社会経済学概論「セレクトセール2002開催」改め「映画業界の異端児・アルバトロス風雲録(5)」
8/11 文化人類学「2002年度・フードファイターフリーハンデ・中間レイト(3)〜早大食い・大食いの部」
8/10 競馬学特別講義 「目指せ回収率アップ! 馬券学基本講座(2)」

8/9  
教育実習事後指導(教職課程)「教育実習生の内部実態」(9)」
8/8  演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(8月第2週分)
8/7  
社会経済学概論「セレクトセール2002開催(4・番外編2)」
8/4  
ギャンブル社会学特殊講義「フリー雀荘に行ってみよう!」(ちゆデー・特別講師:一色順子) (前編)(中編)(後編)
8/1  演習(ゼミ)「現代マンガ時評」 (8月第1週分)

 

8月15日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(8月第3週分)

 さて、お盆、そして終戦記念の日にお送りする『現代マンガ時評』です。こんな日に「ジャンプ」の打ち切りがどう、とか、「バンチ」の編集姿勢がどう、とかいう妙に湿っぽい話をするのはアレなのですが(苦笑)、まぁ、いつも通りの平常心で講義を実施したいと思います。

 まずは情報系の話題から。今週は「週刊少年ジャンプ」系の月例新人賞・「天下一漫画賞」・6月期の審査結果発表が出ています。今月は久々にデビュー確定の佳作も出ているようです。では、例によって受賞者・受賞作一覧をご覧頂きましょう。

第71回ジャンプ天下一漫画賞(02年6月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作=1編
  『だんでらいおん』
   空知英秋(23歳・北海道)
 《講評:天使の話はよくある話だがこれは新しかった。セリフ回し、ギャグの間などが上手く、今にも動き出しそうなキャラが生きていた。ただラストの盛り上がりが少々物足りなかった》 
 審査員・編集部特別賞=該当作無し
 最終候補(選外佳作)=6編
  ・『RHYTHM』
   相模恒大(19歳・北海道)
  ・『JET少年』
   村上洋之介(25歳・東京)
  ・『瑰詭草紙(きかいそうし)』
   渡辺柾明(23歳・山形)
  ・『サムライマスビーツ』
   奥村秦地(22歳・福岡) 
  ・『TIGERパンチャー』
   鈴木愛(25歳・北海道)
  ・『輔─タスク─』
   島悠子(21歳・神奈川) 

 佳作の『だんでらいおん』は、本来ならば冬の増刊号でデビューするはずなのですが、『世紀末リーダー伝たけし!』が急遽打ち切りになった事で、いきなりの本誌登場もあり得ます(ページ数は合いませんが、他にもう1作品取材休みが出た時は、どうにか掲載可能)。受講生の皆さんも、頭の片隅くらいには置いてもらいたいと思います。

 そして話は前後しますが、ここでも島袋光年氏逮捕関連の続報を改めてお伝えしましょう。
 島袋光年氏逮捕から約1週間になりますが、その間に連載中の『世紀末リーダー伝たけし!』の37・38合併号をもっての打ち切りと、単行本の発売中止が決定されました。単行本に関しては、恐らくこのまま絶版になるものと思われます。
 既刊の単行本(1〜24巻)については、発行部数が多いですので、今なら古本屋で入手するのは極めて容易でしょう。ただし、単行本未収録分については、近い将来“幻の作品”化する可能性が大です。ですから、『たけし』ファンやマンガ収集をなさっている方は、今の内にスクラップを取ってスキャニング等しておいた方が良いかと思います。

 ……情報系の話題は以上です。では、今週のレビューに移りましょう。
 今週は「週刊少年ジャンプ」から新連載第3回の後追いレビューが1本、そして読みきり1本の計2本。そして、今週合併号で休刊の「週刊少年サンデー」の代わりに、「週刊コミックバンチ」から『エンカウンター ─遭遇─』の後追いレビューをお送りします。都合、3本のレビューということになりますね。

 文中の7段階評価はこちらをどうぞ。

☆「週刊少年ジャンプ」2002年37・38合併号☆

 ◎新連載第3回『SWORD BREAKER』作画:梅澤春人《第1回掲載時の評価:保留

 今日のレビュー1作品目は、第1回で評価を保留していた『SWORD BREAKER』からです。

 第1回のレビューでは、全体的に荒っぽい絵柄に注文を出しつつも、テンポが早くて読み応えのあるストーリーには及第点をつけました。評価自体は“ファンタジー世界編”での様子を見てから、という事で保留とさせてもらったんですが、マズマズの好ダッシュと言って良いものだったと思います。

 が。

 第2回、第3回とファンタジー世界での話が進むにつれて、この作品に対する期待が物凄い勢いで萎んでいってしまいました
 まず第2回、結局舞台は変わってもやってる事は不良を懲らしめてるだけ、という梅澤さんの話作りにおけるフトコロの狭さが露呈されてしまいました。
 さらに、続く第3回では、「説明的セリフの連発」及び「下手クソなアマチュア作家がやりそうな、コテコテの中ボス登場」という、“これだけはファンタジーでやっちゃダメだ”的な展開に突っ走ってしまう“惨事”

 今の時点で辛らつな判断を下すのは早計かも知れませんが、この『SWORD BREAKER』、当ゼミでお馴染みのファンタジー作品・『キメラ』(作画:緒方てい)からオリジナリティと表現力を差し引いたような、読んでいて居た堪れない作品になりそうな気がします。

 打ち切りを決めるアンケートは低年齢層が中心のため、果たして小・中学生がこの作品をどう評価するかは分かりませんが、この作品、少なくとも恵まれた終わり方はできないのではないかな…と思います。

 評価はB−に。設定やキャラクターで余程のテコ入れをしない限り、評価が覆る事はないでしょう。


 ◎読み切り『司鬼道士 仙堂寺八紘』作画:かずはじめ

 今週は代原ではない中編読み切りが1作品掲載されています。『MIND ASSASSIN』『明稜帝梧桐勢十郎』などでお馴染み、かずはじめさんの新作です。
 前作『鴉MAN』で痛恨の短期打ち切り終了となったかずさんですが、増刊号での試運転を経て、連載を念頭においた読み切り作品で本誌復帰となりました。果たして、作品のデキはどうでしょうか──?

 まずからですが、この人くらい作品ごとの絵柄変化が少ない人も珍しいですよね。まぁ、クセのあるタッチでもパッと見で下手には見えない絵なので、このままでも十分だと思いますけどね。
 あと、今回はいつにも増して背景が白っぽい感じがするのですが、これはまぁ、アシスタントの仕事量を削ったんでしょうね(苦笑)。半失業中の中、恐らく100万円に届くかどうかという原稿料で経費を使っていられないでしょうし(苦笑)、まぁこれも仕方ないかな、というところですね。

 さて、ストーリーの方。今回、この作品のレビューをするにあたって、マンガの奥深さのようなものを1つ勉強させてもらいました
 実は今回のお話、プロット・シナリオそのものは、極めてオーソドックスな、ちょっと悪く言うと「有望な新人マンガ家が新人賞に応募する作品のようなストーリー」という感じなのです。しかし、そういうやや平凡な話が、かずさんの手にかかると、立派な作品になってしまうから興味深いです。
 まず、話の展開に無理が全く無いという事。いつも駒木がゼミで言っている「作者の都合による話や設定の矛盾」が全く無いんですよね。これはもうトコトンまでにシナリオを練っている証拠です。一切妥協していません。
 で、そういう“ストーリーから作り始めた作品”というのは、ストーリー上の役割に応じてキャラクターを当てはめていくので、キャラ立ちが弱い事が多くなるのですが、この作品ではそれも及第点レヴェルまで克服しています
 そして、特にこの作品で素晴らしい所はセリフ回しです。この作品ではセリフの量がかなり多いんですが、それらが全て完璧なまでに喋り言葉で表現されているため、長ゼリフ独特のイヤらしさが全く無いのです。「ジャンプ」系作家さんは軒並みコレが下手なので、特に目立ちますね。
 その他のコマ割りや効果などの構成・演出も問題無し。かずさんの技量の程を見せ付けられた…という感じです恐れ入りました

 ただ、ストーリーそのものに新味が薄かったため、評価はA−くらいに落ち着いてしまいます。何というか、物凄く上手い漫才師が若手のネタをやったらどうなるか?…みたいなケースですからね、今回は。
 恐らくこの作品は冬以降の新連載候補に挙げられる事になると思います。ただ、かずさんの作品はことごとくまでに本誌連載になるとダメになってしまうので、ちょっと心配ですねぇ。いっその事、別出版社のメジャー月刊誌に移籍して、40〜50ページの月刊連載をした方が良いんじゃないか…と思ったりもするのですが、どんなものでしょうか。

《その他、今週の注目作》

 ◎『エンカウンター〜遭遇〜』(週刊コミックバンチ2002年29号より連載中/作画:木之花さくや《読み切り掲載時の評価:B/連載第1回掲載時の評価:保留

 ご存知、「世界漫画愛読者大賞」グランプリ受賞作です。今週号(36・37合併号)で連載8回目という事になりますが、ようやく作品の全体像らしきものが見えて来たので、後追いレビューをしてみたいと思います。

 …さて、この作品ですが──。
 このようなレビューを始めて8ヶ月になりますが、こういうタイプの連載作品は初めてです。
 どういう事かと言いますと、この作品は、作家さんが労力を費やすベクトルが「ストーリーテリングをする上で、手抜きをしたりそれを誤魔化す事」に全力を費やしているのですよ。何というか、言語道断です。
 …ハッキリ言って、ここまで酷い展開になっていくとは予想してませんでした。キャリアのある作家さんですから、一念発起して、もうちょっと気合の入った作品にしてくれるはずと、少しは期待していたのですが……。

 では、具体的にこの『エンカウンター』がどういう(ダメな)作品なのか、概説していきます。

 まず、連載開始から2ヶ月弱に渡って次々と伏線が張り続けられます。深まり続けるばかりの謎、そしてワラワラと現れる主人公たちを見つめる謎の人物。メチャクチャ伏線の数が多いです。ミステリ系マンガでもそこまで伏線引きません、というくらい多いです。その上、その伏線は7週間にわたって小出しで提供されます
 そして、それらの雑多な設定をその2ヶ月弱の間に忘れてしまうと、なかなか話に着いて行けなくなってしまいます。作者の木之花さん夫妻は「単行本でまとめて読んでくれ」と思ってるのかも知れませんが、単行本を買わない大多数の「バンチ」読者に重い負担を強います
 どうしてそこまでするのかと言うと、多分、話のポイントを小出しして間延びさせると、楽だからなんでしょう(苦笑)。最低1年分の話を用意しないといけないわけですし。間延びさせるためなら、いかなる小細工も読者の負担も辞さない、というのが木之花夫妻の姿勢のようです。
 これでもし、楽したいためでなければ、ただ単にセンスが無いだけです。まぁ、どっちにしろダメダメですね(苦笑)。 
 もはやどうでもいいんですが、これが以前、木之花さんが「バンチ」でコメントしていた「あっという間にできた単行本1冊分のネーム」だったら、非常に寒い事になりますねぇ……。

 またこの作品では時折、話に出て来る超常現象等を解説するためにマニアックなウンチクが挿入されます。が、難しい資料をキャラクターに棒読みさせる形ですので解説になってません
 こういうのが毎週続くにつれ、こちらの被害妄想と空耳でしょうが、「こっちはこれだけ調べて、こんなに博識なんだぜ、へっへー」という木之花夫妻の荒い鼻息が聞こえて来るようで、ストレスが異常に溜まって来ます

 でも、ここまではまだ我慢できます。どれだけ伏線を張ろうが大風呂敷広げようが間延びさせようが博識ぶろうが構いません。ちゃんと納得できる形で、「おお、これは面白いまとめ方だなぁ」と思わせてくれれば、少々の我慢はさせてもらいますよ。
 しかし今週の連載8回目、深まりまくった謎を解決し、超常現象の犯人を探り出したその方法は、「超能力で犯人を一発で検索」という、謎解き・伏線処理一切無視の荒業・“人間google”でした。
 この結果を目にした駒木、思わずその場で、
 「それまで読者に強いた負担は何やねん、伏線も全然処理しきってないし、そもそも2ヶ月も引っ張るような話かい!」
 ……と、はしたなくも関西弁で怒鳴り散らしたくなりました。

 さらに作品を読んでみると分かるのですが、犯人が判明してからもまだ2〜3週間引っ張るようです、木之花夫妻。いつになったらUFOとか、イングランド騎士団が発見したインダス遺跡の話になるのでしょうか……? いや、もう期待も何もかも打ち砕かれてしまった今ではどうしようもないのですが……。

 ……まぁそういうわけで、『エンカウンター』は、「この作品をこのネタで面白くしよう」という描き方ではなく、「このネタでできるだけ長い間引っ張ろう」という描き方をされています。で、話の展開が難しい場面では「この難しい場面をいかに面白く乗り切るか」ではなく、「この難しい場面からいかに逃げ出すか」を最優先に描かれています

 もうハッキリ言います。志が低すぎます。

 これ以上書いていると、こちらも受講生の皆さんも嫌な気分になるだけなので、とっとと評価に行きます。
 評価はB−。マンガとしての体は保ってますのでC評価はしませんが、志の低さに呆れ果てます。


 ……あと、「バンチ」を読んでいて気になるんですが、連載が進むにつれて、どんどん間延びしてゆくのは『エンカウンター』に限らず、他の作品もそうなんですよね…。特に、以前このゼミで高い評価を進呈した『報復のムフロン』『レムリア』も酷い事になっちゃってます。どっちも評価をB程度まで下げないといけないかな…という程です。
 どうもこれ、打ち切りが極端に少ない「コミックバンチ」のシステムが悪い方向に出ちゃってるような気がしてならないんですよ。作家が現状に甘えちゃうんでしょうね。「終わらせなければ良い待遇で仕事が続けられるぞ」って感じで。それじゃ本末転倒ですよねぇ。

 最近では「バンチ」の部数も減っていると聞きますし、どうにかしないと、本当に地盤沈下を起こしそうでヤバい気がします。

 

 ……と、今日は後半湿っぽい事ばかり言っちゃいましたが、どうかご容赦を。それでは今週のゼミを終わります。 

 


 

8月13日(火) ギャンブル社会学特論
「雀荘メンバーというお仕事(1)」

駒木:「さて、今週からしばらく毎週火曜日には、アシスタントの一色順子ちゃんと一緒に、麻雀──特にフリー雀荘についての講義を実施する事にしました。麻雀を知っている人は勿論、そうでない人も社会学やギャンブル学の一貫として受講してもらえれば…と思ってます。では、順子ちゃん、皆さんに改めてご挨拶を」
順子:「はい。この8月からアルバイト助手…でいいんですよね? …になりました、一色順子です(笑)。受講生の皆さん、よろしくお願いします♪」
駒木:「順子ちゃんについては、今月4日の夏祭りの時に特別講師をしてもらったから皆さんもご存知だろうけれど、彼女はフリー雀荘の現役アルバイト店員なんです。だから彼女は、まさにこの講義にうってつけのアシスタントというわけなんだよね」
順子:「…といっても、まだお仕事始めて5ヶ月ほどですし、今勤めているところしか詳しい事情は知らないんですけどね(苦笑)」
駒木:「まぁでも、夏祭りの特別講義を聴いていたら、今時のフリー雀荘の典型例みたいな所で働いているみたいだしね。まぁ、大丈夫だと思うよ。
 勿論、僕も僕なりに手を尽くして色々な調べ物をしたから、恥ずかしい講義にはならないと思ってる。ただ、『俺はもっと詳しいぞ。だってこういう店で勤めてるもん』…という人がいらっしゃったら、ぜひ談話室なりメールでお話を聞かせてもらいたいね。プライバシーは守るし、オフレコかどうかの指示にも従いますんで、どうぞよろしく。
 ……さて、それじゃ本題に移ろうか。今日からのテーマは『メンバーというお仕事』。つまり、順子ちゃんのようなフリー雀荘の店員さんについての話題をしていこうという事だね。
 じゃあ、早速訊こうか。順子ちゃん、フリー雀荘のメンバーという仕事を一言で表すと、どんな仕事だろう?
順子:「え〜? 難しい質問ですね〜。う〜ん、そうですね〜、『麻雀が好きじゃないとやってられない仕事』ってところですか?(苦笑)」
駒木:「わはは(爆笑)。確かにそんな気がする。雀荘業界ぐらいだろうねぇ、常連客がいつのまにか店員になってる商売って(笑)」
順子:「あ〜、あるみたいですね〜(笑)。私はメンバーが、辞めた後も常連客になってるってパターンなら直に見ましたけど(笑)」
駒木:「というか、現役のメンバーも休みの日に客になって打ってるじゃない(笑)。先輩メンバーがマニュアル通り後輩に“さん”付けして丁寧語使ってて、笑える風景だよね(笑)」
順子:「(笑)。あ〜、“客打ち”ですね。ありますあります。私はお金がもったいないんで、フリーの麻雀は仕事中だけって決めてますけどね」
駒木:「…まぁ、それくらい麻雀が好きなんだよね、雀荘のメンバーさんって。逆に言えば、順子ちゃんが言ったように、好きじゃないとやってられない仕事なんだけれどね」
順子:「ですねー。わたしの口からは、大きな声で言えないんで、博士から口火を切ってもらわないと困るんですけれども(笑)」
駒木:「(苦笑)。まぁ、雀荘のメンバーさんが大変な点を挙げると、大雑把に言って2点だね。勤務時間が長くて、収入が低い……というか、無いに等しい
順子:「は〜い、否定はしませ〜ん(笑)」
駒木:「まぁ、今日はその2点について話をしていこう。順子ちゃんも大きな声では言えなくても、小さな声でどうぞよろしくね」

順子:「は〜い
駒木:「……ノリの良い子だなぁ……(笑)。
 まずは勤務時間だねぇ。これは“原則24時間営業”っていう、フリー雀荘の特殊な営業時間に拠るところが大きいんだけど。まぁ、最近じゃ深夜営業を控える店も増えて来たから、そういう店なら若干マシかな、という気がするね。
 …順子ちゃんの働いている店は、どういう営業時間帯?」
順子:「月〜木は10時〜24時ですね。終電直前に閉めちゃいます。で、金曜から徹夜営業になって、日曜日の24時まで祝日の場合は、祝日前日から徹夜営業して祝日の24時までです」
駒木:「あ、それは比較的健全な営業時間だね」
順子:「そうみたいですね(笑)」
駒木:「で、バイトのシフトはどうなってるの?」
順子:「月〜木は原則、前・後半で7時間ずつの2交代制です。深夜営業する時は、夕方から徹夜ってシフトと、深夜から次の日の前半ってシフトがありますから、変則の3交代制ですね〜」
駒木:「む、ますます健全だなぁ」
順子:「あ〜でも、そうでもないですよ(苦笑)。人手が少ない今の時期なんか、大変です。前の日の夕方から29時間連続で働いてる人もいますし、店長も、24時間働いて、12時間休んで、また24時間働いて…の繰り返しですし(苦笑)」
駒木:「普段しっかりしてる所は、そういう時、一気に皺寄せが来るみたいだね(苦笑)。
 でもまぁ、昔ながらの24時間営業型フリー雀荘は年中無休でキツいからねぇ。メンバーは住み込みの正社員が主体で、昼・夜12時間交代の2交代制。で、休みは恵まれてる方で月に4〜5日程度だっていうから強烈だね」
順子:「あ〜、でもウチは店長以外は全員アルバイトなんですけど、店長は毎日12時間働いてますね。そこだけは伝統みたいなものが残ってるんですね〜」
駒木:「うん。僕が以前よく通っていた雀荘は、店長が開店以来1年以上、ずっと休み無しで毎日12時間以上働いてたのを自慢にしてた(笑)。そこまで行くと、もうほとんど病気だし、長生きできないと思うけどね(苦笑)。
 あと、正社員の店長だけ12時間働くのは、業界内の正社員給与の相場が12時間労働を前提にして決まってるからじゃないのかな? 8時間労働にする替わりに給料2/3じゃ、やってられないと思うよ」
順子:「あ、なるほど。それは大変ですよね〜(苦笑)。ただでさえ、お給料大変なのに、2/3じゃ…
駒木:「だよねぇ。……と、給料の話が出て来たところで、そっちの話に移ろうか。フリー雀荘業界の場合、むしろ勤務時間よりもこっちの方が辛いだろうね
順子:「そうですね。この業界ほど、お給料の額面が全く実際と異なるところは珍しいはずですからね〜(苦笑)」
駒木:「正直なトコ、順子ちゃんは時給いくら貰ってるの?」
順子:「え〜と、わたしの勤めてる雀荘は、最初の1ヶ月が時給800円で、それから850円になります。あとはキャリアとか、どれくらい“本走”するかで最高1100円まで上がるみたいですね。わたしは結構たくさん点5で“本走”するんで、先月から900円に上げてもらいました♪
 でも、店長が言うには『ここはかなり待遇が良い』って話らしいです」

駒木:「あ〜、普通のフリー雀荘ならそうかもしれないね。あ、ちなみに“本走”っていうのは、お客さんの数が揃わない時に、自腹を切って麻雀打つ事ね」
順子:「そう、それです! 本走のゲーム代と勝ち負けがお給料から引かれるのが致命的なんですよ〜(涙)」
駒木:「そうなんだよねぇ。雀荘のメンバーって、仕事そのものはそんなに難しいものじゃないんだよね。おしぼりとか飲み物運んだり、カップラーメン作ったり出前注文したりするくらいだから。で、それでどうして時給が高めなのかというと、本走のゲーム代を差し引く事を前提にしているからなんだよね。
 特にエゲツナイのが正社員の人だよね。スポーツ新聞なんかの少し怪しい求人欄なんかを見てみると、『雀荘メンバー/月40万上・週休2日』とか書いてあるけど、『おお、凄ェ給料!』とか考えたらとんでもない話でね。
 まず、『週休2日』といっても、月1回未満の週休2日制だったりするし、給料40万にしても、ここから寮費とか本走のゲーム代を引かれてしまってほどんど残らない。だよね、順子ちゃん?」
順子:「大きな声じゃ言えないんですけど(笑)」
駒木:「雀荘によっては、正社員の人なら月に300半荘以上も本走に入ったりするからね。しかも、正社員で固めてる雀荘ってゲーム代500〜600円の所が多いから、ゲーム代だけで月に15〜20万とか引かれちゃう。その上、大抵は過労ヘトヘトの状態で働いてるから、一緒に打ってる客と比べたら麻雀にも冴えが無くなる。だから、ほとんどのメンバーは負ける。負けると当然その分が給料から差し引かれてゆくわけで……。
 結局、月40万円のはずが、気が付いたら10万円切ってたなんて話も珍しくないらしいね」
順子:「もう勢いに任せて言っちゃいますけど(笑)、わたしもスケールは小さいですけど似たような感じです(苦笑)。週3日バイトに入って、月6〜7万円ってところなんですけど、それで月に60〜70半荘は、ゲーム代300円の点5卓で本走しますから、マイナス2万円です。そこからさらに同じ額負けたりすることもあるんで、気が付いたら、ほんのお小遣い程度しか残ってないことが……(苦笑)」
駒木:「で、この社会学講座の仕事も始めたわけだ(笑)。
 まぁ、だからとにかく大変だよね、メンバーの仕事は。そのせいか、人の入れ替わりも激しい気がするし」
順子:「ですね〜(苦笑)。事情を知らずに入って来た人は、半月未満で辞めますね(苦笑)」
駒木:「(苦笑)。まぁ勿論、雀荘には色々な所があるから、酷い所ばかりじゃないけどね。僕の行きつけの雀荘で、さっき言ったのと別の店では、深夜営業無しで、さらに極力メンバーに本走させないようにしてたから、正社員のメンバーでも長持ちしてるみたい。
 ……あ、そうそう。同じフリー雀荘でも、アルバイトの待遇が破格に良い所があるって知ってる?
順子:「……え?」
駒木:「時給1000円スタート、しかも本走のゲーム代と負け分は店負担という……」
順子:「
エーーーーー!? な、なななな何ですか、それ〜!」
駒木:「今日は時間が来ちゃったから、それについては次回にしよう。同じフリー雀荘でも全く違う世界の話をさせてもらうよ」
順子:「……よし、来週には転職よ!
駒木:「(笑)。ま、それが出来るかどうかも含めて、また来週ね。どうぞ、お楽しみに」(次回へ続く) 

 


 

8月12日(月) 社会経済学概論
セレクトセール2002開催改め映画業界の異端児・アルバトロス風雲録(5)」

 夏祭り明け以来、5日ぶりの社会経済学概論になりますね。自分でもそんなに間隔開けているつもりは無かったんですが、よくよく考えてみたら、今の社会学講座はシリーズものの講義を5本抱えてるんですよね(苦笑)。毎日題材探しに奔走していた1月あたりが懐かしい思いです(笑)。

 ところで、今回からこの講義は題名を改め、装いも新たにスタートします(回数は通番のままですが)。番外編が本編になってしまった、というわけで、まさになし崩しの対応なのですが、これも当講座らしいと諦めて下されば幸いです。
 以下にレジュメ一覧を。第2回までは競馬の話ですので、よろしく。
 第1回第2回第3回第4回

 

 ……さて前回は、文部省推薦を戴くような心に血の通った映画を配給したかと思ったら、気が付いたら深夜番組推薦を戴くような股間に血を通わせる映画を配給している…という、とにかく落ち着きの無い経営方針だった設立当初の“第一期”アルバトロスについてお話をしました。そして今日からは、その時期に続く“第二期”アルバトロスのお話をしたいと思います。

 この“第二期”アルバトロスを語るのに欠かせない人物が、前回の講義の最後に紹介した叶井俊太郎氏であります。
 この叶井氏、“第二期”が始まる1994年頃からアルバトロスが配給する外国映画の買い付けを担当するようになるのですが、彼の外国映画を選び出す審美眼はあまりにも個性的でした。
 普通の配給会社の買い付け担当者ならば、まず真っ先に考える事は、その映画が万人受けし、商売になるかどうかです。当然ですね。
 しかし叶井氏は違います。その映画が余りにもアレだったりナニだったりして劇場公開どころかビデオレンタルもままならないような映画でも気にしません。とにかく“エロ・グロ・ナンセンス”だけで構成された、料理で喩えれば味の素が主な食材の料理みたいな映画ばかりを、世界中から掻き集めて日本でばら撒くのです。信じるものは己の審美(?)眼のみ。まるで阪神タイガース・スカウト部のような叶井氏の孤独で熱い闘いが幕を開けたのでした。

 1994年、レンタル用ビデオ映画の配給を開始したアルバトロス。そんな中、叶井氏が自信を持って送り出した香港映画が『八仙飯店之人肉饅頭』でした。
 この映画、余りにも余りにもな題名でお分かりのように、壮絶な血みどろスプラッター映画です。

 まず、主人公が香港からマカオに逃げてきた殺人犯というところからして強烈なのですが、そんな主人公によって展開されるストーリーは更に強烈。

 「逃亡先のマカオで中華料理店に就職する主人公→店主との些細ないざこざで店主の一家6人皆殺し→死体処理に困って、死肉で肉まんを作って何食わぬ顔で販売→その後も人を殺しては死肉饅頭を作り、死肉饅頭を作っては人を殺すの繰り返し→主人公、警察に捕まって嫌というほど拷問→刑務所送りになった後も、勘弁してくれというくらい私刑→以上終わり。」

 このあらすじを読んでいただけると分かりますが、もう全編暴力・殺人・死体遺棄の連鎖、連鎖、連鎖。特に最大の見せ場である店主一家惨殺シーンでは、スプラッタ&アルバトロス映画通をして「おそらく香港映画史上最大の出血量」と評させる位に血が飛び交います。後半では一転して殺人犯がボコボコにされるわけですが、そこにすらカタルシスは無く、ただ不快感だけが残るという全く救いの無い展開。まさにキング・オブ・人肉映画と言って差し支えない“狂作”でした。

 何故だか知らないが再放送されるたびに『となりのトトロ』を観てしまう…という大多数の日本人にしてみれば、「誰が観るねん、こんなもん」というこの『人肉饅頭』。
 ところが、ビデオのパッケージに「警告!絶対に子供と女性の方は見ないで下さい。」という注意書きが踊るこの映画、ごく一部のホラー&スプラッター愛好家にバカウケしてしまい、この手の映画ビデオにしては異例とも言えるヒットを記録したのでした。
 そしてそれは、「アルバトロス=鬼畜・人肉・猟奇殺人」という、「そのまんま東=淫行」並の有り難くないイメージを定着させる一里塚を築いた瞬間でもありました。

 『人肉饅頭』の味をしめたのか、叶井氏とアルバトロスはこれ以後、次々と香港猟奇映画を発掘し、レンタル用ビデオとして販売を始めます。
 しかし、第2作の『人肉天婦羅』は、夫・妻・夫の愛人による三角関係のもつれで、妻が愛人を殺してバーナーで焼くだけというグダグダの駄作。第3作の『香港人肉厨房』はスプラッタというより死体を使った変態映画だったためヤヤウケ止まり。第4作の『人肉竹輪』も、どこにも竹輪は出て来ず、低評価に終わってしまいました。

 ……と、この人肉路線は、まさに映画界の定説である「シリーズが進むほどダメになる」を証明するような尻すぼみに終わってしまったわけですが、こんな事でアルバトロスは挫けません。「ウチは人肉ばかりじゃないんだよ」とばかり(人肉だけでも非常に困りモノですが)、様々なジャンルに進出していきます

 まず6月、カンヌ映画祭に出品された(だけの)官能サイコ・サスペンス映画『マリーナ』を劇場公開にこぎつけて映画配給会社としての本分を示すと、その4ヶ月後、アルバトロスは“脱・血みどろ”とばかりに、他の配給会社では絶対に実現不可能な映画の公開にこぎつけます。

 その名も、『セバスチャン』古代ローマ帝国の後期、専制皇帝・ディオクレティアヌス帝の時代を舞台にした、SMホモ映画でありました。男の裸がスローモーションで強調されるその映像は、まさにそっち方面の方にはたまらないモノでありました。…ていうか、ウケる幅が狭すぎです、アルバトロスの配給する映画は

 ……と、ここまで紹介したのが1994年・わずか1年分の主なアルバトロス配給映画でありました。
 ハッキリ言って、もうお腹一杯もいい所なのですが、ここからアルバトロスの歴史はまだ7年分続きます。
 今日はこれ以上講義をしても胸焼けがするだけでしょうから、後は次回に回したいと思います。それでは、また次回をお楽しみに……って楽しみにしたくないかもしれませんね、こりゃ(苦笑)。 (次回へ続く) 

 


 

8月11日(日) 文化人類学
「2002年度・フードファイターフリーハンデ・中間レイト(3)〜早大食い・大食いの部」

 ※レジュメはこちらから→第1回(早飲み系競技)第2回(早食い系競技)

 今回の「2002年度・フードファイターフリーハンデ(以下、FFフリーハンデと略)中間レイト」も今日で3回目。今日は大食い系競技のフリーハンデ値を発表し、一応全てのレイトが出揃う事になりますが、申し訳無い事に、まず今回も前回分の訂正から始めなければなりません。

 前回の小林尊選手についての解説文中で、
 「試合終了後、2位のエリック=ブッカー選手からクレームがつき、それについて主催者側の審議が行われた」
 ……という旨を記したわけですが、これは誤りでした。ブッカー選手は競技時間中、小林選手の方を見ておらず、その後もクレームをつけた事実はありませんでした
 クレームをつけたのは、小林選手の隣で競技をしていた、チャールズ=ハーディ選手(2001年ネイサンズ国際第3位)サイドで、彼とTV観戦していた彼の知人が、試合及びイベントが終了してから「コバヤシは失格ではないか」という旨のコメントを発表。それについて主催者側が小林選手を失格としない判定を下し、さらにその模様が現地の新聞やTV番組で報道された……というのが真相でした。
 以上、関係者各位にお詫びして訂正いたします。

 さて、今回は大食い系競技の3カテゴリについてのフリーハンデ値とその解説をお送りします。解説文中は敬称略、および文体の常体への変更を行いますので、ご承知おき下さい。


「2002年度・FFフリーハンデ・中間レイト」
〜早大食いカテゴリ〜

順位 ハンデ 選手氏名
62 山本 卓弥
59.5 舩橋 稔子
55.5 楊木田 圭介
52.5 久保 仁美
52 須藤 明広

 ※主な競技結果※

なにわ大食い選手権 第1ラウンド

ハンデ(上位3名)
()は他競技での最高値

選手氏名
62 山本 卓弥
58.5(59.5) 舩橋 稔子
55.5 楊木田 圭介
なにわ大食い選手権 第2ラウンド

ハンデ
()は他競技での最高値

選手氏名
62 山本 卓弥
59.5 舩橋 稔子
49(55.5) 楊木田 圭介
全国大食い選手権 日本縦断最強新人戦
第3ラウンド(早大食いカテゴリのみ)
ハンデ
()は他競技での最高値
選手氏名
52.5 久保 仁美
52 須藤 明広
49(59.5) 舩橋 稔子

 

〜大食い45分カテゴリ〜

順位 ハンデ 選手氏名
62 山本 卓弥
58 舩橋 稔子
57 久保 仁美
56.5 河津 勝
55.5 須藤 明広
  55.5 皆川 貴子
  55.5 近藤 菜々
55 白瀬 貴浩
53.5 羽生 裕司
10 52 嘉数 千恵
  52 碓井 高貴
12 50 金田 浩司
  50 手塚 欽昭
14 49.5 大山 康太
  49.5 佐藤 清
16 48.5 西林 伸晃

 ※主な競技結果※

全国大食い選手権 日本縦断最強新人戦
北海道予選 決勝ラウンド

ハンデ
()は他競技での最高値

選手氏名
56.5 河津 勝
50.5(55.5) 須藤 明広
50 金田 浩司
50 手塚 欽昭
48.5(49.5) 大山 康太

全国大食い選手権 日本縦断最強新人戦
東京予選 決勝ラウンド

ハンデ
()は他競技での最高値

選手氏名
54.5(55.5) 皆川 貴子
54(57) 久保 仁美
52 碓井 高貴
49.5 佐藤 清
48.5 西林 伸晃

全国大食い選手権 日本縦断最強新人戦
名古屋予選 決勝ラウンド

ハンデ(上位2名)
()は他競技での最高値

選手氏名
53.5 羽生 裕司
53(55.5) 近藤 菜々

全国大食い選手権 日本縦断最強新人戦
福岡予選 決勝ラウンド

ハンデ(上位2名)
()は他競技での最高値

選手氏名
52 嘉数 千恵
48.5(55) 白瀬 貴浩

全国大食い選手権 日本縦断最強新人戦
第1ラウンド

ハンデ(上位4名)
()は他競技での最高値

選手氏名
60.5(62) 山本 卓弥
58 舩橋 稔子
56.5(57) 久保 仁美
56.5 河津 勝

全国大食い選手権 日本縦断最強新人戦
第2ラウンド

ハンデ(上位5名)
()は他競技での最高値

選手氏名
62 山本 卓弥
56.5(58) 舩橋 稔子
56(57) 久保 仁美
55.5(56.5) 河津 勝
55(55.5) 須藤 明広

全国大食い選手権 日本縦断最強新人戦
第4ラウンド

ハンデ
()は他競技での最高値

選手氏名
57 久保 仁美
56.5 河津 勝
56.5(58) 舩橋 稔子
52(55.5) 須藤 明広

 
〜大食い60分カテゴリ〜

順位 ハンデ 選手氏名
62 山本 卓弥
59 舩橋 稔子
58.5 久保 仁美
56.5 河津 勝

 ※主な競技結果※

なにわ大食い選手権 決勝

ハンデ
()は他競技での最高値

選手氏名
62 山本 卓弥
59 舩橋 稔子
全国大食い選手権 日本縦断最強新人戦
決勝
ハンデ
()は他競技での最高値
選手氏名
59 舩橋 稔子
58.5 久保 仁美
56.5 河津 勝

 

 2002年の上半期シーズンには、テレビ東京主催の「全国大食い選手権」の新人戦(テレビ東京主催の競技会に参加経験の無い者のみに出場資格がある)と、その予選会の他にメジャー級の大食い系競技会は開催されなかった。
 そのため今回の大食い系3カテゴリのフリーハンデに登場した選手たちは、TBS主催の「フードバトルクラブ」でデビューした河津勝以外、全てメジャー大会初出場のルーキーたちである。

 その「全国大食い選手権」新人戦(以下、「新人戦」とする)は、1998年から毎年4月の番組改変期特番に合わせて実施・放映される大食い系フードファイターの登竜門的な競技会で、過去の“新人王”には岸義行、岩田美雪ら、現在でも第一線で活躍している選手たちがその名を連ねている。
 特に新人が“豊作”だったのが昨年度で、“新人王”の射手矢侑大を始め、白田信幸、立石将弘、高橋信也といった、現在のフードファイトシーンを代表するような選手たちが、この登竜門をくぐっていったのである。

 そしてこの“大豊作”を受けて今年、この「新人戦」は、より多くの優れた新人を発掘するために、全国5箇所で予選会を実施。それに伴って本大会の参加枠も従来の5から10に倍増させた。
 この「新人戦」の規模拡大には、TBS主催「フードバトルクラブ」の勢力伸張に危機感を持った「大食い選手権」サイドが、“まだ見ぬ強豪”の青田買いを狙ったという意味合いも、恐らくはあっただろう。
 しかし皮肉な事に、この年の「新人戦」でデビューしたルーキーたちのレヴェルは、お世辞にも昨年を上回るものとは言えなかった。その結果、予選通過のボーダーライン上にいた選手の水準がいつにも増して低くなり、「新人戦」の前半部分が散漫なものとなってしまったのは残念であった。
 だが、この「新人戦」そのものは、個性豊かな上位入賞選手の好パフォーマンスや、洗練された番組演出によって、終わってみれば非常に素晴らしい競技会となった。このテレビ東京と「大食い選手権」の功績については、また次回の総括で述べる事にする。

 そういうわけで“大豊作”とはいかず、せいぜい“平年並み”に終わってしまった今年のルーキー戦線だったが、それでも即戦力クラスの逸材がいないわけではなかった。
 「新人戦」の近畿地区予選を兼ねた「なにわ大食い選手権」に、若さと言うより幼さが抜けきらない印象の少年・山本卓弥が姿を現した時、彼がそれから常識外れのパフォーマンスを連発する事を予想した者はどれだけいただろうか?
 そんな風に、予選会場を埋め尽くした他のルーキーと同様に全くのノーマークだった彼は、緒戦のタコ焼き30分勝負から150個・6.0kg完食という素晴らしい記録を残して周囲をアッと言わせた。
 そして、第2ラウンド以降もこの快進撃は止まらない。白玉ぜんざい104杯・5.2kg、カレーうどん大盛15杯という好レコードを連発して後の2002年“新人王”・舩橋稔子を一蹴。いとも簡単に初タイトルを獲得してしまったのである。
 特にその決勝では、会場にゲスト解説として現れた赤阪尊子をして、ただただ「凄い」と驚嘆せしめたのが印象深かった。このシーンは、昨年度の「新人戦」準決勝ラウンドにおいて、当時無敵の王者として君臨していた小林尊が射手矢侑大を激賞した場面とダブって見える光景であった。
 こうして一躍「新人戦」の優勝候補筆頭に名乗りを挙げた山本は、本大会でも“平年並み”水準の他地区の選手たちとは次元の違う食いっぷりを見せ、その序盤戦を余裕残しのままブッチギリの成績で圧勝した。
 この時のテーマ食材は豆腐や麦とろ飯などといった、食べ易くて消化に良いものであったから、どうしてもフリーハンデ値は伸び悩んでしまうのだが、それでも山本には62ポイントと言う高レイトが与えられた。これは“女王”・赤阪尊子と互角の実力である事を証明するもので、まさに一流選手への分水嶺と言える。山本はそんなレイトを余裕残しのまま獲得してしまったわけで、本当に空恐ろしい話であろう。
 だが、このまま決勝まで続くかと思われた山本の快進撃は突如、急ブレーキがかかってしまう。
 本来なら消化を促進する食材であるはずの麦とろ飯が、その翌日になっても彼の胃の中で全く消化されずに溜まってしまったのだ。普通ならただの消化不良で済むような話でも、その量が7kgを超えるとなれば大事になる。結局、山本は第3ラウンド開始前にドクターストップという形で戦線離脱を余儀なくされる事となった。
 この突然の体調変異は、どうやら慣れない環境に長時間置かれた事による極度の緊張が原因だったようである。人並み外れた胃袋を持つスーパールーキーも、やはり人の子だったと言う事か。
 そんなわけで、メジャータイトル獲得はならなかった山本だが、そのささいな躓きが彼の存在価値そのものに傷をつけた訳ではない事は、大食い系3カテゴリを完全制覇した彼の高くて安定したフリーハンデ値を見ればよく分かるだろう。
 白田信幸の独走が続き、やや閉塞した印象も抱かせる現在のフードファイト・シーンだが、秋シーズン、彼が大きな風穴をブチ開けてくれる事を期待しよう。

 実力最右翼の山本卓弥がリタイヤするという大波乱に翻弄された今年の「新人戦」、栄えある第5代“新人王”に輝いたのは、身長158cm体重40kgという“小さな女王”舩橋稔子であった。
 舩橋は山本卓弥と共に「なにわ大食い選手権」でデビューし、そこで準優勝となって本大会出場権を得る。山本の強烈なパフォーマンスの前には、さすがの後の“新人王”も影が薄かったが、舩橋もまた、他地区の予選通過者とは1ランク上の好成績を収めており、本大会でも相応の成績が期待された。
 そしてその本大会でも、舩橋は序盤戦から山本卓弥に次ぐ成績を挙げて、その実力が間違いなく全国区である事を証明する。さらに山本がリタイヤした後は、第3ラウンドで苦手の餡巻きに苦しんだ以外は危なげの無いパフォーマンスで決勝進出を果たし、その決勝でも60分勝負を際どく逃げ切って、見事にメジャータイトルを奪取。同時に秋のオールスター戦への出場資格を獲得した。
 本当に小柄な体格の舩橋が、大男たちをバッタバッタとなぎ倒して実現したこの優勝劇は、まさに見ているものにとって痛快極まりないものではあった。だが、話題を
「舩橋稔子はオールスター戦でも通用するのか?」という方向に向けてみると、そうそう浮かれてばかりもいられないのも、また事実である。
 何故ならば、舩橋は決勝戦で明らかに自身の胃容量の限界を露呈してしまったからだ。舩橋の決勝戦での記録から推定すると、どう贔屓目に見ても彼女の胃容量は6kgには届かない。この数値では、トップクラスと伍してゆくには明らかに力不足なのである。
 これでスピードがあるならば、まだスプリント選手への転進も図れるところなのだが、舩橋の場合、その点に関しても不安は多い。小柄な体、小さな口という“逆・白田信幸”とも言うべき彼女の体型は、本来ならば極めてフードファイトには不向きなのである。
 せっかくの快挙に水を差すようで悪いのだが、舩橋には早くもフードファイター人生に関わる大きな正念場が訪れている。彼女が赤阪尊子以来のトップ級・女性大食い選手となるのか、それとも先輩の女性新人王・岩田美雪のように、準一流選手としてフェードアウトしてゆくのか、全てはこの秋にハッキリすることになるだろう。

 この2名以外の選手では、残念ながら、去年以来格段に層の分厚くなったトップクラスに混じって好成績を挙げられそうな選手は見当たらなかった。地区予選決勝レヴェルの選手は勿論、本大会の前半で脱落した選手たちでも、秋のオールスター戦で出場最低資格の寿司100カンを完食できるかどうかは、極めて微妙と言わざるを得ない。
 それでも敢えて有力新人を挙げるならば、「新人戦」で決勝進出を果たした久保仁美河津勝になるのだろうか。だが、久保は胃容量はともかくスピードに難があり過ぎるし、河津の方も4kgソコソコという胃容量では、大食い系競技で戦ってゆくには余りにも心許ない。何しろ、河津が今回獲得した56.5というレイトでは、去年の「新人戦」なら予選を通っているかどうかすら怪しい数字なのである。
 実は、そんな彼らでも、10年前のレヴェルならば十分優勝候補に挙げられる実力を持っているのだ。それだけ、この10年で日本のフードファイトは急速な進歩を遂げて来た事になるのだが、ある意味においては、時の流れは余りにも残酷であるという事でもある。


 ……と、いうわけで大食い系カテゴリの「FFフリーハンデ」をお送りしました。次回は全カテゴリの数値を網羅した一覧表と、この半年のフードファイト界を概観した総合解説文をお送りする予定です。では、また次回をお楽しみに。(次回へ続く

 


 

8月10日(土) 競馬学特別講義
「目指せ回収率アップ! 馬券学基本講座(2)」

 ※この講義の第1回(基礎編)を未受講の方は、是非こちらのレジュメを閲覧して下さい。

駒木:「さて、夏祭りの準備で先週はお休みを頂いたけど、今日は『実戦編』、ちゃんとやるよ」
珠美:「でも競馬界では『そんなことより』って感じで、サンデーサイレンスが来週中にも安楽死処分っていう、とんでもないニュースが入ってますけれど……」
駒木:「そうなんだよねぇ。先日のエルコンドルパサーの件と言い、今回と言い、サラブレッドの命の儚さってのは考えさせられてしまうねぇ」
珠美:「これからの日本競馬はどうなっちゃうんでしょう?」
駒木:「それだよねぇ。2005年デビューの分まで種付けして死んでゆくわけだから、しばらくはこのままだろうけどねぇ。……でもまだ後継種牡馬たちが一本立ちしてない段階だから、ちょっと怖いよね。今の出世頭が、産駒の能力がクラシックシーズンを境に目減りしていくフジキセキだろ? ちょっとかいた冷や汗が止まらないよね。
 以前、ノーザンテーストが高齢でフェードアウトして行った時には、リアルシャダイがワンポイント役を務めて、そのすぐのトニービン・ブライアンズタイム・サンデーサイレンス3強時代に上手く繋げていけたんだけど、最近は輸入種牡馬に大当たりが少ないよねぇ。その3強だってトニービンも死んじゃったし、ブライアンズタイムだっていつまでも生きてるわけじゃないし……。
 とりあえずは社台グループとCBスタッド(早田牧場系)に期待するしかないんだろうね。他の勢力はラムタラで失敗してからまだ余力が蓄えてられないだろうし……」
珠美:「せっかく日本の馬が世界に進出を始めたばかりですし、これをきっかけに悪い流れに行ってしまわなければ良いですね」
駒木:「だね。……と、この話はこれくらいにして、今日の本題。『馬券基本講座・実戦編』に移るとしようか。回収率80〜90%くらいの“プチ勝ち組”を目指して頑張ろう! ……って講座だね(笑)」
珠美:「ハイ。今日からは“本命党”、“中穴党”、“穴党”3つのタイプに分けてレクチャーをしていただけるんですよね」
駒木:「うん、そうだね。本命馬券買ってる人と万馬券狙いの人とでは、やっぱり知っておかないといけないポイントが違うからね。……ちなみに、珠美ちゃんはどの“党”?」
珠美:「そうですねー、私は“中穴党寄りの本命党”ってところじゃないかと思うんですけど。全部が全部そうってわけじゃないんですけど、本線で本命馬券を狙いながら、5〜6点目で中穴馬券を押えて……って感じでしょうか」
駒木:「なるほどねぇ(ニヤリ)」
珠美:「あ、今の顔は何ですか!?(汗) 今、すごーく嫌な顔をなさいましたよ、博士!」
駒木:「ん〜、まぁそれは講義を聞いてのお楽しみって事で(笑)」
珠美:「あー、嫌な予感……(汗)」

実戦編1:“本命党”向け実戦講座

 1−1:馬券は「当てる」モノではなくて「当たる」モノである事を知ろう!

珠美:「いきなり難しそうなテーマから入りましたけど、これは……?」
駒木:「これは以前の僕も同じだったから言えるんだけど、本命狙いの人は『馬券は正しい予想をすれば必ず当たるものだ』という幻想を抱きがち。ここからまず脱却しないといけない」
珠美:「……と、いいますと…?」
駒木:「競馬って言うのは所詮、動物任せのギャンブルなんだから、不確定要素がたくさんある。だから、正しい予想をしてたって当たらない事もあるし、予想としては間違っていても結果オーライになる事だってある馬券で全勝するのは絶対に無理なんだよ。たとえガチガチの本命馬の複勝だけ買っていたとしてもね。
 だから、まず大前提として、『馬券はかなりの確率で外れるだろう』という事を念頭において全ての事を考えなくちゃいけない。これは大事なコトなんだよ」
珠美:「うー、すいません。おっしゃってる意味がよく分からないんですけど……」
駒木:「ありゃりゃ(苦笑)。じゃあ、この事をとりあえず頭の片隅に置いてもらって、先に話を進めようかな。そうすれば、このトピックの事も理解してもらえると思うから」
珠美:「ハイ、分かりました(苦笑)」

1−2:本命馬を過信するのをやめよう!

駒木:「これなら意味は分かるね」
珠美:「ハイ、なんとか(苦笑)」
駒木:「馬券で勝てない“本命党”の人の最大の弱点は、『本命』とか『一番人気』という概念に甘えちゃう事だと思うんだよね。新聞で◎ばっかりついてて、単勝オッズが1倍台の馬だと、もうそれだけで安心しちゃう
珠美:「あー、分かっちゃいけないんでしょうけど、分かります、それ(苦笑)」
駒木:「特に武豊騎手のようなリーディング上位騎手がそういう馬に乗ると、もうレース前から2着は間違いないように思えちゃう
珠美:「あ〜〜〜〜〜〜(頭を抱える)」
駒木:「また珠美ちゃんのトラウマ発見か(苦笑)。これはね、数字を見てもらったらハッキリ分かると思うんで、僕が以前にまとめたデータを紹介するね。1999年分だけの1年限りのデータなんで、完璧ってわけじゃないんだろうけど、傾向くらいは掴めてると思うんだ」
珠美:「…どんなデータなんですか?」
駒木:「騎手ごとの、1番人気と2番人気の馬に乗った時の成績だよ。で、同じ1番人気でも、単勝売上金額が2番人気馬の2倍を超えている馬──つまり、ダントツの1番人気馬──と、そうでない馬に分けて成績を集計したんだ。2番人気馬も同様に、“1番人気と人気伯仲の2番人気”か、“1番人気馬に離された2番人気”かで分けて調査してみたよ。ちなみに全部手作業(苦笑)」
珠美:「お疲れ様でした(苦笑)。それで、どんな結果になったんですか?」
駒木:「これがねぇ、実際に調べてみて驚いた。さっき言った、“ダントツの1番人気馬”に関しては、どんな騎手でも成績に大差無いんだよ。いや、むしろ武豊騎手なんかは、“豊オッズ”で過剰人気になるから成績が良くないくらいなんだよね」
珠美:「えー! そうなんですか?」
駒木:「その分、2番人気以下の成績が抜群に良い。特に、“ダントツの1番人気から離された2番人気”に乗らせると怖いくらいに強い。まぁ、1年限りのデータだから過信は禁物だけどね。つまり、武豊は最強の穴ジョッキーってことだよね」
珠美:「初耳でしたー。常識が根底から覆りましたよー(笑)」
駒木:「だろうねぇ。武豊騎手っていうと、いつもダントツの1番人気に乗ってる印象が強いからね。まぁ、実際そうなんだけど。全騎乗の1/5がダントツの1番人気だし。
 …で、ちょっと話が逸れたので戻すけれども、そんな新聞で◎がグリグリ付いて、単勝オッズが1倍台〜2倍台前半の“ダントツの1番人気”の馬の成績がどうかというと、勝率が38.4%、連対(2着以内)率が60.8%、複勝(3着以内)率が73.2%なんだよ。
 ……どうだい? 『これで間違いない』どころか丁半バクチに近い数字だよ、これ」
珠美:「本当ですねー。少なくとも単勝馬券じゃ儲からない数字になってますね」
駒木:「だろうねえ。勝率が38.4%ってことは、単勝オッズが2.7倍以上無いと儲からないんだけど、こういうダントツ人気の馬で2.7倍なんかつくわけないからね。
 連対率が60%強っていうのも渋い数字だよね。これは馬連の軸馬として機能する確率だから、的中率そのものはもっと下がるんだよね。1番人気と2番人気の組み合わせで決着する確率は20%強がせいぜい。人気順に5点流しても50%は超えないはず
 ということはだね、5点流しで的中率50%未満って条件で儲けを出すためには、平均10倍以上の配当を当てなくちゃダメなんだ。回収率75%で我慢するにしても7.5倍平均。これ、ダントツの1番人気を軸にして、人気順に流してだよ? 絶対無理だって、そんなの。
 まぁ、逆に言えば、そういう馬券を頻繁に買っている人はまず散々な成績に終わってるはずなんだな」
珠美:「なるほど……。数字を突きつけられると、説得力ありますね」
駒木:「だね(笑)。だから、◎グリグリの本命馬だからといって、無条件で信頼して流し馬券買うのは止めること。それだけでも大分無駄遣いが減ると思うよ。」

1−3:儲けが均等になる買い方は厳禁!

駒木:「珠美ちゃん、この意味分かる?」
珠美:「えーと、博士がダメだっておっしゃってるのは、オッズがバラバラの組み合わせを何点か買った場合、どの組み合わせで的中してもプラスになる金額が同じ買い方の事ですよね?」
駒木:「ご名答。これも本命党の人が陥りがちなんだよね。さっきから話を聞いてると、珠美ちゃんもその傾向があるみたいだけど(苦笑)。
 特に多いのが、『どの組み合わせで来ても賭け金が倍になって返ってくる』という馬券の買い方。これはねぇ、確率統計的に、一番やっちゃいけない事なんだよね」
珠美:「そ、そうなんですか?(汗)」
駒木:「日本の競馬の控除率、つまり開催者の取り分は25%強。つまり、僕たちには総賭け金額の75%弱が分配される計算なんだけど、この条件で『当たれば賭け金を2倍』の賭けを続けた場合、100レース終了した時点で、約99%の人が負け組になっちゃうんだよ(笑)。100レースなんて、毎週土・日に朝から競馬場行ってたら、たった1ヶ月弱だよ(苦笑)。で、これを1年続けたら、余程の才能と運に恵まれたゼロコンマ小数点第何位%の人を除いて全員が、幾らかのマイナスを被る計算になる。それを考えたら酷いよな、日本の公営ギャンブルは」
珠美:「『当たれば2倍』みたいな買い方をしていると、必ず50%くらいは当たるような気がするんですけどね(苦笑)」
駒木:「だからさっき言ったじゃないか。ダントツの1番人気から人気順に5点流しても的中率は50%弱なんだ。『当たれば2倍』みたいな買い方をして、的中率が50%行くわけないだろ?(苦笑)
珠美:「ハイ、恐れ入りました(苦笑)」
駒木:「そういうわけで、どれか1点でもいいから、『当たったら大きいぞ』って組み合わせを作ること。単勝オッズが割合高めだったら、それと併用するのもいいね。とにかく“勝負馬券”ってのを握っておこう

1−4:枠連・馬連は2点まで!

駒木:「…と、いうわけで、“本命党”編のラストだね」
珠美:「2点までですか? うわー、厳しいですねー」
駒木:「だってさ、元々オッズの低い本命馬券で、ある程度の勝負をしようと思ったら、こうするしかないだろ? そりゃあ、本線が10倍以上つくんなら3点買いも可だけど、それはもう本命党とは言わないと思うしね(苦笑)」
珠美:「確かにそれは“中穴党”に近いですね」
駒木:「実はこれも確率統計的な話なんだ。日本の競馬みたいに、まず賭け金の何割かが胴元に吸い上げられるようなギャンブルの場合、買い目を増やせば増やすほど負ける確率と速度が飛躍的に上がってゆくんだよ
 だから、オッズ10倍以下の本命馬券で勝負する場合なら、まず連勝複式の馬券は2点まで
 最近話題の新馬券は、馬単はそもそも本命買いに向かないし、三連複も1番人気の組み合わせだとオッズが伸び悩むから期待値はメチャクチャ悪い。だから縁が薄そうだね(笑)。
 単勝ならオッズ3倍以上を条件に1点買い複勝とワイドはやめておいた方が良いね。ワイドが発売された直後に、『ワイドは本命サイドの方が、馬連からの配当の目減りが少ない。だから有利だ!』なんてドアホウなセオリーが出来かけたけど、いくら目減りが少ないからって2倍行くか行かないかのオッズでどうやって儲けろと?(苦笑)。1番人気と2番人気の組み合わせでもワイドの的中率は30%ソコソコだよ。ワイドってのはそんなに当たる馬券じゃないんだよね」
珠美:「なるほど……。私も相当な“馬券リストラ”をしなくちゃいけないみたいです(苦笑)。G1の時に当てたいばかりに10点以上も買うのは、もう卒業ですね(笑)」  
駒木:「でもねぇ。ここまでしても、本命馬券ばかりだと回収率は80%超えるのがやっとじゃないかなぁ。大抵の人は75%近辺で止まっちゃうと思うよ
珠美:「それって、『1−5:本命党は卒業しよう!』って事ですか?(苦笑)」
駒木:「正直言えば、そうなんだ(苦笑)確率的に言えば、“本命党”の人は長い期間をかけて回収率75%を達成する買い方をしている人だからねぇ
 でも、本命買いには『的中回数が多い』という何物にも変えがたいメリットがある。馬券当たると気持ちいいからねぇ(笑)」
珠美:「分かります(笑)」
駒木:「だから、金銭的なメリットよりも精神的なメリットを追い求める人には強制しない。でも、金銭的なメリットを求めたい人は、“本命党”を卒業して、せめて“中穴党”に“入党”する道を選んで欲しいと思うんだよね」
珠美:「……ということは、私も“本命党”離党、“中穴党”入党ですね(笑)」
駒木:「ようこそ中穴党に、珠美ちゃん(笑)。……と、いうわけで次に“中穴党”向けの実戦講座なんだけど、ちょっと時間が押しちゃったなあ。来週回しだね、これは」
珠美:「分かりました。では、また来週、ですね。博士、お疲れ様でした」
駒木:「珠美ちゃんも、受講生の皆さんもご苦労さま。では、また来週にね」 (来週に続く

 


 

8月9日(金) 教育実習事後指導(教職課程)
「教育実習生の内部実態」(9)」

 このシリーズもいよいよ佳境に差し掛かってまいりました。
 でも、気が付いたら足掛け2ヶ月の長期シリーズになってたんですね。ダラダラと長引かせてしまって恐縮です。

 では、過去のレジュメはこちらから↓
 第1回第2回第3回第4回第5回第6回第7回第8回

 さて、今日はいよいよ、実習最終日の出来事についてのお話をさせてもらう事にします。

 教育大学の学生や特殊なケースを除き、教育実習の期間は2週間です。始まる前は結婚披露宴の媒酌人挨拶を前にした出席者一同の総意のようなウンザリした心境であっても、気がつけば正に光陰矢の如し。“たった”2週間の実習期間など、楽屋で飲んだコーヒーか何かが不味かったかために機嫌を悪くした外国人アーティストのコンサートくらい呆気なく終わってしまうものであります。
 そしてこの頃になると、授業実習開始直後は教壇で中川家の兄貴のように固まっていた実習生も、いつの間にかソツなく授業を展開できるようになっています。中には研究授業で教頭以下多数の教員を前にして、担当教諭よりも上手い授業を披露してしまうという洒落にならないケースまであり、目が離せません。
 まぁその逆で、最後まで電池切れかけのトランジスタラジオのような授業しか出来ない実習生もいたりしますが、そういう人たちは偶然か、必然か、初めから教職を目指していない“免許目当て”である事が大半を占めますので、実害は最小限で済む事が多いようです。

 と、こうして全ての実習活動が終了すると、いよいよ生徒たちとの“別れの儀式”がやって来ます。
 ここまでの講義で採り上げる機会がありませんでしたが、実は実習生は授業以外にホームルーム活動でも実習を行います。ホームルーム実習は、原則的に担当教諭が担任するクラスで行い、朝や昼のショート・ホームルームや週に1度のロング・ホームルーム、さらには放課後の教室掃除などにも参加するのです。駒木の場合などは、担当教諭・T先生が出張で不在の中、文化祭の出し物を決めさせるという“大役”まで任されたりして、かなり貴重な経験をさせて頂きました。
 それに加えて、そのクラスの生徒たちとは授業実習でも顔を合わせるわけで、当然の事ながら生徒たちと実習生とはかなり親密になります。この傾向は恐らく、生徒(児童)の年齢が低くなればなる程強くなるのではないかと思われます。特に小学校での実習生と児童の別れとなると、徳光和夫を号泣にいざなうような光景になること請け合いです。

 で、この別れのシーン、駒木はどうだったのかと言いますと……。
 まぁ普段から駒木の講義を聴いて下さっている受講生の方には容易に想像がつくかも知れませんね。ええ、10分以上漫談やって生徒を笑わせて終わらせましたとも
 その漫談終了後、クラス委員長から花束の贈呈。これ、後から考えたらT先生が主導したイベントだったんでしょうけど、非常に嬉しかったのを覚えています。他の実習生に聞いたら、同じように花束だったり、クラス全員の寄せ書きだったりして、みんな何かしらプレゼントを貰っていたようです。こういうのって、良いですよね

 生徒とお別れしたら、今度は先生方とのお別れです。行われるのは、教育実習のスケジュールで最後を飾るは、教科全体での講評会。実習した教科の教員と実習生が全員集合して行う、一種の懇談会であります。
 講評会はまず、実習生が実施した研究授業の内容について、教科の先生方が細かく論評を述べてゆく事から始まります。まぁ7割位の先生が甘めのコメント、残りの3割位の先生が少々辛めのコメントでしょうか。どちらのスタンスを取るにしても、実習生に対する思いやりの表われである場合がほとんどです。
 ちなみに、駒木が教員の立場でコメントを求められた場合は、教職志望者には厳しく、そうでないものにはそれなりに、というスタンスでコメントする事にしています。本当は駒木のようなキャリアで偉そうな口をきくのはご法度だと思うのですが、批判されるべき事を批判されないままで実習生が教員の道を歩む事が一番の不幸だと考えて、ちょっと僭越な事をさせてもらうようにしています。

 研究事業の講評に続いては、お茶を飲んだりしながらのざっくばらんな感じで、実習生と教員の雑談がしばらく続きます。
 これは学校や教科によってバラバラだと思うのですが、一例として駒木が実習生の時の話を。
 この時は、駒木が研究授業でやった「イエス=キリストの頃の磔刑の方法」が話題に挙がりました。駒木は「お、褒めてもらえるのかな?」とか思ったんですが、そこから歴史担当の教員一同が一気に脱線開始。なんと先生方は、各国の死刑の方法や「切腹の時の上手い介錯は首を皮一枚だけ残してスパっと斬る事だ」…などといったマニアックな話題で盛り上がってしまい、実習生を蚊帳の外に放り出したまま、スプラッタ研究会の様相を呈してしましました。
 この情景を見て駒木、「ああ、歴史の先生って、本当にトコトン歴史が好きなんだなぁ」と、しみじみ思ったものでありました。

 とまぁ、そんなこんなで講評会も1時間余りで終了。いよいよ本当に実習の終了です。
 実習生控え室に戻った実習生たちは、各自の荷物を整理しながら、「あー、本当に終わっちゃったんだなあ」…などと感慨にふけるわけです。たった2週間なのに、卒業式を控えた3年生のように、自分の使った机を愛でたりもします。これで机に彫刻刀でサインが彫ってあったり、千枚通しでゴルフコースが造成されていれば、本当に卒業式当日の一風景だったりします。

 しかしいつまでも感慨にふけっている暇はありません
 実習生たちは思い出の詰まった学校を後にして、目指すべき場所へ向かわなくてはならないのです。

 その場所とは、そう──。

 

 教育実習打ち上げ会場となる、繁華街の居酒屋であります。


 “教育実習生”という堅苦しい肩書きをかなぐり捨て、ただの一学生に戻った若者たちによる、狂乱の一夜が今、始まろうとしていました──。 次回へ続く) 

 


 

8月8日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(8月第2週分)

 いやー、ビックリしましたねぇ。島袋光年氏、女子高生買春で逮捕。詳しくはすぐ後に述べますが、連載中のメジャーマンガ誌連載作家が不祥事で逮捕されたっていうのは、非常に珍しい事じゃないでしょうか。
 まぁ普通、週刊連載作家っていうのは週の休みが0.5日あれば良い方って聞きますから、本来なら出会い系サイト経由で女子高生漁ってる暇なんて無いんですけどねぇ(苦笑)。

 さて、ではゼミを始めましょう。今週のレビュー対象作は3本という事で、まぁ講義をする方にしても受講される人にしても丁度良い数ではないかと思います。

 では、まずは皆さんお待ちかね(?)の情報系の話題から。

 冒頭でもお伝えしましたが、昨日(8/7)、「週刊少年ジャンプ」で『世紀末リーダー伝たけし!』を連載中の島袋光年氏が児童買春の疑いで逮捕されました
 有名雑誌の現役作家逮捕という事で、8日付朝刊では各紙の社会面に記事が掲載されましたが、ここではBBSで情報提供して頂いた100bさんに敬意を表して読売新聞から引用する事にします。

 神奈川県警少年課と伊勢佐木署は7日、漫画雑誌「週刊少年ジャンプ」(集英社)に連載中の漫画家・島袋光年容疑者(27)(東京都世田谷区玉川1)を児童買春・児童ポルノ処罰法違反(児童買春)の疑いで逮捕した。

 調べによると、島袋容疑者は昨年11月12日、横浜市神奈川区内のホテルで、同市内の女子高生(16)に現金8万円を渡し、みだらな行為をした疑い。

 島袋容疑者は携帯電話の出会い系サイトを通じて女子高生と知り合ったが、女子高生には偽名を使い、コンピューター会社員を名乗っていたという。

 島袋容疑者は、1996年にデビューした人気漫画家。翌97年から「週刊少年ジャンプ」に「世紀末リーダー伝 たけし!」を連載。昨年、同作品で小学館漫画賞(児童向け部門)を受賞している。
(読売新聞より)

 他紙の報道によると、島袋氏は警察の取り調べに対して既にいくつかの余罪を自供している模様です。しかしながら当講座といたしましては、ウルトラマンコスモスの一件もありましたし、とりあえず現段階では断定的な扱いをする事は避け、続報を待ちたいと思います
 とはいえ、こういう事態になってしまった以上、「ジャンプ」での『──たけし!』の扱いは厳しいものにならざるを得ないでしょう。既に9月発売予定の単行本が発売延期になり、集英社のウェブサイトからも『──たけし!』関連のコンテンツが削除されたという情報が入ってますし(情報元:『最後通牒・半分版』さん)、連載終了や無期限休止などの“処分”が近々発表されそうです。
 それにそもそも、一度逮捕されてしまったら、保釈(起訴の場合)、または釈放(不起訴の場合)されるまでの間(最短10日前後、最長40日以上)は勾留されてしまいますから執筆は不可能ですしね。
 どうやら、次週発売の37・38合併号は既に印刷・初期流通が済んでいる事もあり、『──たけし!』は掲載される模様ですが、これが事実上の最終回という事になりそうです。一説によれば、今のエピソードを終わらせたら完結という線で話が決まっていたそうですので、ある意味勿体無いことではあります。
 『──たけし!』終了後は、恐らく何週か代原や代原作家の短期集中連載で乗り切って、秋の新連載シーズンに備える事になるんではないかと思います。
 それにしてもこの事件、不謹慎な話ながら、これで次の打ち切り枠が1つ減るので、ボーダー上の作家さんにとっては“朗報”になっちゃうんですよね、いやはや(苦笑)。

 ……さて、情報をもう1つ。
 明日発売の『週刊コミックバンチ』最新号で、「世界漫画愛読者大賞」入選作の『満腹ボクサー徳川。』が連載開始となります。
 何と言いますか、まさに「ジャンプ新人海賊杯」と同じパターンになって来ましたよね。『満腹ボクサー徳川。』は、悪い作品とは思いませんし、連載にすれば平均点近辺を取り続けるであろう手堅い作品ですので、それはそれで良いんですが、自分で自分の雑誌の賞の価値を下げるような事は止めた方が良いような気がしますが……。
 

 ……では、今週のレビューへ。今週は「週刊少年ジャンプ」から新連載第3回の後追いレビューが1本、読み切りが1本、そして「週刊少年サンデー」から読み切りが1本。合計3本のレビューとなります。
 レビュー中の7段階評価についてはこちらをどうぞ。

 

☆「週刊少年ジャンプ」2002年36号☆

 ◎新連載第3回『アイシールド21』作:稲垣理一郎/画:村田雄介《第1回掲載時の評価:B+

 今週もセンターカラー&ページ増と、編集部のプッシュが続く『アイシールド21』の後追いレビューです。

 この3回目までで、主人公を含めた主要キャラ3人のキャラ立てをこなして、いよいよ次回からアメフトの試合に突入する事になるわけですが、確かにここまでの話の運び方やコマ割りなどはソツがありません上手いです。主要キャラ3人も、容姿・性格共にハッキリと区別されていますし、どの要素をもってしても、間違いなくプロの描く作品と言えると思います。

 ですが、この作品が「他のプロの描いた作品と比べて上位にランクされるのか?」と考えると、やはり少し首を傾げざるを得ません
 というのも、作品のノリがコメディからギャグにややシフトし過ぎているためなのか、どうにも1話ごとの見せ場がインパクトに欠けてしまうんですよね。「ここだ!」と言う所でヒル魔が出てきて場が茶化されてしまうような展開が続いているのです。
 あと、話のポイントになるのが、主人公・セナの「足が速い」という設定だけ、というのも気になります。要はワンパターンなんですね。まぁ、これも試合シーンに突入すれば幾分解消できそうではありますが……。

 一言で言えば、「名作になるまでのプラスアルファが足りない」というところでしょうか。それは即ち、アンケート葉書に記入される「面白かった作品3つ」に入るための決め手に欠けているということにもなります。
 作者のお2人にとっては、せっかくのビッグチャンスなんですから、是非とも活かしきって欲しいものです。

 評価はB+で据え置き。打ち切りへ突き抜けないためにも、よりインパクトのある話作りに励んでもらいたいと思います。

 
 ◎読み切り『イケてる戦隊ごきげんジャー』作画:原淳

 今週は『ホイッスル!』が休載のため、代原が掲載されました。それにしても最近の「週刊少年ジャンプ」は弛み過ぎです。当たり前のように毎週代原が載る雑誌なんてどうかしてますよ、まったく。

 ……まぁこんな事、ここで言ってもどうにもなりませんから話を進めましょう。今回の代原作家である原淳さんは、調べてみると意外と豊富なキャリアが浮かび上がってきました。
 まず「ジャンプ」での実績としては、本誌99年11号から01年45号に至るまでに5回代原が掲載されていて、さらに99年の春増刊にも読み切りが掲載されています。内容の大半は、今回と同じ戦隊モノパロディギャグマンガですね。
 そして、「ジャンプ」系雑誌で活動する以前には、エニックスの『ドラクエ4コマ』で作品を発表したり、今は休刊した「ギャグ王」で連載もしています。その連載作品で96年には単行本も出していますが、評判は芳しくなかったようで、現在は絶版となっているようです。
 ……それにしても、いくら人気がイマイチだったとは言え、他誌の連載作家が3年以上代原作家に甘んじているというのも、ある意味根性座ってる話だと思いますね。普段どのようにして生計を立てているのか、心配になってしまいます(苦笑)。

 では、作品の話に移ります。
 まずですが、ハッキリ言って上手くはありません。ただ、伊達に6年以上キャリアは重ねていないと見えて、下手なりに独自の絵柄が完成されているので不快には感じませんね。
 ただ、肝心のギャグの方も6年がかりで半端に低い水準のまま固まってしまっていては問題ですね。まぁ、他の「ジャンプ」代原ギャグ作家さんと比べると番付が1〜2枚上だろうか、という感じがしますが、この作品のすぐ後に掲載されている『ピューと吹く! ジャガー』と比べてしまうと、さすがにキツいです。
 この作品の(そして恐らく原さんの)最大の問題点は、間で笑わせるギャグが下手だという事です。間で笑わせようとしながら、ギャグの展開がせっかちなんですね。
 『──ジャガー』なんかを見てもらえれば分かると思いますが、大体、間で引っ張るギャグの場合は最低でも“間”をもたせるのに2コマ以上は使います。しかし、この作品では1コマ間を置いただけで、すぐにオチへ行っててしまうのです。これだと“溜め”が利かないので笑いようが無いんですよね。このポイントを良くするだけで、作品の完成度は大きく違ってくると思うんですが……

 評価はB−。『たけし』緊急打ち切りで代原作家さんにはたくさんのチャンスが回って来そうな気がしますので、原さんにも早いところリベンジしてもらいたいものです。

 

☆「週刊少年サンデー」2002年36・37合併号☆

 ◎読み切り『白い夏』作:武論尊/画:あだち充

 マンガ界の超大物タッグによる中編読み切りの登場です。原作の武論尊さんは、昨年『ライジング・サン』で玉砕して以来の「サンデー」本誌登場となります。

 さて、作者お2人のプロフィールは余りにも有名すぎるので割愛するとしまして、早速作品の内容に話を進めましょう。

 あだちさんの絵についても言及する余地は無いですね。まぁ、「もうちょっとキャラの顔を他作品と描き分けたらどないや」と言いたくなりますが、これももはや、あだちさんの確信犯に近いようですので、追及するのは止めておきます。

 で、武論尊さんのストーリーの方ですが、こちらもベテラン作家さんにありがちな陳腐さが無くは無いのですが、それよりもよく練られたプロットに敬意を表するべきでしょう。回想シーンと現在のシーンでセリフをシンクロさせる小技も効果的ですし、何よりも50ページ以上のお話で全く間延びさせていないという点はさすがだと思います。
 しかし、この作品の最大の問題点は「少年誌にそぐわない」という事ですね。どう考えてもこの作品は「ビッグコミックオリジナル」に掲載されるべき作品のような気がします。やはり少年誌では、淡々と語られてしみじみと終わる話は向かないような気がするのですが……。

 評価は難しいところですが、「週刊少年サンデー」のマンガとしてはB+、青年誌や成年誌のマンガとしてはA−ということにしたいと思います。

 

 ……と、いうところで今週のゼミも終了です。次回は「サンデー」が合併号で休刊なんですが、その分、「コミックバンチ」などからレビュー対象作を引っ張って来られれば…と思います。では、また来週。

 


 

8月7日(水) 社会経済学概論
「セレクトセール2002開催(4・番外編2)」

 さて、夏祭りが明けて最初の講義になります。最近、特編カリキュラムやら何やらでシリーズ講義がブツ切り状態になってしまって申し訳ないのですが、どのシリーズもそろそろ完結へ向けてラストスパートを始めますので、最後までお付き合い頂くと共に、やがて始まる新シリーズもどうぞよろしく。

 では、今日の講義へ。すっかり題名と関係の無い講義になりつつありますが、とりあえずはレジュメの紹介を。

 過去の講義レジュメ→第1回第2回第3回(番外編1)

 ……では、今日の講義を始めます。
 前回は「映画配給会社とは何ぞや?」という事を説明し、外国映画ビジネスのダイナミズムについて一通り解説をしたところで終わりました。
 そして今回は、日本に数多くある映画配給会社の中で、歴史的な大コケと大ヒットを短期間で連続させたという、プロレス雑誌の裏表紙によく載っている幸運アイテム体験談を地で行くようなエピソードを持つ会社のお話をしてみたいと思います。

 …前もって言っておきます。この話をするに先立って資料整理をしてみたところ、恐らく今回だけでは終わりそうにない膨大な数のエピソードを掘り出してしまいました。ですので、この番外編はまだまだ続きます
 本編2回に対して番外編がその倍以上続くという、「お前は亀仙人が『もうちょっとだけ続くんじゃ』って言うてからの『ドラゴンボール』か!」…と、競馬関係者並びに受講生の皆さんの叱責を受けそうな展開ではありますが、そもそもがエロマンガ雑誌の新人賞についての話から始まった当講座であります。ここはどうか、有意義に過ごすはずだった夏休みの午前中を、ダラダラと『地獄先生ぬ〜べ〜』の再放送とか、教育テレビで立て続けに放送される小学生向け15分番組なんかを観るだけで過ごしてしまったようなものだ…と諦めて受講して頂けると幸いです。

 さてさて、それでは本題へ。

 そんな今回の番外編講義の“主役”となる映画配給会社、その名をアルバトロス株式会社と言います。

 ……この会社の名前だけで何らかの作品が思い浮かんだ方も、ひょっとしたらかなりの数いらっしゃるかも知れません。ただ、「アルバトロス」と聞いて、どの作品が思い浮かんだかによって、その方の映画ライフが手に取るように分かってしまいますので、ここでは聞かないことにしましょう。
 そんな“アルバトロス通”な方は勿論、アルバトロスという会社など知らないという方も、これからお話してゆくアルバトロス株式会社の歴史を通じて、「おー、この会社、こんな映画を配給してたのか」とか、「えー、あの会社、こんな映画も扱ってたの〜? 幻滅〜!…などと認識を新たにして頂ければ幸いです。

 で、このアルバトロスという会社、もともとは1970年代設立の洋物ポルノ配給会社・ニューセレクトから80年代末に分離・独立した、同名のレーベルが出発点となっています。
 まるでその歴史の第一歩をエロゲーから踏み出したゲーム会社・光栄のように居た堪れないスタートを切ったこのアルバトロス・レーベルですが、独立後の配給第1弾は良質なフランス映画・『読書する女』。しかもこれがいきなり大ヒットとなり、これで勢いに乗ったアルバトロスは次々とヨーロッパの良質映画を配給し続けます。

 しかし親(会社)の血は争えないのか、この頃、良質な映画を配給するかたわら、この頃の韓国映画法改正に伴う映画での乳首解禁で、続々と誕生していた韓国産ポルノ映画を続々と発掘したりもしていました。
 中でも大ヒットとなったのは『桑の葉』という作品で、その内容は、とある寒村の若妻が色気に目覚めて、長老以下、村中の男全員と不倫・売春しまくるといったものでした。また、その他にも『不倫への招待2・ジプシーエマ』という、全編スペインロケで絶倫男と人妻がヤりまくるだけの、まるで頭の悪いエロゲーのような映画も輸入・配給したりしています。
 ……というわけでこの頃のアルバトロスは、普段は優等生の女の子が実はプライベートでは……という、三流エロマンガに出て来る女の子のようなお茶目なレーベルだったようです。

 1991年、そんなアルバトロスに転機が。ついにレーベルそのものを株式会社化し、ついに一本立ちを果たしたのです。
 そしてその夏、本来の良質映画路線に舞い戻ったアルバトロスは、今なお良作映画として定評のある『プロヴァンス物語・マルセルの夏』を配給し、これが久々のヒット作となります。
 この物語は、小学校教師で尊敬に値する父に美しい母、そして弟、まだ赤ん坊の妹とともにプロヴァンスの丘に休暇を過ごすためやって来たマルセル少年が、一夏の間に起こった出来事や色々な出会いの中で成長してゆく様を描いたハート・ウォーミング・ストーリー当然の事ながら、不倫妻や絶倫男は一切出て来ません
 さらにこの年の冬に配給・公開された続編・『プロヴァンス物語・マルセルのお城』もヒットすると共に、なんと文部省(当時)からの推薦を戴きます。まさに飯島愛がお国から勲章を貰うような快挙でありました。

 …ここでこのままアート系路線に邁進していれば良かったのですが、またしてもアルバトロスは己の“呪われた血”に抗う事が出来ず、背徳の彼方へと足を踏み外してしまうのであります。

 ──と、書けば伝奇モノ小説みたいで少しカッコいいんですが、要は勲章を貰った飯島愛がまたTバックを穿いただけでありました。
 『マルセルの夏』に感動した人たちが全く預かり知らないところで配給された映画は女囚モノで、しかも『アマゾネス・プリズン』という、題名だけで全ての内容が把握できてしまう、いかにもアレな作品でありました。

 こんなどっちつかず路線のまま、1994年を迎えたアルバトロス株式会社ですが、ここでまた1つの大きな転機を迎えます。
 それは他の配給会社が考えもしない方向への路線変更、そして1人のキーパーソンの起用でした。

 そのキーパーソンの名は叶井俊太郎氏。この頃から現在に至るまで、アルバトロスの外国映画買い付けを一手に引き受けるチーフプロデューサーであります。
 次回は、そんな叶井氏のあまりにも独特な買い付ける映画選びを中心に、アルバトロスの歴史について語っていきたいと思います。(次回へ続く

 ※最後のほうで不適切な表現がありましたので、レジュメを訂正させていただきました。(8/8 21:20) 

 


 

 

平成14年8月4日 
ギャンブル社会学特殊講義
(講師:一色順子)

フリー雀荘に行ってみよう!(前編)

 みなさん、はじめまして〜。 私、一色順子って言います!

 実はわたし、都合がつかなくて夏祭りに参加できなくなってしまった栗藤珠美先輩から、いきなり特別講師の代理をお願いされちゃったんですよ。
 でも特別講師って言っても、わたしまだ今年大学入ったばかりの1回生なんですよね…。わたしなんかが講義して、ええんかなあ…。
 ……あ、わたし、生まれも育ちも神戸なんで、どうしても時々こっちの言葉になってしまうんです。なるべく分かりやすい標準語使うようにしますんで、あまり気にせんといて下さいね。

 う〜ん、でも講義、どうしようかなあ……。

 ……まあでも、珠美先輩から「好きな事喋って良いからね」って言われてますし、せっかくのチャンスですから思い切ってやっちゃいましょう! 一生懸命がんばりますから、最後までよろしくお願いしますね。

 じゃあ、始めますね、特別講義。

 …では早速なんですが、今、この場にいる人の中で、麻雀が好きな人ってどれくらいいますか?

 ……あー、結構たくさんいますねー。そうですよね、面白いですもんね、麻雀。夕方ごろに打ち始めて、気がついたら朝、なんてこと、よくありますもんね。
 ……って、あれ? 何だか、みなさんがわたしを見る視線が、「『エンカウンター〜遭遇〜』はとても面白いぞ、大好きだッ!」って宣言した人に向けられるようなモノになっちゃってるんですけど、徹夜麻雀する女の子ってそんなに珍しいですか? …ひょっとして、「『BLACK CAT』はオリジナリティ溢れる作品だ」って言う人くらいレアな存在ですか、わたし?   
 …あ、あまりうなずかないで下さいね。木之花先生と矢吹先生に失礼ですから。


 ま、それはさておいて。面白いですよね、麻雀
 でも、いくら麻雀が好きでも、なかなか本当に麻雀が打てる機会って少ないんじゃないですか?

 まず人数を揃えるのが大変でしょう? ルールを知っている友だちに片っ端から電話やメールしても、なかなか集まってくれませんよね。
 ルール知らない人を呼んで、基本的なルールを教えながら残りの3人でカモにするって手も無きにしもあらずですけど、それだと麻雀を楽しむというより追い剥ぎしてるだけですし。友人関係を換金するのはマルチ商法だけにしたいところですよね。

 それに、もし同じくらい麻雀が打てる友だち同士だとしても、やっぱりお金や物をやり取りするのって、気を遣いますよね。ちゃんと精算できればいいんですけど、これがお金の貸し借りに発展すると、どうしても気まずくなってしまいます。
 気心知れた人に、

 「オイコラ! 眠たいコト抜かしとらんで、払うモン払わんかえ!?」

 ……なんて、『ナニワ金融道』の桑田はんみたいなセリフ、言えませんしね。

 最近では東風荘なんて便利なモノがありますけど、それでも妙にギスギスしてて居づらくありませんか? まだ時々、底抜けのバカもいたりしますし。
 これは駒木博士から聞いた話なんですけど、よりによってランキング卓で、麻雀打ちながら彼女とHして、チャットで彼女にその実況中継をやらせてたバカ男がいたそうです。博士曰く、「イク前に冥土に逝って来い、ドアホ!」だそうですが、わたしも同感です。
 

 ──と、そんなわけで、自分の好きな時に、しかも快適に麻雀を打つのって、なかなか難しいですよね。ひょっとしたら、今、この講義を聴きに来てくれている人の中にも、「今日、メンツが揃わなかったから仕方なく来てるんだよ〜」って方がいるかもしれませんね。

 今日はそんなあなたに、いつでも快適に麻雀が打てる場所、フリー雀荘についての色々なことを教えちゃいますね。

 え? フリー雀荘って怖いところじゃないの、ですって?

 あー……。まだそういう偏見を持ってる人、いるんですよね〜。ま、仕方ないと言えば仕方ないんですけど。
 実はわたし、フリー雀荘でアルバイトをしているんですけど、そのことを他の人に言うたびにビックリされちゃうんですよね〜。

 「えー? 順子、でもフリー雀荘ってヤ○ザばっかりなんでしょ?」

 とか、

 「ツバメ返しとかできないと、バイニンたちにカモられちゃうんでしょ?」

 とか、

 「もし勝っても、帰り道で待ち伏せされて『おい兄ちゃん、痛い目に遭いたくなかったら勝った金、そこに置いてきな』とか言われちゃうんでしょ?」

 とか、

 「警察来たらイッパツでアウトじゃない。順子、捕まっちゃうわよ

 とか、

 「麻雀打ってる最中に、トイレでヒロポンとか打つオッサンとかいるんでしょ?」

 とか。

 みんな、フリー雀荘を何だと思ってるんでしょうか、まったく。

 そんな危ない所で私みたいな女の子がバイトできるはずないじゃないですか! そりゃあ確かに、いかにもヤバいなあって思うお店も少しは残ってますけど、最近は若者向けで健全な雰囲気のフリー雀荘が主流になってるんですよ。

 まず、私がバイトしているような今時のフリー雀荘には、ヤの付く自由業の方は来ません。おしぼりや鉢植えを借りたりする替わりに、直接顔を出すのはご遠慮いただいてますし、そういう人たちはヤバイ系の店とかマンションで麻雀を打つことが多いみたいですよ。

 イカサマもありません。まず全自動卓ですから積み込みとかできませんし、メンバー(店員のことです)が絶えず店内の様子を見ていますから、そんなことする人はすぐにバレて、即出禁(出入り禁止)です。

 お金を取り返そうと暴力振るうような人もいないと思います。いたら、これも即出禁ですし、もともとそれほど高いお金賭けませんし……。

 警察も大丈夫です。ちゃんと雀荘のオーナーさんたちが集まって、年に1回、地元の警察署へ挨拶に行ってますから。
 ただ、東京の歌舞伎町界隈には、雀荘にガサ入れするのをライフワークにしている困った刑事さんがいるそうなので、ちょっとだけ注意してくださいね。1000点100円以下のレートで打つようにしましょう。

 あと、ヒロポンも当然ありません。ただ、エスタロン・モカを飲み過ぎて廃人になりかけの雇われ店長がいる雀荘はたまにありますけど。

 だから、原則的にフリー雀荘は怖くありません。大丈夫です。だから、わたしと一緒にフリー雀荘について勉強して、頑張って“フリーデビュー”を目指しましょう!

 ……それではここで一旦休み時間を置きたいと思います。その後にレクチャーをすることにします。
(中編はすぐ下にあります)

 

平成14年8月4日 
ギャンブル社会学特殊講義
(講師:一色順子)

フリー雀荘に行ってみよう!(中編)

 さて、2時間目の始まりです。いよいよレクチャー本番ですよ〜。

 1.まずは知っておきたい予備知識。

 それでは初めに、フリー雀荘に行く前に知っておきたいことをいくつか紹介しておきますね。

 まず、雀荘には18歳未満の人は立ち入る事が出来ません
 なぜかと言うと、雀荘は法律上、風俗のお店ということになっているからです。……ってことは、わたしは風俗嬢ですか? まったく、本当に失礼な話ですよね〜。
 だから、営業時間も風営法に従って、「日の出から午前0時まで」ということになっています。でも0時にシャッターを閉めてしまえば、それからは警察も「内輪の麻雀大会」とみなしてくれるので、24時間営業している雀荘も多いんです。終電に乗り遅れても安心ですね。

 あ、風俗店扱いだからと言って、女の子が来ちゃいけないようなお店じゃないですから、大丈夫ですよ。
 ここだけの話、雀荘で女の子はモテるんですよ〜。
 若い女の子というだけで、本当にチヤホヤしてもらえます。お店によっては「女の子はゲーム代無料」なんてところもありますし、どのお店の男子メンバーも、まるでピンクのドンペリを入れてもらったホストのように優しくしてくれますから、本当にお得です。
 フリー雀荘は、自衛隊と並んで、女の子なら誰でもモテるすごい場所だということは、知ってて損じゃありませんよ〜。 

 あと、健全なお店でも、ほとんどのお店ではお金を賭けますし、半荘1回ごとに「ゲーム代」というお金がかかります。タダで遊ぶというわけにはいきませんので、それだけは分かっておいて下さいね。


 2.そしてお店選び。

 フリー雀荘業界では、まだヤバイ系のお店と健全なお店がゴチャ混ぜになっている以上、お店選びは重要です。

 ま、これはお酒を飲むお店と同じですよね。外国のボッタクリバーとかへ行くと、お勘定の時にコニシキみたいな男が出てきて、片言の日本語で「金払エ。無ケレバ死ヌ」と言われたりしますし。
 ですから、そういうお店に行かないようにしましょうね、ってことですね。

 で、お店選びですけど、一番確実なのは、『近代麻雀』みたいな麻雀雑誌に広告が載ってあるお店に行くことですね。そういうお店は99%健全です。

 ただ、健全なお店は大都市周辺に限られていることが多いので、地方在住の人はちょっとお店探しに苦労するかもしれませんね。でも最近は、大手のフリー雀荘チェーン店が地方に進出して来ていますので、きっと見つかるはずだと思います。

 また、大都市に住んでいる人は、たくさんのお店から1つに絞ることが大変だと思いますが、これもいくつかのヒントをお教えしますね。

 まずはお金を賭けるレート。やっぱり自分に合った予算で遊びたいですよね。
 で、雑誌広告ではレートを「風速」という言葉で表します。一番多いのが「風速0.5-500-1000」と書かれているもので、俗に「点5のゴットー」と呼びます。それは「1000点50円で計算。さらに1着+1000円、2着+500円、3着−500円、4着-1000円」という意味。これだと、半荘1回で最大2500円前後が動くことになりますね。
 この他、お金の無い学生・予備校生向けの「風速0.2-200-400」や「風速0.3-300-600」とか、ちょっと大人向けの「風速1.0-1-3(点ピンのワン・スリー)」っていうのもありますから、自分に合ったレートのお店を選びましょうね。

 あと、レートと関係してきますけど、意外と大きいのがゲーム代。半荘1回あたりのゲーム代はそれほど高いわけではないんですが、「チリも積もれば」って感じで積み重なってくるので、やっぱり50円でも安い所を優先したいところです。
 ただ、あまりにゲーム代が安いところは、提供されるサービスの質もそれなりですからそのつもりで。
 ちなみに、「風速0.5」のお店のゲーム代相場は、東京の新宿で400円、首都圏のそれ以外では350円京阪神は300円で、名古屋は学生さんならそれよりもう少し安いお店もありますね
 相場の違いは、やっぱり家賃の相場と連動しているみたいです。雀荘のオーナーさんにしてみても「チリも積もれば……」というところなんでしょうね。

 最後にもう1つ。東京には、ほとんどのメンバーが若い女の子という、通称“ギャル雀”と呼ばれるお店がたくさんあります。
 こういうお店は間違いなく健全ですし、メンバーの女の子と一緒に麻雀が打てるチャンスもありますので、男の人だけじゃなくて若い女の子にも行きやすいお店かもしれません。
 ただ、そんな“ギャル雀”の中には、ギャル・メンバーの接客態度が悪かったり、そんなメンバー目当てのイタい男が居座ったりするお店もあるので、手放しでお薦めできないんですよね〜。
 だから“ギャル雀”に行く時は、「モノは試し」の気持ちで行ってみるのがいいかもしれませんね。


 3.さあ、ドアを開けて!

 行きたいお店が決まったら、いよいよお店に行ってみましょう。
 基本的にはお昼以降ならいつでも大丈夫なんですが、土曜、日曜の夕方ごろが無難ですね。
 また、お店の場所は大体、雑居ビルの上の階や地下にあったりして分かりにくいですから、広告が載っている雑誌も持参しておきましょうね。

 あ、それから財布の中身は大丈夫ですか?

 ほとんどのフリー雀荘では、お金が足りなくなった時に不足分を貸してくれる“アウト”という制度がありますけど、さすがに初回からそのお世話になるのは考えもの。やっぱり軍資金に余裕を持ってお店に行きたいところですよね。

 初めてフリー雀荘に行く時の軍資金の目安は、点5(風速0.5)のお店で1万円、点ピン(風速1.0)で3万円くらいでしょうか。風速0.2や0.3のお店だったら5〜7千円くらいでもかまわないと思います。
 もちろん、これだけの額を必ず使い切るってわけじゃありません。これはコテンパンに負かされた時を想定しての金額ですから、あまりナーバスにならないでいいんですよ。
 そうです、「ジャンプ」系のマンガ家さんが「週刊で連載する時は、10回打ち切りになって借金まみれになるケースも考えておこう」って覚悟を決めるのと同じことです。

Live Like Rocket!

 
 軍資金の準備が整ったら、もうお店に直行です。 
 さっきも言いましたが、フリー雀荘には「雑居ビルの6階」みたいなロケーションのお店が多いので、どうしてもお店に足を踏み入れるのに躊躇してしまいがちです
 でも、これはどれだけフリー雀荘慣れした人でも同じなので、気にすることはありません。さあ、勇気を持ってお店のドアを開けましょう。必ず「いらっしゃいませ〜」という、雀荘メンバーのハキハキした声があなたを出迎えてくれますよ。

 
 ……さて、ここでもう1度休み時間をとって、3時間目に、レクチャーの続き・「店内編」をやってみたいと思います。それでは、ちょっと休憩しましょう。
(後編はすぐ下にあります)

 

平成14年8月4日 
ギャンブル社会学特殊講義
(講師:一色順子)

フリー雀荘に行ってみよう!(後編)

 さあ、3時間目です。いつの間にか、すごい長い講義になっちゃいましたけど、あと少しですから、がんばっていきましょうね!

 4.店内に入ったら……

 さて、「いらっしゃいませ〜」と言われて店内に入ったら、すぐにメンバーのチーフ格の人が「当店初めての方ですか?」と尋ねてくれます。あなたは何も考えず「ハイ」と答えてください。これは絶対です。
 フリー雀荘で最大のタブーは虚勢を張ること。いくら見栄を張って場慣れしているように見せようとしたって、そんなの2分でバレちゃって逆効果です。

 で、うながされるままに順番待ち用ソファーに腰掛けると、まず「お飲み物は?」と訊かれます。
 昔ながらの雀荘だったら、お茶くらいしか出ませんけど、最近の雀荘はタダで飲み放題の「フリードリンク」が充実しています。

 「フリードリンク」のメニューは、冷たいお茶(=麦茶orウーロン茶)、熱いお茶(=緑茶)、ホットコーヒー、アイスコーヒー、コーラ…といったあたりが定番で、あとはお店によってカルピス、オレンジジュース、アイスティー(紅茶)、スポーツドリンク、梅こぶ茶などがありますね。
 駒木博士がよく行くところはアイスオーレもメニューにあるそうですけど、アイスコーヒーと牛乳は原価が高いので、たいていのお店では有料(100円くらい)なんです。流行ってるんですね〜、そのお店…。

 これが常連さんになると、メニューのドリンクを組み合わせて注文できるようになります(例:オレンジカルピス、アイスティーオーレ)。逆に言うと、そういう注文をするお客さんは常連さんですので、その辺をよく観察してみるのも面白いかもしれません。

 さて、ドリンクが来ると、ルールの説明になります。今度は「フリー雀荘は初めてですか?」とか訊かれますから、これにも「ハイ」と答えましょう。ルール説明をとても丁寧にしてくれるようになりますからね。

 あ、ここまで言ってませんでしたけど、フリー雀荘は原則的に中級者以上の人が来るところです。だから、ルールをあまり知らなかったり、役の名前が言えないような初心者の方はご遠慮くださいね。TVゲームで勉強してから再チャレンジしてください。
 あと、できることなら基本的な点数計算はマスターしておいた方がいいと思います。その方が間違いなく勝率も上がりますし、ゲーム自体をスムーズに進めることができます。
 もしも、点数計算にちょっと自信がない時は、ルール説明の時にメンバーにそう言っておきましょう。こうしておくと、ちゃんと同じ卓を囲む3人のお客さんにとりなしてくれますからね。

 説明されるルールは結構多くて長いので、いっぺんに全部覚えることは不可能です。
 なので、初めのうちはポイントだけ絞って覚えておいて、それからはその都度メンバーに質問するようにした方がいいと思います。
 おさえておいた方がいいポイントは、これから挙げるところですね。

 ◎連荘の条件はテンパイ連荘か、アガリ連荘か。また、九種九牌や四風子連打で親は流れるのか。
 ◎赤ドラ(赤色の牌で、いつもドラ扱い)は何枚か。
 ◎チップの規定はどうなっているのか。
 ……リーチ一発や裏ドラ&赤牌1つにつき、1枚のチップ(点5で1枚100円、点ピンで1枚500円)が発生するお店が多いです。お店ごとにルールがまちまちですし、お金も絡んだ話ですので、これは絶対にチェックしてください!
 ◎持ち点が1000点以下になった時、リーチは可能かどうか。また、持ち点ちょうど0点は続行かどうか。(フリー雀荘では、誰かの持ち点がマイナスになった時点で半荘終了になります。半荘1回単位でゲーム代をもらっているので、そうした方がお店が儲かるからなんですよね)
 ◎流し満貫と人和(レンホー)はアリかナシか。
 ◎南4局終了時点で誰も3万点を超えていない場合はどうなるのか。
 ……そのままゲーム終了か、西入(西1局から西4局まで延長戦)か、西入だけど誰かが3万点超えた時点でゲームが終了する“Vゴール方式”か…など、色々なパターンに分かれています。これも重要ですよ!
 ◎見せ牌やコシ牌の規定について。
 ……自分の手牌の一部を誤って倒してしまった時や、ポン・チーするかどうか迷ってしまうコシ行為をしてしまった時、その倒した牌やポン・チーしようと思った牌でロンできなくなるお店があります。トラブルの元ですから、聞き逃さないようにしましょうね。

 この他、お店ごとのローカルルールがある時は、説明役のメンバーが強調して教えてくれますから、それもチェックしておきましょう。
 ちなみに、日本で一番有名なローカルルールは、「さかえ」という点ピンの全国チェーン店のもので、2枚ある赤5ピンがドラで、しかもそれだけでアガれる役になって、さらにチップ1枚500円というもの。すごいルールですよね〜。
 あまり麻雀にくわしくない人のために説明しますと、通常の麻雀にこのルールを導入するということは、ごく普通の小学校のクラスへ『がきんちょ強』が転校して来るくらい恐ろしいことです。

 ルール説明が終わると、“預かり”という保証金をお店に払います。点5で3000円、点ピンで5〜6000円程度でしょうか。多くの雀荘では、“預かり”よりも多めにお金を預かって、差額分をその店専用の金券に交換するようにしていますね。
 これは、お金も無いのに麻雀を打とうとする人が出てくるのを防ぐためのもの。年がら年中“アウト”連発じゃ、お店がアウトになっちゃいますからね。
 この“預かり”は、帰る時にはちゃんと返してもらえますので安心してくださいね。


 5.いよいよデビュー戦。

 ルール説明が終わって、しばらく順番を待っていたら、メンバーが空いている席に案内してくれます。いよいよデビュー戦ですね。

 席に着いたら、まずは同じ卓で麻雀を打つ3人のお客さんに「よろしくお願いします」くらいの簡単な挨拶をしておきましょう。初対面で緊張しているのはお互い様。これだけで、ずいぶん印象が違うものですよ。
 逆に、ナメられたくないからといって大きな態度をとっていると、間違いなくあなたに対する風当たりが強くなります。仲間内の麻雀でも、自分が嫌いな人には負けたくないでしょ? それと同じです。フリー雀荘では、そういう“カッコつけ厨”が一番嫌われるんです。

 と、いったところでゲーム開始です。
 緊張のあまり配牌を理牌する手が震えたりするかもしれませんが、見せ牌を連発したり、勢いあまって牌の山を崩しちゃったりしないようにして下さいね。
 あと、全自動卓に慣れていない人は誤操作に気をつけましょう。サイコロを振るボタンを押したつもりなのに、実は牌を雀卓の中に落とすボタンを押していた…というケースが、「ひょっとして、最後まで行っちゃったらどうしよう?」と妄想して寝られなくなってしまう初デート前の男子高校生並にありがちです。他の人の操作を見ておくのもいいですし、「ちょっと困ったな」という仕草をしたらメンバーや他の人が教えてくれますので、そうしましょう。

 そうしている内に誰かがアガると、点棒とチップのやりとりが始まります。これもさっきの全自動卓と同じ要領でいいんじゃないでしょうか。メンバーや他のお客さんに頼りましょう。フリー雀荘には500点棒があったりして、ちょっとややこしいので初めから完璧というのは無理ですからね。
 でも、せめて半荘2回目くらいからは自力で何とかできるようになって下さいね。

 あとは仲間内の麻雀や東風荘と同じ要領でゲームを進行させていけば大丈夫です。ただし、知らない人と麻雀しているわけですから、最低限のマナーは守りましょうね馴れ合いは厳禁です。
 ポン、チー、カン、リーチ、ロンは必ず発音すること。先ヅモはしないこと。ウソをついて他の3人をだまそうとしないこと。悔しくても点棒を投げて渡したりしないこと。大声でベラベラしゃべらないこと。……とにかく他の人を不快にさせないことが大事です。
 あまりにもマナーが悪いと、最悪の場合、出禁にされてしまうことがありますから注意しましょうね。

 南4局、オーラスになったら点数を申告します。これは、どれくらいの点数をとれば順位が逆転するのか明らかにするため。この申告を間違うと、お店によってはペナルティがありますので、注意してくださいね
 もし、手持ちの点棒が多すぎてミスをしそうな時は、「カウント〜」と言って、メンバーを呼んで下さい。すぐに正確な点数を数えてくれます。

 オーラスが終わると、賭け金の精算をします。
 トップをとった場合は、他の3人から勝手にお金を渡してくれたり、「“300円もらい”ですから、300円下さい」、みたいに言ってくれますので安心です。
 でも2着以下の場合は、自分で勝ち負けを計算しなければなりません。
 まず、自分の点数が30000点を基準にしてどれだけ浮いたり沈んでいるかを確認して、それをレートにあてはめて計算し、これにレートの時に説明した、順位によってもらったり払ったりするお金(“ウマ”といいます)を加算したり減額したりします。
 たとえば、レートが「風速0.5-500-1000」のお店で32000点持ちの2着の時。まず点数では1000点50円で2000点浮いているわけですから、プラス100円。これに2着でもらえる500円を加算して、合計はプラス600円になりますね。これをトップを取った人に請求しましょう。
 ま、このへんも困ったらメンバーに尋ねて下さい。とにかく「困った時はメンバー」ですよ。

 
 6.帰りたいな、と思った時は……?

 そうやって半荘を2回、3回と続けていくうち、だんだん疲れて来ますよね。特に初めてのフリー打ちは緊張もあって、疲れるのがとても早いと思います。だいたい半荘4回くらいが潮時ですね。

 フリー雀荘最大の長所は、「いつでも打てて、いつでも帰れる」というところですから、帰るタイミングもあなた次第です。
 ただ、半荘が終わって、突然「帰る」では、お店や他のお客さんが困ってしまいますので、ここでもキチンと最低限のマナーを守りましょう

 ここで覚えておいて欲しい言葉が「ラス半」。つまり、「ラストの半荘」という意味の言葉です。帰りたいと思った時は、できるだけ早く、この「ラス半」をメンバーに伝えましょう。使い方は、

 (麻雀を打っている時に)この半荘でラス半にします」
 (半荘終わって精算中に)次の半荘でラス半にします」

 ……こんな感じでいいんじゃないでしょうか。できれば精算中に「次でラス半」の方がいいですね。

 あと、お店によってはラス半終了後に席を立とうとすると、メンバーが「もう1半荘、お願いできないですか?」って言ってくるようなところもあります。
 これは、あなたが抜けた後に代わりのお客さんがいない時に時々ある話なんですが、本当に帰りたい時は、どうぞ帰っちゃって下さい。そういう時にもう1半荘して勝ったりするケースはあまりありませんので……。

 最後に金券を現金に換金してもらって、“預かり”を返してもらったら全て完了です。メンバーの「お疲れさまでした〜」の声を背に受けながら帰りましょう。
 もし、このお店が気に入ったなら、近いうちにあと2、3回足を運びましょう。すると、メンバーがあなたの顔と名前を覚えてくれるようになります。ますます居心地がよくなって、麻雀に集中できるようになりますよ。
 そして、週1ペースで2ヶ月も通えば、もう立派な常連さんです。そうなればもう、オレンジカルピスでもキューピット(カルピスコーラ)でも注文してオッケーです。

 

 ──さぁ、どうでしたか? 
 わたしの話だけじゃピンと来ないかもしれませんけど、フリー雀荘というところが、お店選びさえキチンとすれば、全然怖いところじゃないってことは、分かってくれましたか?

 フリー雀荘というところは、大人の遊び場というだけでなく、麻雀の実力をつけるためには格好の修行の場でもあります。
 仲間内の麻雀に物足りなさを感じている人がいたならば、ぜひお近くのフリー雀荘に足を運んでみて下さいね。もしもわたしの勤めるお店にいらっしゃった時は、一生懸命サービスさせていただきますので、どうぞよろしく♪

 さて、本当なら今度はわたしたち雀荘のメンバーについての話をしてみたかったんですけど、今日はもう時間が無くなっちゃったみたいです。
 この話の続きについては、また「駒木博士の社会学講座」のレギュラー講義の中で、駒木博士に協力してもらいながらやってみたいと思っています。またこの、
 http://dr.komagi.com/index.html
 でお会いしましょうね。
 では、長い時間どうもありがとうございました。一色順子でした。バイバ〜イ♪

 


 

8月1日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(8月第1週分)

 さて、8月最初のゼミを実施するわけですが……。

 いやぁ、大変です。今週のレビュー対象作品が、「週刊少年ジャンプ」と「週刊少年サンデー」だけで6本あるんですよ。「ジャンプ」なんて連載4本も休んでるのに(から?)6本。
 しかし、いつからマンガ雑誌で「取材休み」の制度が始まったんでしょうねぇ。駒木の記憶が正しければ、メジャー少年週刊4誌の中では「マガジン」が最初で、それを他誌、特に現体制のジャンプが模倣しているような気がするんですが。そう言えば、いつだったか『激烈バカ』が取材休みになってて、「どこに、何を取材に行ってんねん」と大いに逆上した覚えがあります。
 前から気になってたんですが、青年や成年(not成年向)マンガ誌では、取材とか言い訳しないで、堂々と休載してますね。この辺は何でしょう、伝統の違いとかあるんでしょうか。誰かご存知の方がいらっしゃったら、談話室かメールでよろしく。

 ……と、無駄口叩いてないで、ゼミの方を進めていきましょう。今日はお話するような情報系の話題もありませんし、早速レビューの方へ。

 今日のレビュー対象作は、「週刊少年ジャンプ」から新連載1本と読み切り1本、そして「週刊少年サンデー」からは、新連載1本、新連載第3回の後追いレビュー1本、読み切りが1本、そして前号からの前・後編モノの総括レビューが1本。2誌合わせて6本のレビューを実施します。もう何だか泣きたいですが、やります。下手に来週回しとかにすると、「ジャンプ」に2本代原が入ったりして、結局今週と同じような事になったりしそうなんで……。

 レビュー中の7段階評価についてはこちらをどうぞ。


☆「週刊少年ジャンプ」2002年35号☆

 ◎新連載『SWORD BREAKER』作画:梅澤春人

 気が付いたら、もう中堅というよりベテラン作家になりつつある、梅澤春人さんの新連載が登場です。梅沢さんは、「週刊少年ジャンプ」では5回目の連載となります。

 さて、この作品は、本誌2002年10号に掲載された同名読み切り作品の連載リニューアル版です。(評価詳細に関しては2月6日付レジュメを参照のこと)
 前号から始まった『アイシールド21』と同じ形式ですね。「ジャンプ」としては定番の、そして当たり外れの差が極めて大きい連載立ち上げ方式です。果たして、この作品はどうなるのでしょうか──?

 ではまずいつも通り絵柄から。梅澤作品を読んでいるといつも気になるのですが、とにかく無闇に顔アップとバストアップのコマが多いんですよね。今回はまだ新連載第1回という事で、梅沢さんにしてはかなり凝った構図が使われたりしていますが(おまけに遠近感が結構グダグダなんですが^^;;)、これはあまり感心できる事じゃありません。
 どなたかは失念しましたが、とある有名なマンガ家さんがおっしゃるには「顔のアップとバストアップが多い作家は楽をしようとしているんだよ」との事。確かに他のそういう作品(どれがとはどうとは言いませんが、今週号の337Pから始まる連載作品なんかを見ても、言い得て妙なんですよね(笑)。
 あと気になる点をもう1つ作品を追うたびに不良の描写の現実感が無くなるのはいかがなものでしょうか? これ以上悪化すると、伝説の打ち切りマンガ『サイレントナイト翔』作画:車田正美の第1話冒頭みたいになってしまいそうで、ちょっと心配です。

 …と、絵柄の方はかなり苦言を呈させてもらったのですが、ストーリーの方はと言うと、読み切り時からの大幅なリニューアルが功を奏していて、まずは及第点というところでしょうか。冒頭のコテコテファンタジーさ加減にはいささか辟易しますが、現代劇に話が飛んでからはテンポが良くて“読ませて”くれますね。普通の作家さんなら何話か引っ張ってしまいがちな現代劇編を1話でケリをつけてしまったのは大変良かったと思います。ただ、またちょっと絵柄の話に戻りますが、年を追っても虎一の顔が老けないために時代の進行が分かり辛いのは問題だと思いますが。21歳の顔と30歳の顔が同じというのは、現実はともかくとして、マンガ的には良くないでしょう。
 結論としては、絵を中心に色々問題点は抱えているものの、とりあえず第1話は上手く乗り切った…というところでしょうか。ただ、今回はあくまでも本編から独立したプロローグ的な位置付けのため、どうにも全体的な評価が下し辛いという面があります
 よって、評価は現時点では保留とさせてもらいまして、第3回終了時点で判断をしたいと思います。

 

 ◎読み切り『CROSS BEAT』作画:天野洋一

 第63回手塚賞(02年上期)で、最高評点を獲得して準入選となった、天野洋一さん『CROSS BEAT』が本誌に掲載となりました。
 どうやら今回の本誌作品掲載は、連載陣の取材休みに合わせて実施する事がかなり前から決まっていたようで、天野さんが地元・岡山の地方紙からインタビューを受けたりもしています。(詳しくはこちら。それにしても、過去の手塚賞受賞者に挙げられたのが小林よしのり氏北条司氏、というのが、いかにも一般紙ですね《笑》)
 インタビュー記事などによると、天野さんは高校卒業後、岡山在住のままデザイナーの仕事を始め、その傍らでマンガの投稿を続けていたようです。「天下一漫画賞」募集のカットを描いていたとの情報もあり、担当もついていた事から、かなりの投稿歴が窺えます。年の割には意外と下積み長いかもしれませんね。

 ※談話室等で色々なご指摘を受けるのですが、ジャンプ系新人の情報をサンデー系新人のそれに比べて詳しく提供できるのは、ジャンプ系作家さんの情報を扱うウェブサイトの方が圧倒的に充実しているからなんですよね。駒木が把握している範囲で秀逸なサイトを挙げると、「シェルター」さん、「葵屋」さん、「KTRの趣味の館」さん。特に「KTR」さんは完成度が凄いです。
 どなたか、少年サンデー系の新人賞や掲載作品のデータベース・サイトをご存知の方がいらっしゃったら、駒木まで情報提供をよろしくお願いします。(何だか今日はお願い続きですね《苦笑》)

 では、作品レビューを進めていきましょう。
 まず絵柄ですが、投稿見習い期間が長かったためか、新人作家さんにしては手慣れた印象を受けます。特にデフォルメの上手さは新人の域を優に越えているのではないでしょうか。ただ若干、洗練された部分と荒削りの部分が混在していて、その部分だけはいかにもキャリアの浅さを感じさせますね。まぁ、十分合格点を出せるレヴェルだと思います。
 ストーリーの方は、ここ最近「マガジン」系を中心に増えてきた音楽モノ。このジャンルは、音が聞こえないマンガという媒体で如何に音楽を表現するかがポイントであり、腕の見せ所でもあるわけですが、天野さんは既存の作品を随分と研究されたようで、このポイントもソツなくクリアしています。敢えて難を言えば、『月下の棋士』や『ヒカルの碁』で良く使われる、実力者に褒めさせる事で物事の価値を表現する技法を使い過ぎているのが、まさしく玉にキズなのですが、まぁこれも許容範囲でしょう。
 しかし、話全体もソツなくまとめてはいるのですが、今ひとつ読者を引き込んだり、感動させたりするポイントに欠けていたような感じが拭えませんでした。クライマックスにかけての見せ場に魅力が薄いのです。これは、欠点を無くす事に全力を挙げた結果、長所を伸ばしきれなかったというところがあったからではないでしょうか。
 天野さんがこれから本誌連載を勝ち取るために必要なのは、まさにそこ、読者の心をグイッと掴むという事だと思います。せっかくここまでマンガに情熱を捧げて本誌掲載を勝ち取ったのですから、もう一息です。次回作、楽しみにしています。

 評価は、やや厳しいかもしれませんがB+としておきましょう。自分に足りないモノを早く見つけられるよう、頑張ってもらいたいものです。

 

☆「週刊少年サンデー」2002年35号☆

 ◎新連載『ふぁいとの暁』作画:あおやぎ孝夫

 「サンデー」本誌02年15号にて、『背番号は○』が掲載された、あおやぎ孝夫さんが連載を獲得して「サンデー」に凱旋です。『背番号──』掲載時は、当ゼミでも「ぜひ連載を」と言っていただけに、大変嬉しく思っています。(詳しい評価は3月13日付レジュメを参照)

 あおやぎさんは、今から約4年前の第43回「新人コミック大賞」に入選してデビュー。「月刊コミックGATTA」で連載を獲得していたのですが、残念ながら雑誌休刊により打ち切りとなり、「サンデー」に移籍して来ました。持ち前の爽やかな作風が連載でどこまで威力を発揮するのか、見ものです。

 絵柄に関しては、読み切り掲載時にも述べましたが、全く問題ありません。躍動感のあるバスケシーンの描写も巧みで、基礎画力の高さを感じさせてくれます
 しかし、ちょっと意外…というよりやや失望させられたのが今作のストーリーでした。前作のストーリーからも、あおやぎさんがステレオタイプな話が好きなのは分かっていたのですが、よりにもよって相当使い古された「主人公二軍・三軍から這い上がり型」シナリオで来るとは……。
 確かに他作品をオマージュにした名作マンガも多く存在するのですが、このタイプのシナリオで本当の名作というのは少ないんです。少し昔の作品で言えば『名門! 第三野球部』、今で言えば『Mr.FULLSWING』といった、多くの読者から失笑をもって迎えられてしまうようなモノばかりなんですよね。
 しかもこういう話は、あおやぎさんの画風と全く合わない泥臭い話になってしまうものなので、チグハグな印象を与えてしまいます。1回読んだだけで結論を急ぐわけには行きませんが、どうも悪い方向へ流れつつあるようで心配です。
 
 とりあえずの評価はB−寄りB「こんなはずじゃなかったのになあ」というのが、現在の駒木の本音です。ぜひ、あと2週間で駒木の鼻をあかすような方向へシフトしてくれる事を祈っています。

 
 ◎新連載第3回『いでじゅう!』作画:モリタイシ)《第1回掲載時の評価:

 7月18日付ゼミで1回目のレビューを行った、『いでじゅう!』の後追いレビューです。

 一言で言いますと、かなり良くなっています。……というより、モリさんが前から持っていた良い所が目立ち始めた、と表現した方が良いでしょうか。

 成功の要因は、主人公よりも目立つ変態系脇役キャラのキャラ立ちを最優先して、そちらを実質上の主役に据えてしまった思い切りの良さでしょうか。もうどう考えても主役は林田じゃなくて、オカマチョンマゲの藤原になっちゃってますからねぇ(笑)。
 あと、質の高いギャグを理詰めで計算して出せる、というギャグ作家でも誰もが持っているわけではないスキルが、回を追うごとに活かしきれるようになって来ています
 ギャグのバリエーションもセリフあり、絵あり、パロディありと多彩でお見事。まぁ、20代後半以上にしか分からない『キン肉マン』パロまでやっちゃったのは、是非は分かれると思いますが(個人的にはおもくそツボでしたけど)。

 これであとは、通勤・通学電車で読んでいると笑いを堪えるのに苦労してしまうようなホームラン級のギャグを量産できるかどうか。それさえ出来れば、『神聖モテモテ王国』(作画:ながいけん)の再来となりそうです。

 評価は迷うところなんですが、B+寄りのA−に大幅アップとさせてもらいましょう。これからの更なるレヴェルアップに期待です。

 
 ◎読み切り(前・後編もの)『まじっく快斗』作画:青山剛昌

 『名探偵コナン』青山剛昌さんが不定期で本誌に掲載するライフワーク的作品・『まじっく快斗』の登場です。

 『まじっく快斗』は、『名探偵コナン』の世界とリンクしている怪盗モノの作品。つまり、両作品で主人公が逆の立場になっているわけですね。
 まぁ、普段から原作抜きで『コナン』のストーリーやトリックを考えている実力派の作家さんが描いている作品なわけですから、こっちの方も内容の濃さには定評があります。ただ、今回はこれまでのシリーズを全く考慮せずに独立した読み切り作品としてレビューをしてみたいと思います。

 もう絵柄については、評価するまでもないキャリアと技術を持った作家さんですので割愛させてもらいます。
 で、ストーリーなんですが、熟練のテクニックを生かして高い完成度を持った作品に仕上げているのは、よーく分かります。伏線とその処理や、決して少なくないキャラクターを無理なく登場させるあたりなどは、並の作家さんでは無理でしょう。
 ただし、今回のシリーズ、どうも作者の青山さんの思考ベクトルが、「読者を満足させる」方向ではなくて、「読者を騙す」方向へシフトし過ぎたのではないかと思ってしまいました
 後から読み返さないと思い出せないような伏線が多すぎて(しかも前・後編ですし、この作品)、せっかくのラストシーンで感情移入し難いですし、しかも多くの伏線を詰め込みすぎたせいか微妙に話全体の流れに矛盾点が出て来てしまっているようにも思えます。もう少し気持ち良く騙して欲しかったなぁ、というのが正直なところですし、それがミステリのルールだと思うんですよね。

 評価はB寄りB+。昔のゲーム雑誌風のアオリで言うと、「青山剛昌ファンなら買い!」みたいな作品でしょうか(笑)。

 
 ◎読み切り『ミリ吉四六』作画:ささけん

 「少年サンデー」新人・若手読み切りシリーズ「荒ぶれ昇龍!」の第5弾、ラストを飾ったのは、01年度11月期「サンデーまんがカレッジ」入選受賞作、ささけんさんの『ミリ吉四六』です。
 ささけんさんは、2000年夏の「赤マルジャンプ」に作品を掲載していて、どうやらそれより前にもマンガ家として活動していたような節もあります。結構下積みキャリアの長い人のようですね。
 また、「うわの空・藤志郎一座」なる小劇団に参加している事も、調べてて判明しました。

  さて、『ミリ吉四六』受賞発表時の編集部選評は以下のようなもの。

 絵・話ともに、凄まじいパワーを感じます。貴方のような人が、サンデーを変えていくのかもしれませんね。しかし、パワーだけでは週刊連載作家となるのは、難しいでしょう。これからはパワーだけでなく、絵・話を盛り上げる技術を学んでください。期待してます。

 この作品を読んだ後、改めてこの選評を見てみると、確かに簡潔にこの作品の全てを言い当てているように思えます。ですから、もうレビュー終わらせたいんですが、疲れたし(笑)。

 ……まぁ冗談は止めにして、もうちょっと詳しくレビューをしてみましょう。
 まず絵は即戦力級に上手いです。絵そのものだけではなくて、トーンの使い方や構図の取り方などの細かい点も、若手作家さんとしては上手すぎるくらい上手いです。しかも、もう自分の絵柄を掴んでますから、どんな作品を描くにしてもそれなりの対応が出来るでしょう
 ストーリーの基本的な所も、キッチリと良く出来たスポ根モノに仕上がっていて、さすが入選受賞作といったところ。ただ、話がギャグにシフトし過ぎていたり、主人公の吉四六よりも、脇役の日野の方に読者が感情移入してしまいやすい構成のために、最後の吉四六が大活躍するシーンでもカタルシスを得難いといった辺りにまだ改善の余地がありそうです。選評でも手放しで褒めていないのはそういう点があったからなのではないかと思います。もう一磨き出来れば、一気に売れっ子にまで出世できそうな、荒削りの大型新人、といったところでしょうかね。

 評価はA−寄りのB+としておきましょう。早く次回作が読んでみたい作家さんの1人です。

 

 ……と、やっと6作品のレビューをする事が出来ました。これが再来週くらいになると、一気に楽になれるんですが、そうなったら今度はネタ不足ですからね。難しいものです。では、また来週。


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