「社会学講座」アーカイブ

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講義一覧

12/15 歴史学(一般教養)「学校で教えたい世界史」(23)
12/14 競馬学概論 「緊急スキ間企画・香港国際競走小史」
12/13 ギャンブル社会学「toto(サッカーくじ)売上げ低迷、その原因を探る」(5)
12/12 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(12月第2週分)
12/11 
現代社会学概論「極楽とんぼ、公然ワイセツで書類送検」
12/9  ギャンブル社会学「toto(サッカーくじ)売上げ低迷、その原因を探る」(4)
12/8  歴史学(一般教養)「学校で教えたい世界史」(22)
12/7  競馬学特論 「G1予想・朝日杯フューチュリティS編」
12/6  ギャンブル社会学「toto(サッカーくじ)売上げ低迷、その原因を探る」(3)
12/5  
演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(12月第1週分)
12/4  
文学(一般教養)「社会学講座認定・お薦め小説ガイド」

12/1〜3 社会学講座開講1周年記念式典(別ページ)

 

12月15日(日) 歴史学(一般教養)
「学校で教えたい世界史」(23)
第3章:地中海世界(4)〜エーゲ文明に生涯を捧げた学者たち《続々》

 ※過去の講義レジュメ→第1回〜第19回第20回第21回第22回 

 今回も引き続き、エーゲ文明の解明に人生を捧げた人たちのエピソードを紹介します。
 前回までで、ハインリヒ=シュリーマンがトロヤ文明を発掘したところまでお話しましたが、今日はその続きです。

 
 ──トロヤ文明の遺跡を発掘したシュリーマンでありますが、その発掘作業を一時中断せざるを得ない時期がありました。発掘された“お宝”の帰属を巡って、遺跡のあるオスマン=トルコ帝国(当時)の政府と訴訟沙汰になってしまったのです。
 普通の人がこんなトラブルを抱えては発掘活動どころじゃなくなるのですが、そこは人生七転び八起きを地で行くシュリーマン。トルコが駄目ならギリシアだとばかりに、今度はギリシア南部にターゲットを定めてトロヤの再現を図りました。
 そして恐ろしい事には、この時にもシュリーマンは次々と遺跡を発掘し、トロヤ発見以上の歴史的発見を連発してしまったのであります。
 その新たに発見された遺跡のあった場所は、ミケーネ、ティリンス、オルコメノス。──そう、彼が発見したのは、あのミケーネ文明だったのです。

 この時に発掘された遺跡・遺物は、5人分(!)の王族の墓と、その墓の主が身に着けていたおびただしい数の黄金の装飾品などなど。現在、発掘された遺物はギリシアの国立博物館に納められていますが、それらを見た誰もが驚嘆の声をあげるほどのシロモノであるそうです。何だか、徳川埋蔵金を発掘すべく9桁後半とも10桁とも言われる大金と果てしない労力を注ぎ込んだTBS関係者と糸井重里氏が、秘孔を突かれた小悪人のように顔を歪めながら羨ましがりそうなお話でありますね。
 勿論、この発見にシュリーマンは「これでまたホメロスの伝説は正しいことが証明された!」…と大喜び。まぁ、実際には“ホメロスが描いた話の元ネタ”程度のお話なのですが、歴史の解明に重大な意義を持った発見であった事は言うまでもありません

 こうして2度目の成功を収めたシュリーマンは、次なる候補地をクレタ島に見定めて(なんて勘の鋭い!)、発掘予定地の買収まで取り掛かったのでありますが、ここでまたしてもトラブル発生。地主との金銭上の交渉が紛糾し、結局発掘開始には至りませんでした
 これがもしトロヤ発掘の頃のシュリーマンならば、それこそ全財産を叩いても発掘に漕ぎ着けたでしょう。しかし、発掘活動開始から既に20年。さすがの“鉄人”も、ここに来てモチベーションが鈍っていたのでしょう。

 結局、シュリーマンが何も為さぬままクレタ島をあとにしてから約10年後、彼が果たすはずであった偉業はイギリスの考古学者・アーサー=エヴァンズによって遂行される事となりました。この講義でも少し紹介した、ミノタウロス神話のモデルであろうと言われるクノッソス宮殿などの大発見がそれであります。
 その発見があった頃(1900年)は、シュリーマンが亡くなってから既に10年が経過していましたが、もし彼にその報せを知る術があったとすれば、もう1度死ぬ勢いで悔しがった事でありましょう。
 ただ、歴史学に携わる者の観点から一言言わせて頂けるならば、遺跡を見つけたら闇雲に掘り返してしまうシュリーマンよりも、ちゃんとした計画を立てて“遺跡に優しい”発掘をしてくれる専門家であるエヴァンズが掘ってくれた方が助かったのも確かだったりするのです(笑)。

 ……こうしてエーゲ文明の遺跡は全て出揃いました。が、1つの文明の全貌を明らかにするためには、遺跡や遺物の発見だけでは不十分です。エジプトやメソポタミアのそれがそうであったように、当時に記されたまま遺されている文献資料を出来るだけ多く見つけ、更にその内容を解読して初めて当時の社会の実態が分かるようになるのです。
 以前お話したように、エーゲ文明には3つの言語が使用されていました。そして中でも「線文字B」と呼ばれる言語はサンプルも多く、何人もの言語学者が解読に挑んでいったのであります。
 ところが、この「線文字B」はなかなかのクセモノで、誰が解読を試みても、その手掛かりすら掴む事が出来ない難読の文字でありました。解読に挑んで失敗した学者の中には、ヒッタイト文字の解読で業界の第一人者の座にあったフロズニーもいて、まさに死屍累々の有様といったところだったのです。

 ところが1952年、そんな閉塞した状況を、颯爽と現れ出でた1人の天才青年が鮮やかに打ち破って見せました。その青年の名はマイケル=ヴェントリス。エーゲ文明の歴史解明は、彼の登場をもってクライマックスを迎えることになりました。

 ヴェントリスのエーゲ語解読にまつわるストーリーは、1936年から始まります。この時、彼はまだ14歳の少年でありました。
 この年、少年の住むイギリスはロンドンで、エーゲ文明についての一般向け講演会が開催されました。演壇に立ったのは、クレタ文明の発掘者・アーサー=エヴァンズ。彼は既に80歳を超えていましたが、未だにエーゲ文明研究の第一人者として現役にありました。
 この講演会の客席の中に、ヴェントリスが座っていたというわけです。彼もシュリーマンと同じように、幼い頃から歴史や考古学について興味を持っていたのでありますが、この少年が変わっていたのは、その好奇心のベクトルが伝説や歴史ではなくて、古代の難読文字に向かっていた事でありました。
 既に7歳にしてエジプト絵文字に関する書物(しかもドイツ語!)を読了していたという彼は、エヴァンズの語るエーゲ文字の世界に瞬く間に魅了されてしまいました。何しろ彼は14歳。人生の中で最も感受性が剥き出しになっている年頃であります。この講演会をきっかけに、彼の生涯の夢は「エーゲ文字を解読すること」に決定付けられたのでありました。

 それからのヴェントリスは、情熱の全てをこのエーゲ文字解読に捧げて少年・青年期を過ごします。公刊された書物から独学で研究を進め、その過程で仮説を立てては同人誌的な物を刷り上げて本職の言語学者に批評を仰ぐまでしました。ド厚かましい話ではありますが、大体この業界で成功を収める人と言うのはこの種の神経の太さを天然で持ち合わせているような気がします。
 しかし、時は既にベルリン=ローマ枢軸が成立しようする激動の時代。間もなく開始された第二次世界大戦のために、世界中あらゆる分野の学究活動は一時中断。ヴェントリス少年も、ナチスドイツの空爆に怯えながら仮の職業として建築家を志し、やがて訪れるであろう平和を待ち焦がれる日々を過ごしました。

 戦争とその後の混乱期が終わった1950年青年となったマイケル=ヴェントリスは遂に研究活動を再開します
 そしてこの頃、既にエーゲ文明研究の至宝・エヴァンズは現世の人ではなくなっており、彼の主張していた仮説にとらわれない新しい研究が進められようとしていました
 例えば、エヴァンズはミケーネ文明をクレタ文明がギリシア本土へ伝播したものであると考えていたのですが、実はそれは逆ではないかと言われるようになったのです。つまり、末期クレタ文明はミケーネ文明の勢力が進出して来たものではないのか…というわけです。何でも、ミケーネ文明にあった、男性が髭をたくわえる風習がクレタ島に伝播していたのが決め手になったという事です。たかが髭、されど髭であります。
 この発想の転換はヴェントリスの「線文字B」解読に大きな影響を与えました。「線文字B」はクレタ文明の末期に使用されたとされる言語。という事は、この言語はクレタ島で使用されていた文字でありながら、ギリシアに本拠地を置いていた人々が使用していた可能性が非常に高くなるからです。
 それまでに、「線文字B」の大まかな特徴は解明していたヴェントリスは、新しい説を受けて、この文字をギリシア語文法に当てはめてみる事にしました。すると、どうでしょうか。それまで文字の羅列に過ぎなかった「線文字B」が、まるで木に命が吹き込まれてピノキオになったように、意味の理解できる古代ギリシア語へと姿を変えてゆくではありませんか!
 西暦1953年この年こそが、ヴェントリスの少年からの夢が現実のものとなった年でありました。「線文字B」解読成功のニュースは世界中を駆け巡り、この年の他の大ニュース──スターリン死去、ヒラリーのエベレスト登頂など──と共にイギリスにおけるその年の世界十大ニュースの1つとして数えられることになりました。

 しかし残念ながら、ヴェントリスがその後、更なる成功を収める事は叶いませんでした。何故なら、1956年10月に彼は自動車事故によって34年余の短い生涯に幕を閉じてしまったからなのです。
 まるで「線文字B」を解読するためだけに生を受けたような早熟の天才・マイケル=ヴェントリス。その早逝はあまりにも惜しまれる出来事でありましたが、彼の遺した功績はその後も全く色褪せる事はありません。彼によって解読された「線文字B」こと超古代ギリシア語がエーゲ文明の実態解明にとっての大きくて確かな足がかりとなった事は言うまでもないところであります。

 ……さて、長々とエーゲ文明の実態解明に尽力した人々の話を続けて来ましたが、ここで一区切りとし、再び話を歴史の概説に戻してゆきたいと思います。
 次回からは、暗黒時代の明けたギリシアにおける都市国家・ポリスの成立について、いくつかのお話をさせて頂くことにします。(次回へ続く

 


 

12月14日(土) 競馬学概論
 「緊急スキ間企画・香港国際競走小史」

 今週は珠美ちゃんがいないので、駒木だけの競馬学講義となります。
 お恥ずかしい話しながら、今週の末まで珠美ちゃんが香港に旅行へ行くことになっていた事を完璧に忘れておりまして、そのせいで用意していた企画が完全にボツになってしまいました。自業自得とはこの事でありますね(苦笑)。

 で、仕方ないんで今日は緊急企画。明日の昼に行われる香港国際競走の簡単な歴史などを紹介してみようと思います。あくまで“代原”なんで、多くは期待しないよう、ご容赦願います。


☆香港競馬と国際競走について☆

 香港で競馬が初めて開催されたのは、アヘン戦争により香港がイギリスの統治下となったばかりの1845年。ただし、初期は開催日数も少なく、規模も草競馬の域を出るものではなかったようです。
 その後にジョッキークラブ(騎手とは関係無い事務組合のようなもの)の設立されて徐々に競馬としての体裁が整って行きましたが、香港の競馬が広く庶民にまで浸透し始めたのは、なんと1940年代の日本統治下においてだったとのこと。香港の競馬がどことなく日本スタイルに似ているのは、ひょっとしたらこの辺りにルーツがあるのかも知れません。よく知りませんが(笑)。
 再びイギリス統治下に戻ってからも大衆ギャンブル路線は継続され、スタンドの増築や電話投票制度の開始などが1960〜70年代に相次ぎます。騎手のプロ化などのハード面の整備も進められ、完全に草競馬色が抜けたのもこの頃です。

 そして1988年、日本がジャパンカップを創設したのをなぞるようにして国際レースを創設し、香港は競馬一流地区としての歴史を踏み出します。
 第1回の香港国際競走は芝1800mの香港招待カップ(後に香港国際カップ、現在の香港カップ)のみで、招待国もシンガポールとマレーシアの2国だけでしたが、翌年以降は招待国数や規模がどんどん拡大して行きました。(現在は11カ国が参加)
 1991年香港招待ボウル(後の香港国際ボウル→香港国際マイル、現在の香港マイル)創設1993年の国際グレード獲得1994年の香港国際ヴァーズ(現:香港ヴァーズ)創設、1999年の香港スプリント創設を経て、ついに2002年度には4競走全てが国際G1格付けを獲得。今や規模においてジャパンカップを凌ぐ、アジア版ブリーダーズカップとして世界の競馬シーンの中で重要な地位を占めるに至りました。
 日本調教馬は1993年春(1992年冬の延期分)から招待枠を得て、日本脳炎の流行で遠征が出来なくなった2000年を除く全ての年に遠征を敢行。近距離で輸送による障害が少ないせいか日本馬の成績は全般的に良く、特に昨年2001年は国際G1レース3競走を完全制覇するなど、日本馬にとっては第二の故郷的な存在となっています。

☆香港スプリント☆

 1999年に創設された、直線1000mの電撃戦。2000年から国際グレード競走となり(G3)、翌01年にG2、そして今年からはG1競走に昇格となりました。
 日本の安田記念(国際G2相当も国際グレード未申請)ですら獲得できないG1格付けをアッサリと取得できたように、歴史は浅いものの、かなりのハイレヴェルのレースとして知られています
 日本勢は昨年から参加。初代直線1000m戦チャンプのメジロダーリングと、1200m戦の副将格・ダイタクヤマトがエントリーし、大いに期待されたものの、それぞれ12着、13着と大凡走してしまいました。
 今年の日本からのエントリーはビリーヴショウナンカンプの、日本2002年度スプリントG1覇者コンビ。イギリスの今年度最優秀スプリンター・コンティネントや、このレース2連覇中の地元馬(また不覚にも間違ってました。訂正します)オーストラリアからの刺客ファルヴェロンなどが相手になりそうです。現地情報ではビリーヴの体調悪化が心配されましたが、土壇場になって復調気配との事。日本馬は共にスタートダッシュが得意な馬だけに、大いな期待が出来そうです。

☆香港ヴァーズ☆

 伝統のクラシックディスタンス・芝2400mで争われるのがこのレース。創設は1994年で、今年が9回目。96年から国際G2、そして00年から国際G1となっています。
 日本馬は第1回の1994年から参加(エイシンテネシー4着)。以後、1995年にタニノクリエイト(4着)、1997年エイシンサンサン(12着)、1999年ローゼンカバリー(4着)と参戦して来ましたが、初めて栄冠を戴いたのは昨年のステイゴールドが初めて。しかもキャリア50戦目の引退レースにしての劇的な追込勝ちという、極めて印象深いレースとなりました。
 今年は残念ながら日本馬の参加は無し。故国フランスで後のジャパンC馬ファルブラヴを一蹴した女傑・アクアレリストが最有力とされています。ジャパンCで人気を集めたブライトスカイの同厩で姉貴分にあたります。

☆香港マイル☆

 1991年、芝1400mの香港招待ボウルとして創設され、
1999年から距離が1600mに延長されて現在の名称となりました。国際格付けは、94年にG3、95年にG2、00年よりG1です。
 日本馬は1993年春のホクセイシプレー(14着)からほぼ毎年参戦していますが、日本では当時、マイルCS→CBC賞→スプリンターズSの路線が確立されていたためか一線級の挑戦が少なく、昨年のエイシンプレストン優勝まで6連敗を喫していました。(他の日本馬の成績……94年ゴールドマウンテン14着、95・96年ドージマムテキ5着・2着、97年シンコウキング3着、98年ロイヤルスズカ4着、99年ミッドナイトベット8着、01年ゼンノエルシド14着
 今年はアドマイヤコジーントウカイポイントの02年春・秋マイル王者2頭が出走。地力的にはやや小粒なコンビではありますが、ここに来て最有力馬ドームドライヴァーらが出走回避するなど運が向いて来た感もあります。果たして日本勢の2連覇はなるのでしょうか──?

☆香港カップ☆

 香港の元祖・国際レースで、創設は1988年(名称は香港招待カップ)。当時は芝1800mでしたが、99年のG1格付け取得を機に2000mの準チャンピオンディスタンス戦に生まれ変わっています(93年春に国際G3、冬に国際G2)。また、現在はワールドチャンピオンシップシリーズの最終戦として、国際的にも非常に重要な地位を築き上げています。
 日本馬は1993年冬から参戦(ナリタチカラ7着)し、95年にはフジヤマケンザンが純内国産馬としては初めてとなる海外での国際グレード競走勝利を達成、98年にもミッドナイトベットが、01年にはアグネスデジタルがそれぞれ勝利し、日本馬と非常に相性の良いレースとなりつつあります。(他の年の日本馬成績……94年フジヤマケンザン4着、96年シーズグレイス9着、97年サイレンススズカ5着
 今年は香港の国際G1競走を2連覇中のエイシンプレストンが堂々の参戦。対する相手は、UAE代表で今年度ワールドシリーズ王者が確定的なグランデラと、ジャパンC2着のサラファンと強敵揃い。果たしてその結末や、如何に──


 ……というわけで、簡単ではありましたが、香港国際競走についてお話をしました。レースの模様は、グリーンチャンネルやラジオ放送、さらには競馬場内のモニターTVなどで中継されると思いますので、競馬に少しでも興味の有る方は、是非その目と耳で日本馬の雄姿を脳裏に焼き付けて下さい。

 では、今日の講義を終わります。来週のこの時間は、有馬記念の直前予想です。

 


 

12月13日(金) ギャンブル社会学
「toto(サッカーくじ)売上げ低迷、その原因を探る」(5)

 ※前回までのレジュメはこちらから→第1回第2回第3回第4回

 好評なんだか不評なんだか今一つ掴めないこのシリーズですが(笑)、早くも5回目を迎えました。現在の予定では7回目で終了予定なので、いつものペースなら、多分8回か9回あたりで終わるんじゃなかろうかと思います(笑)。

 さて、時間も押していますし(実は翌日振替講義です)、無駄口叩いてないで早速講義に移りましょう。
 今回も既存ギャンブルの詳細検討とサッカーくじとの比較をお送りします。今回の題材は麻雀とビデオゲーム賭博。段々と法律から外れていっている気がしますが、ギャンブル後進国の賭博法なんてゴミみたいなモノなんで、気にしないで行きましょう。 

 比較検討の対象や方法に関しては、第3回のレジュメを参照のこと。

 ※参考資料(駒木によるサッカーくじの特徴一覧)

  一獲千金 達成感 期待値 戦略性 中毒性 とっつき易さ サービス
サッカーくじ 極低 極低
サッカーくじ
(理想型)
極高 極低

 


(4) 麻雀

  一獲千金 達成感 期待値 戦略性 中毒性 とっつき易さ サービス
麻雀 ※1 極高 ※2 極高 極高 極低 ※3
※1、※2…レートや状況によってまちまち。詳細は本文参照
※3…雀荘で打つ場合は“中”〜“高”

 1.“一獲千金”性
 現在、一般的に広く行われているレートは、「テンゴ」や「テンピン」と呼ばれる、1回のゲームで2500〜6000円程度が動くもの。これだと半日以上かけても収支は1万〜5万円以内に収まりますから、遊びならともかくギャンブルとして考えるなら非常に大人しいものと言えそうです。

 しかし、麻雀のレートは対戦者4人の合意の下で変えることが出来るのが原則ですので、極端な話を言えば無限大に上がって行きます
 例えば、バブル経済の時期に盛んに行われていた“マンション麻雀”だと、1ゲーム20分程度で100万単位の金額が飛び交ったと言われていますから、これはギャンブルとしても相当なものです。麻雀プロの中には、“マンション麻雀”全盛の時期に1億円以上稼いだ人もいると言われており、そこまで行けば“一獲千金”性も相当なものと言えるでしょう。
 ただ、一言付け加えておきますと、麻雀は胴元の存在しないギャンブルですので、少額投資で莫大な利益は望めません。稼ぎたい利益相応の賭け金を確保して勝負に挑む必要があり、そういう意味では単純な“一獲千金”とは一線を画して考えなければならないのかも知れません。 

 2.達成感喚起力
 麻雀のギャンブルとして極めて優秀な点は、この達成感喚起力が極めて強いところにあります
 これは、麻雀の1ゲーム(つまり半荘)が複数のミニゲーム(つまり東1局などの“局”)によって構成されているためで、最終的な勝敗では報われなかった人でも、1回ごとのミニゲームでは勝利(つまり役をアガる)して達成感を味わう事が可能なのです。
 その達成感は頻度が極めて高い(通常、数分から10数分に1度)上、その1回ごとに味わう達成感の強さも極めて強いものです。麻雀を一度知ってしまったら最後、このゲームを嫌いになる人は皆無に近い事でしょう。

 また、麻雀のギャンブルとして極めて優秀な点は、この達成感喚起力が“一獲千金”性に縛られない点です。(通常、“一獲千金”性の高いギャンブルは勝ちにくいため達成感が得られにくいのです)
 むしろ、レートが上がれば上がるほど達成感の大きさも増すと考えられ、“マンション麻雀”で勝ったり負けたり出来るようになれば、麻雀はもはやアヘンや覚せい剤と大差ない存在言えます。

 3.資金の回収期待値
 先述しましたように、麻雀は胴元の存在しないギャンブルですので、原則的に全体の賭け金を控除されることはありません。ですから、基本的に麻雀の回収期待値は100%ちょうどです。
 ただし、麻雀を雀荘でプレイする場合は料金が発生しますので、この場合には期待値が100%を割り込みます。また、フリー雀荘での麻雀のように、事実上店が胴元の役を務めることもままあります

 フリー雀荘における実質的な回収期待値は、「テンゴ」で70%前後、「テンピン」で85%前後ですので、一般的なレートでプレイした場合はプレイヤーに相当不利な期待値となります。(詳しくは02年8月27日付講義レジュメをご覧下さい)
 しかしながら、フリー雀荘の回収期待値はレートが上がるほどにプレイヤー有利となりますので、“マンション麻雀”になれば期待値は90%を超える場合も多くなるでしょう。もっとも、レートと期待値が上がるに従って、警察のご厄介になる確率も上がってゆきますが(苦笑)。 
 
 4.戦略性
 結論から先に言えば、麻雀は極めて戦略性が高いゲームです。
 麻雀の戦略の基本はまず、「どの牌を捨てた場合に最も勝利に繋がるか」などの確率・統計学的な戦略ですが、それだけで勝てるほど甘くはありません。残り3人の対局者の出方や精神状態を読んだり、時には些細な仕草から状況を把握して最善策を検討するという“駆け引き”の要素が勝敗に大きく影響を与えます。
 余談ですが、麻雀は反則の罰則(チョンボの罰符)はあってもイカサマの罰則は存在しないため、以前──特に全自動麻雀卓が開発されるまでは、積み込みやスリカエなどのイカサマ技術も戦略の1つとされていました。しかし現在では余程の事が無い限り、そのような“悪さ”をする余地は存在しないでしょう。

 5.中毒性
 極めて高い達成力喚起力の影響を受け、麻雀ではこの要素も極めて高いものになっています。

 麻雀をたしなむ方なら分かると思いますが、麻雀で味わう勝利の達成感と敗北の屈辱感の大きさには物凄い幅があり勝っても負けても「もう1回だけやろう」と言いたくなる事は間違いありません。
 また、新しいゲームでは前のゲームの勝敗に関係なく点数がリセットされるため、それまでどれだけ負けていても「次は勝てるかも」と思わせてしまうのも恐ろしいところです。

 また、1ゲームが平均40分前後(東風戦と呼ばれる短縮版だとその半分)と短い上、ゲーム終了後のインターバルがほとんど無いのも特徴です。
 さらに質の悪いことには、現金が無くても借金でプレイすることすら出来てしまうので、明確なゲーム終了時期が定め難いという事も中毒性に拍車をかけます。
 そして、麻雀は牌と机さえあればいつでもどこでも出来ますし、雀荘も原則として定休日無しの長時間営業ですから、毎日欠かさず麻雀を続けることも可能です。

 以上のように、麻雀は中毒性の高いギャンブルの特徴を全て完璧に満たしており、恐ろしいまでの中毒性が潜んでいると断言できます。これぞ「亡国の遊戯」と呼ばれる由縁でしょう。

 6.とっつき易さ
 麻雀の唯一の弱点が、このとっつき易さです。とにかくルールを覚える事が煩雑であり、その内容もとんでもない位あります。果てには、ローカルルールと呼ばれる地方や職場・店などによって微妙に異なるオリジナル・ルールが複数存在してします。
 特にヤヤコシイのが点数計算で、他のルールは知っているが点数計算が出来ないという人も多く存在する程です。
 これらの複雑なルールが麻雀を覚えようと言う初心者の前に立ちはだかるわけで、その結果、麻雀は非常にとっつき難いギャンブルとなっています。若者の麻雀離れが話題になって久しいですが、大きな原因の1つにこのとっつき難さがある事に議論の余地は存在しないでしょう。

 7.ファンサービスの充実度
 仲間内の自宅で卓を囲む場合は「ファンサービス」という概念が該当しませんので、ここでは雀荘で麻雀をプレイする場合に限定して話をします
 雀荘でのサービス内容は店によってまちまちですが、ここ数年で数を大きく増やしている若者向けのフリー雀荘の場合、「ソフトドリンクの無料提供&食事の提供、または出前代行」…というのが1つのパターンになっているようです。店によっては常連客や平日来店客向けにゲーム代無料などのサービスを行っている所も多く、サービスの質は相当のものであると言えます。

 ◎総括及びサッカーくじとの比較◎
 達成感喚起力、戦略性、中毒性といった、ゲームとしての面白さを構成するファクターは満点。これぞまさに「亡国の遊戯」といったところでしょう。とっつき難さが唯一の泣き所ですが、これはむしろ国民全員が麻雀にハマらないように調整している“神の見えざる手”と解釈すべきなのかも知れません。
 もちろん、これではサッカーくじがギャンブルの面白さで麻雀に対抗することは全く不可能で、高レート麻雀になると全ての要素で完敗を喫することになってしまいます。

(5) ビデオゲーム賭博

  一獲千金 達成感 期待値 戦略性 中毒性 とっつき易さ サービス
ビデオポーカー ※1極低 極低 極高
ビデオ麻雀 極低 極低 極高
※1…レートによっては“低”

 1.“一獲千金”性
 第一期ブームと呼ばれた約20年前には高いレート(ゲーム内における1ポイントに対する金額)の店があったようですが、最近ではほとんどの店でレートが下がり、随分と大人しいギャンブルになったと言われています。
 ポーカーゲーム・麻雀ゲームに関わらず、勝ち額が10万円を超える事は稀で、普通は勝っても数万円単位とのこと。その上、後述するようにビデオゲーム賭博は勝ちにくいギャンブルですので、一獲千金は全く望めないと言い切ってよいと思われます。一獲千金できる可能性があるとすれば、客ではなくて店のオーナーでしょう(笑)。

 2.達成感喚起力
 ビデオゲーム賭博のゲーム機は、プレイヤーにとって極めて辛い設定に調整されており、なかなか勝利に恵まれるわけではありません。パチンコで言えば全然スロットが回らない釘の台で打っているようなもので、達成感を得る頻度はかなり低いと言えるでしょう。
 しかし、数少ないチャンスを実らせた時の快感・達成感は相当なもので、人によっては一生忘れられないようなものになると言われています。
 また、麻雀ゲームの場合はポーカーゲーム以上にゲーム機の設定が厳しいのが普通で、その穴埋めとして店側が賞金イベントを実施して少し還元しているようです。

 3.資金の回収期待値
 先ほども述べましたが、ビデオゲーム賭博では機械の設定が極めて厳しくしてあり、長い目で見れば必ず負けるようになっているとされています。
 完全に非合法のギャンブルのため、公式の資料が存在しないので正確な数値を出す事は不可能ですが、恐らくは公営ギャンブル以上にタチの悪い期待値ではないかと思われます。
 
 4.戦略性
 ビデオゲーム賭博に使用されるゲームは単純な設定のゲームであり、さほど戦略が介在する余地がありません。ただし、プレイヤーが考えて選択する部分も残されているので、戦略性が無いわけでもありません
 この条件を満たしている度合は「中程度」とするべき
でしょう。

 5.中毒性
 達成感を得る回数が少ないビデオゲーム賭博ですが、その数少ない達成感が印象深く残るために、その再現を求めてゲームをやり続けてしまう可能性は低くありません
 また、ゲームに要する時間とその間隔が非常に短かかったり、店に行けば大抵いつでも営業している…といった部分も考慮すると、このギャンブルは非常に勝ち難い割には中毒性の高い危険なギャンブルと言えそうです。

 6.とっつき易さ
 ポーカーゲームに関しては、ルールが単純ですから初心者もスンナリと操作手順を覚える事が出来るはずです。少なくとも、店員から数分間コーチを仰げばとりあえずはスムーズにプレイ出来るところまで行けるのではないかと思われます。
 麻雀ゲームは最低限の麻雀ルールを知っていなければならないので、その分とっつき難さが増しますが、実際の麻雀と違ってコンピューター任せに出来る部分も多いでしょうから、それほど深刻なマイナス要因とはならないでしょう。

 7.ファンサービスの充実度
 ビデオゲーム賭博店のサービスは極めてレヴェルが高いのが普通です。
 最もビデオゲーム賭博が盛んな新宿歌舞伎町の標準的なパターンを紹介しますと、ほぼ全店でドリンク(アルコール類含)とタバコが無料提供で、麻雀ゲーム店や一部のポーカーゲーム店では店屋物の食事も無料で提供されます。
 また、大きな赤字を被って退店する客には1万円の入った封筒を渡してキャッシュバックするのが普通です。客を一文無しで帰す事が無いように留意することでリピーターの流出を阻止しようとするわけです。
 これらのサービスは、ビデオゲーム賭博の勝ち難さをフォローするためのものであり、逆に言えば、それだけビデオゲーム賭博が、胴元(店)にとって暴利を貪る商売である事を証明しています。

 ◎総括及びサッカーくじとの比較◎
 改めて一覧表を見てみますと、金銭的には全く期待できないギャンブルでありながら、高い中毒性とファンサービスで顧客を繋ぎ止めている…という図式が浮かび上がります。
 サッカーくじとは比較検討のし難いギャンブルではありますが、ファンサービスの格差は注目に値すると思います。


 ……というわけで、今回は2つのギャンブルを検討しました。次回はカジノ系のギャンブルについて解説したいと思います。では、また次回。(次回へ続く

 


 

12月12日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」 (12月第2週分)

 いよいよ今年も押し迫って参りました。出版業界では「年末進行」という最凶の四字熟語がしきりに飛び交う中の「現代マンガ時評」です。
 先週・今週あたりから「ジャンプ」と「サンデー」で新連載攻勢が始まってますが、この時期に連載を立ち上げる作家さんたちは、連載開始間もなくして年末進行なんですよねぇ。そんな地獄を味わってアンケートがグダグダだったら悲惨でしょうねぇ。特に「ジャンプ」なんかだと、年末進行が終わる頃には打ち切り作品が内定するわけですから、いやはや……。

 ──まぁ、不景気な話はそれくらいにしまして、早速講義に移りたいと思います。

 まずは情報系の話題から。
 1点目。今週は「週刊少年ジャンプ」系の月例新人賞・「天下一漫画賞」の10月期分の審査結果発表がありましたので、紹介しておきましょう。

第75回ジャンプ天下一漫画賞(02年10月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作=該当作無し
 審査員&編集部特別賞=該当作無し
 最終候補(選外佳作)=7編
  ・『魔天狼の男』
   高星コウ(24歳)
  ・『邂逅』
   杉本知行(23歳)
  ・『MAGMA170』
   佐藤大輔(23歳)
  ・『ゆかいな動物園』
   田島サトシ(24歳) 
  ・『即席退治屋 』
   原野らび(21歳)
  ・『Natural Water』
   小林真依(20歳)
  ・『リングマスター』
   伊藤政弘(23歳)

 このゼミが開講して1年経ちますが、「天下一」では初めての受賞者ゼロという結果になりました。
 編集部の総評を見ると、「設定やストーリーがワンパターンで絵が未熟」という事ですから、まぁ止む無しですかね。でも、そういうマンガが増刊やら代原やらで実際に載ってますからねぇ(苦笑)。応募者に「アレで載るんだったら」と思わせてしまっているという意味においては、編集部にも反省材料は有るのではないかと思うんですが、どんなもんでしょうか?

 情報の2点目。新連載の情報です。
 「週刊少年サンデー」で、次週から『少年サンダー』作画:片山ユキオ)が短期集中連載の形で新連載となります。予告を見る限りはギャグマンガのようですね。
 片山さん元・藤田和日郎さんのアシスタントで、2年程前から「少年サンデー超増刊」で一時連載を持つなど精力的に活動されて来ましたが、ここで1つの大きな転機を迎えたという事になったようです。短期集中連載(特にその第1話)で人気を確保すると即、連載が決まりますので、是非とも頑張ってもらいたいものです。
 ちなみに、藤田和日郎さんのアシスタント出身の作家さんでは、雷句誠さん井上和郎さんが既に連載中で、年明け早々には安西信行さんも復帰予定です。何だかサンデーは藤田一門に牛耳られつつありますね(笑)。「ジャンプ」の“和月組”に匹敵する一大派閥となりそうです。

 ……と、情報は以上という事で、今週もレビューと“チェックポイント”に移りたいと思います。
 今週のレビュー対象作は、「ジャンプ」、「サンデー」から新連載が1本ずつの計2本です。

 

☆「週刊少年ジャンプ」2003年2号☆

 ◎新連載『TATTOO HEARTS』作画:加治佐修

 「ジャンプ」の新連載シリーズ第2弾は、加治佐修さんの初めての連載作品・『TATTOO HEARTS』です。
 加治佐さんは1999年夏の「赤マルジャンプ」でデビュー。その後、本誌や「赤マル」に読み切りを掲載するなどしていましたが、ここ2年ほどの活動実績は無し。その間、『NARUTO』の岸本斉史さんの下でアシスタントをしていたようです。(もっとも、両者の関係は師弟ではなく、岸本さん曰く『親友』の間柄だそうですが……)
 今回のこの作品は、2000年45号に掲載された同名作品のリニューアル版。読み切りから異例のタイムラグがあっての連載開始となりました。

 それでは、中身についてお話してゆきましょう。
 まず絵柄ですが、これは作家やアシスタントとしてのキャリアが長いだけあって、なかなかの水準に達しています。アクションシーンの出来栄えも良く、また、脇役のキャラの描き分けも明確なので、まだ名前を覚え切っていない読者でも一応絵を見れば区別がつくように工夫がなされています。
 現在連載中の他の作品と比べても全く遜色は無く、加治佐さんが編集部期待の“即戦力”であることを窺わせてくれます
 ただ、これはある程度仕方ない事なんですが、アシスタント先だった岸本斉史さんの絵柄と雰囲気が似てしまっていて、イマイチ個性を発揮できていないかな…という嫌いはあります。特に今週号、すぐ後から『NARUTO』が始まっているので余計ですね。

 次にストーリーなどについてですが、これも長編作品の新連載第1話としては、かなりのレヴェルに達している出来と言えそうです。
 冒頭のかなり短い部分で主人公の身体的特徴(地獄耳、馬鹿力)や性格などを的確に読者へ伝え、それを後半部分に上手く活かしています。見せ場でのキャラクターの行動にも必然性があり、読者に爽快感を与える良質のエンタテインメントになっているのではないでしょうか。
 もっとも、今回のようなプロローグ的な話だけで実力の証明とするのは少々苦しいところですし、話の流れもいわゆる“巻き込まれ型”で少々安易だったと思う人もいることでしょう。更に、“少し天然ボケの入った馬鹿力キャラ”という主人公が、既に「ジャンプ」では使い古されてしまっている点も気になるところです。

 つまり課題は、これからどうやって加治佐さんの独自色を出していけるか…という所にあるわけです。あと1〜2回の内にオリジナリティが醸し出されるようになれば、その時がヒット作へのゴーサインが出る瞬間だと思います。
 とりあえずの暫定評価はA−寄りB+としておきます。


◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆
 

 チェックポイントで扱う作品は、なるべく固定しないように気をつけてはいるんですが、「嫌事は極力書かない」方針を守ると、どうしても候補が絞られちゃうんですよね。どうか、ご理解下さいませ。

『アイシールド21』作:稲垣理一郎/画:村田雄介第12回掲載時の評価:/雑感】

 教室のTVの横に書かれたサインに「ムサシ」という名前が……。これ、伏線ですよね。またとんでもない所に張るなぁ…。
 それと、これほど男子高校生が泣きじゃくるマンガも珍しいですなぁ。さすがにやり過ぎになっちゃうと興醒めなんですが、それでも「最終回辺りでヒル魔が泣くシーンの衝撃は凄いんだろうなぁ」とか考えてしまう自分がいます。

 ◎『いちご100%』作画:河下水希【第3回掲載時の評価:/雑感】

 これを読んだ全国の男子中学生たちが、自室で1人悶え苦しんでいる様子が容易に想像出来ます(笑)
 しかし、少年誌とは思えないほど生々しい家風呂混浴の描写が凄いなぁ(笑)。

 ◎『Ultra Red』作画:鈴木央【第3回掲載時の評価:/雑感】

 気がついたら、話がもう何かまとめに入ってますね(笑)。まるで短期集中連載の様相を呈して来ました。
 掲載順も『ソードブレイカー』よろしく下がってますし、Xデーも近いかと思われます。今度ばかりは『ライジングインパクト』のような復活劇は難しそうですね……。

 

☆「週刊少年サンデー」2003年2号☆

 ◎新連載『ワイルドライフ』作画:藤崎聖人

 「サンデー」の新連載シリーズ第1弾は、藤崎聖人さん獣医マンガ『ワイルドライフ』です。
 藤崎さんは「週刊少年マガジン」でデビュー。その後に小学館へ移籍して「コミックGOTTA」で連載デビューを果たすのですが、マンガの完結前に雑誌の歴史が完結してしまい、「少年サンデー」に移籍して来た…という派手な経歴を持つ作家さんです。「サンデー」では02年24・25号に、『ガクの詩』という作品を発表していまして、恐らくはそこで水準以上の人気を博しての連載獲得となったのではないかと思われます。
 ちなみに、同じ「GOTTA」組には『ふぁいとの暁』あおやぎ孝夫さんがいますね。このパターンは、結果的にマイナー誌からのステップアップということになるのでしょうか。

 それでは作品のレビューに移りましょう。
 まず絵柄から。これは連載経験のある作家さんだけあって、マンガ家としての最低限の仕事は出来ていると思われます。
 ただ、基礎的な画力はプロとしてはお粗末で荒っぽさが否めません。これは以前の読み切り掲載の時にも指摘させてもらった点で、ストーリー物としては不自然とも言えるデフォルメを使って、何とか画力の低さを誤魔化している…という感じでしょうか。これが後々、緻密な描写を必要とするような肝心な所で足を引っ張るような事にならなければ良いのですが……。

 そしてストーリー面ですが、まずは絶対音感と獣医の才能を結びつけるという発想はオリジナリティがあって良いんじゃないかと思います。ひょっとするとリアリティから言えば無理があるのかも知れませんが、この設定を話の中で説得力を持たせることには成功しています。 
 しかし、シナリオ全体にご都合主義の傾向が否めないのは問題です。特に、主人公を獣医への未知へに導く役割を果たすキャラ・賀集(腕利きの獣医)の言動や行動が場当たり的で、作家の側に都合が良過ぎるのは大きな減点材料でしょう。初回からこういうミスを犯す作家さんは、その後も同様のミスを犯す可能性が高く、かなり心配であると言えます。

 次回からは、主人公が本格的に獣医としての活動をするエピソードが始まるようですが、これがどうなってゆくのか、今しばらく様子を窺いたいと思います。
 初回の暫定評価はギリギリでB

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 ◎『美鳥の日々』作画:井上和郎【第3話掲載時の評価:B+/雑感及び作品の再評価】

 急展開かと思ったら、主人公の恋愛感情を確定させるためのハプニング作りだったわけですね。上手い“小技”使いますねぇ。
 これ以後、この作品は往年の『かぼちゃワイン』みたいな路線で行く事になるんでしょうか。“偉大なるワンパターン”を築けるかどうか、これからに期待です。

 ◎『一番湯のカナタ』作画:椎名高志【第3話掲載時の評価:A−/作品の総括】

 結局、前半の大ダレが響いて、29話で打ち切りとなりました。最近の「サンデー」は打ち切り決定までの判断が早いのか遅いのかよく分かりませんね(苦笑)。
 “敗因”を大雑把に言えば、見切り発車した後に方向性が定まるまで時間がかかりすぎた事ではないかと思われます。あと、読者が共感し易い主人公の作品にならなかったのも痛かったかな…と。テコ入れ後には随分とキレ味のあるストーリー展開になっていっていたので、本当に惜しい限りです。次回作に期待しましょう。

 

 ……というわけで、今回は以上。また来週をお楽しみに。

 


 

12月11日(水) 現代社会学概論
「極楽とんぼ、公然ワイセツで書類送検」

 最近、世界史とギャンブルの真面目な講義ばかりでしたので、今日はちょっとノリを軽く、時事関連の講義でもやってみようかと思います。

 では、まずはこちらのニュースをご覧下さい。

 お笑いコンビ「極楽とんぼ」の山本圭壱(34)が、東京・町田の桜美林大学の学園祭のステージで、下半身を露出し、警視庁町田署から公然わいせつ容疑で相方の加藤浩次(33)とともに書類送検されていたことが10日、わかった。山本は1000人の学生の前で“開チン”。お笑いとはいえ、ちょっと度が過ぎたようで…

 町田署によると、事件が発生したのは先月2日午後7時ごろ。2人は桜美林大学学園祭の野外特設ステージで行われた無料ライブに、ほかのお笑いコンビとともに出演。一番手として登場し、約1000人の前で“犯行”に及んだという。

 同署や目撃した観客によると、山本が「包茎手術の跡がある」とイチモツの話題をふったところ、観客から「脱げ〜」「見せろ〜」の大合唱。ネタもできない状況に陥り、「もうネタいいや、脱いで帰ろうぜ」と加藤からすすめられ、ステージから降りる直前に1〜2秒の間パンツをズルリ。直後に複数の観客から「公然わいせつやってますよ」と110番通報があった。

 その後同署が捜査を進め、2人から任意で事情を聴いたところ、素直に応じて容疑を認め、27日に書類送検。加藤は露出していないものの、山本の開チンに協力したとして“共犯”となった。2人は「ご迷惑をかけました。プロとして申し訳ない」と反省している。
(後略/サンケイスポーツ紙より) 

 野外ステージ公演でナニを露出してしまった“極楽とんぼ”の2人が警察の取調べを受けて書類送検された…というニュースでありました。
 まぁ軽微な罪ですから、恐らくは不起訴になって終了でしょうが、売れっ子の2人にはとんだ恥さらしになってしまいましたよね。事が事ですので、“極楽”の2人も表向きは反省しているとのことですが、「ンな事でいちいち通報するんじゃねぇ、馬鹿!」と、アイドル歌手をジャイアントスイングしそうな勢いで怒り狂っている加藤浩次の姿も容易に想像出来ます。

 なにしろ、芸人にとって「パンツを脱ぐ」という行為は日常茶飯事であります。多少安易な方法ではありますが、それで笑いが取れるくらいなら幾らでも脱ぐという芸人は数多く存在します。中には井手らっきょのように脱ぐ事が大前提という人や、松村邦洋のように笑いに繋がらない場でも平気で脱ぐ人だっています。
 ……そもそも、今回の“開チン”程度で大騒ぎになるのなら、江頭2:50はどうなるのでしょうか。彼はパンツを脱いだ時に見せるものがナニだけではありません。漏れなく脱糞のオマケ付です。「漏れなく脱糞」って、それ漏れてるじゃん…とか、そんな事を言ってる場合ではありません。

 皆さんは、テレビ番組・「浅草橋ヤング洋品店(浅ヤン)」がバラエティ番組だった頃のことを覚えていらっしゃるでしょうか? 
 そう、工藤兄弟と坂本一生がマジ喧嘩したり、周富徳・富輝の“脱税兄弟”や故・宮路城南電気社長などの名シロウトを発掘するなど、意欲的な企画でコアなお笑いファンの琴線をくすぐる、強烈な個性を発揮した番組でありました。
 その番組の初期から中期にかけてレギュラー出演していたのが、当時若手芸人だった江頭2:50でした。彼は巨大水槽の中での息止め競争で数々の名勝負を繰り広げるなど、体を張った好パフォーマンスでグングンと知名度を上げていったのですが、ある時以降、忽然と番組内から姿を消してしまいました
 番組内では降板の理由が全く説明されていなかったのですが、実は江頭2:50本人が後に明かしたところによると、その原因は公開録画での“パンツ脱ぎ→脱糞”だったとのこと。あまりに会場のテンションがイイ感じで上がって来たため、「よ〜し、それならやってやる!」…とサービス精神を発揮したのがいけなかったようです。
 ちなみに、江頭はある時、この件に関して以下のように語っていました。

「俺さぁ、ステージでウ○コして『浅ヤン』降ろされたんだよ。ウ○コしただけで『浅ヤン』降ろされたんだよ。あ〜、もうアッタマ来た! お前ら、ウ○コ食え!

  
 ……とまぁこのように、ほんの1〜2秒“開チン”に至っただけで警察のご厄介になってしまった“極楽とんぼ”のお2人は、本当にもう災難としか言いようがありません

 まぁその件はこれで置いておくにしましても、何故、お笑い芸人は包茎手術をした事をネタにしたがるのでありましょうか? googleで「包茎手術 タレント」と検索しますと、267件もヒットします。ちなみに、「駒木博士の社会学講座」で検索すると205件。微妙に負けてるのが腹立ちます。

 包茎手術をしたタレント・芸人と言えば、最近では“障害者お笑い芸人”ホーキング青山の包茎手術決行が話題となりました。
 彼は『五体不満足』の乙武広匡氏と同じような障害を抱えているのでありますが、「不自由な体に産んだ事を(親に対して)恨んでいないが、包茎だけは本当に恨んだ」…と言う位それをコンプレックスに思っていたそうで、この度の手術決行と相成りました。
 手術そのものは成功したそうなのですが、何しろ手が一切使えないものですから、ナニの位置変更もままならず、術後間もなくは大層難儀したそうであります。しかし、そうは言いながら、手術の様子をビデオに納め、その後の顛末も含めてライブ用のネタにしてしまったのですから、さすがは芸人といったところであります。

 しかしもっと凄いのが、そのホーキング青山の包け…じゃなくて、傍系の兄弟子筋にあたる浅草キッドであります。
 体を張り過ぎて前科者になってしまう程の凄まじい芸人魂を持った彼らでありますが、実は包茎手術に関しても、壮絶なエピソードを持っているのです。
 なんと彼らが実行したのは「公開包茎手術ラジオ中継」。今から約10年前、初めてメインパーソナリティを獲った深夜ラジオ番組のイベントとして、手術室からラジオの中継を行い、なおかつその手術室を一般公開したというものでありました。
 当時まだ20代だった彼らには、それなりの数の若い女性ファンもいたそうで、「今度番組で公開手術をやります!」と宣言した直後には、包茎手術の何たるかを知らない女の子たちから千羽鶴「手術、頑張ってください。出来たら可哀想なお2人に変わって、私が手術を受けてあげたいくらいです」という手紙が舞い込み、大いに盛り上がったとのことでありました。

 そして公開手術当日。浅草キッドは、まさか2人が下半身裸で手術台に拘束されているとは知らなかった女の子たちの物凄い悲鳴を浴びながらレーザーメスに身を委ねたとのことであります。その日を境に、浅草キッドの周りから若い女性ファンの姿が誰一人見られなくなったのは言うまでもありません。

 
 ……というわけで、男性受講生の皆さんは、包茎手術をネタにして笑いを獲ろうとする際はくれぐれも注意を払って下さるようお願いいたしまして、今日の講義を終わらせてもらいます。 (この項終わり)

 


 

12月9日(月) ギャンブル社会学
「toto(サッカーくじ)売上げ低迷、その原因を探る」(4)

※前回までのレジュメはこちらから→第1回第2回第3回

 この講義では、前回からサッカーくじと他のギャンブルの比較検討を行っていますが、今回もその続き。公営競技(3競オート)パチンコ・パチスロを採り上げてみます。
 比較検討の対象や方法に関しては、第3回のレジュメを参照して下さい。

 ※参考(サッカーくじの特徴一覧)

  一獲千金 達成感 期待値 戦略性 中毒性 とっつき易さ サービス
サッカーくじ 極低 極低
サッカーくじ
(理想型)
極高 極低

 


(2) 公営競技(競馬/競輪/競艇/オートレース)

  一獲千金 達成感 期待値 戦略性 ※1中毒性 とっつき易さ サービス
競馬 極高 ※2 ※3
競輪 極高 極低
競艇
オートレース
※1…複数種類・複数箇所の公営競技ギャンブルを掛け持ちする事を前提にすると“高”に。
※2…中央競馬のみに限れば“低”
※3…中央競馬のみに限れば“高”

 1.“一獲千金”性
 公営ギャンブルでは、戦前から当局が顧客の射幸心(=一獲千金を達成したい心)を抑制するよう指導して来た影響で、この要素は低く抑えられています
 最近でこそ、“3連単”などの高額配当が臨める投票方式が導入されるようになり、徐々に趣が変わってきましたが、それでも依然として、たかだか100倍程度の配当を「万馬券」「マンシュウ」などと言って特別扱いするような状況が続いています。
 これでは大勝しても驚くような配当が得られるはずもなく、平均程度の経済力の客ならば、どれだけ幸運に恵まれても1日で100万円儲けるのが精一杯といったところでしょう。よく「馬券で蔵を建てた奴はいない」などと言いますが、それはこの“一獲千金”性の低さも影響しているのです。

 ちなみに、“一獲千金”性の低いギャンブルは健全であるような印象を受けがちですが、実は違います。“一獲千金”性が低いギャンブルで大金を稼ぐためには賭け金を釣り上げねばならないので、身分不相応な賭け金を突っ込んで“人生アウト”になるケースが続出するのです。
 競馬や競輪などに大金を突っ込んで犯罪に走る愚か者のせいで、公営ギャンブルが犯罪者製造機のような扱いをされる事がままありますが、実は、公営ギャンブルをそのようにプロデュースしてきた国にも大きな責任があるのです。

 2.達成感喚起力
 公営ギャンブルでは、余程の作戦ミスや不運が重ならない限りは、1日を通じて1度も勝利(=投票券が的中)しない事はありません。どんなに大穴狙いをする人でも、1年365日を通じて全敗というケースは、まずあり得ないでしょう。ですから、公営ギャンブルでは全ての客が達成感を得る事が出来ます
 また、公営ギャンブルのようなレース系のスポーツベッティングは、予想が的中した際の達成感が総じて高いのが特徴で、下手をすれば世の中が自分を中心に回っているような錯覚すら感じます。これは“一獲千金”性が低いという欠点を補って余りある長所と言えます。
 よく予想を的中させた人間が、嫌がる他人に自慢気に成功談を語っていますが、これは余りに達成感が強すぎて自分の頭の中だけでは消化出来ていない証拠です(笑)。

 3.資金の回収期待値
 公営ギャンブルの回収期待値は75%である…とよく言われていますが、それは厳密に言えば誤りです。独特の計算方式で配当金を算出するため、正確な数字を出すのは難しいところですが、大体74%前後と考えて頂ければ良いでしょう。また、配当金が低いケースは期待値が高く、“穴”が開いた時には期待値が73%台に低下します。
 以前から当講座で競馬学講義を受講されている方なら既にご存知でしょうが、このレヴェルの期待値では、余程の技量が無い限りは長期的に黒字を計上する事は出来ないでしょう。ゆえに、公営ギャンブルがこの要素を満たしている度合いは「低い」と断ぜざるを得ません。

 ところで余談ですが、ノミ行為で1割引の“私家製”投票券を購入した場合は、単純計算でなら期待値は82〜3%にまで上昇します。これならアマチュア上級者程度の技量があれば、ギリギリでプラスが計上できるはずです。もっとも、長期的なプラスを計上する前に、両手が後ろに回ってしまう可能性も高いのですが……。
 
 4.戦略性
 レース系ギャンブル最大の“売り”が、この戦略性の高さです。レースの予想を的中させるためのポイントやセオリー、又は賭け金の回収率を上げるためのテクニックが豊富に存在しており、それを忠実に守れば、明らかに収支に直結させる事が出来ます。
 公営ギャンブルの中でも、特に戦略性が高いのは競輪です。同じレースに出た選手同士で“ライン”と呼ばれる即席チームを組むという競技形態が暗黙の了解の下で採用されているために、予想をする際には選手の性格や他の選手との人間関係まで考慮しなければならないのです。
 また、競馬の場合は、実際の戦略性はそれ程でも無いのですが(動物の行動を予想するため偶然の要素が大きい)、“競馬には必勝法が存在する”という幻想が強く存在しているのがポイントです。そのため、競馬は結果的にこの要素を極めて高いレヴェルで満たしていると言えるのです。

 5.中毒性
 達成感喚起力の高いギャンブルは中毒性が高いケースが多いのですが、公営ギャンブルの場合は1日にプレイできる回数(=レース数)や、レースを開催している日数が限られているため、原則として中毒性は低いです。特に、開催が月に6日前後に限られている競輪や、週末のみの中央競馬の場合は更に低くなります。
 ただし、複数種類のギャンブルや複数レース場の掛け持ちをする場合は例外で、特に電話投票を駆使すれば1年中毎日ギャンブルをする事が可能です。その場合、勿論中毒性はグンと跳ね上がります。

 6.とっつき易さ
 戦略性の高いギャンブルは総じて初心者に敬遠されがちなのですが、公営ギャンブル、中でも“ライン”の概念が初心者に伝わり難い競輪は、特にその傾向が強いようです。これは競輪場の客層の9割以上が中・高年齢層である事実が如実に証明しています。
 ただし競馬だけは例外で、「ヤヤコシイ話もあるが、結局は馬の競走」という概念の単純さが初心者の参入を促進しています。1990年代にオグリキャップブームに乗った中央競馬が、若年層──特に女性の新規開拓に成功しましたが、それもこのとっつき易さによる力が大きいのです。中野浩一がどれだけ有名になろうと客の増えなかった競輪とは正に対照的です。

 7.ファンサービスの充実度
 場内のサービスはレース場によって大きく異なるために“平均点”を出し辛いのですが、大体どこのレース場でも無料湯茶サービスや、最寄駅からの無料バス運行などの交通サービスを提供しています。また、資金力で勝る中央競馬のレース場では、他種のギャンブル場よりも場内サービスが充実しているようです。
 また、直接レース場に来場出来ない客のため、場外投票所の設置電話で投票券が購入できるサービス(電話投票)を実施しています。ただ、中央競馬を除いてはその普及率はそれほど高くありません。ここでも資金力の差がモロに出ていると言えるでしょう。

 ◎総括及びサッカーくじとの比較◎
 当局から不当に低く抑えられた“一獲千金”性回収期待値以外は、ほぼ全て合格点の範疇やはり、数十年にわたって多くの顧客に支持されるにはそれなりの理由があるわけです。
 最近になって売上げ額が減少していると言われていますが、それは長期にわたる不景気のせいで、“上得意”である中小企業経営者とブルーカラー労働者の経済力が著しく低下しているため。それほど大きな構造的な欠陥があるわけではありません。(ただし、競輪はとっつき難さが響いているでしょうが……)
 サッカーくじが公営ギャンブルより勝っているのは“一獲千金”性だけで、他の要素──特に達成感喚起力戦略性では大きく水を開けられています。これでは公営ギャンブルを“主戦場”とするギャンブル愛好家たちを取り込むなど、夢のまた夢です。

 

(3) パチンコ、パチスロ

  一獲千金 達成感 期待値 戦略性 中毒性 とっつき易さ サービス
パチンコ・パチスロ 極高 ※1 極高 ※2

※1…パチスロに限った場合は“極高”
※2…パチスロに限った場合は“中”

 1.“一獲千金”性
 パチンコやパチスロは、公的には“限りなくギャンブルに近い遊戯”という微妙な存在であることもあり、玉やメダル1枚あたりの単価が非常に安く抑えられています。
 そのために金銭の動きは小さい範囲にとどまり、開店から閉店まで約12時間ノンストップでプレイし続けたとしても、1日の収支の振り幅が±20万円を超える事は滅多に見られないでしょう。腕利きのパチプロが何年分かの儲けを注ぎ込んで小さいマンション1部屋や高級外車を購入した…などという話は聞きますが、せいぜいそれが限界と言えそうです。
 よって、このギャンブルにおける“一獲千金”性は「低い」という事になります。

 ここでまたしても余談です。先に「“一獲千金”性の低いギャンブルは危険」だと述べましたが、それはこのパチンコでも当てはまります。パチンコでは、まとまった儲けを得る事は極めて難しいですが、庶民の生活に影響が出る程に負けが込むのはあっという間です。
 普通のサラリーマンや主婦の場合、10万円勝っても生活に大して影響はありませんが、10万円負けた場合は生活に大きく影響します。パチンコは魅力あるギャンブルですが、是非とも金銭感覚を見失うことがないよう、厳しくご忠告申し上げておきます

 2.達成感喚起力
 パチンコが現在の興隆を誇るようになったのは、恐らく昭和50〜60年代。フィーバー機など、1度の“大当たり”で大量の出球が確保されるタイプの台が導入されてからの事でしょう。
 これには確固たる理由があります。それは、この類のパチンコ台によって、パチンコの達成感喚起力が一気に跳ね上がったからなのです。
 フィーバー機で絵柄が揃った瞬間、または一発台で銀玉が難攻不落のポケットを陥れた瞬間に走る快感は桁外れであり、更にその後から玉が延々と出続けるという余韻をも楽しむことが出来ます。この時得られる達成感たるや、それまでのチューリップ主体の手打ち式パチンコとは文字通り雲泥の差でした。
 その成功に味を占めたパチンコ台メーカーは、それ以後こぞって“大当たり”時の快感・達成感が大きくなるようなマシンの開発に務めるようになりました。その努力の結果が、液晶デジタルによる派手な演出や確率変動とその再抽選といったオプション機能を満載した、今現在稼動中の最新鋭パチンコ台というわけです。

 また、実はパチンコとは全く別種のゲームであるパチスロ(パチンコ屋にあるスロットマシーンだから『パチスロ』で、実はスロットマシーンに限りなく近いゲームなのです)も、パチンコのフィーバー台を参考にした“大当たり”システムを導入しており、極めて高いレヴェルの達成感が期待できるゲーム機になっています。

 3.資金の回収期待値
 パチンコやパチスロは、店ごとの経営方針、または釘やコンピューターの設定によって大きく期待値が異なって来るため、平均の回収期待値を出す事が極めて困難であると言われていました。
 しかしつい最近になって、日本のギャンブル社会学の大家・谷岡一郎氏が、当局発表の資料を参考にパチンコの平均回収期待値を計算し、その値を97〜98%の範囲であると著書の中で発表しました。谷岡氏はパチスロについては述べませんでしたが、恐らくはパチスロも似たようなものと推測されます。(でなければ、誰もパチスロなどやりません)
 勿論、実際にはもっと誤差が生じている可能性がありますが、それにしても95%を下回る事は無いでしょう。そうでなければ、パチンコのプロやセミプロが多く存在する説明がつきません。
 この値は、現在日本で行われているギャンブルの中では最も優秀な部類に入るもので、少なくともこれだけを見ればパチンコは良心的なギャンブルと言えます(ただし、パチンコは統計学上の誤差が極めて小さいギャンブルですので、負ける人は確実に負け続ける恐ろしさも存在します。ご注意を)

 4.戦略性
 現在のパチンコやパチスロは、「まず雑誌でセオリーを知っておくことが最低条件」と言われるほどに戦略性が増しています。当然、昔ながらの釘をチェックする眼も要求されますし、優良店探しや、店が赤字覚悟でサービスする日をチェックするようなリサーチ活動も勝利するためには必要になっています。また、パチスロの場合は、「目押し」と呼ばれる高速回転する絵柄の動きを見定める技術が要求されます。
 そして、それらの戦略を完全にマスターさえすれば、回収期待値は間違いなく100%を超え、月単位である程度の黒字計上が期待できるようになるでしょう
 ただ、最近のパチンコ台はコンピューターの抽選で“大当たり”を判定することが常ですので、戦略が全く通用しない部分もある事も申し添えておきます。

 5.中毒性
 フィーバー台導入に伴う達成感喚起力の飛躍的向上は、そのままパチンコ・パチスロの中毒性をも飛躍的に高めることになってしまいました。
 “大当たり”判定の当たり外れによる達成感と失望感の落差、1回の“大当たり”判定ごとの間隔の短さは極めて高いレヴェルにありますし、1年中毎日どこかの店が朝から晩まで営業しているために常習的にパチンコが出来てしまう条件が整っています。
 パチンコ・パチスロの中毒性は極めて高いレヴェルにあると言っていいでしょう。これでパチンコの玉の値段が『カイジ』のように10倍、100倍になってしまったら…と考えるとゾッとします。

 6.とっつき易さ
 パチンコがここまで普及した原因の一つとして、「誰でも簡単に始められてしまう」…という要素が挙げられると思います。パチンコは戦略性の高いギャンブルではありますが、戦略を全く身に付けていなくても普通にプレイできますし、運がよければビギナーズラックも体験する事だって出来ます。そして、もしそうなれば、後は高い達成感喚起力と中毒性がビギナーを立派な常連客にしてしまいます。まるでアリ地獄ですね(苦笑)。
 パチスロの場合は、メダルの値段がパチンコ玉に比べて割高な上、目押しという“壁”が存在するために多少はとっつき難さがありますが、それでも比較的ビギナーに易しいギャンブルであると言えるでしょう。

 7.ファンサービスの充実度
 以前は“タバコの煙が目にしみる”という言葉が全てを表しているような場所だったパチンコ店も、平成年代に入ってから一気に洗練され、今ではかなり居心地の良いスペースになっています
 更には、常連客向けのサービスや、赤字覚悟の集客サービスなど、顧客をとにかく大事するというのがパチンコ業界の特徴です。よって、この要素もかなり高いレヴェルで満たしていると考えてよいでしょう。

 ◎総括及びサッカーくじとの比較◎
 現在のパチンコは、“一獲千金”性を除けば全てが高水準と言う恐ろしいまでに魅力的なギャンブルになっています。特に達成感喚起力と中毒性の高さは目を見張る程で、中国生まれの麻雀に続く、日本生まれの“亡国の遊戯”と言っても過言ではないでしょう。
 これだけギャンブルとして理想的な姿を突きつけられてしまっては、サッカーくじなど全く対抗する事は出来ません。ちょっと“一獲千金”性が高い程度では、歯牙にもかけてもらえないことでしょう。


 ……というわけで、今回は2つのギャンブルについてお話しました。何だかサッカーくじの旗色は悪くなる一方ですが、果たしてどうなるのでしょうか? 次回をどうぞお楽しみに……。 (次回へ続く

 


 

12月8日(日) 歴史学(一般教養)
「学校で教えたい世界史」(22)
第3章:地中海世界(3)〜エーゲ文明に生涯を捧げた学者たち《続》

※過去の講義レジュメ→第1回〜第19回第20回第21回

 前回からエーゲ文明の遺跡発掘や文字解読に関わった人物のエピソードをお話しています。前回はトロヤ文明の発見者・ハインリヒ=シュリーマンが発掘活動を開始するまでのお話をしましたが、今回はその続きから始めましょう。

 1868年、日本では徳川幕府政権の退陣に揺れ動くその頃、シュリーマンの発掘活動が遂に開始されますが、これに先立ち、シュリーマンは念願のギリシア語習得を果たしています。
 かねてから「ギリシア語を学び出したら生業が疎かになる」と公言していた通り、彼は貪るように現代・古代の各種ギリシア語をマスターしてゆきました。そして、憧れのホメロスの著書を、今度は絵本ではなくオリジナルのギリシア語詩で次々と読破していったとのこと。これが彼のモチベーションに影響を与えた事は言うまでもありません。

 しかし、そんなシュリーマンも考古学者としては全くの素人です。初仕事となったイタカの島での発掘活動では目ぼしい発見はなく、完全な失敗に終わります。
 また、彼がその発掘場所を選んだ理由が、「ホメロスの詩などによると、英雄オデュッセウスの館がここにあるらしい」…といった“トンデモ”なものであったことから、本職の考古学者各氏の嘲笑を浴びてしまうことになりました。

 とはいえ、シュリーマンもこれで引き下がるような生き方はしていません。苦い経験から3年後、いよいよ彼は生涯の目標でもあるトロヤ発掘に乗り出します。
 実はこの当時、考古学者の間でも既にトロヤ文明の実在が囁かれており、「おそらく遺跡があるのはここであろう」という“候補地”が決められていたのでありますが、シュリーマンはこれを敢えて無視します。理由はまたも「ホメロスの詩によると、トロヤはもっと海に近いところにあるはずだ」…というもの。どこまでもシュリーマンはシュリーマンでありました。そして、その愚直なまでの熱意は奇跡的に実ります彼はホメロスの叙事詩の内容をそのまま信じてトロヤの遺跡を発見してしまったのであります! 
 この発見に際しては、その現場に立ち会ったシュリーマン(と、ひょっとしたら妻・ソフィア)以外の全ての人間が心底驚いたに違いありません。何しろ、この発見は言うなれば、『浦島太郎』の内容から竜宮城跡を海底から掘り当ててしまうようなものだったのですから……。

 発掘されたトロヤの遺跡は、時代別で9つの階層に及ぶ大きなものでありました。ただ、残念な事にそれらの遺跡は十分な記録が採られる事無く掘り進められてしまい、完全な再現は今では不可能なものとなっています。
 これは、シュリーマンが考古学の素人だった事も大きく影響しているのですが、それよりも彼が「この遺跡がトロヤ文明の跡である」という証拠を探す事に焦ったためだと言われています。
 ……確かに大人気無い話ではありますが、何しろシュリーマンは、この件で幼い頃から馬鹿にされて来た暗い過去がある事を忘れてはいけません。藤子・F・不二雄先生のSF短編で、口下手な大物政治家が妻に思う存分文句を言いたいがために、持ちうる全ての権力を駆使して(通信にタイムラグが発生する)宇宙へ旅立つ話がありますが、彼もまた、その類の強い執着があったのでありましょう。
 ですが結局、そこまでしてもシュリーマンが発掘した遺跡から、そこが「トロヤ」という地名である事を証明する物は発見される事はありませんでした。それどころか彼は遺跡の年代確定を誤っていて、死んでからその功績にミソをつけてしまう事になってしまいました。この辺りが素人の限界だったようです。
 しかしそれでも、彼が遺跡を発掘したという功績は素晴らしいものですし、その後に研究を引き継いだ人たちのお蔭で、今ではこの遺跡はトロヤ文明であると断定されています。また、ホメロスの詩にあった出来事も、全てが事実では無いにせよ、事実を元にしたセミ・ドキュメンタリーのようなものではなかろうか…という感じで理解されています。

 ……こうして、シュリーマンは歴史に名を遺す偉大な発見者となる事が出来たのでありました。

 が、彼の活躍はここでまだ終わりません。なんと、ここから更に“ダメ押しの一撃”をブチかますことになるのです──

 やや短いですが、今日はこれまで。次回は、そんなシュリーマンの更なるエピソードのお話と、その他のエーゲ文明に関わった人物について、いくつかの話を述べてゆきたいと思います。(次回へ続く

 


 

12月7日(土) 競馬学特論
「G1予想・朝日杯フューチュリティS編」

駒木:「……では講義を始めるけれども、今日は最初に言っておきます。多分、予想は当たりません!(笑)」
珠美:「何言ってるんですか、博士……と言いたいところですけど、確かに今日のレースは難しいですね。去年は私たち2人とも本命・対抗で的中したレースですから、今年も何とかしたいところなんですけど……」
駒木:「まぁ、その辺の話は出馬表を確認してもらってからにしようかな」

朝日杯フューチュリティS 中山・1600・芝外

馬  名 騎 手
    マイジョーカー 村田
サクラプレジデント 田中勝
  テイエムリキサン 池添
× ワンダフルデイズ
    エイシンチャンプ 福永
    パープルクオーツ 勝浦
×   コスモインペリアル 柴田善
    センリツ 柴田大
× タイガーモーション 江田照
    10 シンボリデビル 岡部
    11 キョクイチバンブー バルジュー
× 12 サイレントディール 武豊
  × 13 ヨシサイバーダイン 北村
14 マイネルモルゲン ペリエ
取消 15 エイシンブーン 武幸
    16 バロンカラノテガミ 蛯名

珠美:「8枠15番のエイシンブーンは、枠順発表直後、感冒のために出走取り消しとなりました。皆さんもどうぞご注意下さい」 
駒木:「……さて、さっき言ってた話だけど、今回はメンバー見てもらえば分かるように、重賞勝ち馬が札幌2歳Sのサクラプレジデント1頭だけ。現時点での世代No.1、2が回避しちゃったから、随分と締まらないレースになっちゃったね。
 なわけで、このレースも先週の阪神JFと同じでレヴェルが相当低い。いや、軸馬がいない分だけもっと低いかもね。だから、先週とかマイルCSみたいに人気下位の馬が大駆けするケースが十分考えられる。僕は中穴党だから中穴の予想をするけれども、どうにも穴党の人向けのレースって気がして仕方ないんだよね」
珠美:「博士の推測って、細かい予想に関係無い部分だけ当たりますから、ちょっと心配です(苦笑)。
 ……それはさておき、展開はどうなりますか? 逃げ馬不在みたいですけど?」

駒木:「いや〜、展開も読み辛いんだよね、このレース。ハナ切りそうな馬が2、3頭いるし、先行するのか差すのか判らない馬もいる。多分、遅めの平均ペースになるんじゃないかな…とは思うけれども」
珠美:「未知数な部分が多いというわけですね」
駒木:「多分、実際にレースに乗る騎手の人たちも、まだどうするか決めてないような気がするしね(笑)。本格的な展開予想はゲートが開いてからってことになるんだろうね」
珠美:「それじゃ遅すぎるんですけど(苦笑)。ま、とにかく難しいということですね。
 ……では、今日も枠順に従って1頭ずつ解説していただきましょう。まずは1枠の2頭からお願いします。この枠には、1番人気で博士の本命・サクラプレジデントがいますが──?」

駒木:「まず、マイジョーカーから。レース数の乏しい戦績だけで判断するのは気が進まないけど、デビュー戦でサクラプレジデントに完敗、ここ2走も有力馬の少ない裏街道のレースでワンダフルデイズに完敗しているところから考えると、強くは推せない。前走の2着も上がりタイムは凄いんだけど、レース振りそのものは人気薄の展開ハマりっぽいし。
 そしてサクラプレジデント。たった2戦のキャリアでどこまで判断できるか微妙だけど、新馬や札幌2歳Sで負かした相手の力関係からしてここでも上位クラスのはず。休み明けとはいえ、調教の動きが本当に良いみたいだし、人気するのも仕方ないんじゃないかな。もっとも、単勝2倍台はさすがに買い被り過ぎな気がするけどね。本命打っておいて言うのも変だけどさ(笑)」
珠美:「サクラプレジデントは差し馬ですが、ペースが遅い場合は不利じゃありませんか?」
駒木:「確かに微妙だね。ただ僕は、馬群が固まったら道中の位置取りは大して関係無いって考え。極端な追い込みならともかく、中位程度なら最終コーナーでインを突いたら関係なくなるからね。現に、サクラプレジデントはそうういったレースで札幌2歳S勝ってるし」
珠美:「なるほど、分かりました。でも私は先行馬主体に予想を組み立ててしまったんで、『ヤなこと聞いちゃった』って感じなんですけど(苦笑)。
 ……では、2枠の2頭についてコメントをお願いします」

駒木:「テイエムリキサンは、6月デビューに失敗した後にジックリ立て直したのが良かったんだね。デビュー2戦目からは全く違う馬になってる。
 で、今回のレースだね。今回は3枠5番のエイシンチャンプが出走馬の力量を計る格好の物差しになっているんだけど、この馬も前走の荻Sでエイシンチャンプを豪快に負かしてるんで、十分上位で戦えるはず。ただ、札幌でサクラプレジデントに負かされてもいるんで、評価が難しいところだね。
 ワンダフルデイズはスピードを活かして3戦3勝。ただ、負かして来た相手はマイナークラスだね。今回も勢いに任せて押し切っちゃう可能性もあるだろうけど、この馬にとっちゃ実質“昇級戦”なんで、厳しくなったペースに戸惑わないかって不安の方が大きいかなって感じ」
珠美:「……それでは、次は3枠ですね。ここからしばらく人気薄の馬が続くことになりますが、いかがでしょうか?」
駒木:「エイシンチャンプはさっき言ったように、ここでは他の馬の実力を測る物差し代わりだね(笑)。しかしまぁ、見事なまでに堅実な負かされっぷりだこと(笑)。人気馬とそれほど実力差があるとは思えないんだけど、だからと言って今回逆転出来そうにも思えないんだよなぁ。逆に言えば、だからこそ穴で狙い目とも言えるんだけど。
 パープルクオーツは、どう考えても実力が足りないでしょ。いくら低レヴェルのレースって言っても、この馬にヤラれちゃったら目も当てられないね」
珠美:「エイシンチャンプは前売りで単勝25.8倍ですか。確かに実績の割には人気してませんね。とはいえ、私もこの馬から馬券は買いませんけど(苦笑)。 
 ──さて、次は4枠の2頭ですね。いかがでしょうか?」

駒木:「まずコスモインペリアル。ワンダフルデイズと同じように、裏街道でマイナークラスを負かして来た馬だね。あっちは関西ルートで、こっちは関東ルートだけれど。
 この馬も一気の相手強化がポイントだろうね。人気薄で勝ち続けて来た不気味さは感じるんだけれども……。
 センリツは芝で5戦、新馬・未勝利ばかりで走ってどれも惨敗。ナンボなんでもここじゃ厳しすぎるだろうって感じ」 
珠美:「次は5枠ですね。博士が対抗を打たれているタイガーモーションについて、特に詳しくお聞きしたいんですが……」
駒木:「先週のブランピュール(3着)に続いて○印で冒険してみたってわけなんだけど、今週もまた3着かなぁ(苦笑)。
 で、そのタイガーモーション。現時点での2歳牡馬二強の一角・ブルーイレブンに肉薄した数少ない馬だね。その東スポ2歳Sは着差以上の完敗だったそうだけど、馬体重が+18kgだったっていうエクスキューズもあるからね。そう捨てたモンじゃないと思うんだよ。
 どうも人気は札幌組と関西馬に及ばないみたいだけど、地力で見劣りするとは思えないし、着順では逆転したいところだろうね。
 シンボリデビルは1枠のマイジョーカーの関東版って感じだね。そんなに悲観する成績じゃないけど、少なくとも楽観できる成績じゃあない。大穴で一考ってところかな」
珠美:「確かにタイガーモーションは人気の盲点になっている気がしますね。私も×印を打ってますんで、ソコソコの期待はしたいところです(笑)。
 ……それでは、次は6枠です。トゥザヴィクトリーの全弟・サイレントディールが注目されていますが、博士の見解はいかがでしょうか?」

駒木:「その前にキョクイチバンブー。道営所属だった夏頃は、中央オープンでも互角に戦っていたみたいだけど、秋になって中央へ移籍して来てからはサッパリだね。どうやら典型的な早熟馬だったみたい。今回も見送りが妥当かな。
 そして、サイレントディールなんだけど……。
 う〜ん、正直言って、どうしてここまで人気するのか分からない。確かに大器の片鱗みたいなものが窺えなくはないんだけど、良血と鞍上・武豊ってことで人気過剰になっちゃってる気がするなぁ」
珠美:「あら、そ、そうなんですか?(汗)」
駒木:「ん〜、まぁ今回のレヴェルなら何が起こってもおかしくないけどね。あくまで上位グループ6〜7頭の中に何とか引っ付いてるって感じだね」
珠美:「今回は私と博士の予想印が随分と違うんで、肩身が狭い思いをしています(苦笑)」
駒木:「まぁ、レースが終わったら立場が逆転する可能性もあるんだから、講義中は我慢してくれよ(笑)」
珠美:「分かりました(笑)。では、次は7枠の2頭ですね。この枠は比較的人気している馬が揃っていますが……」
駒木:「ヨシサイバーダインか。微妙な戦績の馬だよねぇ。トップグループから少しだけ遅れをとってる感じ。逆転も有りそうなんだけど、新潟2歳Sで負かされたワナのその後がアレだから、正直、ちょっと辛い気がしないでもない。
 マイネルモルゲンは実績的にもトップグループの一角を占めていると言えそうだね。ただ、差し戦法だとジリっぽい気がしないでもないし、調教の様子が今一つだったのも気になるところ。やや外目の枠から躊躇無く先行策が打てるかどうかがカギだろうね」
珠美:「マイネルモルゲンの調教は私も気になったんですけど、本命にしちゃいました(苦笑)。
 ……では、最後に8枠。エイシンブーンが取り消しになりましたので、1頭だけになりました」

駒木:「バロンカラノテガミね。先週の阪神芝1600と同じように、中山の芝外1600も外枠はメチャクチャ不利なんだよね。15番枠以降は全く出番なし。実力以前の問題だよね、これ。日本のG1レースって、枠順の有利・不利が大きすぎるコースでやる事が多いのが困り物だね。どうにかならんのかなぁ」
珠美:「……ということで、15頭にコメントしていただきました。最後に総括と馬券の買い目をお願いします」
駒木:「そうだね。大混戦だけど、頭一つじゃなくて頭1/4だけ抜けてる存在の3頭をピックアップ。2、9、3の馬連BOXと3連複でささやかに勝負するつもり」
珠美:「私は12-14、4-14、4-12、2-14、9-14、13-14の馬連6点です。ペリエ−武豊馬券に期待です♪」
駒木
:「それじゃ、講義を終わろうか。ご苦労様」
珠美:「お疲れ様でした♪」


朝日杯フューチュリティS 結果(5着まで)
1着 エイシンチャンプ
2着 サクラプレジデント
3着 テイエムリキサン
4着 タイガーモーション
5着 ワンダフルデイズ

 ※駒木ハヤトの“敗戦の弁”
 よりによって、オッズの美味しさを詳しく説明した挙句に「買わない」と宣言した馬にヤラれるとは……。まぁ、今回のレヴェルなら何でもありなんだけどね。
 今回は勘弁してくれって感じの2着、3着、4着。これ、ワイド3連複とか無いのかな(笑)。

 ※栗藤珠美の“反省文”
 私の本線馬券は4コーナー回る前に終わってましたね……。しかも挙句の果てにエイシンチャンプ……。
 何とか有馬記念までには調子を取り戻しておきたいと思います。このままじゃ年越せません!

 


 

12月6日(金) ギャンブル社会学
「toto(サッカーくじ)売上げ低迷、その原因を探る」(3)

 ※前回までのレジュメはこちらから→第1回第2回

 ほぼ10日ぶりのシリーズ再開です。前回まではtoto(サッカーくじ)の現状や、ギャンブルとしての特徴についてお話をして来ました。そして、サッカーくじの今後を占う上では、競合相手である他のギャンブルとの比較検討が必要である…との結論に至ったのでした。
 そこで今回からは数回に渡って、サッカーくじのライバルとなる、日本でプレイできる他のギャンブルについて詳しく検討してゆきたいと思います。

 ではまず、この機会に採り上げるギャンブルをピックアップしておきましょう。
 検討の対象となるのは、賭博法・富くじ法の例外として認められているもの、非合法ではあるが当局から原則として黙認されるなどして一般に普及しているもの、そして、近い将来合法化されて急速に普及することが予想されるカジノ系ギャンブル各種です。即ち──

 (1) 宝くじ(当せん金高額のもの/低額のもの)
 (2) 公営競技
(競馬/競輪/競艇/オートレース)
 (3) パチンコ、パチスロ
 (4) 麻雀
 (5) ビデオゲーム賭博
(TVポーカー/TV麻雀)
 (6) カジノ系ギャンブル
(スロットマシーン/ルーレット/ブラックジャック/バカラ)

……となります。そして、これらのギャンブルを、前回までに紹介した「集客と売上げの望める7つの条件」、 

 1.“一獲千金”性
 2.達成感喚起力
 3.資金の回収期待値
 4.戦略性
 5.中毒性
 6.とっつき易さ
 7.ファンサービスの充実度

 ……にあてはめて検討するものとします。
 それでは早速、検討に移りますが、これから紹介するギャンブルと比較しやすいように、サッカーくじのギャンブルとしての特徴を示した表をここで再掲しておきます。

  一獲千金 達成感 期待値 戦略性 中毒性 とっつき易さ サービス
サッカーくじ 極低 極低
サッカーくじ
(理想型)
極高 極低

 


 (1) 宝くじ(当せん金高額のもの/低額のもの)

  一獲千金 達成感 期待値 戦略性 中毒性 とっつき易さ サービス
宝くじ
(当せん金高額)
極高 極低 極低 極高
宝くじ
(当せん金低額)
※1
極低
極低 ※2 極高
※1…スクラッチくじに限れば“低”
※2…スクラッチくじ
に限れば“高”

 まずは、サッカーくじの運営サイドが最大のライバルとして認識しているであろう宝くじを検討してみましょう。
 ただし日本の宝くじは、種類によって当せん金が約10万円〜数億円までの幅がありますので、ここでは当せん金が高額(1等当せん金が数千万〜数億のもの)のものと、低額(1等当せん金が100万円前後、またはそれ以下)のものに分けてお話します。

 1.“一獲千金”性
 やはり宝くじ最大の魅力は、この“一獲千金”への魅力に尽きます。
 宝くじにおける現在の最高当せん金は、「ロト6」のくじ1口200円あたり4億円(キャリーオーバー時の最大値)です。ただし、ロトくじは当せん金が的中口数によって変動するため、定額当せん金の最大「年末ジャンボ宝くじ」1等の、1枚300円あたり2億円(前後賞込みで3億円となります。
 これらの金額は、一般給与生活者の生涯収入に匹敵する額であり、当せん者は余程の事が無い限り、一生涯の生活が保障されることでしょう。
 この当せん金の高さゆえ、宝くじを買うことは「“夢”を買うこと」と言われます。“一獲千金”性だけでも十分に宝くじが魅力的なギャンブルたり得ているという証でしょう。
 そしてまた、当せん金額は今後も物価の上昇などに応じて上昇することが予想されます。これは、昭和時代に一時当せん金上昇を渋った際に売上げが大きく減少した教訓によるもので、それ以来、宝くじは絶えず購買者が大変な魅力を感じる当せん金額を提示し続けています。

 ところで宝くじの中には、1等当せん金が100万円程度またはそれ以下のくじ──「ナンバーズ」や各種のスクラッチくじなど──も存在します。
 これらのくじは、宝くじ最大の魅力である“一獲千金”性を自ら放棄しているわけで、一見矛盾しているように思えます。しかしこれらのくじは、「当せん金は低くても当たり易いくじを」、「すぐに結果の出る手っ取り早い宝くじを」という人たちのニーズに応えた計算ずくのものであり、運営サイドも“目玉商品”の「ジャンボ宝くじ」に向けて購買者を確保しておくための“撒き餌”として利用している節が窺えます。

 この項だけでもお分かりになると思いますが、宝くじの運営サイドの戦略は相当したたかなものです。サッカーくじが宝くじと伍していくためには相当の覚悟が必要でしょう。

 2.達成感喚起力
 宝くじは原則として当たらないものですから、この要素は全くと言って良いほど満たしていません。例外的にスクラッチ系のくじで若干の達成感を味わう事が出来ますが、これもほとんど高額の当せん金が望めない以上、高い評価は出来ません。
 ただし、宝くじ(特に当せん金が高額のもの)は、大半の購買者が「外れるのが当たり前」と割り切って考えており、この要素が満たされていなくても大してマイナスに働かないと言えるかもしれません

 3.資金の回収期待値
 宝くじの期待値は46.8%(例外あり)。恐らく世界中のギャンブルの中で最低ランクと言える酷いもので、宝くじはギャンブルとしては間違いなく失格でしょう。
 しかしながら、「ロト6」や「ジャンボ宝くじ」などの高額当せん金商品は、購買者にとってはギャンブルと言うより“掛け捨ての年金保険”と言って良いような別次元の存在になっており、事実として高い支持を得ています。
 よって、この期待値の低さは、「大きなデメリットではあるものの、“一獲千金”性で得た膨大なメリットを覆すほどのものではない」…と言えてしまいそうです。

 4.戦略性 
 宝くじは厳正な抽選によって当せん番号を決定する完全な運勝負のギャンブルであり、くじを的中させるための戦略性は全く存在しません。(存在していれば八百長です)
 ただし、的中口数によって当せん金が変動する数字選択式くじ(『ロト6』、『ミニロト』、『ナンバーズ』)の場合他人が選びそうにない番号を研究して高額当せん金を得るための戦略は存在します。例えば、1〜43までの数字を6つ選択する「ロト6」の場合、番号を狭い範囲に固めたり(番号をバラけさせて買いたい意識を逆手に取る)、32〜43の番号を多用したり(自分や身内の誕生日で買う人が多い)するなどの戦略が有効とされています。
 また、それ以外にもジンクス縁起担ぎなどの“幻の戦略”が多くの購買者に浸透しています。高額当せんが出易いとされる販売店に交通費を使って出向く行為などがそれです。しかも、この“幻の戦略”を宝くじ運営サイドが喧伝している節さえ窺え、ここでも彼らのしたたかさに唸らされる思いです。
 以上の点を総合的に検討すると、「戦略性は低いが皆無と言うわけではない」とするのが妥当と思われます。

 5.中毒性
 宝くじが勝利頻度の極めて低いギャンブルである限り、この中毒性の要素も高いレヴェルは期待できません。
 とはいえ最近は、先述した数字選択式くじの抽選を週5回(『ナンバーズ』3回、『ロト6』と『ミニロト』1回ずつ)実施したり、結果のすぐ出るスクラッチ系くじに力を入れるなど、宝くじの購入を習慣付ける努力はしており、運営サイドがこの要素に関しても少なからず意識を向けているという事は言えると思います。
 また、スクラッチ系くじはこの条件においても例外的存在です。何しろ1枚あたり数秒〜数十秒で結果が出る上に購入が容易なのですから、極めて高い中毒性を秘めた(危険で)魅力的な商品に違いありません。今後、運営サイドが更にスクラッチ系くじに力を入れるような事があれば、日本のギャンブル勢力図を一変する可能性があるとさえ言え、これは注目に値するものであると言えます。

 6.とっつき易さ
 この要素は、宝くじにおいて“一獲千金”性と並ぶセールスポイントの1つです。何しろ、何も難しい事は考えず宝くじを購入して結果を待てば良いだけなのですから、非常に簡単です。これなら、ギャンブルに縁遠い人をも取り込むことが十分可能です。

 7.ファンサービスの充実度
 宝くじでは、非常に多くの販売店を出店し、なおかつそこで販売している商品の種類もかなり豊富である事から考えて、ファンサービスも相当充実していると考えて良いでしょう。ただ、大口購入客への特典などの制度が無いため、高い評価も出来ません「中程度」という評価が妥当でしょう。

 ◎総括及びサッカーくじとの比較◎
 サッカーくじをも凌ぐ抜群の“一獲千金”性と、誰でも参加出来るとっつき易さが最大の武器で、この2要素が他の5要素を圧倒しています。特に「とっつき易さ」は、サッカーくじが宝くじと競合する上で大きなビハインドになることでしょう。
 また、宝くじの特徴としては、(サッカーくじと違って)運営側の戦略意識が高いことが挙げられます。次々と新商品を開発して購買者の興味を惹き付け、宝くじの構造上避けられないデメリットを出来るだけ減殺する努力を怠らないその姿勢は立派の一言です。
 宝くじはエグい事業です。国家を味方につけた天才的な悪徳商法とすら言えるかも知れません。しかし、購買者に被害者意識が存在していない以上、宝くじを厳しく批判する手段も無いのです。恐るべし、宝くじ


 ……というわけで、今回は宝くじの検討をお送りしました。次回以降しばらくの間、このような感じで各種ギャンブルの分析を続けていきたいと思います。どうぞご注目下さい。(次回へ続く

 


 

12月5日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(12月第1週分)

 「仁川経済大学コミックアワード」も終わり、今週から心機一転のリスタートです。物理的な事情で、以前ほどレビュー対象作を確保できていませんが、その分はクオリティでフォローしたいと思います。どうぞよろしく。

 さて、今週から「週刊少年ジャンプ」の新春新連載シリーズが始まりましたが、開幕週ということもあって、レビュー対象作は1本のみ。“チェックポイント”と情報系の話題が中心となりそうです。来週からは嬉しい悲鳴を上げそうなくらい、レビュー本数が増えそうなんですけどね。

 ではまず、情報系の話題から。先週の手塚・赤塚賞に続き、今週は小学館系の主要マンガ新人賞・「新人コミック大賞」の結果発表がありました。5部門が一斉に発表されていますが、ここでは当ゼミに関わりの深い少年部門(「週刊少年サンデー」系)の受賞作・受賞者のみを紹介しておきたいと思います。

第51回小学館新人コミック大賞・少年部門
(02年後期)

 特別大賞=該当作なし
 大賞=該当作なし
 
入選=2編
  ・『リセットボタン』
   西森生(23歳・東京)
  ・『BRAVE MANS』
   松原裕美(24歳・愛知)
 佳作=4編
 
 ・『フライングポーク』
   川人敏夫(25歳・大阪)
  ・『リコピン』
   小林裕和(21歳・東京)
  ・『SHUTTLE─シャトル─』
   原田雅史(29歳・福岡)
  ・『空あおぐ人』
   末広大知(27歳・大阪)
 最終候補=2編
  ・『拝み屋』
   梶野剛毅(22歳・愛知)
  ・『IRON SHERIFF』
   松原裕美(24歳・愛知=入選作と同時入賞)

 入選の西森さんは、「まんがカレッジ」01年12月・02年1月期で努力賞を受賞していますね。1年がかりで“出世”を果たしました。
 しかし、サンデーは新人がなかなか育ちませんねぇ。今回の受賞者の方も年齢が年齢だけに、どこまで大成するか微妙な感じがしないでもないですし……。
 それにしても、今回のこの賞、審査員の総評が人によって全然違うのでビックリしました。ベタ褒めの青山剛昌、史村翔両氏に、一刀両断のあだち充氏、高橋留美子女史。何となくですが、「少年マンガ」というものに一家言持ってる人は、全般的に評価が厳しいような気がしますね。

 ……さて、そんな「週刊少年サンデー」では、来週から新たに連載が開始されるマンガが登場します。新連載作品のタイトルは『WILD LIFE』作画:藤崎聖人)。作者の藤崎さん以前別雑誌で連載経験のある若手〜中堅にあたる作家さんで、約半年前に「サンデー」本誌で前・後編読み切り『ガクの詩』を発表しています。
 この作品は勿論、来週にレビューする予定です。 
 「サンデー」では今週『旋風の橘』作画:猪熊しのぶが遂に打ち切りとなり、来週には『一番湯のカナタ』作画:椎名高志)も連載終了となります。ショートギャグ枠の連載終了も相次いでますし、再来週以降も続々と新作が発表になりそうですね。

 ……では、そろそろレビューと“チェックポイント”に移りましょう。今週のレビュー対象作は、「ジャンプ」から新連載1本のみとなります。

☆「週刊少年ジャンプ」2003年1号☆

 ◎新連載『グラナダ─究極科学特捜隊─』作画:いとうみきお

 「週刊少年ジャンプ」の“新春”新連載シリーズ第1弾は、『ノルマンディーひみつ倶楽部』いとうみきおさんの連載復帰作『グラナダ─究極科学特捜隊─』です。
 この作品は、02年29号に掲載された読み切り『ジュゲムジュゲム』のマイナーチェンジ版で、一説によると現在同題名の作品が別雑誌で連載中のため改題されたのではないか…とのことです。題名がカブることは珍しい話では無いのですが、“現役”同士で同題名の作品というのは、さすがに都合が悪いようですね。

 では、内容についてお話をしてゆきますが、まず、細かい指摘をする前に作品全体を通しての話をさせてもらいますと──
 ……この作品、悪い(not面白くない)作品ではないですし、場面によっては上手さも感じる事もあるのですが、全般的に何故かある種の違和感が拭えないんですよね。そして恐らく、この“違和感”がネット上における不評先行の原因なのではないかと思われます。
 ですので、今回のレビューは、その“違和感”の元はどこにあるのかに注目しながらお送りしたいと思います。

 それでは例によって絵柄についてのチェックから。
 先ほども少し述べましたが、絵そのものは下手ではないんです。現在の「ジャンプ」連載陣に混じっても平均レヴェルには達しているのではないかと思います。
 ただ、いとうさんの絵は、前作の時からも感じていたのですが、とにかく表情が硬いんですよね。顔の各パーツを描き分けるバリエーションが乏しいのか、何だかモンタージュ写真を見ているような感覚がしてしまうのです。マンガではなくてイラストっぽいというか……。
 あと、キャラクターが“決めポーズ”でセリフを喋っている場面が多くて、何だかマンガというより大袈裟な芝居みたいなんです。つまり、自然さに欠けていて“演技”がクサいんです。
 これらの理由のために、物語世界に感情移入する糸口がなかなか掴み辛くなっています。これが読者が“違和感”を感じる理由のまず1つ目なのではないかと思います。

 そしてストーリー面においてでも、全体的には技巧や趣向が凝らされていて悪くは無いのですが、決定的な失敗が幾つか見られます。

 まず、第1話のストーリーは、読み切りの内容をベースに新設定を加えたものだったのですが、どうもその新・旧設定の相性が良くないようです。
 物体を分子レヴェルまで分解・再構成できる能力と仰々しい機械で空中浮遊が出来るだけの能力が同列に扱われているのもおかしいですし、それらの能力が、主人公たちの最終目標と容易に繋がっていかないのも理解に苦しむところです。

 また、読者に与えるべき情報が充分に与えられていないというのも大問題でしょう。物語、特にマンガでは、ミステリ物などで無い限りは、“少し鋭い人には先が読める”くらいの情報を与えておかないと、理解してもらいたい部分すら理解してもらえない可能性が高くなるのです。
 実際、この第1話時点では、主人公たちの経歴(どうして日本人がイギリスに住んでいたのか…など)や、現在の身分と詳しい状況(世界中を飛び回れる機動力の源について、回想シーンで出て来た科学者が不在の理由、ギャレットコレクションがどうして機密文書扱いになっているのか…等)、そして当面の目標と最終目標との関連性(ギャレットコレクションとグラナダ正典の関係、あとどれ位の事をすれば最終目標に達するのかを示す目安)などが全く見えておらず、読者が作品中の世界に没入できないのです。これも“違和感”を感じさせてしまう大きな原因でしょうね。

 話作りが上手い作家さんだと、このあたりは適当でもっともらしい些細な設定を散りばめて煙に巻いてしまうんですが、どうもいとうさんは生真面目すぎるのか、これが全く苦手なんですよね。勿体無い話です。

 とりあえず、第3回まで様子を見て最終判断を下しますが、これは下手をすると“突き抜け”て(1クールで打ち切り)しまうかなぁ…という感が否めません。
 暫定評価はB寄りB−としましょう。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 ◎『テニスの王子様』作画:許斐剛【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 先週からの番外編なんですが、編集・作家さんとも普段よりもノリノリのような気がしてならないんですが(笑)。
 ていうかボーリング場、他に客いないわ、未だ点数が手書きだわ(しかも、上級者がいるのに記入方法微妙に間違えてるし)で変なボーリング場ですなぁ(笑)。

 ◎『遊☆戯☆王』作画:高橋和希【開講前に連載開始のため評価未了/雑感・その他】

 プロレスマンガが終わった週に、かつてプロレスマンガで“突き抜け”を体験した作家さんの作品を採り上げるのも因縁深い話ですが……(苦笑)。
 再開後から約2ヶ月、延々とプロローグ的シナリオが進行中なんですが、ここまでの話、皆さんどう思われてますか? 良い悪い抜きで面白いと思います?
 多分、大ヒットの功労賞的特典で「好きなように描いて良いよ」って言われてるはずなんですが、個人的にはなんだか“『好きに描いて良いよ』と言われた時に描かれた作品はダメなのが多い”というジンクスがそのまま当てはまってる気がしないでもないんですけど……。

 ◎『いちご100%』作画:河下水希【第3回掲載時の評価:/雑感】

 新ヒロインは年下の幼馴染! なんてベタな(笑)。
 しっかし、このシチュエーション、読み切りのライト系エロマンガそのまんまですがな。これは誰か、そういうの描いてくれっていう暗黙のオファーなんでしょうか?(笑)

 ◎『A・O・N』作画:道元宗紀【第3回掲載時の評価:B−/作品全体の総括】 

 ジャスト10回で打ち切り。これで道元さんは3連載3打ち切りというわけで、「少年ジャンプ」追放が確定しました。
 そういう事も反映して、巻末コメントもエラいことになってます。

ラストチャンスだったのに、どうにもできないことばかり。つまずき転ぶばかりで最悪でした。このままでは終われません。

 ……各地で賛否両論のコメントですが、これ、自分自身の不甲斐なさを責めているものなのであれば、「そこまで言うんなら、絶対負けるなよ。頑張れ!」と激励の言葉を送りたい気分ではあります。勿論、各方面への愚痴だったら論外ですが。

 しかし冷静に見て、道元さんがこの後リベンジを果たすためには、修正すべき点は山積していると指摘しなければならないと思います。
 まず絵。道元さんの絵は下手なわけではないのですが、アクションシーンになると一気に分かり辛くなるという致命的な欠陥があります。攻撃が決まった瞬間ではなく、フォロースルーの瞬間を描いているため、状況判断とキャラクターの判別が出来ないからです。描くべき瞬間の取捨選択をもっと考えて描くべきです。
 ストーリー関連ではキャラクターの造型ストーリーテリング全般に問題を抱えています。
 この人の描く主人公はワルが多いんですが、何故かいつも情の薄いワルなんです。これが何よりも致命傷なんですよ。どれだけ悪い事をやっても、身内への情が厚ければ大抵は魅力的になるというのは、『アイシールド21』のヒル魔が証明している通りです。道元さんは一刻も早くそれに気付くべきでしょう。
 あと、道元さんは、映える見せ場を描く才能は秘めているはずなんですが、見せ場と見せ場を繋げる部分のシナリオが下手なんです。これはプロットをしっかり構築せずに、勢いで話を描き始めているからではないかと推測できます。一度、じっくりと話作りをする訓練を積んでみてはどうかと思うのですが。(時間だけはたっぷり有るでしょうし)

 ……とにかく、ああいうコメント書いた以上は、意地でもブレイクして欲しいと素直に思います。マンガ家という仕事は、本人が辞めたと言わない限りは辞めさせられる事は無いわけですしね。

 

☆「週刊少年サンデー」2003年1号☆

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 ◎『焼きたて !! ジャぱん』作画:橋口たかし【現時点での評価:/雑感】

 すいません、トグロ巻いた“踊るフランスパン”がウ○コに見えて仕方ないんですが(爆)。
 あ、ちなみにフランス革命を起こしたのはナポレオンではありません。ナポレオンは革命を終わらせた人です。まぁ、この手のマンガではどうでもいい話ですが。

 ◎『美鳥の日々』作画:井上和郎【第3話掲載時の評価:B+/雑感】

 相変わらずベタな話ばかり続くなぁ…と思っていたら、突然の急展開! 
 楽しみは楽しみなんですが、最近の「サンデー」だと、こういうのを見るたびに「あれ、テコ入れ?」とか思ってしまう自分が大層嫌になりますな。

 ◎『旋風の橘』作画:猪熊しのぶ【現時点での評価:/雑感】

 最終回です。言いたい事は『コミックアワード』の時に全部言っちゃったんですが、つくづく「いくら『連載やろう』と言われても、好きでもないテーマで見切り発車すると計り知れない損害を喰らう」という事を痛感させられた作品でした。でも、連載していいと言われて連載しないマンガ家っていないだろうしなぁ……。
 本当、マンガ家さんって大変な仕事ですよね。

 
 ……と、マンガ家さんの悲哀を実感したところで今週はここまで。来週は久々にレビューが3本くらいお届けできそうです。どうぞお楽しみに。

 


 

12月4日(水) 文学(一般教養)
「社会学講座認定・お薦め小説ガイド」

 さて、1周年式典明け一発目の講義です。
 ただ、実は今日の講義は予定外のモノでして、なかなか題材も見つからないんですよね(苦笑)。
 そこで今日は“緊急企画”としまして、以前、受講生の方からBBSにてリクエストがありました、駒木がお薦め出来る小説の紹介をやってみようかと思います。
 駒木は20代の前半を世界史の勉強に費やした影響もあり、まだ十分な読書量を積んでいるとは言えないのですが、まぁ一種の“中間発表”のようなものだと考えて頂ければありがたいです。

 それでは早速、推薦書の紹介にまいりましょう。順番は原則的に順不同。本棚から引っ張り出した順です。

 ◎『優駿』(上・下) 宮本輝・著 新潮文庫
 競馬ファン必読の日本競馬小説における金字塔的作品です。「これを読まずして競馬を語る事なかれ」と言っても過言ではありません。競馬にまつわるロマンと、過酷な現実と、複雑に入り組んだ人間関係とを見事に絡めきった傑作ですね。
 世間的には、この作品を原作にした映画の方が有名なのですが、そっちの方は「よくぞここまで原作を台無しに出来るものだ」と、むしろ感心してしまうほどのクソ映画なんですよね。映画だけ観て、幻滅してる方がいらっしゃったら、是非小説でこの作品を再評価して下さい。

 ◎『鉄道員(ぽっぽや)』 浅田次郎・著 集英社文庫
 ご存知、浅田次郎さんの直木賞受賞作となった短編集です。表題作の『鉄道員』も勿論素晴らしい作品なのですが、個人的には『ラブ・レター』が一番のお薦めです。これほど涙腺を刺激する作品は、そうあるものでは有りません。

 ◎『BAD KIDS』 村山由佳・著 集英社文庫
 熱心なファンが多い一方で、「話の先が読めてしまう陳腐な作品が多い」という批判も多い村山由佳作品ですが、駒木は「シンプルだけど、しっかりしたプロットで描かれたストーリー」だと好意的に解釈してます。誰にでも書けそうで、実際に書いてみろと言われたら書けないんですよ、この人のお話は。
 『BAD KIDS』は、そんな傾向が特に強い作品です。小説家志望の人なら、“浅そうな深さ”を体感するのにもってこいの作品と言えるかも知れません。

 ◎『十角館の殺人』 綾辻行人・著 講談社文庫
 新本格ミステリ(推理小説)のトップランナーにして、超の付く遅筆家である綾辻行人さんのデビュー作です。
 ミステリとしての完成度やオリジナリティを持った作品なら他にもあるのですが、この作品は、この映像化社会の中でも「小説でないと出来ない事」があると我々に教えてくれるという意味で、大変貴重な作品です。これ以上言うと興醒めなんで、あとは読んでのお楽しみです。

 ◎『吾輩は猫である』 夏目漱石・著 新潮文庫
 夏目漱石のデビュー作なんですが、これ、実は日本が誇るギャグ小説の超名作なんです。古典の名作にありがちな、題名の知名度ばかりが先行して詳しい中身はちっとも知られていない作品なのですが、そんじょそこらのギャグマンガの万倍面白い娯楽大作です。
 また、この後ゴマンと世に出て来る動物視点一人称モノの原点とも言える作品でもあり、小説読みもマンガ読みも是非一読しておきたい作品です。

 ◎『不夜城』 馳星周・著 角川文庫
 小説家・マンガ家志望者に、長編モノを描く際の基礎中の基礎を教えてくれる絶好のテキスト。物書き志望がこれを読んで何も思わなかったらおかしいです。
 その上、一つのエンターテインメントとしても十二分に読者を楽しませてくれる名作です。文庫本の分厚さに腰が引ける人も多いかと思いますが、読み始めると全く気になりません。あっという間に500ページ余りのこのブットイ本を読了してしまうはずです。古本屋行ったら100〜200円で買えますので、是非。

 ◎『傭兵ピエール』(上・下) 佐藤賢一・著 集英社文庫
 佐藤さんは、博士課程まで中世ヨーロッパ史を学んだ後、その知識を生かして西洋歴史小説家に転向したという経歴の持ち主。そしてこの小説は、その専攻分野ドンピシャの百年戦争が題材とあって、思わず唸らされるほどの中身の濃いエンターテインメントになっています。
 終盤、史実のバックボーンが弱くなってから少し失速してしまう気がしないでもないですが、それでも極めてハイレヴェルな作品だと断言できます。

 ◎『後宮小説』 酒見賢一・著 新潮文庫
 以前、「マンガ時評」でも紹介した事があるのですが、基本的な設定を決め、冒頭を書いた時点で既に傑作になる事が確定しているという恐ろしい作品です。「ファンタジー小説」というジャンルに無限の可能性があるという事を教えてくれる画期的な作品でもあります。
 賞レース用の応募作のため、キャラクターがこなれて、これからもっと盛り上がれる所で物語を収拾しなくてはならなくなったのが残念ですが、逆にこれくらいで終わらせてしまった事も成功の一因かも知れません。

 ◎『ドリームバスター』 宮部みゆき・著 徳間書店
 宮部みゆきさんによる、SF系ファンタジー小説です。この手のジャンルは、新人は勿論、並程度のプロが書くのも難しい題材なのですが、宮部さんくらいになると全く関係無いみたいです。余りの才能の“深さ”に半ば愕然とします。
 ファンタジーを描くと、どうしても陳腐さが抜けないでお困りのクリエイター予備軍の皆さん、是非ご一読を。これも絶好の参考書だと思います。今のところハードカバーだけですが、古本屋にもボチボチ出回るようになったみたいです。

 ◎『柏木誠治の生活』 清水義範・著 新潮文庫
 “ありきたり”とか“平凡”とかいう事でも、究極レヴェルまで突き詰めてしまうと、立派なエンターテインメントになってしまうという不思議な作品です。
 しかし、作品中を通して、“ありきたり”や“平凡”の基準にブレが全くのないのはお見事。中途半端にやっちゃうとタダの駄作なだけに、その安定度がより一層光って見えます。

 ◎『麻雀放浪記』(1巻・青春篇) 阿佐田哲也・著 角川文庫
 阿佐田さんが亡くなってから随分経つのに、未だこの作品を超える麻雀小説は出ていないでしょうね。というか、この作品が凄すぎて後発の作家さんがほとんど出て来ないだけ…という気がしますが(苦笑)。
 少年マガジンの『哲也』みたいなギャグ漫画を阿佐田哲也の世界だと思い込んでる方、悪い事は言いませんから、今すぐブックオフかどこかへ行って、『哲也』を売ったその金で『麻雀放浪記』の文庫本を買う事をお薦めします(笑)。

 ◎『ホワイトアウト』 真保裕一・著 新潮文庫
 スーパーマン級じゃない一般人を使って冒険モノを描くにはどうしたら良いか? それを教えてくれる名作です。特に、ストーリーの半ばで、それまで主人公が奇跡的に積み重ねてきた成果を客観的に振り返るシーンがあるんですが、これが本当にシビれます。どう表現すれば読者に与えたい“効果”が伝わるのか…という事を追求されている証拠でしょう。
 この本も分厚いんですが、長さは気になりません。むしろ長さが心地良い作品です。

 ◎『空(から)の境界』(上・下) 奈須きのこ・著 同人誌
 最後はちょっと変わったところから、知る人ぞ知る一作を紹介しましょう。
 基本的設定とプロットは、ともすれば独り善がりな“アマチュア大作主義”に転落しかねないような過剰に複雑なモノだったりするのですが、卓抜したストーリーテリングと描写の力で“捻じ伏せて”しまっています。特にアクションシーンとクライマックスの凄さたるや……。
 その上、人称や視点を目まぐるしく変えたり、伝奇物にミステリ要素も絡めたりといった芸達者ぶりも光ります。こういう人が(セミプロとはいえ)、同人業界に埋もれていたのかと思うと眩暈すら感じてしまいます。
 同人誌委託店でしか市販されていないので、ちょっと気後れしてしまう人も多いかも知れませんが、それだけで読む機会を逸するというのは勿体無い話です。


 ……と、今回は以上という事で。本当はもっともっと挙げなければならない小説も沢山有るのですが、1回の講義で収まる程度に厳選するとこんな感じになりました。
 これから冬至を迎え、まだまだ長い夜の日が続きます。パソコンのモニターを少しの時間休ませてあげて、しばしの間読書などしてみるのはいかがでしょうか?

 それでは、今日の講義はこれで終わります。また明日から通常タイプの講義に戻りますが、そちらもどうぞよろしく。(この項終わり)


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